
アジェンダ21桂川・相模川は、おそらく国内で初めての流域を単位としたローカルアジェンダ21であり、複数の自治体が策定に関与しているという点においても非常に注目される事例である。今後、このような流域アジェンダの策定は活発化していく可能性もあり、草分けとしての当アジェンダの経験は重要である。また、ローカルアジェンダ21に限らず、地域の合意形成の手法として学ぶべき点は多い。
 
 
 
 
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<背景>
桂川・相模川は山中湖を水源として、山梨県、神奈川県を流れる一級河川である。同河川は、水資源という観点からみると。他で例をみないほど利用されている河川であることを特徴としている。流域の人口の増加や産業の発展に伴い、特に中下流域の都市化や京阪工業地帯の発展に伴って大量の用水を確保する必要性から、相模ダム、城山ダムなどが建設された(城山ダムが完成した時点における流域の桂川・相模川の開発率は62%だったが、深城ダム、宮ヶ瀬ダムが完成し、相模取水堰が稼働すると80%に達すると計算されている)。
昭和50年代の中頃には、相模湖・津久井湖でアオコが大発生するなど、河川の水質汚濁が問題となってきた。河川を中心とした流域の環境保全は、県の区域をこえた河川流域での対策が必要とされることから、上流部の山梨県、下流部の神奈川県で協議がはじまった。
<経緯>
桂川・相模川の水質保全を図るため、「山梨県・神奈川県水質保全連絡会議」を設置(平成4年11月)し、両県は水質保全に向けた検討、調整を開始した。
・桂川・相模川の水質保全を図るため、山梨、神奈川両県間で共同してできる事業について検討を開始した。(平成7年1月〜)
・「山梨県・神奈川県水質保全連絡会議」で、「桂川・相模川流域環境保全行動推進事業」を実施することが合意された(平成7年8月)。
・両県は「桂川・相模川流域環境保全行動推進事業」を開始した。(平成7年10月〜) ・流域アジェンダ策定のための市民会議が平成9年2月22日〜23日の2日間にわたって開催され、・桂川・相模川アジェンダ21市民会議が発足した。(平成9年3月)
アジェンダ21桂川・相模川を策定した(平成10年1月)。 |
 
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平成7年度から9年度までの3年間、「桂川・相模川流域環境保全行動推進事業」として、課題提起と合意形成を行うために、流域シンポジウムやサミットを開催し、住民参加と流域環境保全行動の定着を図るために「クリーンキャンペーン」や「上下流交流事業」を開催した。
また、住民、事業者、行政を構成主体とする「桂川・相模川流域協議会」を設置した。
桂川・相模川流域協議会組織図
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アジェンダ策定に参加した市民は、「桂川・相模川アジェンダ21市民会議」で議論を行ってきた。
この「市民会議」は、山梨・神奈川両県が桂川・相模川流域で活動する市民団体や市民にネットワークづくりへの参加を呼びかけたことにはじまる。このネットワークづくりは、当初「市民団体等のネットワーク化」が目的であったが、アジェンダへの市民意見を求めるために<アジェンダ策定のための市民分科会>にかわり、市民団体が両県とともに企画・開催した。
平成9年2月22日〜23日に開催されたアジェンダのための市民による会議には150人の参加者があり、森づくり、生き物との共生、水質、ごみ、公共事業のあり方、市民参加の6つの分科会に分かれて、流域での問題点の抽出、望ましい将来像と目標、対策や計画についての議論を行った。この中で市民から出された課題点は数百にのぼった。
これらの市民の意見を実際にアジェンダ策定に生かすために、分科会の世話人を務めた市民を中心に「桂川・相模川アジェンダ21市民会議」が平成9年3月8日に発足し、会議は月2回のペースで開催され、平成10年2月まで22回の会合を行った。市民会議で行った作業内容は以下の4点である。
・ アジェンダ21市民案の作成 ・ アジェンダ21桂川・相模川の策定方法の提案 ・ 流域協議会の仕組みづくりの提案
・ アジェンダ21桂川・相模川についての事業者・行政との討議 また平成9年9月には「市民シンポジウム」を開催し、さらに多くの市民からの意見を募った。
平成10年1月に設立された桂川・相模川流域協議会には、市民部会が設置され、この部会には市民会議を中心に多くの市民が参画した。 |
 
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この流域アジェンダの特徴は、市民の主体的な参加にある。特に、相模大堰の建設をめぐり、行政側と鋭く対立していた市民団体と行政(相模大堰をめぐる裁判の原告と被告)が同じテーブルにつき、議論を戦わせながらも流域の望ましい将来像を模索していったことは、市民参加の「質」的なレベルにおいて、他地域でのモデルケースとなりうる事例であろう。
アジェンダ策定にあたり、両県は市民参加については、桂川・相模川の流域環境保全に関心のある市民であれば誰もが参画できるとした。その結果、行政と対立している団体を含め多くの市民団体が参加した。
市民参加の「量」的レベルについては、数値が挙げられているものについては、以下の通りである。 ・ アジェンダのための市民による会議(平成9年2月22日〜23日)の参加者は150名
・ 桂川・相模川アジェンダ21市民会議の開催回数は平成9年3月から平成10年2月までに22回 ・ 平成10年4月から月1回のペースで桂川・相模川流域協議会市民部会が開催され、毎回20名前後の参加がある。
・ 平成10年12月現在、同協議会の市民部会には183名の市民(団体)が参加している。 |
 
