環境条約シリーズ 308米国で沖縄のジュゴン保護を求め訴訟

2017年11月15日グローバルネット2017年11月号

前・上智大学教授
 磯崎 博司

米国の国家歴史的財産保全法(NHPA)は、外国で行われる事業を管轄する連邦機関の長に対して、世界遺産条約リストまたはNHPAリストに相当するその外国の法令リストに掲載されている財産に及ぶ恐れのある直接の悪影響を回避または軽減するために、その事業の承認の前に、事業による影響を考慮する義務を定めている(307101条)。なお、日本の文化財保護法の天然記念物リストは、NHPAリストに相当しており、ジュゴンを掲載している。

以上に基づき、沖縄県・辺野古の米軍基地建設に際して事業管轄者である国防長官は適切なジュゴン保護措置を取っていないとして、米国の生物多様性センターや日本環境法律家連盟を含むNGOと個人は、違法確認および基地建設の差し止めを2003年にサンフランシスコ連邦地方裁判所に提訴した。同地裁は、2008年に、国防長官はジュゴンに対して適切な考慮を払っておらずNHPAに違反しているとの中間判決を示した。しかし2015年の同地裁判決は、違法確認請求については原告適格を否定し、また基地建設の差し止め請求については政治問題の法理(政治問題への司法による不介入)を適用し、いずれの請求も認めなかった。

その判決に対して、原告は連邦第9巡回高等裁判所に控訴した。同高裁は、2017年8月21日に、原告適格を認めるとともに政治問題の法理は本件に適用されないとして、地裁判決を破棄し、審理を差し戻した。

ところで、世界遺産条約は、非登録のものも含めて文化・自然遺産について、国内にあるものを保全するよう努めること(4条、5条)、また、国外にあるものに損害を与えないこと(6条3項)を定めている。そこに含まれている、非登録と国外という2要素について、上記のようにNHPAには積極的かつ明確な規定があるが、日本の文化財保護法には対応規定がない。この訴訟は、日本に生息するジュゴンに対する米国機関による保護措置の適切性が、米国の裁判所で、消極的な日本法のリストに基づいて、積極的なNHPAの下で争われるという興味深い事例である。

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