環境ジャーナリストからのメッセージ ~日本環境ジャーナリストの会のページ「北の国」で感じる気候変動の現実

2016年06月15日グローバルネット2016年6月号

毎日新聞記者 江口 一

「真夏日5日連続・5月観測史上初」

「サクラ開花 2番目の早さ」

「高温・少雪 3年連続暖冬」

北海道で発行している毎日新聞で最近、報じた「お天気記事」だ。いずれもちょっとした驚きだったが、とくに「5月の連続真夏日」は、道民だけでなく、涼を求めてきた道外の観光客にとっても信じられない暑さだったはずだ。

昨年5月から、12年7ヵ月ぶりに札幌で勤務している。職務は現場の記者が出稿する北海道全域の原稿を受け止めてさばくデスク役だが、久方ぶりに北海道で暮らして感じるのは、気候が変わりつつある現実だった。

年によってまったく違うことを承知で言えば、12年ぶりに経験した昨年暮れからのこの冬は、思ったより厳しくなかった。札幌は初雪こそ例年より3日早い10月25日だったが、12月の道内の降雪量は平年の半分以下となり、12~2月の道内主要観測地点の平均気温は平年より0.9℃高かった。街中を歩いても、道路脇に積み上げられた「雪の壁」もずいぶん、低く感じたものだ。

平年よりかなり気温が高くなる見込みを示す「高温に関する異常天候早期警戒情報」も、今冬は札幌管区気象台から何度も出された。「異常」が「日常」化しつつあることを実感する。

観光に大きな影響

気候変動は、基幹産業の「観光」にも大きな影響を及ぼそうとしている。

2週間の期間中に国内外から260万人が訪れた今年の「さっぽろ雪まつり」。例年、2月上旬~中旬が実施時期だが、最近では気温上昇で「雪像が溶ける」ことを警戒するのがマスコミの仕事となった。事実、今年の雪まつりでも季節外れの「雨」が降り、会場に水たまりができた日もあった。

流氷も遅く接岸して早く去るようになり、今冬は網走市で観測史上最も遅く、平年より20日遅い2月22日に船舶の航行が不能になる流氷接岸初日を記録。流氷の季節の終わりを告げる「海明け」は2月28日だった。「流氷に覆われた」おなじみの場面はごく短期間しかなく、観光客ががっかりする姿もあったという。

一方、北海道への玄関口、新千歳空港では最近、除雪作業の負担が増している。近年は北海道特有のパウダースノー(さらさらとした粉状の雪)から重たく湿った雪質に変わり、1回の作業時間も長くなったためだという。除雪作業の遅れで多数の欠航便が出るケースも目立つ。

長く同じ魅力を

もちろん、気候変動の悪影響が観光面にあったとしても、雄大な自然、広大な風景を誇る北海道の魅力が失われたわけではない。相対的に見れば、日本の中で冷涼な地域という点も変わらないだろう。何よりその自然がもたらすおおらかな人びとこそ、多くの観光客を引きつける財産でもある。

それに私が北海道から離れていた間、道産の「お米」は確実においしくなった。品種改良に加え、気温上昇で育てやすくなったためとされる。「ゆめぴりか」「ななつぼし」といった、全国に誇れるブランド米も登場した。

しかしプラス面を考慮してもなお、温暖化によるマイナス面が大きいのではないかと感じている。それは厳しい寒さこそ、北海道を形作ってきたものであり、北海道たるゆえんであると思うからだ。

「札幌は190万都市で、こんなに質のいい雪、パウダースノーが楽しめる。こんな大都市は世界に他にない。この強みを街づくりに生かしてほしい」

私と同様、転勤で札幌暮らしをしている同僚が語った言葉だ。有名になったニセコ・倶知安地域への外国人移住も、夏の川下り(ラフティング)とパウダースノーがあってこそ、だろう。

こうして考えると、地球温暖化対策とは私たちの生活基盤を守ることである、と気付く。そして温暖化しつつある現実に対応する適応策とは、その生活基盤をなるべく崩さずに、不利益を被らないよう変化していく、ということではないか。

久しぶりに春夏秋冬を経験した札幌の街や北海道の風景が、これからも長く同じ魅力を維持してくれることを願っている。

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