特集/次世代に向けた低炭素社会の構築を目指して~「低炭素杯2016」受賞団体の地域での取り組み【環境大臣賞グランプリ】 静岡発! みんなで創る地域発電所しずおか未来エネルギー株式会社 代表取締役社長 服部 乃利子

2016年10月15日グローバルネット2016年8月号

次世代に向けた低炭素社会の構築を目指し、学校や企業、NPOなどが全国各地で展開している地球温暖化防止に関する地域活動を報告し、ノウハウや情報を共有し、さらなる活動へ連携や意欲を創出する「低炭素杯2016」が今年2月16~17日、東京都内で開催され、全国1,993団体から選ばれた38団体(企業・学校・NPOなど)がプレゼンテーションを行いました。このうち、環境大臣賞と文部科学大臣賞が贈られた5団体の取り組みを紹介します。

【環境大臣賞グランプリ】 静岡発! みんなで創る地域発電所

しずおか未来エネルギー株式会社 代表取締役社長
服部 乃利子

「このビルから無事に出られないかも…」。

 2011年3月11日、さいたま新都心にある24階建てのビル内で東日本大震災に遭遇しました。激しい揺れに何もすることができず、ただ机にしがみついていました。

余震におびえながら眠れない夜を過ごした翌日、超満員の電車で静岡に戻ってきました。静岡の町は停電も無く穏やかなもの。あの時の違和感は今でも強烈に残っています。

第1歩は5人の勉強会

それまでは、エネルギーや電気は誰かがどこか遠くで作ってくれて、私たち市民はただ使うだけでした。震災後、みんながもっとエネルギーの使い方に意識を持たなくては、そして私たちが地域でエネルギーを作ることができないか、と考えていたときに、静岡市内で太陽光発電事業に取り組む鈴与商事さん(鈴与グループは創業213年。関連会社140社)から、「太陽光事業に市民を巻き込む仕組みを一緒に考えてほしい」と声を掛けていただき、静岡市と私の所属するNPO法人と合同で小さな勉強会を始めることになりました。

そのタイミングで環境省から「再生可能エネルギー事業化検討業務」という委託事業の公募が出され、静岡市と共同申請したところ、なんと67件中7件という激しい競争にパスし採択。2011年から2年間かけて事業化計画を作成することになりました。

協議会からスタート

まずは、幅広い皆さんからの意見を聞くため、協議会を立ち上げました。自治会、消費者団体、エネルギー事業者(中部電力、静岡ガス)、商工会議所、中小企業団体中央会、またオブザーバーとして静岡県、金融機関、大学教授と多様なメンバーです。

最初に作ったのは理念。「地域に住まうみんなで役割を担いながら創る、地域のための再生可能エネルギーの普及を目指す」というシンプルなものでした。しかし、役割を担う、ということは一緒にリスクも背負っていただくということ。関わっていただく皆さんと企画から実際に事業に取り組むまで丁寧な合意を心掛けました。

事業化に向けて

静岡の恵まれた自然を生かし、どの再生可能エネルギーで事業化しようかと検討した結果、日照時間が全国トップクラスであるという特徴、そしてFIT(固定価格買取制度)の有利な条件に間に合うように、と設置に時間がかからない「太陽光」に決めました。

そして、①遠くに大きな規模で作るより、小さくても市民が出資する意義や物語が描ける場所に設置する、②多額な資金を出さなくても市民が自らの意思で事業に参画・貢献できる仕組みを取り入れる(市民ファンド)、③災害時の避難拠点を想定し、非常時の独立電源として活用できるようにする、ことを目指しました。

さて、ここからが大変でした。市民の皆さんから資金を提供してもらうのですから、皆さんがここなら設置しても良い、と思える場所でなければなりません。そこで、毎日、市役所の職員と静岡市有の施設の屋根を約50ヵ所も登り、検討した結果、最終的に市民活動センター、市立日本平動物園、清水エスパルスサッカースタジアムの駐車場、市立高校体育館、資源循環プラザの5ヵ所に決定しました。どこも市民に身近で、多くの人が訪れるシンボリックな素晴らしい場所です。職員の皆さんの熱い思いに支えられた賜物です。

実は、意見の食い違いもあり、ぶつかったことも数知れずでした。お互いにうそをつかずリスクも隠さず、真っすぐに向き合ってきた信頼関係は、おかげさまで今も続いています。

全国初の小口市民ファンド

「産・官・学・民・金」の連携による市民電力事業

設置場所の次は、いよいよ資金をどう調達するか、です。今回全体の経費は8,000万円。4,000万円は金融機関からの融資、2,000万円を市民ファンドでの募集、資本金などで2,000万円調達することを計画しました。この資金調達には二つのポイントがあります。

一つは市民ファンド。今までの市民ファンドは1口が10万~50万円、償還期間も10年以上というものがほとんどでした。そこで、もっと皆さんが参加しやすく、かつあまり長い償還期間だと関心も薄れてしまうので、1口5万円、配当を付けて5年で償還することを提案。小口ファンドでは採算が取れないと言われていましたが、山のようなシミュレーションを重ね、何とか採算が見込める資金計画を作ることができました。

二つ目のポイントは、金融機関に4,000万円を担保無し・保証人無し・低金利という融資条件でお願いしたことです。設立したばかりで、実績も無い会社から、ずいぶん厚かましいお願いです。ところが、なんと2行が手を挙げてくださり、融資をしていただいた静清信用金庫は、「地域の金融機関としてこの事業に参加することは大きな意味がある」と言ってくださいました。この計画がまだ何も決まっていない最初の段階から声を掛け、オブザーバーとして意見をいただきながら計画のプロセスを見てきてくださったからだと思っています。

発電所を造った後が大事

私たちは、発電所を造った後こそが大事だと考えています。地域のみんなが力を合わせ、地域の資源を生かしてエネルギーを作ったこと。この事業の意義を広げていくためにも、関心を持ち続けていただく仕掛けや伝える仕掛けが必要です。発電量や発電金額をお伝えするとともに、発電所に来ていただくイベントをプロサッカーチーム清水エスパルスと実施したり、静岡市・静岡大学と連携して環境教育プログラムを開発して動物園で配布するなど、積極的に普及活動に取り組んでいます(図)。

これから

表彰式での記念撮影

低炭素杯2016において環境大臣賞グランプリという高い評価を得ました(写真)。審査委員長からは「「産・官・学・民・金」という地域のさまざまな主体が連携し、それぞれが再生可能エネルギーの普及に向けて貢献できることやノウハウを最大限に出し合って、市民小口ファンドによる市民電力事業を形にしたことが素晴らしい。電力・ガスの自由化時代に向け、企業でも自治体でもない市民による第3のエネルギー会社のモデルケースとして今後の低炭素社会をリードしていってほしい」とエールとともに宿題を頂きました。

「地域のエネルギーは地域のみんなで創る」。静岡にはまだまだ再生可能エネルギーのポテンシャルがたくさん眠っています。太陽光に続くプロジェクトとして「水」資源を生かそうと、現在は地域の皆さんと共に小水力発電にチャレンジしています。これからも静岡から再生可能エネルギーの取り組みを盛り上げていきます。

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