特集/シンポジウム報告WISE FORUM 2016
~にっぽんの未来を考える3日間~:1日目「環境・フェアウッド」沖 修司さん

2017年03月15日グローバルネット2017年3月号

フェアウッドを使って家具製品を生産・販売するワイス・ワイス(本社:東京都渋谷区)が昨年創業20周年を迎え、10月26 ~ 28日に「WISE FORUM 2016 ~にっぽんの未来を考える3 日間~記念シンポジウム」を開催しました。「真の豊かさとは?」を全体のテーマとし、「環境・フェアウッド」「生活・教育」「社会・経済」の三つの分野について、それぞれの第一人者・専門家が講演し、会場の参加者と議論を繰り広げました。本特集では、その3分野の基調講演の内容をご紹介します。本シンポジウムの記録映像や資料はこちらよりご覧頂けます。(2016年10月26~28日、東京都内にて)

1日目「環境・フェアウッド」
森林がつくる未来のデザイン

林野庁次長
沖 修司(おき しゅうじ)さん

私は国家公務員ですから、北は北海道から南は九州まで、ずっと転勤をしていた中で経験してきた、森林や林業、いろいろな人や地域でのさまざまな関わり合いについてお話しながら、特徴のある地域の森林について、過去にもさかのぼりながら、未来のことについてもお話させていただきます。

日本の多様な植生

昨夜、自分は生まれてからどのくらいの距離を動いたのか計算してみたところ、およそ9,000kmでした。仕事とはいえ、よく動いたなという気がします。

日本は南北約3,000kmと長く、また、平地から高地まであり、これによって、以下のような多様な植生が形成されているという特徴があります。

亜寒帯林:北海道、本州中部以北に多く見られます。シラベ、オオシラビソ、トウヒなどの針葉樹林が分布しています。高山では、ハイマツの低木林となり、森林が成立しない「森林限界」に達します。

冷温帯林:北海道、本州、四国、九州に広く見られます。中心となるのはブナ林で、他にミズナラやカエデ類など多くの落葉広葉樹が混生しています。本州では、ブナ林の上限に近づくと、ツガ、トウヒ、シラベなどの針葉樹が、北海道ではトドマツも混生しています。

暖温帯林:本州、四国、九州に見られ、テカテカ光った木が非常に多い照葉樹林があります。代表的なのはタブノキで、最近東京でも増えています。大きく分けて、タブ林、シイ林、カシ林が相互に連続しながら分布し、高木のほか、モチノキやツバキなども混生します。

亜熱帯林:南西諸島、小笠原、沖縄に見られ、アコウ、ガジュマルなどの植物や、ヒルギ科を主とするマングローブ林が分布しています。また、スダジイなど、九州や本州南部の常緑広葉樹と共通の種も分布しています。とくに、小笠原諸島は特殊な地域で、大陸と一度も陸続きになったことがないため、独自の進化をしており、固有種の宝庫です。

これらの植生区分は、温量指数※とも大いに関係するのですが、歴史のある日本では、人間と森林との兼ね合いや、土地と土壌との関係、災害との関係で、いろいろな森林が形成されてきました。

地形・土壌・人為による影響

岩場のマツとよく言いますが、マツは土壌の痩せたところに適合して育ちます。反対に、腐葉土ができて地味(ちみ)が良くなると育たなくなってしまいます。

また、東京・武蔵野の雑木林のような所で、人間が燃料や肥料として使うためにつくってきた森林、里山は二次林です。さらに、岩手県・八幡平のような山の上の方にある高層湿原は、分解が進まないまま植物が堆積してできた非常に特殊な植生の形態です。

スギ人工林、ヒノキ人工林など、人間がつくってきた森林は、日本の2,500万haの森林のうち1,000万haもあります。林野庁としては、このような人工林を将来的に660万haくらいにまで減らせればとも考えています。

また、長崎県の東彼杵は、江戸時代ぐらいから始まった炭の産地で、もともとはスダジイなどいろいろなシイの仲間があったのですが、選択的な伐採を繰り返してアカガシを残してきたため、結果的にアカガシの純林として、産業目的の薪炭林が出来上がりました。

このような人間との関わりでつくられてきた森林というのは、日本国内に多く分布しており、90%以上にものぼります。

世界の中の日本の森林

世界の植物は27万種くらいあるといわれてます。日本は、南北に長い島国で、高さもあり、多くの島もあるため、植物は約5,600種あります。日本と同じくらいの面積のドイツには約2,600種しかありません。日本はモンスーン地帯にあることから、植物の種類が多いのが特徴なのです。

日本人と森林の関わり

日本書紀には、スサノオノミコトなど神々が抜いた毛やひげが、スギやヒノキになったという伝説があります。樹種ごとの用途としては、船、宮殿、棺桶などに適していると記されており、日本人は木材を建物の建材、生活の道具、燃料などに使ってきました。

農耕社会が発展し、人口が増加するにしたがって、人の利用が森林の姿を変えてきました。家を建てる以外に、人が暖をとる、食事を作る際に使用する燃料(薪)を供給するためにも、森林はなくてはならない存在であり、やむにやまれず無断で木を伐るということも行われていました。

