ホットレポート 2IPCCシンポジウム2017 気候変動の科学と私たちの未来

2017年02月15日グローバルネット2017年2月号

グローバルネット編集部

「気候変動の科学と私たちの未来」と題する環境省主催のシンポジウムが1月25日、東京の千代田放送会館で開かれました。

IPCC第1作業部会(WG1)の共同議長を務めるヴァレリー・マッソン=デルモット氏と国立環境研究所の江守正多・気候変動リスク評価研究室長の基調講演に続き、田辺清人・IPCCインベントリータスクフォース共同議長、気象予報士の井田寛子氏、気象ジャーナリストの竹田有里氏、神奈川県立横浜国際高等学校2年生の松田淳也さん、環境省の竹本明生・研究調査室長によるパネルディスカッションが行われ、200人を超える参加者が耳を傾けました。

ここでは概要を紹介し、4月号で詳細を特集します。

第6次評価報告書は都市の気候変動の解決策に焦点(デルモット氏)

IPCCの第6次評価報告書(AR6)の作成にあたり、気候変動の自然科学的根拠を担当するWG1の共同議長を務めるデルモット氏は、過去の気候、大気・水の循環の研究者で、最新の科学的知見の紹介と環境コミュニケーションの大切さについて言及した。

IPCCはAR6を2021年4月から2022年4月にかけて公表する予定で作業を進めているが、デルモット氏からは、2016年に発効したパリ協定を受けて、「1.5℃の地球温暖化」(2018年9月)、「気候変動と海洋・雪氷圏」(2019年秋)など3本の特別報告書が事前に作成されることが説明された。

「1.5℃の地球温暖化」では、自然や人間界における1.5℃の気温上昇の影響、気候変動の脅威に対する世界的な対応と実施、1.5℃を実現する持続可能な発展の緩和経路などが盛り込まれるという。

また、AR6は世界の海氷面積の減少などの科学的新知見に加え、都市における気候変動の解決策に焦点が当てられ、世界規模から地域規模の、さらに大気や水など部門ごとの気候情報などが主な内容になることが明らかにされた。

分煙革命のような社会の大転換が必要(江守氏)

江守氏は、「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」としたパリ協定を高く評価し、このような取り組みに世界の国々が合意したのは、功利主義的価値判断からではなく、違う物の見方、新しい価値判断が存在したからだとし、気候正義(Climate Justice)という考え方を紹介。2014年にニューヨークで開かれた気候サミットの際には、気候問題は国際的な人権問題という認識から社会運動が起き、世界中で単なる制度や技術の導入だけでなく、人々の世界観の変化を伴う「社会の『大転換』が起きる必要がある」と強調。身近に起きた大転換の例として、「たばこの分煙革命」を取り上げ、受動喫煙による健康被害が医学的に立証され、今では分煙が当たり前になっているように、気候変動への取り組みが進展することを試論として紹介した。

また、再生可能エネルギーの拡大やエネルギー効率の向上から、2015年の世界の二酸化炭素(CO2)排出量は前の2年間より減少したとする国際エネルギー機関のデータを紹介し、産業革命以降、初めてのことと結んだ。

基調講演に続くパネルディスカッションでは、江守氏をコーディネーターとして、気候変動問題をどのようにして一般の人々に伝えるか、環境コミュニケーションをどう進めるかなどをテーマに話し合われた。

気候変動問題を一般の人たちにわかりやすく伝えたい(井田氏)

気象キャスターの井田氏は、2014年にニューヨークで開かれた気候サミットに参加。その際、自らが出演しNHKが制作した映像「2050年の天気予報」を紹介。何も対策を取らなかった場合、京都の紅葉はクリスマスに見ごろを迎え、9月でも日本列島のあちこちで気温が30℃を超えていること、風速70m/sのスーパー台風が来襲することなどが映し出された。

井田氏は、メディアに関わる者の役割として、気候変動問題を一般の人にわかりやすく伝える努力を続けたいと話し、自らも参加しているNPO・気象キャスターネットワークで小中学校などに出前授業をしていることを紹介した。

グローバルな問題をローカルな出来事につなげた番組づくり(竹田氏)

TOKYOメトロポリタンテレビの災害・環境担当記者の竹田氏からは、環境省がモンゴルで行っている二つのプロジェクトについて取材した映像が紹介された。遊牧民が羊などの家畜を放牧して暮らすモンゴルでは、2000年と2010年、「ゾド」と呼ばれる大寒波が起き、数千万頭の家畜が死んだという。環境省が実施した草原にソーラーパネルを活用した移動可能な冷蔵庫を設置し、羊の肉を春まで保存して高く売ることで遊牧民の生活向上を図るプロジェクトのほか、携帯電話を使って気象情報、牧草の生育情報を遊牧民に伝え、ゾドの被害を軽減する取り組みを進めていることも紹介された。

竹田氏は、グローバルな出来事が身近なローカルな問題に深く関わっていることを知ってもらう番組づくりを続けたいと話した。

高校生の関心が低い地球環境問題を研究対象に(松田さん)

横浜国際高校は文部科学省がグローバルリーダーを育成するために指定しているスーパーグローバルハイスクール(SGH)の一つ。環境、平和貢献、グローバルビジネスの三つのテーマから生徒自身が研究対象を選び、海外へのスタディーツアーも体験して英語でのプレゼンテーションを行うユニークな高校。

松田さんは、環境問題は最も身近な問題であり、マラリアの発生や自然災害など命に関わる危険性もあるのに、同級生があまり関心を持っていなかったことから、地球温暖化を研究対象にしたという。

環境問題への関心を高めるため、家庭のエネルギーを節約する管理システムであるHEMS(Home Energy Management System)の導入を提案。節電量、節約金、節約ポイントなどの目標が見える化でき、学校生活に当てはめると学習量、学力、内申点などの目標設定と同じように取り組むことができ、そのことが自分に関係のある問題として環境意識の向上につながると説明し、会場から拍手を受けた。

2015年のCO2排出量は前年より3%も削減再生可能エネルギーなどの導入効果(竹本氏)

環境省の竹本氏は、気候変動をめぐる国際動向などについて米国のトランプ政権の発足が不確定要素になるとしながらも、「気候変動政策はIPCCが世界の科学的知見を集め、各国政府が承認したものであり、各国の政治状況が変わっても科学的事実は変わるものではない」とし、2030年までにCO2を26%削減(2005年比)するとした日本の長期目標に変更のないことを強調した。また、2015年の日本国内のCO2排出量が前年に比べ3%も下がっていることを紹介し、「省エネや再生可能エネルギー導入の努力の結果だ」と結んだ。

日本が貢献しているCO2の排出・吸収量の算定方法(田辺氏)

パリ協定は、各国が協定を確実に実施しているかどうか、5年ごとに進捗状況を確認するグローバル・ストックテイクという仕組みを持っているが、そこで重要になるのが温室効果ガスの排出・吸収量を推計するインベントリータスクフォースという取り組み。日本はこの業務の事務局を15年以上も続けているが、田辺氏は「温室効果ガスの排出量と吸収量を正確に把握することは、温暖化対策を進める上での科学的、政策的立案の基礎になる。各国の行動を透明化させるためにも、算定方法の国際標準を世界に広めたい」と日本の貢献が大きな役割を果たしていることを明らかにした。

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