USA発サステナブル社会への道~NYから見たアメリカ最新事情第12回 米国パリ協定離脱の影響

2017年07月20日グローバルネット2017年7月号

FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ

61日、トランプ大統領は、米国がパリ協定から離脱すると発表した。トランプ氏は、アメリカにとって有利な条件であれば再交渉の余地はあると述べたが、発表直後にドイツ、フランス、イタリアが共同声明を発表し、パリ協定は再交渉も取り消しもできないと述べている。カナダやオーストラリア、日本などもトランプ氏の発表に遺憾の意を表明している。

離脱への道

パリ協定では、離脱申請は協定発効日の3年後(2019114日)まで、離脱自体は4年後(20114日)までできないことになっており、実質的に次の大統領選の直前まで離脱できない。

トランプ政権では朝令暮改が珍しくない上、昨今は弾劾を狙う動きも活発になっているため、最終的に離脱に至らない可能性もあるが、就任後の経緯を見る限り、いずれも実現可能性は低いとみられる。

ただし、パリ協定は再参加が可能であり、表明後30日以内で法的効力が発生する。もし20年の大統領選で民主党候補が新大統領に決まれば、21120日の就任後、即座に再参加を表明することになるだろう。

しかしながら、今年に入ってから行われた共和党の地場4州カンザス、モンタナ、サウスカロライナ、ジョージアにおける補欠選挙では、いずれも共和党候補が当選しており、トランプ人気は衰えていないことが証明された。民主党はモラルを訴えて選挙戦を進めているが、トランプ氏のモラルを欠いた言動は逆に共和党市民の士気を高めているようであり、現状では、来年の中間選挙や3年後の大統領選で民主党が圧勝する可能性は低そうである。

国際協力も抑制

本誌5月号に記載した通り、トランプ政権はすでに、国内発電所の二酸化炭素排出規制策「クリーンパワープラン」の見直しのほか、オバマ政権時代の気候変動策の無効化や撤廃を進め、国内気候変動対策の軽減を図っている。

離脱発表の会見では、緑の気候基金への資金提供も停止すると表明し、国際協力も抑制していく方針を示した。緑の気候基金は、途上国の温室効果ガス削減・気候変動適応プロジェクトに対して先進国が資金供与する仕組みであり、米国は20年までに30億ドルの拠出を約束し、オバマ政権の退任直前に10億ドルが支払われている。

6月半ばには、エネルギー省傘下の国際気候技術局が閉鎖されることが判明した。当局は、温室効果ガス削減策を求める他国への技術アドバイスを主要業務とする機関である。主要先進・新興国の閣僚が年一度集まりクリーンエネルギーの普及・促進を目指す国際会議、クリーンエネルギー大臣会合の準備作業も担当している。米国は同会合に引き続き参画するが、同局閉鎖により途上国への技術支援が停滞することが予想される。気候変動関連の大幅予算削減を目指すトランプ政権下では、今後もこうした組織再編が続くとみられる。

自治体や産業界の反応

一方、米産業界や自治体の多くはトランプ政権の方針に反意を示し、引き続き気候変動対策を進め、クリーンエネルギー分野を牽引していくと表明している。

トランプ政権の経済アドバイザリーを務めていたテスラのイーロン・マスクCEOとウォルト・ディズニーのロバート・アイガーCEOは、離脱発表直後に退任を発表。GE、フェイスブック、ツイッター、グーグル、ゴールドマンサックス、マイクロソフト、アップル、アマゾン、ウーバー、IBM、カーギルなどの大手企業、そして石油大手のシェルや石炭大手のピーボディ・エナジーなどの化石燃料企業も、離脱表明に対する反意を表した。

州や自治体では、マサチューセッツ州、ワシントン州、オハイオ州、テキサス州オースティン、ウィスコンシン州ミルウォーキー、ワシントンDC、カリフォルニア州サンディエゴ、ミズーリ州セントルイス、ペンシルバニア州ピッツバーグ、ノースカロライナ州シャーロットなど、多くの州知事や首長が、連邦政策にかかわらず気候変動対策を継続すると表明した。

さらに、離脱発表後、ハワイは州として初めてパリ協定の目標達成を誓約する法を可決。世界第6位の経済力を持ち、米国からの独立の噂も絶えないカリフォルニア州のブラウン知事は、トランプ会見後に中国の習金平国家主席と個別に会談し、気候変動対策での協業について話し合った。

離脱発表の4日後には、米国内125都市、9州、902企業・投資家、183大学の計1,219団体が、国際社会やパリ協定参加国に対し、「We Are Still In(まだ参加している)」と題する声明を発表した。

声明では、パリ協定の誓約実現に向けて引き続き気候変動対策を促進することを約束。「トランプ政権の発表は、気候変動の取り組みにおける主軸を揺るがし、気候変動による被害という最も危険で損失額の大きい事象を避けようとする世界的な力を弱めるものである。何より、米国の実態と合致していない。米国における近年の温室効果ガス排出量の大幅削減は自治体や州政府、産業界の努力によるものであり、連邦政府の政策にかかわらず、今後も我々の活動によって削減量は拡大・加速するだろう」とし、「米国では、パリ協定の誓約実現に向けて統率しているのは、都市、州、大学、投資家、企業であることを世界に認識してもらわなくてはならない。われわれは引き続き、温暖化を抑制し、気温上昇を2℃以下に抑え、安全と繁栄と健康に役立つクリーンエネルギー経済への移行に向けて、国際社会と共に積極的に取り組んでいく」と記している。

米国の実態

米国では気候変動は政治問題であり、公に気候変動対策を支持できない共和党基盤の州でも、再生可能エネルギーに注力しているのが実態である。

燃料別発電量(2016年)

際立っている州は、アイオワ、カンザス、サウスダコタ、オクラホマで、近年風力発電事業が急速に発展している。カンザスでは2011年から昨年までに風力発電量が約4倍増加し、電力に占める風力比率は昨年時点で30%、今後数年で50%を超えるとみられている。アイオワの電力中の風力比率は昨年時点で37%、サウスダコタは29%、オクラホマは25%に達している。

石炭生産量が全米一のワイオミングでも風力比率が9%を超えており、抵抗勢力の背後でひそやかにかつ着々と、石炭事業従事者が風力産業へ移行するための職業訓練が進められている。

全米でも、今年3月には風力と太陽光の合算電力比率が10%を超えた。「We Are Still In」で述べられている通り、連邦政府の施策や政治家の発言は実態を表していないことがわかる。

経済を動かしているのは政府ではなく企業や消費者であり、政策を施行しているのは連邦政府ではなく自治体である。連邦政府がどのような政策を打ち出そうと、米国市民が求めているのは低炭素社会であることに変わりはなく、企業や自治体は市民の欲求を満たすために行動する。トランプ政権の政治ショーに踊らされることなく、企業や自治体の実態を見据えることで米低炭素社会の将来が見えてくるだろう。

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