USA発サステナブル社会への道~NYから見たアメリカ最新事情第14回 ハリケーン被害からアメリカが学ぶこと

2017年11月15日グローバルネット2017年11月号

FBCサステナブルソリューションズ代表
田中 めぐみ(たなか めぐみ)

今夏、8月末から9月半ばにかけて、ハービー、イルマ、ホセ、マリアとカテゴリー4 以上の大型ハリケーンが連続して発生し、米本土や米領に上陸、大規模な被害をもたらした。

ハービーによる甚大な洪水被害

8月25日、テキサス州南部にハービーが上陸。最大風速130マイル/時(58m/秒)で、カテゴリー4と認定された。その後南東部ヒューストン周辺からルイジアナ州へ移動して6日間にわたり米本土で猛威を振るい、テキサス州史上最長滞留のハリケーンとなった。6日間の総雨量は、ヒューストン市で43.38インチ(1.1m)、同市近郊のネダーランド市で64.58インチ(1.64m)と史上最高を記録。ポートアーサー市では、1時間で3.76インチ(96mm)の降水量を記録し、2万世帯が6フィート(1.83m)の浸水被害を受けた。ヒューストンを含むハリス郡は70%が浸水し、13万6,000の建物が被災した。洪水被害に遭った車やトラックの数は全域で50万台に上ると見られ、死者数は執筆時点で82人と発表されている。

メキシコ湾岸には国内製油所の3分の1が集中しているが、その多くが閉鎖に追い込まれ、ガソリン価格が上昇した。ハービーによる被害総額は、調査会社により大きく異なるものの650~1,900億ドルと予想されており、2005年に米史上最大の1,600億ドルの被害を出したカトリーナに次ぐ、あるいは凌ぐ規模になると見られている。連邦議会は直後に150億ドルの緊急救済金を採決し、がれき撤去費用としてヒューストン市に9,100万ドル、ハリス郡には4,400万ドルを支払っている。

ヒューストンでは、ハービーの被害とは比較にならないものの、昨年一昨年と連続して洪水が発生している。全米4位の人口を誇る同市は、近年人口増加が著しく、急速に開発が進められている。しかし、氾濫原や隣接する土地に数千もの家屋が建設され、増加する雨量に対応できる排水システムを整備していないなど、都市設計上の問題を抱えている。災害対策より開発を優先する同市での災害を、人災と見る向きもある。

カリブを壊滅、本土を高潮被害で苦しめたイルマ

ハービーの衝撃が冷めやらぬ9月6日、今度はセントマーチンやバージンアイランドなどリゾート地として有名なカリブ海の島々にカテゴリー5のハリケーン・イルマが上陸した。アンティグア・バーブーダでは島の95%が壊滅するなど、カリブ全域で甚大な被害が生じた。

その後イルマは勢力を弱め、10日、カテゴリー4でフロリダキーズに上陸。最大風速は130マイル/時(58m/秒)、高潮は15フィート(4.6m)を記録した。米連邦緊急事態管理局によると、キーズでは全壊した家屋が25%、残りの家屋もすべて被災したという。避難命令が出されていたものの、住民の10%程度が自宅に残ったため、行方不明者の捜索が続いた。

イルマはその後勢力を弱めながらフロリダ州内を北上し、ジョージア州に上陸した。その頃には熱帯低気圧に変わっていたものの、同州でも大きな洪水被害が起こり、400㎞ほど離れた大西洋岸のサウスカロライナ州でも10フィート(3m)の高潮によりチャールストン市内が洪水に見舞われた。

停電被害人口は、フロリダ州民の3分の1にあたる680万人、ジョージアやサウスカロライナ州でも100万人近くに上った。死者数は、フロリダ州で25人、サウスカロライナ州で4人、ジョージア州で3人、カリブ諸島で38人、計70人と発表されている。フロリダ州ハリウッド地区では介護施設で冷房が止まり、入居していた高齢者10人が死亡し、訴訟騒ぎに発展している。

