特集/海を汚染するマイクロプラスチックの脅威~海洋ごみの現状と対策~世界的に進むマイクロビーズ規制

2017年08月17日グローバルネット2017年8月号

世界の海で漂流するプラスチックの微細なごみ「マイクロプラスチック」への懸念が国際的に高まっています。この問題については、2015年のG7で「世界的な課題」として、対策の強化が呼び掛けられて以降、世界レベルで調査や対策の推進が進められ、今年6月に開催されたG7環境相会合の声明には、海洋ごみに関して独立した章が設けられ、「特にプラスチックごみ及びマイクロプラスチックが海洋生態系にとって脅威である」と明記されました。本特集では、国内外の海洋ごみの現状やマイクロプラスチックが引き起こす環境への影響、マイクロプラスチック問題に対する海外の国や企業の動き、さらに海洋ごみ削減のために進められている市民による取り組みを紹介し、日本政府や企業に今後求められる対策などについて考えます。

グローバルネット編集部

海を大量に漂流するプラスチックごみ「マイクロプラスチック」が環境および生態系に与える影響が懸念されているが、その一つで、洗顔料などに含まれる粒子の「マイクロビーズ」を規制する動きが国際的に広がっている。

マイクロプラスチックは、海に流れ込んだレジ袋やペットボトルなどのプラスチックごみが波や紫外線によって砕かれ、5?㎜以下の大きさになったものだが、マイクロビーズは汚れや古い角質を落とす目的で使われる、1㎜以下の超微小プラスチック。肉眼では見えないほどのものもあり、下水処理施設のフィルターを通り抜け、海へ流出するのを防ぐのは困難である。

歯みがき粉や洗顔料などのパーソナルケア製品(※注 身体の洗浄や身だしなみなどを目的とした商品の総称)に、汚れや古い角質を落としたり、とろみを出したりする目的で使用されているが、ホホバオイルやヤシなど天然の代替原料がすでに入手可能であるため、他のプラスチック製品に比べて対策に取り組みやすいことから、海外では使用禁止を検討している国は欧米を中心に増えており、すでに製造や販売の禁止を実施している国も今や少なくない。また、業界主導による代替原料への移行や自主規制も積極的に進んでいる。

国際的に広がる規制

イギリス政府は先月21日、マイクロビーズを使用した化粧品やパーソナルケア製品などの販売を今年末までに禁止することを正式に発表した。その措置は2018年1月1日に施行され、その年の6月30日からは販売も禁止されるという。

背景には、海洋汚染および生態系への影響を防止するためにマイクロビーズを廃止するという世界的な流れがあるとともに、イギリス国内で35万人を超える市民が規制を求める請願書に署名したという事実がある。これに対し、規制の実施を訴えてきた環境保護団体は一斉にこれを歓迎する声明を出したが、一方で、規制の対象を洗い流せるタイプの製品や化粧品などだけに限るのではなく、今後は洗剤などの他の製品にも拡大させる必要がある、と指摘している。

また、アメリカではオバマ政権下の2015年12月、マイクロビーズ除去海域法(The Microbead-Free Waters Act)が成立、マイクロビーズを含む、水で洗い流すことができる化粧品(歯みがき粉を含む)を禁止することとした。そして今年7月1日からはそれらの製品の製造も禁止された。

また、アメリカ国内では一部の州がすでに政府に先行して規制策に乗り出している。2014年6月にはイリノイ州で17年12月31日からマイクロビーズを含むパーソナルケア製品の製造を禁止する法律が成立した。18年12月31日からは販売も禁止となる。

また、2015年10月にはカリフォルニア州でも法制化されている。他の規制では、代替品として生分解性のマイクロビーズの使用は認められているが、カリフォルニアの法案ではこれも禁じている。

他にも、欧米諸国を中心に、マイクロビーズの製造禁止や販売禁止について具体的なスケジュールを盛り込んだ計画が次々と発表されている()。例えばフランスは、2016年9月、プラスチック製使い捨て容器や食器を禁止する法律が成立し、その翌月の10月に、マイクロビーズを含む化粧品などの販売を18年1月1日から禁止する法律も成立した。

一方、アジアでは、台湾が初めてマイクロビーズ入りのパーソナルケア製品を販売禁止にする方針を示した。2016年8月、台湾の行政院(日本の内閣に相当)の環境保護署は18年7月から輸入・生産を禁止し、20年には販売についても全面的に禁止するとしている。

積極的にイニシアチブを取る産業界

欧米の産業界は、各国政府による公的な禁止策に先行して積極的に自主的な取り組みを進めている。中でも、ヨーロッパ化粧品工業会(Cosmetics Europe)は2015年10月、会員企業4,000社以上に対し、2020年までにマイクロビーズの使用を自発的に止めるよう勧告した。同工業会が実施した2016年の調査によると、勧告以降、会員企業のマイクロビーズの使用は82%の削減を実現したという。

一方、パーソナルケア製品を取り扱う各企業は、マイクロビーズ廃止に向けた代替原料への転換を進めている。ユニリーバやコルゲートはすでにマイクロビーズの排除を完了している。また、P&G、ロレアル、ジョンソンエンドジョンソンなどは、今年末までには使用禁止を実現する見込みである、という。

遅まきながら業界が自主的に動き始めた日本

日本では依然、法規制に向けた動きはない。しかし、世界的にプラスチック対策が取られる中、業界は自主的に動き始めている。

2016年3月、日本化粧品工業連合会は会員企業約1,100社に対し、「洗い流しのスクラブ製品におけるマイクロプラスチックビーズの使用中止に向け、速やかに対応を図られること」を促す文書を発信した。

また、個別の企業では、資生堂は2014年4月以降開発した洗浄料にはマイクロビーズを配合していない、という。また、花王は日本で販売している洗顔料や洗浄料に使用しているスクラブ剤は天然由来の成分を使用して同社が独自に開発したものであり、海外で販売している製品の一部にマイクロビーズに該当する成分を使用していたが、2016年末までにすべて代替素材に切り替えたという。カネボウも同様に2016年末までに該当製品すべての代替素材への転換を完了しているという。

今後の課題~プラスチック全体の使用削減を目指して

マイクロビーズの量がマイクロプラスチック全体に占める割合は1割程度とみられている。マイクロビーズの使用禁止は、プラスチックごみによる海洋汚染を食い止めるための第一歩に過ぎない。

今年6月に開かれた国連海洋会議では、「私たちの海と未来 行動の呼び掛け」と題した宣言が採択された。宣言では、深刻化するプラスチックごみによる海洋汚染を防ぐため、使い捨てのプラスチック製品やレジ袋の廃止を各国に求めており、海のプラスチック汚染対策に国際社会が協力して取り組む姿勢が示された。今後はマイクロビーズの禁止は世界標準となり、海洋汚染問題の焦点はマイクロビーズではなく、プラスチック全体に移ることは必至だろう。

日本もこのような国際的な規制の流れに追随していくことが不可欠になるだろう。企業の自主的努力に任せるだけではなく、行政レベルでも確実に規制し、さらに多くの企業も自主的に取り組みを進めていくことが期待される。

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