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アジェンダ21桂川・相模川の策定に当たっては、流域の多くの市民、事業者、行政の参加があり、それらの代表で構成するアジェンダ21相模川・桂川検討委員会を設置し、検討してきた。検討委員会のメンバーは以下の通りである。
市民:流域で自然保護に取り組む団体(「めだかの学校」など)、「相模川キャンプインシンポジウム」などの公共事業の見直しを呼びかける市民団体、市民など
事業者:漁業・林業・農業関係、メーカー、電力会社、水道事業者など 桂川漁業協同組合、国際電気株式会社富士吉田工場、北都留森林組合、笹一酒造株式会社、東京電力株式会社、ライオンズクラブ国際協会330-B地区地球環境委員会、アンリツ株式会社厚木事業所、JA神奈川県中央会、東京コスモス電機株式会社、神奈川県企業庁など
行政:山梨県、神奈川県、相模原市、富士吉田市 アドバイザー:環境庁水質保全局水質管理課、建設省関東地方建設局京浜工事事務所 |
 
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当該アジェンダは、各主体の具体的な行動提案という意味では未完成であり、今後桂川・相模川流域協議会において、協議を続けていくものとされている。
現時点で合意されている当該アジェンダの内容としては、次頁のようになっている。 |
 
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@行政区域を超えたローカルアジェンダ21である点 複数の県を流域に持つ桂川・相模川の流域環境保全を図るため、行政区域を越えて山梨・神奈川両県および市民・事業者等がローカルアジェンダ21を策定した点が特長として挙げられる。
A市民参加 市民の主体的な参加が特長である。 特に、取水堰の建設をめぐり、行政側と鋭く対立していた市民団体と行政が同じテーブルにつき、議論を戦わせながらも流域の望ましい将来像を模索していったことに価値がある。自治体担当者(神奈川県)曰く、「最初はまったく議論ができないような状況だったのが、何度も議論を重ねることによって接点を模索していった」そうである。
また、住民側で積極的にこのアジェンダ策定に関わった氏家雅仁氏は、「私が策定準備会に参加した当初は、『県行政は市民団体のイベントを行うことで市民の意見を聞いた体裁を整え、後はこれまでの行政プロセス同様に両県の内部で策定してしまうのではないか』との警戒感を抱いていた。しかし両県により配布された『策定ガイド』
を学習してみると、策定の初期からその根幹に市民が参加することがアジェンダとしての要件となっていることがわかってきた」「これまでの対立の場とは異なる、もう一つの別の広場を行政とともに作り上げられるのではないかと考え、私は参加している」と述懐している((財)地球・人間環境フォーラム発行『グローバルネット』1997年4月号「市民参加による桂川・相模川流域アジェンダ策定をめざして」)。 |
 
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桂川・相模川の流域の環境保全を行い、持続可能な発展を基調とした循環型社会を築くためのローカルアジェンダ21であり、流域環境の保全を通じて森林保全、生物多様性の保全等地球環境問題に対応している。 |
 
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良好な森づくり、多様な生物との共生、水質・水量の保全、散乱ゴミや不法投棄のない地域づくりなどが盛り込まれている。
流域の理想の姿:清く豊かな川は流れる
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現状の認識という項目で以下のような項目が評価されている。 ・神奈川県における平地林の減少率
・水質汚濁負荷の状況(BOD) ・上流から下流への枝流の水質、支流の水質(BOD、COD、全窒素、全りん)
・流域での散乱ゴミの実態(平成7年度、8年度、ごみの種類ごとの個数) ・流域市民の意識調査(流域環境保全状況について・流域環境保全上の改善すべき事項について、流域環境保全活動への参加状況について)
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環境基本計画の補助推進事業の一つ。地域連携事業に位置づけられる。環境基本計画の長期的な目標である循環、共生、参加を地域において具体的に実現する施策である。 |
 
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最大の効果は、複数の県を流域にもつ河川の流域環境保全のために、市民、事業者、行政が合意形成を図ることができたことである。また、流域の環境保全の行動計画となるアジェンダの策定・推進に当たり、市民事業者、行政が一体となって取り組んだことが挙げられる。
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「アジェンダ21桂川・相模川」を実効あるものとするため、各主体の具体的行動をとりまとめていく必要がある。また、アジェンダに基づく市民、事業者、行政の環境保全行動が流域全体に広がっていくことが必要である。 |
 
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〒400-8501 山梨県環境局環境活動推進課 tel.0552-23-1503
〒231-8588 神奈川県環境部水質保全課 tel.045-201-1111 |
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