大阪府豊中市では、「とよなか市民環境会議」による2年間にわたるアジェンダづくりが行われてきた。  ここでは「アクション・アプローチ」という斬新な手法を用いている。すなわち、「とよなか市民環境会議」においてローカルアジェンダ21策定と同時並行的に、学習・経験の蓄積・環境保全行動を行っていったのである。集まった市民のアイディアや専門知識、職種を活かして、マイバック持参運動、アイドリングストップ、環境家計簿運動、剪定枝堆肥化運動、産業部会エコチェック運動などの実際の行動につなげていった。  また、行政計画である市の「環境基本計画」と共通の基本方針・目標を設定し、この2つを同市における環境保全行動の車の両輪としている点も斬新である。  さらにこの2つの計画を地域全体の環境マネジメントツールとして機能させる可能性も模索されているなど、同ローカルアジェンダ21は今後の我が国のローカルアジェンダ21の趨勢を占う上で重要な事例である。

 

  豊中アジェンダ21「地球環境を守るとよなか市民行動計画」

  平成10年度中に策定予定


  とよなか市民環境会議(事務局:豊中市生活環境部環境課、構成団体、次頁参照)

 

  平成7年10月に制定された環境基本条例に基づき 、市民参加型の環境行政を進め、平成8年5月に総勢150団体からなる「とよなか市民環境会議」が発足。ワーキンググループが7月に発足し、会合をかさねた(公開)。  

同年12月から平成9年2月まで、市の環境基本計画と豊中アジェンダ21の共通の目標となる「環境目標」づくりに取り組んだ。  

それ以降、環境塾を開催し、平成9年9月「エコライフ」「エコインダストリー」「エコトラフィック」「ビオトープ」の4つの部会を発足し、環境展シンポジウム、アイドリングストップキャンペーン、環境家計簿運動、剪定枝堆肥化運動、産業部会エコチェック運動、買い物袋持参運動などの各運動・キャンペーン、学習、交流を進める中で、豊中アジェンダ21の形が形成されていき、平成10年12月に、豊中アジェンダ21(案)が市の環境基本計画と同時に公表された。ここから市民意見を反映させ、11年3月には豊中アジェンダ21が完成する予定である。

 

  豊中市では策定に2年、準備期間を入れると2年半に及ぶ長い時間をかけ、「とよなか市民環境会議」による一般の市民や事業者の手による自主的な行動計画として策定している。  

この「とよなか市民環境会議」には、後述するような市民、事業者が文字どおり中心となっているユニークな形態をとっているが、行政も積極的に参加し、必要な情報を提供したり、同時に策定している行政計画である「環境基本計画」によってローカルアジェンダとの整合性を確保するなど、アジェンダ計画の実効性を担保してきたことに特徴がある。  

さらに、「アクションアプローチ」手法を採用し、策定課程と並行して、マイバック持参運動、アイドリングストップ、環境家計簿運動、剪定枝堆肥化運動、エコオフィスチェック運動などの実際の行動をとり、これらによる「経験、学習、交流」を重視している。

【とよなか市民環境会議 参加団体】    
(平成10年9月現在) 事業者団体・企業:豊中商工会議所、豊中建設業協会、豊中造園建設業組合、NTT北大阪支店、関西電力豊中営業所、豊中市農業経営者協議会、豊中市商店会連合会等 16団体・社 流通業界:チェーンストア協会関西支部、潟_イエー庄内店等3店舗、豊中サティ等 10団体・社 ホテル:千里阪急ホテル等 4社 交通:阪急タクシー、阪急電鉄、阪急高速鉄道、阪急バス等 8団体・社 金融機関:三和銀行・さくら銀行・大和銀行・住友銀行の豊中支店、池田銀行 5社 教育機関:豊中市立中学校長会、豊中市立小学校校長会、豊中市立幼稚園園長会、大阪府立豊中高等学校等 16団体・学校 病院:4病院 研究機関:アイケー環境システム、バードデザインハウス、都市緑化研究所、関西総合研究所等 12社・団体 官公署:豊中市、豊中市教育委員会、建設省近畿地方建設局大阪国道事務所高槻維持出張所、運輸省大阪航空局大阪空港事務所、大阪府環境政策課、豊中郵便局 等 14機関 民間団体:豊中青年会議所、豊中駅前まちづくり協議会、各ライオンズクラブ、ロータリークラブ 等 16団体 社会教育団体 ボーイスカウト豊中地区、豊中市PTA連合協議会、豊中市青少年団体連絡協議会、豊中市公民分館協議会 等 10団体 福祉団体 豊中市民生児童委員協議会連合会、(社)豊中市シルバー人材センター、(福)豊中市社会福祉協議会 等 9団体 女性団体 4団体 市民・労働団体 環境フォーラム市民の会、きゃんぱすえころじー実行委員会、豊中市労働組合連合会等 13団体 その他 (社)豊中市医師会、(社)豊中市歯科医師会 豊中市駐車場協会 等 9団体

