NSCニュース No.111 2018年1月環境経営学会・NSC共催シンポジウム「気候変動適応における地域と企業の連携」

2018年01月16日グローバルネット2018年1月号

オルタナ総研所長・主席研究員
川村 雅彦

2017 年12 月8 日、エコプロ2017同時開催で東京ビッグサイトにて掲題のシンポジウムが開催された。本稿では、その概要を報告する。

◆シンポジウムの背景と狙い

気候変動はもはや避けることができない現実である。レジリエントで持続可能な地域社会を構築するためには、多様な主体の連携が不可欠である。とくに、地域と企業が連携して「適応」に取り組むことが重要である。企業の「適応」とは、企業が気候変動に向き合い、そのリスク回避・低減とともに、それをチャンスに変えることである。

企業は地域社会と相互依存関係にあるため、「適応」においても相互に情報と知見を活用した効果的な対策が可能となること、双方の情報共有と意思疎通で無用な重複や競合が排除できることなどの利点がある。

このシンポジウムでは、上記の観点から、企業と地域の「適応」に関わる多様な関係者が情報発信を行い、日本における「適応」の現状と、いかにして地域と企業が連携するかなどについて議論した。

◆「適応」に関する講演

◎基調講演

  1. 「 国・地方公共団体・民間事業者による適応の推進について」環境省気候変動適応室室長補佐 小沼信之氏
  2. 「 コミュニティ主導の気候変動適応策の実践:『気候変動の地元学』を入口にして」法政大学 白井信雄氏

◎地方自治体の適応への取り組み事例

  1. 長野県環境部 松本順子氏
  2. 川崎市環境局 伊藤英介氏

◎企業と地域との連携事例

  1. サントリー 内貴研二氏
  2. NTT 東日本 三宅雄一郎氏

◆パネルディスカッション

  • 問題提起:環境経営学会理事 前川統一郎氏
  • パネリスト:上記講演者
  • モデレーター:環境経営学会副会長 川村雅彦(本稿筆者)

◎ディスカッションの内容

環境省 小沼氏:地域の中で企業は重要な存在。企業が衰退すれば地域や自治体も影響を受けるので、自治体はきめ細かい情報提供が必要。技術ノウハウや民間企業が持っている資源が有用であり、これには相互コミュニケーションが不可欠。気候リスク対応に資する国の情報として、中長期変化の科学的解明が進む。

法政大学 白井氏:「緩和」と同様に、「適応」でも環境と経済の統合的発展が重要。そのためには低炭素社会、コンパクトシティーなどの深化が必要。地元学(フィールドワーク)による統計的調査・分析も効果的。市田柿の白カビ指数のように、多主体が一緒に考える例がある。

長野県 松本氏:「適応」で重要なことは、自治体が企業のニーズを把握し、情報提供ができるかどうか。冬季のスキー場に雪が少ないので、スノーマシンを増やす事例が増加。これは当面のリスク回避であり、短期的な適応策。中長期的な視点からの対策も必要だが、「信州プラットフォーム」という枠組みはできた。コミュニケーションが双方にとって有意義。長野県は環境エネルギー戦略を2023 年に見直しの予定。

川崎市 伊藤氏:「適応」は、大企業ではある程度進められているが、中小企業はなじみが薄い。「緩和」では連携が進んでいるため、その仕組みを生かすことが可能。企業は適応を行っている認識はないが、実際にはやっている。作業環境悪化に対して熱中症対策などを実施。

サントリー 内貴氏:森林活動で感じることはシカの増加。ゲリラ豪雨も増えている。企業としては、気候変動リスクを長期的な経営リスクと見ており、その点では「緩和」も同じ。なお、原料はほとんど輸入であり、海外の適応策が重要。

NTT 東日本 三宅氏:暴風増加で無電柱化が求められるが、地中化による問題もある。洪水の時には電線が水没するため、両立の難しさがある。気候リスク対応のノウハウは、新たな適応ビジネスとなる可能性も。

環境経営学会 前川氏:企業と地域がコミュニケーションをとり、互いの持続可能性に関わる課題を知るための場をつくることが重要。防災対策に先進的な企業は、そのノウハウを他社に提供する「適応ビジネス」も可能ではないか。

タグ: