フォーラム随想海を漂うプラスチックごみ

2016年10月15日グローバルネット2016年8月号

自然環境研究センター理事長・元国立環境研究所理事長
大塚 柳太郎

今年の6月、小笠原諸島の父島でウミガメの研究と保護に取り組む小笠原海洋センターを訪ねる機会があった。センターの研究員が、「捕獲したウミガメの体内から人工物、とくにポリ袋などプラスチックが劣化し断片化したものが出てくることが増えている」と話してくれた。ウミガメが海藻と間違えて飲み込んだと思われる、10㎝もある緑色のポリ袋の切れ端もあった。驚いたことに、腸閉塞を起こしたウミガメもいたという。

10㎝もあるポリ袋の切れ端のような「プラスチック破片」とは別に、海には大量のプラスチックごみが漂っており、とくに問題になっているのが5㎜以下のマイクロプラスチックである。マイクロプラスチックの大半は、意識的か無意識的かを問わず環境中に投棄されたプラスチックが、排水路・用水路や川を経由し海に達し、浜辺や海面で紫外線を浴び波に洗われ劣化し断片化したものである。

プラスチック類は多様で、ポリ袋になるポリエチレン、弁当箱や食器に使われるポリプロピレン、ペットボトルでなじみ深いペット、発泡スチロールになるポリスチレンなど、どれもが日常生活で広く使われている。これらすべてのプラスチックが、焼却処理されずに環境中に投棄された場合にマイクロプラスチックになる予備軍なのである。

マイクロプラスチックは世界の海で蓄積し続け、その量は実に27万tに達している。とくに多く存在するのは、人口が密集するアジア諸国に近い海域や地中海などで、日本近海は世界平均の30倍近いことも明らかになっている。今年5月に富山市で開かれたG7環境大臣会合で、マイクロプラスチック対策が取り上げられたのも当然であろう。

プラスチックごみ問題の根底に横たわるのは、人類が地球上に存在していなかった難分解性化学物質を作り出し、大量生産・大量廃棄して自然のシステムを擾乱させていることである。したがって、根本的な解決にはプラスチックの使用量を減らす必要がある。

このことに関連し、今でも鮮明に覚えていることがある。私が国立環境研究所に勤務していた2005年、当時のドイツ連邦環境相のユルゲン・トリッティン氏にお会いしたとき、彼は挨拶が終わるや否や、「日本では商品の包装が過剰で、ポリ袋もふんだんに使われ過ぎているのではないでしょうか」と、口調は穏やかとはいえ厳しく問われたのである。

本年3月のドイツ連邦環境省の発表によると、同国では海洋廃棄物の対策強化のための円卓会議が開かれ、プラスチック袋の削減に関する小売業界の自主義務の遂行、プラスチック廃棄物のリサイクル率向上と環境への投棄回避のための法整備が議論されている。フランスでも本年3月に、環境・エネルギー・海洋省が、ウミガメと海鳥類への影響を緩和するため使い捨てビニール袋を廃止する省令を告示している。本年5月には、UNEP(国連環境計画)が『海洋のプラスチック破片とマイクロプラスチック』と題する、200ページ近いレポートを発行しプラスチックごみ対策の重要性を訴えている。その結論として15項目が挙げられ、第一項目は人間のプラスチック使用に関するモラルに充てられている。

私たちは、地球生態系の中で循環しない物質に依存しない暮らしを目指す時に来ている。そのための第一の戦略は、そのような物質が私たちの暮らしに本当に不可欠かを考え、限りなく使用量を減らすことである。第二の戦略は、持続可能な代替物の開発で、プラスチック袋の場合は植物を材料とする袋の開発が該当しよう。両方の戦略とも必要であるが、まずは第一の戦略を追求すべきだろう。

世界各国で、プラスチックに代表される難分解性化学物質の使用低減が進むこと、そして日本では、トリッティン氏に指摘された、ポリ袋などの過剰使用が早く解消されることを願っている。

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