環境ジャーナリストからのメッセージ~日本環境ジャーナリストの会のページゼロカーボン社会は菜食から?

2016年02月15日グローバルネット2016年2月号

リー・メイハン(編集者)

二酸化炭素排出量が多いのは交通機関より家畜

温暖化への対策が求められる今、最も簡単で効果が高く、誰にでもできる方法は菜食かもしれない。野菜不足と食の欧米化が進む最近の食習慣は環境にも影響を及ぼしているのだ。  

英国ランカスター大学のマイク・バーナースリー博士は、論文「肉食量を減らすことが気候変動対策になるのか」で「食料生産により世界の温室効果ガス(GHG)の3分の1が排出され、無駄も多い。消費される食料は生産量のたった3分の1に過ぎず、残りの3分の2はその半分が生産過程や消費者のもとで廃棄され、残りは家畜の飼料となっている」と述べている。食品廃棄物は大きな問題としてよく論じられているが、ここで注目したいのは家畜だ。  

食料用の家畜は大量の餌を必要とする。1㎏の牛肉、豚肉、鶏肉を生産するのに必要な穀物はそれぞれ11㎏、7㎏、4㎏とされている。穀物をそのまま人が消費した方が多くの人を養えるし効率が良いともいえる。  

また、とくに牛はげっぷするとメタンガスを排出し、米国のメタンガス排出量の26%は牛のげっぷによる。メタンガスは二酸化炭素(CO2)の25倍の温室効果を持つため、牛肉と乳製品を消費するために、大量のGHGを排出することになる。  

さらに、家畜は大量の水と土地も必要としている。牛肉の生産に必要な水は同量の麦の生産に必要な量の約330倍ともいう。現在、家畜の放牧のために地球の全地表の30%が使用され、飼育用穀物の生産に耕作地全体の33%が必要だ。新たな牧草地のための森林伐採が深刻な森林破壊を招き、かつてアマゾンに存在していた熱帯雨林はすでに70%が伐採されている。  

国連食糧農業機関(FAO)は、交通機関よりも家畜の方がGHGを多く産出し、土壌や水質の劣化の主要な原因にもなっていると報告し、肉食が環境問題の最大の脅威だと警告を出している。

菜食のCO2削減効果

では、環境に優しい食習慣はあるのか? 2006年に米国シカゴ大学の研究者ガイドン・エシェル氏とパメラ・マーティン氏が学術誌『地球相互作用』に発表した論文「食生活、エネルギーと温暖化」によると、肉食と菜食によるGHG排出量は、スポーツ用多目的車(SUV)を運転するか、小型セダンか、ほどの違いがあるという。  

また、2014年にはオックスフォード大学のピータース・カーボロー博士の研究チームが、調査「イギリスにおける肉食者、魚食者、ベジタリアンとビーガンの食生活による温室効果ガス排出」を科学雑誌『気候変動』に発表し、食習慣によるGHGの排出量をCO2に換算した数値(kgCO2e)は、肉の摂取量が1日100g以上の場合は7.19、50g以上100g未満では5.63、50g未満では4.67、魚を摂取する場合は3.91、ベジタリアンでは3.81、ビーガンでは2.89と報告した。  つまり、野菜を中心とした食事の方が環境に優しいのだ。ここでは栄養面について触れていないが、菜食の健康効果も多く報告されている。世界には3.75億人のベジタリアンが報告されており、日本では人口の4.7%といわれる。  

菜食といえば、宗教、動物愛護や健康面の理由が多いと思われるが、環境保護を理由に始める人も少なくない。野菜しか食べられないと思うと躊躇する人も多いだろうが、100%菜食を目指す必要はないのだ。英国でポール・マッカートニーが始めたキャンペーン「肉なし月曜日(ミート・フリー・マンデー)」は世界各地に影響を及ぼした。1人が1年間毎週1日肉の消費をやめるだけで、車の走行を1,700km節約したのと同じ効果があり、400kgのGHGを抑制できるといわれる 。  

現状では、動物性エキスや動物油脂がさまざまな商品に添加されている。飲食店でも、一部では野菜メニューが増えているが、全般的にはまだ少ない。普通の店で菜食を実践しようと思うと、生野菜のサラダやかけそばなど選択肢が限られる。これでは菜食したい人は増えにくいだろう。栄養バランスを考慮した低炭素の食事(純植物性メニューや商品)の選択肢が全体的に増えるとよいと思う。

※「ベジタリアン」は卵と乳製品を摂取する菜食、「ビーガン」は卵と乳製品を摂取しない菜食

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