環境条約シリーズ 第301回名古屋クアラルンプール補足議定書と国内法

2017年04月15日グローバルネット2017年4月号

前・上智大学教授
磯崎 博司

遺伝的改変生物(LMO)に関するカルタヘナ議定書(本誌2000年4月)の下に補足議定書(責任および救済に関する名古屋クアラルンプール補足議定書)が2010年に採択された。それは、国際移動したLMOの利用により損害が生じた場合に、事業者が取るべき生物多様性の回復などの対応措置を定めるよう締約国に求めている(本誌2010年11月)。

補足議定書の締結に向けて、日本においてカルタヘナ議定書を担保しているカルタヘナ法と補足議定書との関係が、2016年に中央環境審議会で審議された。その過程で、損害の原因となるLMOの利用についてはカルタヘナ法が事前許可を定めていることが再確認された。併せて、補足議定書では、その対象とされる損害とは、生物多様性の保全と持続可能な利用に対する重大な悪影響であって、科学的根拠に基づいて測定・観測可能なものをいうと定められており、重大性については、変化の期間・質・量、生態系サービスの提供量の減少などの指標が示されていることから、指標に基づく測定・観測が可能であり、生物多様性について保護指定されている区域を前提とすることが適切であるとされた。その上で、補足議定書の義務項目ごとに検討が行われ、カルタヘナ法には回復措置が定められていないため、その追加の必要が指摘された。

それを受けて、環境省は、LMOの違法利用により、重要な種などの保護区域において生物多様性に対する損害が生じた場合の、回復措置(生息環境の整備、人工増殖・再導入)を追加することを中心とする改正案をまとめた。このように、回復措置は、法的には、違法利用に限られ、重要な保護区域に限られている。それは、もし、合法利用によって、または、保護区域外において、損害が生じる場合は、まず、許可条件の厳格化または保護区域の拡大によって対応できるからである。

そのカルタヘナ法の改正案は、補足議定書の締結案と併せて、2017年2月に閣議決定され、国会に提出された。

タグ:,