            

  【とよなか市民環境会議】  
豊中アジェンダ21を策定するために、「とよなか市民環境会議」が平成8年5月に発足。ここに、社会教育団体、消費者団体、PTA、女性団体、消防団、製造業、流通業、金融業、交通運輸業、ホテル、病院といった事業者、商工会議所、青年会議所、さらに環境保護団体等のNGOやボランティア団体、大手スーパーやコンサルタントなどが参加している(平成10年9月現在約150団体)。ワーキンググループのメンバーは他の行政の「…検討委員会」のような組織の長ではなく、いずれも個人資格での参加者や、実際に活動を行っている人々で、構成団体の希望者や広報を見て自発的に集まってきた人たちである。当初はローカルアジェンダ21や環境問題の学習会を行い、さらに市の環境基本計画と共通の「目標」づくりに取り組んだ。

【豊中環境塾の開催】  
平成9年6月から8月にかけて6回「豊中環境塾」を開催した。地球環境問題、環境配慮型の企業活動、交通、ライフスタイル、地域の環境資源の見学会などについての学習会を行い、参加者の延べ人数は550人に達した。

【4つの作業部会】  策定の具体的な作業を行うため、平成9年9月に「産業部会」「交通部会」「生活部会」「自然部会」の4つの部会が発足した。各部会とも約30名が参加し、月1回以上の学習会、見学会をおこなったのみならず、具体的なキャンペーン行動を行った。

【かんきょう講座(エコキャラバン隊)】  「とよなか市民環境会議」のメンバーである大学生によってエコキャラバン隊が結成され、平成9年10月から各地に出前の環境講座を行った(自治会、町内会、PTA、会社、学校など。これまでに約30回)。。

 

  ●理念・目標
「豊中アジェンダ21」は市の「豊中市環境基本計画」と目標・理念を共有している。豊中の望ましい都市環境像のキャッチフレーズは、案配布と共に市民から募集し、以下のキャッチフレーズに決まった。

「創ろう 風と光とせせらぎとふれあいのまちとよなか」  


また、@参加・協働、A広域性、国際性、B資源循環・負荷低減、C共存・共生の4点を環境政策の目指すべき基本方向(目標理念)とし、その下に5・7調による12の環境目標像を設定している。

「地域から わがまちよくする こころみを 皆で考え 行動するまち」(市民参加)

「生き物に触れて驚き 感動し 人の心を育てるまちに」(環境学習)

「次世代や 地球の未来を考えて 暮らしや社会を 問い直すまち」(地球環境)

車降り 歩いて楽し 散歩道 思わず寄り道 したくなるまち(交通)

陽や雨の 自然の恵み 大切に 普段のくらしに 役立てるまち(水資源)

朝がたに 小鳥の声で目が覚める いのちの営み 発見できるまち(自然との共存)  

また、共通の環境目標・指標として @協働(パートナーシップ)型活動参加者数 A一人あたり二酸化炭素排出量 Bごみの純排出量 C雨水浸透率 D環境基準達成状況 E緑被率 を設定している。
豊中アジェンダ21のイメージ

●行動目標  
当面の行動目標として、これまでの率先行動を継続するという点から以下のような行動目標を設定している。
行動の目標

●行動提案
豊中アジェンダ21の本体にあたるのが、部会での議論の結果出された各分野ごとの行動提案である。以下は行動提案の抜粋である。

1章 地球環境のために暮らし方を変えよう
行動提案1 家族で話し合って、わが家のごみ減量作戦に取り組もう
行動提案3 カバンの中に薄手の買物袋を入れて歩きましょう
行動提案6 使い終わった電気製品は必ず主電源を切ろう
行動提案9 雨水をためて、打ち水や植木の水やりに使おう
など20の行動提案

2章 自然の豊かな豊中にしていこう
行動提案22 豊中市が行っている「身近な環境調べ」に参加しよう
行動提案30 市民農園をつくり、農地を守ろう
行動提案34 落ち葉や剪定枝は燃やさず、堆肥にしよう
行動提案35 雨が地面にしみこむよう、土の面をできるだけ増やしていこう
など20の行動提案

3章 環境問題に配慮した事業活動を進めよう
行動提案41 事務所にコピー用紙、FAX用普通紙、印刷用紙などの裏面を利用するシステムをつくろう
行動提案44 とよなかエコオフィス21活動チェックリストをつけて、オフィスの環境度を調べてみよう
行動提案46 産業廃棄物として捨てていたものを、資源として循環利用するシステム作りを検討していこう
行動提案50 省エネ型でリサイクルルートがつくられている製品を優先的に購入しよう
行動提案57 自社の環境への取組情報を市民に公開しよう
など23の行動提案

