環境ジャーナリストの会のページ事例から学ぶ小水力発電のポテンシャルと波及効果

2018年06月15日グローバルネット2018年6月号

フリー編集者・ライター 元・八坂書房
中居 惠子

低迷する地方経済にとって、エネルギーの自立は重要である。同時に地方は久しく若い人材を求めてきた。今、小水力発電をきっかけにその両方を手に入れる地域が出現している。そこには、どんな力が働いているのだろうか。

日本環境ジャーナリストの会では4月25日、小水力発電を介して地方と関わってきた一般社団法人小水力開発支援協会代表の中島大氏を講師に勉強会「小水力発電が地方を救う」を開催、小水力発電をめぐる近年の諸事情を聞いた。

小水力をきっかけに若者が集まる

中島氏は、著書『小水力発電が地域を救うー日本を明るくする広大なフロンティア』の中で、岐阜県郡上市石徹白地区の事例を詳しく紹介している。

この地域では、小水力発電をきっかけに、10組以上のIターン夫婦を呼び込み、カフェの開設や農産物加工場の運営などさまざまな事業が展開されるようになった。石徹白はかつて人口が270人にまで激減、小学校も廃校の危機に立たされた。それが現在Iターン夫婦を中心に子供も誕生し、廃校の危機も去ったという。

地域振興には、足元の資源を見直し、それを生かす努力が必要だが、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)によって、電気はつくれば必ず売れる商品になった。これは大きい。その経済的成功により人々は自信を取り戻し、新たな事業を始める意欲につながっているという。

変わる役所の対応

2012年3月29日、国交省は「発電水利に関する相談窓口の設置について」という通達を出した。「これは非常に大きな変化です」と中島氏。

かつて、小水力発電では河川法が壁になって許可が下りないなどと言われていた。しかし実は許可を出す側の国土交通省にしてみれば、電力会社ではない普通の人が水力発電をするということ自体が想定外で、どうしたら許可を出せるかわからなかったのだという。

FITによって小水力発電の事例が増え、対応を迫る声が大きくなるにつれ、国交省も許可を出す環境を整備し、相談窓口の開設につながったのだ。

規制がなくなったわけではなく人々の声に後押しされて、正しい方法で規制を乗り越える道が開かれたといえる。

河川法が守るものは

河川法は、川に関わる先行する権利を優先する。役所は河川法の下で、地元の人に迷惑をかけないことが確認されない限り許可しませんよという姿勢だ。河川法に守られているかぎり、太陽光発電で問題になっているような無謀な発電所の建設はできない。

一方、農業用水をみると、現在新規の建設はほとんどなく、更新と維持管理が中心になっているが、ここには赤字に苦しむ国の事情がある。

かつては農業用水は農業のためのもので、他の目的で使うことはできないとされていた。しかし、もはやそんなことを言ってはいられない時代だ。農業用水でもダムでも、発電で収益を上げてくれるのならどんどんやりましょうという姿勢に変わってきている。

山間地域がフロンティアに

経済学では、フロンティアがなくなったら資本主義は終わるとささやかれている。それに対し、今後、山間地域が若者たちにとって新たなフロンティアになるだろうと中島氏は強調する。

「若者たちは過疎の山村にフロンティアを見てやって来る。そういう人たちを受け入れるオープンな気持ちと地域資源を生かす努力があれば、山間地域は持続可能になるでしょう。30数年間、中山間地で小水力発電をと活動してきて、ようやく若い人が入っていくような時代になったのだと思います」という言葉で中島氏は話を結んだ。

環境省によると日本の中小水力発電のポテンシャルは約900万kW。中島氏は経済性を考慮した開発可能量は100万kW程度だろうとし、この数字は日本の全電力消費量の1%に満たないが山間地の需要を満たし、エネルギーの自立には十分な量だとしている。

小水力発電はきっかけにすぎず、その向こうに新たな広がりがあることが、今、さまざまな実践から見えてきた。

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