NSCニュース No.104/2016年11月2015年、人類文明は「分水嶺」を越えた

2017年04月07日グローバルネット2016年11月号

ニッセイ基礎研究所、NSC幹事 川村 雅彦(かわむら まさひこ)

 

【 サステナビリティのメガトレンド ⇒ 変わる競争軸】

2010年代に入って、長期視点から社会的課題を解決するために、グローバルレベル・ローカルレベルで社会経済の枠組みが変わり始めた。これを「サステナビリティのメガトレンド」と呼ぶが、企業の長期戦略やビジネスモデルに構造的な変化をもたらすことは明らかである。つまり、“競争軸”が大きく変わるのである。実際、このことに気付いた企業から変わり始めている。

【2015年のパラダイム大転換】

このメガトレンドの中で、2015年に人類文明は「分水嶺」を越えた。つまり、この2015年を境に人類文明のパラダイムが大きく転換したのである。産業革命以降の化石燃料に依存した文明のパラダイムは、“地球は無限”という錯覚に基づく「限りない成長」であった。しかし、分水嶺を越えた現在、“地球は有限”という現実に基づく「持続可能な発展」に変わったのである。

2015年のパラダイム大転換を象徴する世界的な動きが三つある。一つは2030年の地球社会の目指すべき姿を示す「持続可能な開発目標(SDGs)」の採択である。もう一つは、気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)における21世紀後半に二酸化炭素(CO2)排出量の実質ゼロを目指す「パリ協定」の合意である。三つ目は、G20財務大臣・中央銀行総裁会議の4月声明を受けて、金融安定理事会(FSB)が金融機関に対する気候変動リスクの情報開示基準を検討する「気候関連財務ディスクロージャー・タスクフォース(TCFD)」を設置したことである。

日本でも2015年を象徴する二つの出来事があった。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のESG(環境・社会・ガバナンス)投資を推進する「国連責任投資原則」への署名とトヨタの“脱エンジン戦略”ともいえる「トヨタ環境ビジョン2050」の公表である。

【これまでの常識はこれからの非常識】

これらの動きを俯瞰すれば、20世紀型のビジネス常識や成功体験は通用せず、これからはむしろ経営のリスク要因となり、企業価値を損ない企業の存続さえ危うくする可能性も出てきた。これはビジネス・パラダイムの大転換に他ならない。

「サステナビリティのメガトレンド」に関わる近年の動き

2010年11月 ISOがCSRの国際規格ISO26000を発行 (CSRの定義を確立)
2011年01月 マイケル・ポーター教授が社会的課題から考えるCSV(共有価値の創造)を提唱
2013年05月 GRIがサステナビリティ・レポーティング・ガイドライン第4版を発行
2013年12月 IIRCが統合思考を促す国際統合報告フレームワークを公表
2014年02月 ○金融庁が機関投資家向けの日本版スチュワードシップ・コードを発表
2014年06月 米国で気候変動の経済リスクを警告する報告書「リスキー・ビジネス」の公表
2014年11月 欧州連合(EU)が会計指令を改訂し、環境・労働・人権・腐敗防止の開示を義務化
2014年12月 CDPカーボンに署名する世界の機関投資家が800を越す
2015年03月 英国でサプライチェーンのCSRを問う現代奴隷法が成立
2015年04月 G20がFSBに気候変動リスクへの金融業のあり方を検討依頼 ※
2015年06月 ローマ教皇フランシスコが地球保全の回勅「ラウダート・シ」を発表
2015年06月 ○金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを適用開始
2015年06月 米国で年金運用を規制するエリサ法のESG投資の解釈を改訂
2015年07月 フランスで低炭素社会への移行を推進するエネルギー移行法が成立
2015年09月 国連持続可能な開発サミットで持続可能な開発目標(SDGs)を採択 ※
2015年09月 ○年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が責任投資原則に署名 ※
2015年09月 改訂ISO14001(環境マネジメントシステム規格)が環境パフォーマンスを追求
2015年10月 OECDが報告書「低炭素経済移行におけるダイベストメントと座礁資産」を公表
2015年10月 ○トヨタが“脱エンジン宣言”たるトヨタ環境チャレンジ2050を発表 ※
2015年11月 ○日本政府が国家としての気候変動への適応計画を閣議決定
2015年12月 COP21のパリ協定で2050年以降にCO2排出の実質ゼロ目標に合意 ※

(注)○は日本の動きを示す。※は2015年のパラダイム大転換を象徴する出来事を示す。
(資料)筆者作成

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