特集:目指せ 再生可能エネルギー100%~企業、大学、自治体の取り組み事業を通じて脱炭素目指す~2040年までに100%再生可能エネルギーで~

2018年01月16日グローバルネット2018年1月号

地球温暖化を食い止め、持続可能な社会を実現するため、化石燃料や原子力に依存した従来型のエネルギーシステムではなく、風力・太陽光・水力・地熱・バイオマスなどの再生可能エネルギーには資源ポテンシャルがあるとして、再生可能エネルギー100%への移行を目指す企業や地域コミュニティが世界的に相次いでおり、国際的なイニシアチブも構築されている。一方、日本国内では、エネルギーの転換については既存の産業構造にも大きく影響することから、産業界を中心にその動きは依然鈍い。しかし2016年11月に発行したパリ協定を踏まえ、一部の企業、自治体、大学では中長期計画などに温室効果ガスの排出ゼロを目標として掲げるなど、独自の取り組みを始めた。その内容を紹介する。

積水ハウス株式会社 常務執行役員、環境推進部長 兼 暖化防止研究所長
石田 健一(いしだ けんいち)

2008年にすでに脱炭素宣言

日本政府は、洞爺湖サミットで2050年には温室効果ガスを60%から80%削減すると宣言しました。日本は工業国ですから、産業分野でのこのような高い排出削減目標の達成はかなり難しいと考えられます。このため、産業分野以外での大幅な削減が必要です。そこで、積水ハウスは自社でできる事として、民生分野である住宅の温室効果ガスを2050年までにライフサイクル全体でゼロにすることを決め、2008年に「2050年ビジョン」(脱炭素宣言)として発表しました。これは恐らく日本企業では最も早い脱炭素宣言であったと思います。住まいからの二酸化炭素(CO2)発生は、その多くが居住時であり、一度建設されると50年以上の長期間使用されることから、2050年脱炭素目標を達成するためにはすぐに対応する必要があります。この目標達成のため宣言の翌年である2009年に、1990年比で居住時のCO2排出を50%以上削減する(100%削減も可能)環境モデルである「グリーンファースト」の販売を開始しました。さらに、脱炭素の流れを受け世界がネット・ゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)に向かう中、日本政府も2020年までに新築住宅の標準をZEHにするという目標を立てたのを受け、グリーンファーストは2013年からZEHでもある「グリーンファースト ゼロ」へ進化しました。この結果、2016年には新築戸建ての74%がZEHであり、累積棟数は2万6,841棟に達しています(下図)。

図 積水ハウスの”脱炭素宣言”とその達成に向けての行動

パリ協定を受けた取り組み

建築は世界全体のエネルギーの約3割を使用していることから、パリ協定では建築分野でアライアンス(Global Alliance for Building and Construction、事務局は国連環境計画)が結ばれました。このアライアンスに積水ハウスは唯一の日本の民間企業として調印しています。また、パリ協定の日本の宣言は日本全体で2030年に2013年度比で26%のCO2排出削減となっています。分野別で見ると家庭部門では既存住宅も含めて39.3%もの大幅な削減目標となっていますが、積水ハウスは2015年12月パリ協定終了直後に日本のパリ協定順守の宣言をしています。このように積水ハウスは2008年から脱炭素社会に向けて積極的に活動してきたわけです。

脱炭素宣言には当然自社の事業活動における再生エネルギー化も含まれています。この流れの中で2017年10月にスコープ1、2で使用する電力を100%再生可能エネルギーとすることを宣言し、国際的なイニシアチブである「RE100(アールイー100)」に加盟しました。したがって、RE100の宣言自体は大きな転換点のようなものではなく、自然なもので逆に遅かったかもしれません。

約670MWに達した太陽光発電ストック

2009年から本格的に供給してきたグリーンファーストには太陽光発電が設置されています(写真)。この他にも郊外の小規模太陽光発電などを設置しており、積水ハウスの太陽光発電システムの設置容量の合計は2016年までに約670MWに達しています。内訳として10kW未満と10kW以上はほぼ半々です。10kW未満の太陽光発電は2019年から固定価格買取制度(FIT)が終了し始めるため、お客様はお困りになる事が予想されます。住宅の場合には蓄電池を購入し、余剰電力を充電して夕方から夜間に利用する方法もありますが、蓄電池はコストや、余剰電力すべてを充電するためにはかなり大きな蓄電池が必要となる問題があり、余剰電力がなくなることは考え難く、10kW以上の全量売電を行っている場合には、電力ニーズがなく蓄電池の組み合わせは行えません。したがって、FIT終了後に、何らかの買取サービスが要望されます。

写真 積水ハウスの使用する瓦型太陽電池

FIT終了後の余剰電力を事業用電力に

以上のように、お客様の太陽光発電ポストFIT問題と事業用電力の再生可能エネルギー化を同時に解決する方法として考えられたのが、ポストFITの余剰電力を買い取り、自社の事業用電力に充当する方法です。

問題は余剰電力量と時期です。当社のスコープ1、2の電力消費は2016年度実績で12万553MWhでした。太陽光発電の発電量は1kWあたり年間1,000kWhとすると120MWの太陽光発電設備があれば、当社の事業用電力消費を賄うことが可能です。当社の2016年までのストック670MWのわずか2割です。もちろん余剰電力と考えると4割程度は必要になりますが、10kW未満と10kW以上のストックはほぼ半々であり、3割から4割のストックから余剰電力を得られればRE100が可能になります。これはそれ程高いハードルではありません。10kW未満は2019年からFIT終了のシステムが現れますが、10kW以上は2029年からになり、余剰電力の割合は2029年以降加速されます。このため、遅くても2040年にはRE100が達成可能だとしました。今後ZEHの販売は継続され、賃貸住宅などにも拡大していき、太陽光発電のストックはさらに増え続けるので、RE100の達成は難しくはありません。

ただし、買取価格は2019年の他社の動向や電力価格などに左右され、現在はまだ明確にはできません。買取スキームについても自社で行う方法の他、他社に委託することも考えられ、いまだ検討中です。

日本全体で再生可能エネルギーへの転換を

世界的にはAppleやGoogleなどそうそうたる企業がRE100に加盟しており、Appleは日本企業に自社に納入する製品を作っている製造ラインを再生可能エネルギーで作るよう求めています。これはサプライチェーン全体でRE100を達成しようという動きです。Appleの要求は今後の世界のサプライチェーンの在り方を示すサインだと受け止め、日本全体が再生可能エネルギー導入を積極的に進めなければ、将来日本全体がサプライチェーンから外される恐れがあると認識する必要があります。

残念ながらRE100への参加は日本企業ではまだ3社と少ないのが現状です。多くの企業がRE100への参加を行えるようになることが望まれます。そのためには、インフラ整備も含め日本全体で再生可能エネルギーへの転換を図る必要があります。

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