エローラの洞窟寺院

(文化遺産、1983年指定)
Ellora Caves

三つの宗教が混在する石窟群
  エローラは大地にせり出した岩山を掘削して作られた寺院群である。岩の掘削が開始されたのが5世紀頃。ここには仏教、ジャイナ教(1)、ヒンドゥー教それぞれの石窟が作られた。第1〜12窟が仏教窟で最も古く、5〜7世紀のものである。第13〜29窟はヒンドゥー教窟で7〜9世紀に作られた。第30〜34窟はジャイナ教のもので、8〜10世紀に作られた。宗教が異なりながらもそれぞれ活動時期が重なるのは、互いの宗教に寛容であったためである。
注(1)ジャイナ教:仏教と同時代(紀元前6世紀頃)にマハーヴィーラが起こしたインド独自の宗教。不殺生、苦行、禁欲を特徴とする。商人を中心にインド全体で200万人の信者がいる。ジャイナ(Jaina)はサンスクリット語で「苦行を克服した者、勝利した者」を意味する「ジーナ(Jina)」に由来している。無所有、餓死を究極の理想とする裸行派の僧は一糸まとわぬ姿で生活する。白衣派は白衣に身を包み、誤って虫を踏まないよう自分の行く手を箒で掃きながら歩く。

1世紀以上かけて作られた大作
  エローラで最大の建造物はヒンドゥー教のカイラーサ・ナータ寺院である。間口が45m、奥行き90m、高さ30mの巨大な寺院は1つの岩から掘られている。岩を上から掘り進めて、寺院本体を残す方法で作られた。着工から完成までに1世紀以上かかったと推測される。取り除かれた岩石は300万立方。その宗教的情熱、技術、建設にかける時間の長さは類い希である。本殿の屋根はインド南部の寺院に多く見られるピラミッド型で、世界遺産マハーバリプラムやパッタダカルの屋根の様式を受け継いでいる。細部の装飾も豊富で、「畏怖相のシヴァ」「舞踏のシヴァ」などの彫刻が外部の回廊にいくつも浮き彫りされている。守護神や女神、空を飛ぶ天女、ゾウや獅子などの浮き彫りもあり、神話の世界が表現されている。カイラーサ・ナータ寺院は最も完成度の高いヒンドゥー岩石寺院といわれる。

カイラーサナータ
写真10. カイラーサ・ナータ寺院の正面。間口の幅は45m。
この寺院は一枚の花崗岩から削り出された。

信仰を1500年間見つめてきた寺院群
  エローラでは仏教が衰退してからもヒンドゥー教徒とジャイナ教徒が寺院群を引き継ぎ、修行活動を続けてきた。さらに、街道の近くにあったため、参拝者が容易に訪れることができ、信仰の場として生き続けることができた。
  岩山を掘り出した石窟寺院はブロック状に石を積み上げて作った寺院よりも、保存状態がよい。一枚の岩でできているため崩壊しにくいからだ。エローラの石窟群も崩壊が少なく、保存上の問題はないという。

シヴァ神 戦うシヴァ神
写真11. シヴァ神。ヒンドゥー教の神々は通常は4本以上の腕を持ち、槍や剣などの武器や修行の為の数珠などを持っている。それぞれの神によって持ち物は違い、シヴァは槍のような形をした三叉戟(三つ又に分かれた矛)を持ち、小さな太鼓を持っている。これは修行者(サドゥー)のスタイルで、シヴァ神が修行者たちの神であることを示している。 写真12. 戦うシヴァ神。シヴァはヴィシュヌと並び、神々の中でもっとも戦いに強い神である。

シヴァパールヴァティ 牛堂
写真13. シヴァとパールヴァティ。パールヴァティはシヴァのも戦いが得意である妻で、ヒンドゥー教の女神崇拝の象徴である。シヴァは時にはパールヴァティと合体して、右半身が男性、左半身が女性の姿で現れることもある。 写真14. カイラーサナータ寺院牛堂。この巨大な寺院は2階建てに作られている。ヒンドゥー寺院は通常、前殿と最も重要な聖室が置かれる本殿に分かれているが、牛堂が寺院の正面に付属することもある。牛堂にはシヴァの使いであり乗り物であるナンディ牛の石像が腰を下ろしている。インドでは牛は神の使いであり、荷役や農耕などの労働に欠かせない。菜食主義者が多いインドでは牛乳やチーズは重要な栄養源である。そのためインドでは牛は非常に大切にされる。

参考文献:
樋口隆康(編)、田村仁(撮影)『世界の大遺跡8 インドの聖域』講談社、1988年。
長谷川明『インド神話入門』新潮社、1987年。
Kedar, Atul; Tettoni, Luca Invernizzi; Photo Bank (Photo); Sengupta, Ranjana (Text), Ajanta & Ellora, The Guidebook Company Limited, Hongkong, 1995.
Malandra, Geri H., Unfolding a Mandala: The Buddhist Cave Temples at Ellora, State Universtiy of New York Press, 1993.
     

インド編目次に戻る


GEFLOGO
財団法人

地球・人間環境フォーラム



〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-18-1 虎ノ門10森ビル5階
TEL: 03-3592-9735 FAX: 03-3592-9737