モンゴル砂漠化対処国家行動計画の概要
National Plan of Action to Combat Desertification in Mongolia ; NPACD


背景
砂漠化の現状と要因
国家行動計画の位置づけ
砂漠化対処の戦略・実施プロジェクト
実施のための推進体制

1) 背景
モンゴルの国土面積は1億5650haで、そのうち1億1840ha(全体の75.8%)が農業活動−主に大規模放牧−が可能な地域である。耕作は135万haで行われている。耕作可能地のうち、57%が北部中央のトブ(Tov)セレンゲ(Selenge)、または北東部のドルナド州(Dornad aimag)にある。最も農耕に適していると思われている地域でも、土壌は平均30cmと浅い。主な農作物は、小麦、乳牛用飼料に使われる大麦、ライ麦、オート麦、また、じゃがいも、野菜である。
モンゴルは、農業・生態学的見地から、以下のように幾つかの地域に分かれ、各地域はさらに準地域に区分けすることができる。

・ ハンガイ・フヴスグル地域 Hangai-Hovsgol region
・ セレンゲ・オノン地域 Selenge-Onon region
・ アルタイ地域 Altai region
・ 中央東部ステップ地域 Central and eastern steppe region
・ ゴビ地域 Gobi region

行政上、モンゴルは21のaimag (州)に分けられ、その下にsum(地区)という区分けがある。全体では390の地区があり、その下には、さらにbag(準地区)がある。

2) 砂漠化の現状と要因
 砂漠化対処条約に記された砂漠化の定義に従うと、モンゴルの国土の90%が砂漠化の脅威を受けていることになる。このような地域は、モンゴルでは、ほぼ例外無く、放牧地として利用され、2930万頭の家畜(羊、ヤギ、牛、馬、ラクダ)が飼われている。土地荒廃は、それほど拡大していないが、同時に稀な減少でもない。特に社会経済活動の中心になっている道路や井戸、または地区(Sum)や州(Aimag)の中心で、土地荒廃、乾燥地では砂漠化が目立ってきている。砂漠化の人為的な原因には以下のようなことがらが挙げられる。

・過剰放牧
 モンゴル全体で見ると、人口が年間1.5%増加しているのにも関わらず、放牧家畜数は、何年も増減なしで安定している。科学的調査の結果を見る限りでは、放牧地はダメージを受けない範囲内で利用されていることになっている。しかし、動物数の若干の増加や土地利用パターンの変化は、特定の地域で起こり、その地域で土地荒廃を起こしているようである。インフラストラクチャーの整備された地域での人々の滞在が長引く傾向が出てきたり、放牧家のサラリーマン化、また、社会主義体制崩壊後、雇用が激減した都市部から来た、経験の浅い放牧家の増加が、土地利用に変化をもたらした。

・不適切な農業実践
 社会主義時代、放牧地を作物耕作地に変える大規模な事業が行われたが、栽培効率の悪さが、十分に検討されることはなかった。例えば、春の耕作は大規模な風食につながった。また、市場経済の移行の結果、大規模農場(私有化されたものも、まだ国営のものも)には事業に投資する資金が不足している。こうして、多くの農地が放棄され、残っている農地も生産高は下降を続けている。

・森林伐採
 北部分水嶺にモンゴルで唯一の広大な森林資源があるが、毎年かなりの面積の森林が、不適切な利用技術(皆伐など)や森林火災で失われ、水食、生物多様性の喪失、下流での水位の変化を引き起こしている。植林も行われているが、とても追いつかない状態である。ゴビでは、家庭用の薪も代替物も不足し、住民は居住地周辺の資源をほとんど使い尽くしてしまった。このため土壌が不安定になり、風食が起こり、貯水池や施設が砂に埋まってしまう現象も起こっている。このような状況を回復する活動は、ほとんど無く、あっても小規模なパイロット・プロジェクト的なものである。

