NSCニュース定例勉強会 報告「SBTについて」

2018年05月15日グローバルネット2018年5月号

NSC定例会担当幹事、オルタナ総研所長・首席研究員
川村 雅彦

3 月15 日、NSC は東京都内にて定例勉強会「SBT※1 について」を開催した。

【プログラム】
基調講演①
「なぜ、企業版2度目標(SBT) なのか?~環境省の関連政策について」
 環境省 地球環境局地球温暖化対策課 課長補佐 飯野暁氏
基調講演②
「SBT(Science Based Targets)企業版2℃目標」
 CDP 日本事務所 プログラムマネージャー 高瀬香絵氏
企業事例
 ①第一三共株式会社 CSR 部 環境マネジメントチームリーダー 上原勉氏
 ②株式会社電通 法務マネジメント局 CSR 推進部部長 木下浩二氏
ディスカッションおよび質疑応答

基調講演の概要

基調講演では、まず環境省の飯野氏から、環境省の関連施策の背景と要点ならびに企業支援事業の概況が説明された。とくに、なぜ環境省はSBT 設定を支援しているかについて、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言も踏まえつつ、三つの論点が指摘された。つまり、①気候変動はビジネス上のリスクだから②気候リスクへの対応はビジネスチャンスでもあるから③二酸化炭素(CO2)はグローバル・サプライチェーンで排出されているから。なお、詳細は環境省WEB サイト「グリーン・バリューチェーン・プラットフォーム」を参照されたい。

続いてCDP の高瀬氏から、SBT について世界的動向、SBT のスコープ1、2、3 ※2の認定プロセスと認定要件、CDP 質問書との関連などが説明された。とくに、スコープ3 については、その基本的な考え方や認定要件(バウンダリ、目標年、目標水準、推奨事項、逆にNG 目標例)とともに、世界的な先進事例が解説された。企業がSBTに参加することによるメリット7 項目も示された。

なお、PRI(責任投資原則)と機関投資家4 団体が、世界的にGHG 排出量の多い企業(日本企業10 社を含む)に対し、集団的エンゲージメントを行うイニシアチブ「The Climate Action100+」についても紹介された。

企業事例の概要

企業事例として、第一三共の上原氏から、SBT による目標設定の内容と機関決定の経緯が説明された。同社グループのSBT 承認は2016 年9 月であり、日本ではソニーに次いで2 番目となった。具体的には、2030 年までのCO2 排出量目標(27%削減)を見据えた上で、第4 期中期経営計画の最終年度である2020 年度のCO2排出量目標として、2015 年度比5.6%削減が設定された。これはSDA(部門別低炭素化手法)による原単位目標である。なお、同社グループのCO2排出量は年間約25 万t であるが、スコープ3 の3 分の2 を占めるカテゴリー1 ※2 については、削減目標のない主要サプライヤーに2020 年までの目標設定を目標とした。

続いて、サービス業である電通の木下氏から、SBT 設定に至る社内経緯と設定目標の概要が説明された。2015 年12 月に電通グループの2020 年までの5 ヵ年CSR 中期戦略が策定され、四つの重点領域(環境保全、コミュニティ、サプライチェーン、責任あるマーケティング・コミュニケーション)が設定された。その環境保全の中で、「従業員一人当たりのCO2 排出量を2014 年比で30%削減」が明記された。同時に、「SDGs プロジェクトチーム」が設置され、社内セミナー、生活者意識調査、SDGs コミュニケーションガイド作成が行われた。

ディスカッションの概要

最後に、登壇者全員によるディスカッションを行った。その主たるテーマは、SBT の実務的な内容ではなく、どのようにしてSBT を社内に浸透させ、機関決定とすることができたかである。

結論から言うと、一つは強い問題意識を持つ環境・CSR 担当者の存在である。つまり、トップダウンではなく、彼(女)らが核となって、経営層を含む社内の意識変革に取り組んだ結果であった。いわば「ミドルアップ」である。もう一つの特徴は、SBT 単独ではなく、中長期ビジョン・目標の中に組み入れられていることである。それは実現可能性の積み上げではなく、将来の「社会の目標」から自社の将来像を考えることに他ならない。

これらは、SBT の社内や経営層への説得に取り組む(悩む?)多くの日本企業の担当者の参考となろう。

※1 日本ではSBT を「科学に基づく目標」や「科学と整合した目標設定」と訳すことが多いが、これでは日本企業に伝わりにくいという判断もあり、「企業版2℃目標」と表現されることがある。

※2 スコープ1 は企業自身が化石燃料などの燃焼により直接排出した温室効果ガス(GHG)。スコープ2 は電力使用などの間接的に排出したGHG。スコープ3 は企業の直接的事業領域外の製造、輸送、出張などのバリューチェーンを通じた「他者」の排出するGHG であり、その中で多いのはカテゴリー1(購入した製品・サービス)とカテゴリー11(販売した製品の使用)である。

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