つなげよう支えよう森里川海―持続可能な新しい国づくりを目指す第9回 南三陸町における取り組み~国際認証を活用した民間発のなりわいづくり

2018年02月16日グローバルネット2018年2月号

一般社団法人 CEPAジャパン 理事
宮本 育昌(みやもと やすあき)

CEPAジャパンは東日本大震災の後、生物多様性の観点から震災復興に取り組んできました。その一環として、宮城県南三陸町において国際認証を活用した民間主導の取り組みを支援しています。今回は、現在2年目の環境省の「地域循環共生圏構築事業」を中心に活動を紹介します。

南三陸町の森里川海

南三陸町は北上山系の南端に、三方の山が志津川湾を囲むように位置しています。町の境界と分水嶺がほぼ一致していることから、町に降った雨はそのまま山から森、そして川を通じて海に注いでいます。それらは森の恵みであるミネラル分を多く含んでおり、志津川湾の豊かな生態系を支える一因となっています。

山の豊かさを象徴するのがイヌワシです。かつてはつがいが町内の山に営巣し、山だけでなく里でも狩りをするという珍しい姿が見られました。また、サケやシロウオが遡上し、海から山に栄養を運んでいます。

このように、森里川海のつながりがとても強いのが、南三陸町の特徴です()。

南三陸町の森里川海のつながり

FSC南三陸杉と「山さ、ございん」

南三陸町の豊かな森を代表するのがFSC(森林管理協議会)認証を持つ杉の植林を中心とした森林です。南三陸町では伊達藩の時代に良質な杉の産地として植林が奨励され、現在、国有林・公有林・私有林を合わせて1万2,654haの森林があります。

震災後、森林管理について改めて見直す中で、南三陸杉について国際認証を取得し、それを南三陸町の復興の一つの柱にしようという議論が起こりました。そこで町が予算を確保し、持続可能な森林認証として最も信頼性のあるFSC認証にチャレンジし、2015年に認証を取得しました。

一方、森林経営が持続可能であるためには、森林から得られる木材が市場で販売され、経済が循環することが必要です。その販路拡大に向けて、民間発の取り組みとして「山さ、ございんプロジェクト実行委員会」が発足しました。「山さ、ございん」は「山へいらっしゃい」という意味であり、FSC南三陸杉の森林を見に来てほしいという思いで名付けられました。林業家・木材加工業者・研究者・NPO・写真家と幅広い方々に参画いただき、当会はその事務局の一翼を担い、地元発の取り組みを支援しています。

南三陸杉は、目が詰まって強度が高く、薄ピンク色の美しい色味が特徴です。この特徴が生きる商品への活用が模索されています。南三陸町では南三陸町役場庁舎やさんさん商店街、関東でも当会代表の川廷昌弘の自宅でFSC南三陸杉が使われています(※2017 年12 月号「フロント/話題と人」で紹介)。

ASC南三陸戸倉っこかきと「海さ、ございん」

豊富なミネラル分が山から流れ込む志津川湾は、以前から漁業が盛んな地域であり、カキ・ホヤ・ギンザケなどの養殖が行われています。ところがかつては養殖いかだが過密化し、弊害が出ていました。例えばカキについては、過密化により成長に時間がかかるようになり、震災直前には出荷できるようになるまで3年も必要な状況でした。震災による津波ですべてが流されてしまった後、戸倉地区でカキ養殖を行う漁業者が集まり、改めて自分たちの漁業の未来について考える中で、「自分たちの子や孫のために漁業を持続可能にしていきたい」という思いでまとまりました。その実践として養殖いかだの数を震災前の3分の1に減らす決断をしました。また、その決意を形に表すため町と協働し、2017年3月に日本で初めてASC(水産養殖管理協議会)認証を取得しました。

また、山さ、ございんプロジェクト実行委員会の取り組みを知る南三陸町民から声が上がり、海に関しても民間の取り組みを加速するための組織として「海さ、ございんプロジェクト実行委員会」が立ち上がりました。漁業者・水産流通業者・宿泊業者・飲食業者などが参加し、持続可能な漁業を支える販路作りやブランディングについて議論を進めています。

環境省の「地域循環圏構築事業」

南三陸町では2016年度から3ヵ年かけて産業振興に向けた総合計画の検討を進めており、その中に事業の中核となるプラットフォーム構想があります。本事業においても、すでに「山さ、ございん」「海さ、ございん」の両プロジェクト実行委員会が運営され、それを町のプラットフォーム構想に組み込むよう働き掛けています。

南三陸町はFSC/ASCの二つの認証を同時に取得している初の自治体となりました。しかし、その認知度はまだまだ高くありません。そこで、消費者にFSC南三陸杉/ASC南三陸戸倉っこかきの高い価値を伝え、ファンになっていただくため、体感ツアーとメーカーズディナーを企画・実施しています。

体感ツアーでは、FSC南三陸杉/ASC南三陸戸倉っこかきについて知っていただくとともに、それらを育んでいる南三陸の森里川海の豊かさ、そしてその生産を支える人について、一連のストーリーとして体験していただこうと考えています。2016年度は仙台圏を中心としてレストランのシェフや木工職人などに参加していただき、林業と漁業の現場を、各生産者の解説を交えながら見学いただきました。2017年度は首都圏の施主・建築事務所を対象に、FSC南三陸杉を使い、FSCプロジェクト認証を取得した個人宅の見学会を予定しています。

また、メーカーズディナーでは、南三陸町と縁が深い仙台秋保醸造所とタッグを組み、ASC南三陸戸倉っこかきとワインのマリアージュを楽しんでもらう食事会を開催しています。2016年度は仙台秋保醸造所、仙台市内の飲食店2ヵ所の計3ヵ所、2017年度は仙台秋保醸造所・川崎でのワイン新酒フェアの2ヵ所で開催し、それぞれ参加者に好評でした。今後、仙台市内の飲食店2ヵ所での開催を計画しています。

一方、FSC南三陸杉/ASC南三陸戸倉っこかきの販売を進めていくにあたり、両者に共通した悩みが「ほぼ素材としてしか販売できていない」ことです。持続可能ななりわいにしていくためには、生産者の収入を増やすことが必須です。そこで、より高い付加価値を持つ商品に加工し、販売する道を模索しています。FSC南三陸杉は比較的気軽に購入できる価格帯の商品として、家具やワイングッズなどの検討を進めています。ASC南三陸戸倉っこかきは素材の味を生かしたおいしい加工品・半加工品を目指し、著名なレストランシェフとのコラボレーションを進めています。

前述のツアー、メーカーズディナー、商品販売のいずれも、消費者の心に訴え掛けるには、それら商品の背景にある南三陸町の森川里海のストーリーを南三陸町民が語れることが重要です。そのため、2016年度に、ASC南三陸戸倉っこかきについてのリーフレットを作成しました。2017年度はFSC南三陸杉の商品に関するリーフレットを作成する予定です。

森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸

南三陸町は「森里海ひと いのちめぐるまち 南三陸」というキャッチコピーで町づくりを進めています。これはまさに地域循環圏構築事業で考えている「森川里海の連携」そのものです。本事業は2018年度で終わりますが、その後も南三陸町で取り組みが継続されるよう、地域の皆さんと連携して進めていきたいと考えています。

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