・道路網のずさんな計画と不適な利用
 国土を縦横する交通は、脆弱なステップや砂漠の植生にとり返しのつかないダメージを与えていることが多い。そこから、侵食されて谷ができ、地下水面の低下など広範囲で水の動きに変化を及ぼす。

3) 国家行動計画の位置づけ
モンゴル砂漠化対処国家行動計画は、土地荒廃と砂漠化に対処するために取るべき、短期、中期的な活動の包括的枠組みを示したもので、1997年策定された。
近年、政府は国際的な資金援助機関の支援を受けて、モンゴルの生態系やその利用に影響する活動の枠組みとなる数々の政策を整備した。このうち、本国家行動計画と深い関わりがあるのは、国家環境行動計画(National Environmental Action Plan, NEAP)と21世紀モンゴル行動計画(Mongolian Action Programme for the 21st Century, MAP21)である。この二つは、もっと全般的な意味で、組織的基盤づくりを受け持っている。最近、制定された新土地法(New Land Law)は、土地荒廃緩和を目的とした活動実施のための、より応用的な法的枠組みを示している。
また、モンゴル教育・人的資源マスタープラン(Mongolia Education and Human Resource Master Plan)のもとに、土地荒廃問題を学校および大学教育のカリキュラムに取り入れることも検討される。公的投資計画(Public Investment Programme)は、再生可能自然資源に影響する投資に関して政策決定を行う場合の生態系への配慮を義務づけている。

4) 砂漠化対処の戦略および実施プロジェクト
国家行動計画は、土地荒廃の個々の症状を改善することよりは、基本的に、荒廃の原因となるものを取り除く方針を支持する。このために、行動計画は予防的対策の重要性を強調している。
土地荒廃の原因は、人間活動と深く関わっているので、特に現地プロジェクトでは、効果的な住民の参加がかぎとなる。また、放牧地管理運営も重要なポイントである。
持続可能という結果を求めるならば、そのための活動は、物理的な環境に対処するだけでなく、社会、経済、組織面での進歩も含まれなければならない。つまり、このような融合的アプローチには、砂漠化に影響する要因、砂漠化に対処するための資金の動きなどすべてを盛り込むべきである。その後で、特定の問題を解決するための対策が取られるべきであろう。具体的対策には、物理的環境分野で、土壌保全対策や放牧地改善などが考えられる。農村部での社会、経済、組織を改善するために、地域住民が砂漠化防止プログラムに参加できるように、資源利用者のグループ組織や施設設備の普及が考えられる。
土地・水資源を持続的に管理運営するために大規模なアプローチを確立する前に、現場レベルで短期的な活動を行い、その有効性がテストされるべきだ。このために以下のような事項が考えられる。

・ 住民の意識啓発
・ 生態系やその利用に関する既知の知識の普及(伝統的な資源の利用法、研究結果など)
・ 政府組織の様々なレベルにおける、政策レビューと行動計画の作成
・ 適切な技術と方法の開発(各活動レベル−資源利用者、国家政府、地方政府−のすべてで持続的と考えられるもの)
・ 政府職員の研修
・ モニタリング施設の設置
・ 再生可能な自然資源の融合的、住民参加型管理を実施するパイロットプロジェクト

 プロジェクト実施の方法については、以下のような原則が掲げられている。
・ NPACDのもとで開始されたプロジェクトと別の国家計画に起因するプロジェクトとの相互協力を考慮する。
・ MACNE (Mongolian Association for the Conservation of Nature)、The National Women's Council、National Herders' Association、Green Movement、D&E (Development and Environment) などのNGOも参加する。
・ 異なるフィールド・プロジェクトが、すべての主要生態系ゾーンをカバーする。

