タイガ 生命溢れる奇跡の森 −その破壊








第1話 イントロダクション
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まから7年前。あるアメリカ人科学者が私達に教えてくれました。

「森林破壊による危険が、南の国々だけでなく北の国からも生じています。中でも "タイガ" とよばれるロシアの森林の破壊が進むと恐ろしい結果が生まれます」

タイガのミミズク(撮影 ユーリー・シブネフ)
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次の年、私達はここ極東ロシアにやってきました。

飛行機でくれば日本からたった1時間半の場所です。



▼この森には何かいるのでしょうか? この森には何か大切な役目があるのでしょうか? 現地の人々や専門家の人々はどのように考えているのでしょう? photo
――タイガはマツやモミなど寒帯性の針葉樹が主体の森林ですが、比較的温暖な南部の地方ではナラやタモなどの広葉樹が交じって「針広混交林」と呼ばれる森になっています。写真のような混交林となったタイガは「ウスリータイガ」と呼ばれ、野生動物の宝庫となっています。なかでも日本海沿岸部、シホテ-アリニ山脈一帯のタイガは世界遺産に登録すべきと言われるほどの一大森林地帯を形成しています。ミミズクのほか、オオカミやクマ、絶滅の危惧されるアムールトラ(シベリアトラ、ウスリートラ)まで、大小様々な野生動物の生きて行ける世界的にも希な場所となっています。(撮影 ユーリー・シブネフ)

こには生命が溢れていました。

photos そしておだやかな笑顔の人々と、よく 遊んでよく笑う子供達の暮らす場所が ありました。

その背景には、手つかずの自然があり、 川には大きなマスの泳ぐ姿が見えました。そういう場所が、 べつに大したことでもなんでもないように、残っていまし た。

これらのものを踏み潰してしまう力 ― 抑制を失った 大きな力が、ここにやってこようとしていました。
しかし、ここで起ろうとしていたことは日本にはまだ伝 わっていませんでした。たぶんこの場所が少し前まで"ソ 連"だったせいでしょう。

口琴(こうきん)を奏でる、タイガの先住民の少女達。
沿海地方サマルガ川流域、1996年
(タイガ先住民族について→ 第2話をご参照ください)
(撮影 アレクサンドール・パニチェフ)


達は、電子メールなどでこの地方のロシア人研究者やジャーナリスト達と情報交換を始めました。

タイガで伐り出した丸太を積んだトラックの一群。
むかう先は日本海沿岸の木材輸出港、1990年代前半
(写真提供 Pacific Environment and Resources Center)
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すると、この地方を最後の住みかとする動物たちや、この地方で狩りや漁をして数百年前から暮らしてきた人々がいること、そして彼らの暮らしの土台が「タイガ」と呼ばれる森である事が分かりました。

さらに、この森林がこの地方の大地を覆っていることが、実は日本や地球全体の環境にとっても重要であることあることがわかりました。

その森を、次々と大地から引き剥がす力が生まれていました。

その力は手負いのクマのように、抑制を失って、いたるところで森をなぎ倒しにかかっていました。

タイガの破壊 - それはもはやこの極東ロシアの生き物や人々だけでなく、やがて海を越え、遠く日本や他の地域にも影響を及ぼす問題でした。

私達は、この流れを変えるために協力しよう、と言われました。

・・とんでもないことになりました!

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1997.6/2 北海道新聞から
この記事の書かれた1997年、この地方のロシア人研究者が報告書にこう記しています「ここ10年間の急激な情勢変化は林業の経営システムを変え、森林保護への支出を減少させ、森林資源をコントロールする条件を悪化させた。

達は「ここで起っている事を日本に伝えてもらえませんか」とも言われました。

それが残された希望につながるからだよ、と。

それは、日本の人達のしてきた事が、たとえ悪気はなかったにせよ、ここの生きものや人々の感じてきた痛みとつながっているし、タイガの破壊はいずれ日本の人たちの暮らしにだって影響を与える問題だから、と。

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ロシア人研究者と著者、
シベリアHOTSPOTプロジェクトのメンバー、1996年


▼タイガの皆伐(かいばつ)の行われた跡 ロシアでは伐採の後のタイガは大抵この写真のような状態で放置されます。 この後ここで何が起こるのでしょうか?伐り出された丸太はどこへゆくのでしょうか? 第4話で述べてみたいと思います。 photo

の本は、多くの人に見て貰えるものにしようと思いました。

この本には私達が今までに極東ロシアで見た事、知った事、学んだ事、考えた事、タイガとは何か、私たちのやってみた事、上手くいった事、上手くいかなかった事を書きました。

ここには、あなたの目の向く時をずっと待ってきた人々もいます。
あなたの注目や心遣いにタイガの破壊を抑えて地球のバランスを守る力があると、その人々は信じています。

海の向こうでロシアの大地を覆ってきたこの森は、美しくて、そしてありがたいものです。

遠くにあって、日本人の暮らしとは一見なんの関係もないように思えても、実は様々な恵みをもたらして私達の暮らしを豊かにしてきた森です。

タイガを壊さずに済む方法を探しましょう。それは、私達自身を守ることであり、無数の生命を救うことであり、タイガから受けた長年の恩にむくいることです。

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タイガの先住民ウデゲ族の漁師。 彼らはタイガを流れる川のそばに定住して、採取狩猟生活を営む。沿海地方サマルガ川、1996年(撮影 アレクサンドール・パニチェフ)



↓雪上のアムールトラ 絶滅の危惧されているアムールトラ(シベリアトラ、ウスリートラとも呼ばれる)も、タイガを必要としている動物です。森のシカやイノシシをエサにし、一頭のなわ張りが数十平方キロメートルから数百平方キロメートルと言われる彼らの暮らす地上最後の場所が、大陸の日本海沿岸部やシホテ-アリニ山脈一帯に残る極東ロシアのタイガです。(撮影 ドミトリー・メゼンツェフ)

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イントロダクション終わり


Contents
巻頭タイガと日本(熊崎 実/筑波大学名誉教授)
第1話イントロダクション
第2話タイガって何だ?
第3話日本とのつながり
第4話タイガの破壊
第5話NGOの動き シベリアHOTSPOTプロジェクト
提言あなたと私に出来ること
<巻末ストーリー>タイガをめぐる冒険




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作成者:地球・人間環境フォーラム