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ミルクとワインとクリーンエネルギーの町、葛巻の挑戦〜日本一の新エネルギー生産基地を指して 中村 哲雄/葛巻町長 |
まずは、大変遠い葛巻町まで、中国・韓国から、そして全国からたくさんお集まりいただきありがとうございます。昨年、韓国で開催された20%クラブのワークショップに参加させていただく機会があり、最初は冗談のようなお話で次回葛巻町でというお話をいただきましたが、このように開催できましたこと、大変嬉しくまたありがたく思っております。環境省や(財)地球・人間環境フォーラム、各団体の皆様方、またおいでくださった方々に感謝を申し上げたいと思います。
酪農と林業と自然エネルギーで地球環境問題に貢献する町
葛巻町の新エネルギーに対する取り組み、展望などについて紹介をさせていただきます。葛巻町は4万3,000haの面積を有する北緯40℃に位置する町です。この辺りは標高400mくらい、風力発電の基地は1,000mの山合いです。4万3,000haのうち3万8,000haが山林という、非常に山の多い町です。人口は約9,000人、約3,000世帯で、酪農と林業を基幹産業にしてきた町です。乳牛が1万3,000頭を越えていて、東北で一番の酪農地帯です。そうした酪農のイメージを「ミルク」と表現しています。また、林業の特用林産物であるやまぶどうでワインを作ろうということで18年前からワインづくりを手がけ、今年は国産ワインの銅賞をいただくまでの美味しいワインができました。ということで、町のキャッチフレーズを「ミルクとワイン」で表現しております。その後、1999年6月に最初の3本の風車を建設いたしまして、以来、クリーンエネルギーにも積極的に取り組もうということで、「ミルクとワインとクリーンエネルギーの町くずまき」というキャッチフレーズのもとにまちづくりを進めているところです。
私は町長に就任してまだ4年半しか経っておりません。役場職員として牧場経営を一生懸命長い間やっていました。町長就任時、時代はちょうど20世紀から21世紀に移行する時でした。20世紀は地球に対してとても悪い影響を与え続けながら経済成長と繁栄を享受してきました。大きな負の遺産を繰り越したという強い危機感から、町のトップとして、「町が持っている多様な資源と機能と人材を最大限に活かしながら、地球規模の課題である食糧と環境とエネルギーという問題に貢献しながら、町の発展的状況を構築していきたい」という町の経営の基本方針を立て、これに基づいたさまざまな取り組みを展開してきました。
食糧問題については、北海道と東北6県を合わせたほどの耕地面積が、毎年地球上で失われています。人口64億人が100億人に向け急速に伸び続けているのに、食糧の生産地は失われている。広大な面積を持つ葛巻町は、食料の生産でもって世界の食糧危機に貢献できるようなまちづくり進めています。1日120トンの牛乳を生産しています。これはカロリーベースで計算すると4万人分に相当します。9,000人の町が4万人分の食糧を生産しています。
次に環境問題ですが、3万8,000haの広大な森林を有しており、CO2の吸収源という観点からもすでに貢献しているはずですが、世界に対する約束である6%削減に対して、日本の山に投資をして、このうちの3.9%分を山に吸収してもらおうという国策があります。葛巻町は、この国策からの7,400万円と、さらに別の森林整備事業等から約1億3,000万円、総額約2億円で森林整備事業を実施し、CO2吸収源としての森林の整備・活性化を図り、雇用の拡大、そして環境の改善に貢献しています。
そしてクリーンエネルギーへの取り組みについてですが、風力・太陽光・畜産バイオマス発電により3,000世帯の葛巻町内で約1万7,000世帯分の電力を供給できる状況になっています。風力については、3基の風車を建設し、12本・2万1,000kWの発電施設となっています。そして、葛巻中学校の新築時(2000年)に、国のエコスクールの指定を受けて、建設費4,500万円の半額を国の補助でまかなう形で50kWの太陽光発電施設を設置しました。
また、畜産バイオマス発電におきましては、毎日650tもの排せつ物が1万3,000頭から出ます。それを有効な資源として利用できないかという発想から、実験プラントをくずまき高原牧場に2003年6月に建設しました。牛の排せつ物200頭分と家庭からでる生ゴミ約1tを加え、合計14を処理しメタンガスを発生させ、爆発させて動力を生み出し発電するという仕組みです。発電量は35kW、建設費2億5,000万円で、50%は国の補助です。一般家庭20〜30世帯分の発電をしています。ここでは、メタンガスの精製、濃縮、圧縮、ボンベ注入化の研究を進めています。東北大学の野池教授によるメタンガスの成分研究、機械をオリオン機械が整備し、ガスの精製・濃縮・圧縮・ボンベ注入試験を岩谷産業が研究しているほか、三洋電機がガスから水素をとり出して燃料電池化する試験に取り組んでいます。そして、このプロジェクトを総合的にとりまとめているのが清水建設技術研究所です。この試験プラントは、くずまき高原牧場に設置しており、葛巻町環境エネルギー政策課ともども産学官での共同研究が進んでおり、くずまき高原ガスボンベの製造・販売に期待を寄せています。
