NSCニュース No.105(2017年1月)企業と大学生・大学院生とのダイアローグ

2017年01月15日グローバルネット2017年1月号

横浜国立大学大学院国際社会科学研究院教授、NSC幹事
八木 裕之

NSCでは、毎年、会員企業と大学生・大学院生とのステークホルダー・ダイアローグを開催しています。

企業のサステナビリティ戦略やマネジメントを有効に機能させていくためには、ステークホルダーとのコミュニケーションが不可欠な要素であることは言うまでもありません。スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードではステークホルダーとのエンゲージメントが求められています。また、両コードやサステナビリティ情報などの非財務情報と財務情報を統合した新たな情報開示方法として注目を集めている統合報告では、プリンシプルアプローチが採用され、サステナビリティに対する各社の姿勢や対応が強く問われています。ステークホルダーとのダイアローグなどを通したエンゲージメントは企業のサステナビリティ戦略の構築やブラッシュアップに欠かせない要素になっています。

NSCのステークホルダー・ダイアローグは会員企業が大学生・大学院生とのダイアローグを通してエンゲージメントプロセスを体験する試みです。毎年、サステナビリティについて学ぶ学生たちが就活学生、消費者、投資家などのさまざまなステークホルダーの視点に立って参加企業とのディスカッションを行っています。参加企業の多くは、翌年のサステナビリティ報告書でダイアローグの成果や学生たちの提言を紹介しています。

今年度は、東洋インキSCホールディング株式会社と横浜国立大学大学院ビジネススクール(通称YBS)で学ぶ社会人院生とのダイアローグを開催しました。YBSでは、実践的な専門知識を習得するだけでなく、修士論文を書くための研究活動が重視されています。そのため、ゼミナール担当教員の専門分野に合わせて、毎年異なるテーマで院生を募集します。ダイアローグには「サステナビリティ時代の経営戦略」のテーマで入学した院生10名が参加しました。メンバーは所属企業の中でサステナビリティや環境に関連する業務に携わる院生と自らの体験や業務からサステナビリティに強い関心を抱いている院生から構成されています。

ダイアローグでは、東洋インクSCホールディングからCSR報告書に基づきながら約1時間のプレゼンテーションを行っていただき、その後、約1時間の活発な意見交換が行われました。同社は、毎年ダイアローグに参加されていますが、CSR報告書に掲載されている情報の背景や苦労話、現在検討中の活動などを含めて、院生たちと有意義な議論をしていただきました。院生たちにとってもCSR活動の現場を垣間見ることのできる貴重な経験となりました。また、ダイアローグに参加した院生からは、ダイアローグ終了後にそれぞれの視点からまとめた第三者意見書が同社に提出されました。

議論では、CSR活動方針、CSRの重要テーマ(化学メーカーとしてのテーマ、CSRの基幹テーマ)、事業と社会のつながり、社会的課題の解決、CSR活動のグローバル展開と人材育成、CSRガバナンス、目標体系と継続的改善、社員とのCSRダイアローグ、環境会計、環境調和効率指標、ユニバーサルデザイン、ライスインクなど紹介されたさまざまな取り組みについて質問や提案が行われました。中でも、現在取り組まれているCSR戦略のマテリアリティ分析と長期経営計画および中期経営計画との関係性について議論が白熱し、真摯な姿勢で進化し続ける同社の取り組みに参加者から大きな期待が寄せられました。

CSRやCSVへの取り組みが企業の経営戦略に占める重要性が高まっていく中で、企業は絶えず社会的課題を認識し、自らの事業との関係性を把握していくことが不可欠です。教育・研究機関である大学とのダイアローグがその一助になれるよう、NSCでは今後も取り組みを進めていきたいと考えています。

ステークホルダー・ダイアローグの様子

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