 NPACDで特に考慮された戦略的ポイントには以下のようなことが含まれる。
・ 啓発活動の促進と国家行動計画の調整、モニタリングを行うための組織的な支援
・ 土地資源の持続的管理運営を可能にする環境づくり
・ 調査研究の現場での応用、普及の支援
・ 干ばつ、砂漠化・土地荒廃の影響評価とモニタリング
・ 持続的な放牧地利用システムの促進
・ 耕作地の包括的マネージメントと土地回復
・ 森林資源の持続的マネージメント

以上の目的のもとで実施される活動として、19のプロジェクトがある。このうち、最初の7つは、できるだけ早い時機に開始されるべきである。残り12のプロジェクトは、3−5年後の実施が想定され、自然資源の持続的マネージメントに関係する現地活動である。参加型放牧地管理運営が焦点になっているが、作物耕作地や森林も含まれている。別紙表にプロジェクトの位置づけを示す。

5) 実施のための推進体制
環境問題は、自然環境省(Ministry of Nature and Environment, MNE)が受け持つが、モンゴルの国家、地域レベルで活動するその他の政府機関と同様、ここも全般的に資金不足の問題があり、効果の上がる活動ができない状態である。このような状況は、地区や州ではもっと悪い。
すべてのNPACDのプロジェクトは、自然環境省内の調整ユニットが中心ととなって実施され、これは、MAP21の枠組みの中に位置づけられている。
MAP21とNPACDの一般的な目的は同じである。つまり、環境の持続性を損なわず、人々の基本的ニーズを充たすという、二つの面でバランスの取れた国家開発プロセスを確立することである。

6) 予算
モンゴル政府は、UNDP・UNSO(Office to Combat Desertification and Droughtか?)の支援を受け、NPACDを実施するために必要な資金を内外から調達する革新的な活動を行う(国家砂漠化対処基金National Desertification Fundの設立など)。必要な経費を国内だけで負担することは不可能であるが、プログラムを持続するためには、砂漠化を防止し回復する活動資金は、地元地域で用意することが重要であろう。UNSOはこのような分野で経験豊富であり、モンゴル国内での資金調達システムの確立を支援する。

NPACDのもとで行われるプロジェクト計画
A. 短期プロジェクト
1. 自然・環境省内での砂漠化対策を担当する部署の設立と業務開始
2. 砂漠化・土地荒廃対策のための技術・方法を開発する調査・行動プログラム
3. 砂漠化、その原因、結果、可能な解決策に関する知識を現在のモンゴルの生態系、社会・経済、文化面に応用
4. ゴビ・アルタイ州ククモリト地区 (Kukh Morit Sum)のモンゴル・エルス(Mongol Els)での持続的土地・水資源マネージメント
5. アルハンガイ(Arhangai)、ドルノゴビ(Dornogobi)州での持続的放牧地マネージメントを目的としたパイロットプロジェクト
6. 砂漠化対処国家基金(National Fund to Combat Desertification)の設立
7. 国家土地利用政策と各州、地区における土地・水資源利用マネージメント計画の策定

B. 3−5年後開始を想定したプロジェクト
8. 10地区(5州)での砂漠化問題に関する環境モニタリングと影響評価
9. 砂漠化・土地荒廃に対応する国の業務の地区レベルへの拡大
10. 環境・自然災害に関する一般的情報のデータベースの開発とインフォメーション・センターの設立
11. 継続調査
12. 再生可能な自然資源の持続的マネージメント(中部・東部ステップ生態系)
13. 北部ゴビ保護地域に囲まれた地帯の持続的放牧地マネージメント
14. クフスタイン・ヌルウ山地(Khustain Nuruu Mountain)ステップ保護地区周辺地域のマネージメント
15. ゴビ砂漠のオアシスに対する持続的・融合的マネージメント
16. ザミン・ウウド国境の鉄道駅(Zamyn Uud border railway station)と町を保護するための砂地安定化
17. 金鉱における土地・水資源再生パイロットプロジェクト
18. ウグタール国有農場(Ugtaal State Farm)の農業、林業、牧畜開発
19. 北部山岳分水嶺のマネージメント



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