さらに林業がさかんな町として、紙原料である木材チップを生産する工場から出る端材を資源化ができないかということで、ペレット燃料の工場を20年前から立ち上げています。民間の工場で葛巻林業と申しますが、ここが生産するペレットの量が年間1,500t、約1,500世帯分の熱カロリーを供給できる体勢にあります。今クリーンエネルギーとして注目されている木質燃料を、葛巻では20年も前から生産していたということになります。現在ペレットストーブは岩手県からも推奨されて需要が増しており、町内でも老人保健施設の暖房、給湯等に利用されています。
将来を担う世代への環境教育も
ソフト面での取り組みとしては、99年3月に、葛巻町に存在するエネルギーのすべてを電力に変えようという内容の新エネルギービジョンを策定しました。さらに、大規模な発電所のほかに、町民が薪ストーブを購入する場合補助をしよう、あるいは小さな太陽発電・熱利用システムを導入した場合に補助をしようといったものがあります。また、小中学校生といった若い世代にエネルギーや環境について理解を深めてもらうため、出前講座をやっています。ちょうど昨日も、私もオヤセ小学校という全校40人くらいの小さな学校へ、1時間半くらいかけて授業に行ってきました。また、葛巻中学校の当下校時には太陽光発電状況がわかるパネルを設置しています。「今、天気がいいから発電できている」「今日は寒くてたくさん電気を使いたいのに、曇ってあまり発電できていないから東北電力からたくさん電気を買ってるな」「今夏休みで電気を使わないのにたくさん発電できているから、東北電力にたくさん売っているな」と、一目でわかるようになっています。
2000年には、全国風サミットを開催し、600人ほどの参加がありましたが、その際にも葛巻高校が町のクリーンエネルギーについて研究発表をしました。若い世代への普及・啓蒙を確実に進めている状況です。また、廃校を利用した自然エネルギー等について学ぶ場として、「森と風のがっこう」の活動も町内で進んでいます。
このような取り組みがさまざまな方面から評価を受けています。自治体環境グランプリでは、2003年に大賞を受賞しました。また、岩手県のまちづくり大賞を受賞し、全国では第3位にあたる大会長賞も受賞しました。2年前に大雨による大規模な災害を受けた際、河川の改修工事に入ったのですが、役場職員と地域の小中学生・住民が一体となって、自然を保護しながら復旧工事を行いました。これに対し、砂防協会や建設関係の全国大会で最優秀賞をいただきました。
今日午前中ちょっとだけ御覧いただけたかと思いますが、という太陽光発電、風力発電、木質ペレット燃料発電、バイオマス発電という4つの施設を90分程度で回って見られるという市町村は、全国にも葛巻町ここしかない状況です。そういう意味でも、日本一のクリーンエネルギーの生産基地としての実践活動を展開しているところです。
クリーンエネルギーの町は第3セクターも元気な町
一方、この葛巻の「ミルクとワインとクリーンエネルギーのまちづくり」では、第3セクターが非常に活躍しています。第3セクターであるくずまき高原牧場には、家畜3,250頭のほか、ホテル、レストラン、牛乳工場、バターやパン工房等さまざまな業種を手がけながら、従業員100人の売上高11億7,400万円で日本一の公共牧場と言われています。また、ワイン工場は、3億7,500万円の売り上げで26人の雇用を確保しています。そして今日の会場であるこのグリーンテージも第3セクターで、1億8,080万円の売り上げで21人の雇用を確保しています。第3セクター3社で売上高17億2,980万円、約1億円程度の純利益を上げています。147人の雇用のうち70人が都会からの若い帰郷者です。「第3セクターが黒字で元気な町」と「クリーンエネルギーの町」の相乗効果で、私が町長に就任した4年前は年間来訪者が20万人ほどでしたが、今50万人ほどが訪れています。人口は少しずつ減っていますが、第3セクターとクリーンエネルギーで活性化され、交流人口は増えているといった状況です。
林業と酪農へのがんばりが自然エネルギー供給基地へとつながった
では、こうしたクリーンエネルギーを葛巻町ではどうして手に入れることができたのかについて、お話しします。