そして、森林が回復するスピード以上に人間の数が増えていきました。木材を燃料として使用すると、森林が回復する前にどんどん伐って使われ、荒廃が進みます。一度荒廃すると元に戻すのは非常に大変です。

最近で最もひどかったのは、やはり戦中・戦後です。軍事用と復興期に、まとまって木が必要になり、大量に伐られ、その跡地に戦後、どんどんスギやヒノキなどを植えました。また、紙も必要だったので、産業用パルプ・チップとして木を伐り、その跡にもスギやヒノキなどを植え、人工林に変えていきました。

その結果が、1,000万haの人工林になるのですが、反対に今は何が起こっているかというと、木を十分使わないために森林崩壊が起きる時代が来たのです。人工林はきちんと伐って、使って、植えていくというサイクルを守っていくことが重要です()。一度手を加えた森林、人間が管理する形になった森林というのは、手を加えて維持をしていくことが重要なのです。ある意味、日本は森林荒廃の歴史から、ようやく、利用できる時代に来たということなのですが、このまま放っておくと、また森林荒廃になってしまいます。とにかく使い方が問題なのです。

江戸時代には、人間が住んでいた地域の周辺の山は、生活に木材が利用されたため、はげ山が多かったのですが、明治の中頃以降、治山事業が始まり、緑がよみがえってきました。人間がつくり上げて、ようやく緑豊かになりました。だから、日頃、目に映っている森林も、皆さんは天然林かと思うでしょうが、多くは人間がつくってきた森林の一つなのです。

家具への期待

冒頭でお話したように、日本の森林の特徴は多様な樹種があるということです。この多様な樹種を、どのように利用していくかということを考えなくてはなりません。

家具の大量生産のためには、もっと人工林から出てくる木材を使った方がいいと思います。また、希少な広葉樹は、きちんと付加価値を付けて、それを理解する人に買ってもらうべきです。そういう時代に来ているのだと思います。

千葉県では、ノリひび(注:養殖ノリを付着生育させる資材)や薪などに利用されていた海岸林のマテバシイを、家具やフローリングに活用しています。それから、シイタケ栽培用原木として育てられ、大きくなり過ぎたクヌギを、家具材に使っていくという動きもあります。こういう活動を育て、支援していくべきだと思います。

他にも、センダンやコウヨウザンなど、生長が早く、今まで家具の材として使われていなかった木材を使って、新しい林業をつくっていくという取り組みが動き始めています。

デザインの重要性

家具生産にあたっては、デザインが重要だと思います。つまり、付加価値を付けるということです。使う材は、大量生産するとすれば、スギやヒノキを使えば安定供給できます。圧密加工することによって、新しい使い方が出てきています。貴重なミズナラなどは、もっと付加価値を付けて、富裕層向けの家具として生産するべきだ思います。

日本には多様な樹種があるので、家具の外側には、ミズナラを使い、表に見えないところはハンノキを使うなどの工夫をしていくということも考えられます。一つの樹種に見えるけれど、いろいろな樹種を組み合わせながら作る。これは日本の樹種を考慮した在り方で、日本ならではの家具づくりの姿だと思っています。

最近の動向(豊かな森林資源を生かした産業)

最後に、最近の動きを紹介します。最近、製材工場が原料確保のために森林を買い始めています。アメリカでもそういう流れがあります。製材工場が自分たちの森林を所有するというのは当たり前で、製材工場が効率的な生産をすればするほど、森林を所有していた方が森林の価値が上がるのです。今まで日本では、森林を持ってる人、木を伐る人、製材する人とバラバラでしたが、皆が連携するということが重要になってきてます。

それから、もう一つは産直住宅のような形です。先々週、埼玉県の秩父に行ってきたのですが、東京・世田谷の住宅メーカーがある山持ちの方と組んで、直接、山の木を買っています。そして、抜き伐りで選んだスギやヒノキを使うのです。さらに、その抜き切りをしたところを、樹液生産者に、1本500円で、カエデを植える場所として貸しています。要は複合経営をやっていくのです。こうした産直と地域の産業を合わせたような動きもあります。

このように、大量生産をしていくやり方や個性的な森林づくりと連携したやり方など、いろいろなパターンで日本の森林・林業を再生していくべきだと思います。その際には多様な樹種をどのように関わらせていくのかというのが要になります。

かつての日本には、フェアウッドの取り組みはありませんでしたが、今、フェアウッドに取り組む動きが大きくなってきました。そうした中で、ようやく森林資源が充実してきたことを踏まえ、それを生かした産業をつくっていくことが重要だと思います。

沖 修司(おき しゅうじ)さん : 林野庁次長

1979年 名古屋大学農学部林学科卒業後、農林水産省に入省。専門は森林生態。

近年の森林・林業のコンセプトは、これまで経験したことのないステージを迎えた日本の人工林の地域資源化と、イノベーションによる林業の成長産業化であるとし、キーワードとして「平地で林業」「最適化した木材利用」「新たな部材開発」、「再造林」と「山元立木価格」などを掲げる。

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