特集/SDGsをどう浸透させるか <NGOの取り組み>子や孫が大人になった時にも光り輝く美しい島つくり

2017年09月19日グローバルネット2017年9月号

「誰ひとり取り残さない」を理念として、国際社会が2030年までに持続可能な社会を実現するための重要な指針として2015年9月に採択された持続可能な開発目標(SDGs)。この国際的な目標の達成を目指し、社会全体で認識を深めるにはどうしたら良いか。SDGsに関する報道や、ジャーナリストの役割などについて、6月26日、国連大学(東京)で開かれたワークショップ「報道と社会協働:グローバルな発展と市民参画プログラム」での内容の一部を紹介します。(2017年6月26日東京都内にて)

酔庵塾塾長、合同会社地球村研究室代表、東北大学名誉教授
石田 秀輝(いしだ ひでき)さん

私が今、住んでいるのは、鹿児島から540kmほど離れた沖永良部島です(図1)。ここに2014年から住み、「間抜けの研究」をしています。

今、社会はほとんど快適で便利なテクノロジーやサービスを求める「依存型」の社会ですが、心豊かに暮らすためには、ある程度の不自由や不便を受け入れ、自分の知恵や技を使って乗り越える「自立型」の社会へ移行する必要があると思います。

「自立型」というと自給自足のような極端なものになってしまいますが、実は依存と自立には明確な境界線はなく、次第に変化していて、その間には隙間が空いています。その「間」を埋めるということが持続可能な社会をつくることであり、その行動そのものが新しいビジネスや新しい研究テーマになるのです。そこで、その「間」を埋めるためにいったい何を考え、どう動けばいいのか、現場(沖永良部島)で実験しながら進めているのが「間抜けの研究」です。

消滅するかもしれない自治体のネットワークを作る

沖永良部島というのは、懐かしい自然、懐かしい人、懐かしいコミュニティが色濃く残るところです。しかし、このままでは人口減少や少子高齢化による消滅可能性自治体であることも事実です。そんな状況でいったい何をするべきか、島人たちと考えています。

島がつくり上げてきた文化をもう一度見直し、その価値を次の世代におしゃれにつないでいく。それにより、都会の下請けでなく、ローカルが主役になり、多くの人たちが憧れる自治体のネットワークをつくり、さらに数年のうちに南太平洋を中心とする島しょ国もそのネットワークでつないでいく、そんなことを今、考えています。

また、島では毎月「酔庵塾」という集まりを開き、毎回島民を中心とした塾生40~100人が、島を豊かにし、皆が心豊かに暮らすためにはどうすれば良いか、互いに探求し、得た考えを共有し、広めていくための活動を繰り返しています。

沖永良部島の文化を作り上げてきた五つの要素

2013~14年に、90歳以上の島人に昔の暮らし方について聞き(90歳ヒアリング)、島の文化は「食」「集い」「楽しみ・遊び・学び」「仕事」「自然」の五つの要素(「五つのち・か・ら」)でできあがっていることを明らかにしました(図2)。

豊かな海や豊かな山、豊かな水など「自然」の上に、「食」など三つの価値観が強固につながり、それを「仕事」が貫いています。ワーク(仕事)とライフ(生活)に明確な境界はなく、オーバーラップしているのが島の大きな特徴です。そのため、島人は1年365日働いているのに心を病むことがない、ということも調査の中で見えてきました。

そこで、その五つの文化要素を未来の子供たちにつなげていくために、過去に戻るのではなく、将来の制約から今を考える「バックキャスト」という手法で18の提言としてまとめ、2015年9月に提言書を島の2町(知名町、和泊町)に提出しました。

さらに、子や孫が大人になったときに光輝く島をつくることを目指し、草の根的に島人が具体的に行動できることを明らかにするため、「酔庵塾」に12の部会を設置し活動を始めました。例えば、「文化部」は島の方言を言語学者と一緒に分析して島の方言に関する本を作り、教育に活かすだけでなく、子供たちによる方言を使ったミュージカルの上演も計画しています。また、島では日本で唯一、サトウキビの搾りかす(バガス)を菌床にして「きくらげ」が生産されていますが、「農業部」では高校生を中心に、その菌床を利用してじゃがいもの無農薬栽培に挑戦するプロジェクトが始動しました。

島に通信制大学が開校

「米つくり部」はこれまでコメを作っていなかった島で初めて田んぼ作りを始め、「教育部」では、前述の「自足」の概念で、高校までしかなかった島に文部科学省の認可を受けた四年制の通信制大学を誘致し、なんと今年4月に島のリーダー育成のための大学が開校しました。

結局のところ、今、私たちが進めていることは、多くの自治体が人口減少を否定して人口を増やそうとしているのに反して、人口減少という制約を肯定し、ワクワク、ドキドキ、心豊かに暮らせるにはどうすればいいか考えているのです。そのためには、まず「自給自足」ではなく、ほんの少しでいいので、ワクワクしながらいろいろなものを自足すればいいと思います。それにより、島では仕事が増え、お爺もお婆も一生働き続けることができ、お金も増え、無駄なお金を島外に流出させることなく、島内で循環させることができるでしょう(図3)。

また、島人自身が自然や文化など「島の素敵」を学び直し、島を自慢できる島人を育てることも大事です。そうすることで、島を訪れる人が増え、お金が島に入ってきて、笑顔が増えて仕事が生まれ、に多くの人が憧れる島になるのではないかと思うのです。

SDGsの目標を先行して始めていた沖永良部島

このワークショップに参加するにあたり、酔庵塾がまとめた18の提言や12の部会の活動を改めて見直してみると、島での活動はSDGsの17の目標の多くの部分と高い整合性があることがわかり、驚きました。SDGsは世界共通の物差しでもあります。世界がこれから2030年に向けて始めなければならないシナリオを、沖永良部島では先行して始めていたということになります。

今後取り残される可能性のある世界の縮図ともいえる島でのローカルな活動を物差しとして、新しい政策やビジネス、インターナショナルな活動にも応用することができるともいえるでしょう。

SDGsの目標は、メディアなどが具体的な切り口で紹介すれば、その内容と重要性はもっと明確になり、多くの人に浸透するのではないかと思っています。

石田 秀輝(いしだ ひでき)さん
 酔庵塾塾長、合同会社地球村研究室代表、東北大学名誉教授。伊奈製陶株式会社(現LIXIL)入社、取締役研究開発センター長などを経て、2004 年から東北大学大学院環境科学研究科教授。2014年3 月、同大学を退官。専門は地質・鉱物学をベースとした材料科学、1992 年より「クローズド生産システム」を、1997 年から「人と地球を考えた新しいものつくり」を提唱。ネイチャーテック研究会代表、サステナブル・ソリューションズ理事長等関係団体に関わる。岡山県生まれ。

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