本土全体の被害総額は500~1,000億ドルと予測されている。フロリダは全米のオレンジ栽培の半数近くを担っており、そのほとんどがオレンジジュースに加工されるが、被災した果樹は70%に及ぶと見られ、今後オレンジジュースの価格高騰が予想される。

フロリダは、1992年にカテゴリー5のアンドリュー、2005年にカテゴリー3のウィルマと、これまで何度もハリケーンの被害に見舞われてきた。その教訓を生かして建築基準の強化、災害基金や州所有の保険会社の設立など対策を進めてきたが、さらなる対策が必要であることが今回の被害で明らかになった。

逸れたホセ、直撃したマリア

イルマがカリブで猛威を振るっていた9月8日、ホセがカテゴリー4のハリケーンに発達した。イルマで壊滅状態にあったバーブーダに上陸することが予想されたが、北東に逸れて大西洋に抜けた。18日にノースカロライナの一部地域で洪水被害があったが、大災害には至らなかった。

しかし同日、カテゴリー5のマリアがドミニカ共和国に上陸。同国内の建物の98%が屋根を破損、27人が死亡する大惨事となった。

その後マリアは勢力を弱めカテゴリー4になったものの、20日、イルマによる停電被害で8万人が苦しんでいた米自治領プエルトリコに、最大風速155マイル/時(69m/秒)で上陸した。これにより、島内全域が停電、農地はすべて水没、死者数は執筆時点で16人と発表されており、1928年以来の甚大なハリケーン被害となった。被害総額は、プエルトリコのみで450~900億ドルに上ると予測されている。

プエルトリコは長期にわたり不景気が続き、今年5月には700億ドルの負債を抱えて破産申請している。米自治領の市民は本土に自由に出入りできるため、多くの市民が本土に移住し、人口が減り続けていたことも不景気を後押ししていた。トランプ政権は負債の救済はしないと主張しており、マリアの災害復興支援に関しても消極的な姿勢を見せている。連邦政府による手厚い支援も期待できず、マリアの被害により今後さらに人口流出が加速することが予想され、経済の立て直しに一層の時間がかかると見られている。

自然災害の教訓

これら一連のハリケーンと気候変動との因果関係は科学的に証明できないが、理論上説明のつくこともある。温暖化により海洋からの蒸発が増え大気中の水蒸気量が増すと、ハリケーンは強度を増す傾向がある。海面が上昇すれば、沿岸部は高潮の被害を受けやすくなる。海水温や海面の上昇はすでに起こっている事実であり、近年のハリケーンの激化や被害の甚大化との関係性を議論するに十分といえる。

しかしながら、一連の被害が現政権の気候変動対策に対する姿勢を変えることはなさそうである。トランプ大統領は、イルマ上陸後に気候変動に対する考えを聞かれ、「1930年代、40年代にはハービーやイルマと同等かより大きなハリケーンが発生していた」と述べている。スコット・プルーイット環境保護庁長官はイルマ上陸時の取材で、「フロリダ州民にとって今非常に重要なのは、衛生的な水の入手、水質汚染の原因となるスーパーファンド(高度汚染地域)への対策、ガソリンの入手であり、今はハリケーンの原因や影響を議論すべき時ではない。その議論はいつか国会議員がすべきであり、まだしていない。今そのことに時間を費やし取り組む努力をするのは、フロリダ州民に対して無神経だ」と回答している。

自然災害による被害の大きさは、対策の程度により大きく変わる。気候変動を認めず緩和・適応策を怠れば、被害は拡大せざるを得ない。しかし、経済発展が優先され、あらゆる社会問題が政になってしまっているアメリカでは、長期的視点による安全対策は後回しにされやすい。トランプ大統領は8月に、国家インフラ事業における洪水リスク管理基準を撤廃する大統領令を出した。ヒューストンやフロリダでは、災害対策より開発を優先した結果、被害が拡大した。一方、経済を軽視すれば対策費用を捻出できないということを、プエルトリコが証明している。経済か対策かどちらか一方ではなく、両者のバランスを取ることが大切なのだろう。連邦政府の姿勢は変わらないかもしれないが、一連の災害により何を学び今後どう変わるのか、州や自治体の手腕が問われている。

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