環境条約シリーズ 3052007年に採択された漁業労働条約が2017年11月に発効へ

2017年08月17日グローバルネット2017年8月号

前・上智大学教授
磯崎 博司(いそざき ひろじ)

世界全体で約460万隻と推定される漁船のうち、長さ24メートル以上の漁船は64,000隻程度に過ぎず、大半の漁船は12メートル未満である。その漁船上での活動は最も危険な労働の一つとされ、3,800万人以上が従事しているとされる。漁業従事者は、作業の危険性に加えて、不利な労働慣行、遠隔地での長期労働、天候や季節による雇用の変動などの深刻な問題に直面している。また、強制労働、人身取引、低年齢労働、移民労働者の搾取のような懸念も指摘されている。

それに応えて国際労働機関は、漁船における労働・居住環境を、人間らしく働きがいのあるものとするため、漁業労働条約(188号)を2007年に採択した。それは、ボスニア・ヘルツェゴビナ、アルゼンチン、モロッコ、南アフリカ、コンゴ、フランス、ノルウェー、エストニア、アンゴラ、リトアニアの批准により要件が満たされたため、20171116日に発効する。

この条約は、商業的漁獲に従事するすべての漁船および漁業従事者に適用される。漁業従事者は長期にわたって海上の隔絶された空間で生活し労働することが多いという事情に応じて、漁船の適切な建造・保守の確保、労働安全衛生の改善、船上の医療と陸上での治療の確保、十分な休息と余暇の保証、適切な労働契約の保証、社会保障の適用などが定められている。

これらの規定の遵守と執行は、漁船の旗国と寄港国の双方に義務付けられている。なお、その一部について旗国は、労・使の団体と協議の上で、小型漁船などには適用除外または漸進的実施にすることができる。ただし、その扱いは、24メートル以上の漁船、1週間以上の海上滞留、または、200海里を超える国際航行の場合には認められない。その他、海事労働条約と同様に、非締約国の漁船が締約国の漁船より有利な取り扱いを受けないことが定められている。

この条約の効果的な実施に向けて、勧告(199号)とともに、関連する四つの決議も同時に採択された。また、旗国と寄港国における検査のための指針も、政・労・使の三者構成の専門家会議で採択された。

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