4章 環境問題に配慮した交通のあり方を考えよう
行動提案64 不要なアイドリングはやめよう
行動提案68 荷物もガソリンを食べます。車を倉庫がわりにしないようにしよう
行動提案73 一人乗りのマイカーはもったいないから、声をかけて相乗りしよう
行動提案76 マイカー使用を控えて、公共交通機関を優先的に利用しよう
など19の行動提案

5章 パートナーシップで地球環境を守ろう
行動提案88 市民の環境目標、企業人の環境目標を市民や企業の中に広めていこう
行動提案90 豊中アジェンダ21(地球環境を守るとよなか市民行動計画)を参考に、市民環境会議の構成団体で行動の取組み目標を考えよう
行動提案91 地球環境を守るため、子どもからお年寄りまで男性も女性も、個人も事業所も、それぞれのアイデアを出し合おう
行動提案94 私たちの行動からでる二酸化炭素を当面1割削減めざしてがんばろう
など19の行動提案

●フォローアップ  
普及啓発、進行管理、財政基盤の確立の3つの面に留意して進めていく。  普及啓発に関しては、引き続きワーキンググループ会議による企画・提案などを行い、市民・事業者それぞれが小さな発信源となって周りに運動を呼びかける、行政もこれをバックアップする体制をとることとしている。  

進行管理は、いくつかの指標を定めて、基本計画の進行管理と関係させる、行動の具体化、スケジュール化を進めていくことを課題としている。  財政基盤については、これまでの市民環境会議の活動が行政の財政的支援に大きく依存してきたものの、その弊害もあること、豊中市民のすべての生活と行動を地球環境に配慮したものに変革していく自発的で持続可能な活動にしていく必要があることから、基金の創設などの方法により安定した自主的な財政基盤の確立を図っていく必要があるとしている。  

なお、この3点の推進について、各主体の役割・関与を以下の表のように示している。

 

  豊中アジェンダ21の策定の手法には他自治体と比べて以下のような特徴がある。

@策定主体が、とよなか市民環境会議という市民150団体を網羅した広範な市民・事業者・行政のパートナーシップ型の組織であること

Aアジェンダ21策定のため、ワーキングループを中心に設置した作業部会メンバーは、各団体の代表者ではなく、実際に地域や企業の現場で具体的な取組をおこなっている者であること

B策定にあたっては、机上の議論だけではなく、実際に行動し、そこから得られた体験や教訓をもとに計画原案を作成する「アクションアプローチ」手法を採用していること  


また、豊中アジェンダ21そのもの、また豊中アジェンダ21の考え方、フォローアップについて、以下の点も大きな特徴である。

C行政の計画である「環境基本計画」と共通の目標を設定していること。

Dローカルアジェンダ21を「行動計画」としてだけではなく「市民、事業者、行政の交流・学習・行動の場を形成するツール」と広く位置づけていること。

 

  101の行動提案のうち、1章「地球環境のために暮らしを変えよう」の20の行動提案、3章の「環境問題に配慮した事業活動を進めよう」、4章の「交通のあり方を考えよう」、5章「パートナーシップで地球環境を守ろう」のほとんどが地球環境問題に関係のある行動提案である。

 

  施2章「自然の豊かな豊中にしていこう」の20の行動提案、またその他の章のいくつかの行動提案は自然環境保全、廃棄物、水質・大気汚染に対応したものとなっている。

 

  自然特性の評価は特に行っていないが、学校の剪定枝の堆肥化、雑木林の竹を炭として利用するなど、市民環境会議の各部会などの席上、さまざまなアイディアが市民や事業者から出され、それが試行・実現されている。

 

  前述の通り、行政の環境基本計画と共通の目標・指標として@協働(パートナーシップ型)活動参加者数、A一人あたり二酸化炭素排出量、Bごみの純排出量、C雨水浸透率、D環境基準達成状況、E緑被率−の6つの指標が設定されている。

 

  環境基本計画と共通の目標を掲げている。

 

  策定課程の効果としては、

@地域でのさまざまな環境配慮型の行動をする機運が高まったこと。
A交流の場を形成できたこと。
B参加者の学習・経験が深まったこと
Cある参加者のアイディアを他の参加者が現実化するアイディアを出すといった相乗効果
D共通の地域の将来像を共有できたこと が挙げられる。

 

  資金面が問題。事務局の運営にあたっては、担当したコンサルタントには、最後には自分で補助金をとってくるほどの苦労をかけてしまった。今後、フォローアップの体制の一つとして、安定した自主的財政基盤の確立、人員面の確保が課題となってくる。

 

  「とよなか市民環境会議」事務局 tel.06-6858-2106 fax.06-6842-2802