NSCニュース No.112 2018年12月定例勉強会「企業のSDGsへの取り組み」報告

2018年02月16日グローバルネット2018年2月号

NSC代表幹事、サステナビリティ日本フォーラム代表理事
後藤 敏彦(ごとう としひこ)

1月11日、東京都内にて、定例勉強会「企業のSDGsへの取り組み」を開催した。

基調講演では、経団連の企業行動憲章の改定や、グローバル・コンパクトなどが策定した「SDGコンパス」などの紹介の後、「SDGs Industry Matrix」の日本語版とその中での4業種についての事例が、また、企業の取り組み事例では、それぞれ自社の概要と取り組みについて紹介された。

これらを通じての筆者の感想を述べさせていただく。

日本でも役立つ「SDGコンパス」

まず、「SDGコンパス」が他のセミナーなどでも取り組み紹介では引用されており、今回もしっかり使われていることを実感した。日本でも取り組みの標準プロセスとして役立つものと、翻訳監修に関わった筆者としてはうれしい限りである。取り組みの進化のため、「Industry Matrix」ともう一点『ナビゲーティングthe SDGs―SDGsビジネスガイド』が役立つだろう。

「SDGコンパス」による取り組みステップは次のとおりである。

  • ステップ1 SDGsを理解する
  • ステップ2 優先課題を決定する
  • ステップ3 目標を設定する
  • ステップ4 経営へ統合する
  • ステップ5 報告とコミュニケーションを行う

別の観点から、日本企業のSDGsの取り組み方について、筆者は次の3段階に分かれると考えている。

  • 第一段階 これまでやってきたことをSDGsの17ゴールと関連付け、活動にSDGsマークを貼り付ける。
  • 第二段階 自社のリスクと機会に関する戦略課題にマークを貼り付ける、もしくは戦略課題の策定にSDGs169ターゲットと関連付ける。
  • 第三段階 社会課題の解決に取り組むということで、アウトサイド・インの考え方を実践する。

筆者の理解では、今回事例発表した2社は五つのステップをしっかり踏み、筆者の考える第三段階の半ばに差し掛かっていると思われる。「半ば」というのは、そもそも事業を通じて社会課題を解決するということを掲げているが、活動する社会の社会課題全般に対して何がソリューションとして提供できるかという観点が必ずしも十分には聞き取れなかったからである。

SDGsに取り組む日本企業の多くは第一段階を終え、第二段階に進みつつあるが、SDGコンパスのステップ2~4にあるように感じている。そうした意味で、今回の2社は日本企業の中では先進企業群に属すると、基調講演の船越氏も高く評価されていた。

2社に共通する特徴点は、①社会課題の解決が大前提②マテリアリティを特定するプロセスがしっかり行われている③リスクと機会の洗い出しが現場も交えてしっかり行われており、SDGs169ターゲットとの関連性も把握されている、である。トップが了承した上で、第二、第三の取り組みが行われないと、筆者の言う第一段階にとどまってしまうことになりかねない。

欠けている「貧困の撲滅」への取り組み

別の研究会で統合報告書を読み解く研究をしているが、これまでの分析では、世界での2大テーマ「SDGs」と「パリ協定」について経営者の緒言では触れられても、取り組みではパリ協定に関する直接的対応策はあまり見えない。他方、SDGsは先進企業では具体的取り組みが記述されているが、全体を流れる主要テーマ「貧困の撲滅」に触れているものはほとんどない。

日本社会の格差は先進国の中でも深刻で、とくに母子家庭の貧困は大きな社会課題といわれるが、それらのソリューションを図るアウトサイド・インの取り組みは、まだ残念ながら報告では筆者は見たことはない。貧困についてのビジネス的ソリューションについてのアイデアがないか、あっても外部報告の段階に至らないということなのかもしれない。

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