21世紀の新環境政策論 ~人間と地球のための持続可能な経済とは第21回/ものづくりはどのように変わっていくべきか

2017年04月15日グローバルネット2017年4月号

千葉大学教授  倉阪 秀史(くらさか ひでふみ)

前回は、廃熱を徹底的に減らして、再生可能エネルギーを最大限導入する分散的エネルギー供給構造に変換する方向性を示しました。今回は、ものづくりの変革の方向性を示すこととします。

大量生産・大量廃棄の社会から脱却するためには

われわれの社会は大量生産・大量消費の社会といわれてきました。1991年に「再生可能資源利用促進法」が制定されるとともに、廃棄物処理法にも廃棄物の再生が規定されて以来、リサイクル政策が始められました。2000年には循環型社会推進基本法が制定され、リデュース、リユース、リサイクルという3Rの優先順位が定められました。容器包装リサイクル法(1995年)、家電リサイクル法(1998年)、食品リサイクル法、建設リサイクル法(2000年)、自動車リサイクル法(2002年)、小型家電リサイクル法(2012年)など個別の品目についてのリサイクル法も制定されました。

これらの政策の結果、廃棄物の最終処分量が2000年度の5,600万tに比較して2013年度に1,600万tと71%減少するなど、一定の効果を上げています。しかし、廃棄物の発生量は、2000年度の5億9,500万tから2013年度に5億8,400万tと、約2%しか減少していません。リサイクルされた資源量を指す循環資源量が同期間に2億1,300万tから2億6,900万tに約26%増加していることから、3Rのうちリサイクルは進んでいるものの、リデュースやリユースはあまり進んでいないことがわかります()。

わが国における物質フロー(2000 年度(左)と2013 年度(右))

地球温暖化をはじめとして全地球的な環境制約が顕在化しています。前回述べたように廃熱を減らしていくとともに、3Rのうち、リデュース、リユースの2Rを重視して、物質的なムダをなくしていくことが求められます。

モノを売り渡すビジネススタイルが生み出したもの

高度成長期に電通PRが「PR戦略10訓」というものを公表し、消費者団体から批判を受けたことがあります。これは「①もっと使わせろ、②もっと捨てさせろ、③無駄遣いさせろ、④季節を忘れさせろ、⑤贈り物をさせろ、⑥組み合わせで買わせろ、⑦きっかけを投じろ、⑧流行遅れにさせろ、⑨気安く買わせろ、⑩混乱を作り出せ」というものでした。実は、この戦略は、モノを売り渡して得た収入で経営を成り立たせる経済では、今なお有効なのです。このビジネススタイルは、購買意欲をいかに喚起するのかが成功のポイントとなります。これに、広告業界のニーズが結合して、大量にモノが作られ、まだ使えるモノが捨てられる社会が生まれました。

また、現在の日本は、使っていないモノが過剰に保有される「過剰保有社会」ともなっています。全国消費実態調査によれば、家計の主要耐久消費財残高(実質ベース)は、2000年の108兆円から2014年には225兆円と2倍以上に増加しました。とくに、情報通信機器の保有高はこの間11倍に増加し、自動車などの個人輸送機器に肩を並べるまでに至っています。

倉阪研究室の院生が東京都の消費者にアンケート調査したところ、自動車の56.4%が年間使用時間200時間(使用率2.3%)以下であり、プリンターの62.6%が年間使用枚数200枚(使用率:0.0064%)以下でした(鈴木千葉恵「自動車とプリンターを対象にしたシェアリングの環境負荷低減効果と利用意向」(2015年度千葉大学大学院人文社会研究科修士論文)より)。

「サービサイズ」への移行

モノの無駄をなくしていくためには、モノを売る経済からサービスを売る経済に移行することが必要です。これを「サービサイズ」といいます。「サービサイズ」とは、ビジネススタイルを、商品の所有権が生産者から消費者に移転する形態(モノの販売)から、商品の所有権を生産者が保有したまま消費者にサービスを提供する形態(サービスの販売)に転換することです。

「サービサイズ」によって、以下の効果が期待できます。第一に、長寿命・高効率・低廃棄のものづくりが本格化します。「サービサイズ」の世界では、作った製品が壊れた場合、その処理費は生産者側が負担します。このため、壊れやすいモノ、維持費用がかかるモノ、捨てにくいモノを作ると、負担すべき費用が上がってしまうため、設計段階でこれらの削減が本格的に検討されます。第二に、消費者は所有せず、使用に対して支払うこととなるため、消費者側での過剰保有状態が解消されます。第三に、まだ使えるモノを有効に活用できます。使用済みの生産物が、その生産物の情報を一番知っている生産者に戻されることとなるため、製品の全部または一部の再使用、原材料としての再生利用が容易となります。第四に、他の家庭ごみと混ざることなく、生産者に戻されることとなるため、使用済みとなった場合であっても原材料としての質が劣化しません。

サービサイズの障壁とIoTの進展による希望

モノを販売する代わりにサービスを販売する場合、サービスの対価として得られる収入(システム運用費用を差し引く)とサービス提供終了時の残存価値(廃棄費用を差し引く)を足し合わせたものの現在価値が、モノの対価として得られる収入に等しくなるようにサービスの値付けを行うと、モノを販売する場合と競争条件は変わらないことになります。

しかし、ここで、二つの障壁があります。第一の障壁が廃棄費用の障壁です。生産者はこれまで負担することがなかった消費財の廃棄物処理費を負担せざるを得ないことになります。このため、競争上の不利益を防止しつつ、サービサイズを全面展開するためには、モノを売るビジネスに対しても廃棄物処理費の負担を求めなければなりません。これを「拡大生産者責任」といいます。日本においては、家庭に入った廃棄物の処理責任は原則として市町村が負う仕組みとなっており「拡大生産者責任」の制度化は遅れています。

第二の障壁がシステム運用費用の障壁です。こちらについては、IoT(Internet of Things)の進展によって大幅に費用が低下しつつあります。IoTは「モノのインターネット化」といわれ、さまざまな資本ストックがインターネットにつながれて、資本ストックの状態を発信することができる状態のことを指します。IoTの進展によって、モノの使用状態をリアルタイムで把握することができ、使用に応じた課金ができるようになりました。これに伴って、カーシェアリング、プリンターシェアリング、民泊、シェアサイクル、駐車場シェアなど、さまざまな分野で「使用権ビジネス」が急激に進展しています。

IT技術の進展は、消費者間でのモノの売買を容易にする効果ももたらしています。「フリル」、「メルカリ」をはじめとするフリマアプリが普及し、家庭に退蔵されているモノを活用することができるようになりました。このように、日本では、拡大生産者責任の動きは遅れているものの、IoTの流れの中で実質的に2R重視社会に動きつつあるといえます。

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