木質燃料については、廃材を活用して付加価値を高めようということで20年も前に工場ができていました。風力発電機3基については、京都議定書以降日本でも環境とエネルギーという問題が大きくクローズアップされ、風力発電事業者がビジネスチャンスを求め動き出しました。町に建設を持ちかけたのは、当時本当に小さな会社であったエコパワー社でした。建設の判断に苦慮したわけですが、ちょうど葛巻町の町議会議員による4年に1度の海外視察の時期で、デンマークに行きました。岩手県の東山町出身のステファンケンジ鈴木さんが自然エネルギーについて勉強するための風の学校を開設しておりまして、町議全員で出かけていってエネルギーについて勉強して帰ってきました。環境とエネルギーに関する情報収集が速く行われた結果、風力発電機建設の申し入れを受け入れることになり、短期間のうちに3基建ちました。
ただ、風車を建てる条件として、まず良い風が吹いていることが必要です。1,000mの山々に囲まれている町ではどこでも良い風が吹いています。が、この風車の羽根は33mあり、これを搬入しなければなりません。広い道路がないと搬入できない。ここで葛巻町の特徴が出てきました。長い間1,000mの高海抜地帯に牧場を開発してきたということがありました。一生懸命牧畜をやってきたことが、風力発電にとっても有力な条件を生み出したのです。しかも3基の風車の場合、電線がすぐ下を通っていたのでおこした電気をすぐ送ることができました。風、道路、電線、風力発電にもっとも大事な3条件が、牧場をやっていたためにあったんです。しかも、通常風車建設前には2年間の風況調査を行い、風力の平均値を出し、経営的な判断をするデータをとりますが、葛巻では行いませんでした。この地帯では畜産を行えるかどうかを調べるため、約15年にわたってすでに東北農業試験場による風況調査が行われていました。そのデータで約7mの平均風力があったのでそれを利用したのです。ですから調査を待たず、構想が持ちあがってすぐ建設できました。3基で3億4,000万円、50%は町が借金をし、残りの50%は国から補助をもらいました。こちらは町も25%、250万円を出資して経営に参画しています。
98年、電源開発株式会社より上外川高原牧場において風況調査の申し込みがあり、2年間の調査を経てグリーンパワーくずまき風力発電株式会社が設立され、1,750kWの風車12基が建設されました。費用は約47億円で、国から30%の補助金がありました。町は経営には参画していませんが、土地の権利調整などの協力をしました。こちらの方には、環境の問題がありました。貴重な猛きん類がいるということで、環境庁(当時)のガイドラインに基づいた調査を行い、動植物に影響のない方法で建設することが可能になりました。つまり畜産を一生懸命やっていたから風力発電や畜産バイオマス発電が、そして林業を一生懸命やっていたからペレット燃料生産が、可能になったということがあります。まさに葛巻の基幹産業がクリーンエネルギーの生産基地へと変わっていっています。
これからの課題〜安定電力として木質バイオマス発電に期待
最後に課題を申し上げます。風力発電に関しては、おこした電気を電力会社に売るわけですが、非常に売電単価が安くなるという問題があります。99年当時は国の指導もあって17年間の平均で11.5円/1kWで買ってもらえる契約でした。その後、電力の自由化となり、風力は風が吹けば100、風がなければゼロという非常に不安定な電力、つまり質の悪い電力は良い単価では買えませんよということになりました。入札制度が始まり、風力を発電する側がそれぞれ「いくらで買って欲しい」と入札をし、安い人が買ってもらえるという仕組みです。大変な時代に入りました。今年あたりの入札結果は6円台じゃないかと言われています。こうなると、われわれのような小さな自治体ではリスクが大きすぎて、大規模企業でなければ取り組めない風力発電になりつつあります。
こうした状況を回避するため、国民の皆さんにお願いできることとして、グリーン電力制度というものがあります。毎月500円多く支払っていただき、それが電力会社に集まり、その分をクリーンエネルギーに取り組んでいる事業体に補助を交付する制度です。こういう形で加入していただけると貢献していただけます。こういった意味でも、今後とも国民的合意がまだまだ必要です。国民的合意のもとにもっと地球に負荷のかからない、無尽蔵のエネルギーを電力に変えていくことを、皆で理解・協力し、普及していきたいと思います。そして次なる夢は、木質バイオマス発電、木材をたくさん集積すると安定的な電力を発電することができます。こういうシステムができれば、風車と太陽光発電と畜産あるいは木質バイオマス発電をセットにすれば、大きな施設でも安定的に供給することができます。そして地域で起こして地域で使い切るということが可能になります。
今後も一層、環境とエネルギーという問題に貢献しながら、日本一のクリーンエネルギーの町づくりに取り組んでいきたいと思います。今日出席いただいた皆さんにも環境とエネルギーの問題を理解いただきながら、またこのワークショップを通じ世界への情報発信をしながら、地球環境問題に貢献していけるよう願っております。ありがとうございました。
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