カジランガ国立公園

(自然遺産、1985年指定)
Kaziranga National Park

サイの保護区
  インド第2の大河ブラマプトラ(ブラフマプトラ)川の左岸に広がる堆積地がカジランガ国立公園である。公園面積の66%が草原で、28%が森、残りが河川や湖で構成されている。カジランガではインドサイ(イッカクサイ)(写真45)を重点的に保護している。地球上で2,000頭ほどしかいないインドサイが約1,200頭も生息する。草原には雨期のブラマプトラ川の氾濫によってできた沼地や池が多い。地元ではこれをビール(Bheel)と呼び、サイの生息には絶対必要な地形であるとされている。
  カジランガに野生のスイギュウが生息していることも大変貴重である。インドではスイギュウは家畜として、珍しくないどころか、町中にまで溢れかえっている。しかし、野生のスイギュウとなるとほとんど存在しておらず、自然保護地域に細々と生息しているだけである。野生と家畜の違いは外見では、角が最も識別し安い。野生のスイギュウの角は大きく、左右対象で整った弧を描いている。一方家畜の角は小さく、ほとんどが不規則にねじれている。野生のスイギュウは気が粗く、パトロール中の公園保護官たちに突進し、大けがを負わせることがある。
  公園の東側はペリカンなどをはじめとする野鳥の宝庫である。ペリカンたちは群になって池に浮かびながら魚を漁っている。
  サイが数多く生息している点、世界でも珍しい動物や絶滅の危機に瀕している動物が生息している点、川の堆積平野で野生動物が保護されている点などから世界遺産に指定されている。

サイの角を狙う密猟団
  カジランガにはサイの密猟問題がある。角は国際闇市場で高額の値が付く。一説によると1角(約1kg)あたりの末端価格は30万ルピー(約90万円)にもなるという。サイの角は精力増強の漢方薬として効くと信じられており、角を粉にして飲んだりするという。サイの角が科学的に薬効があるとは証明されていない。
  カジランガ国立公園は北はブラマプトラ川、南は国道37号線という幹線道路に挟まれており、密猟者は車やボートで簡単に逃走できる。また、ブラマプトラ川の中洲や岸辺に密猟監視所を設置しているが、毎年の洪水で流路が変わり、そのたびに監視所が流されたり、新たに設置しなければならなかったりと困難がつきまとう。
  サイの密猟方法は3種類ある。一つはサイの通り道を調べて、落とし穴を掘る方法である。サイには常に同じ道を使う習性があるため、待ち伏せ場所を決定しやすい。また、サイは近眼であるため落とし穴に気づかない。密猟者たちはサイが落とし穴に落ちたところを殺害して、角を切り取る。二つ目は電線をサイの通り道にはり、高圧電流を流す方法である。国立公園担当官によると、以上の二つの方法は比較的準備に手間がかかるうえ、時にはサイ以外の動物が獲物にかかってしまうこともあるため、減少傾向にあるという。
  最近では第三の方法、銃による密猟が増加している。密猟団は消音器付自動小銃など高性能な武器を使う。この方法が最も短時間で密猟を行うことができる。サイを射殺して角を切り取り、逃走するまで20分とかからない。鎧のようなサイの皮膚は銃弾も跳ね返すように見えるが、実際は虫に刺されるくらい柔らかい。

密猟防止パトロール
  公園内には密猟監視キャンプが約130カ所ある。公園保護官たちは3〜4人のグループでパトロールを行う(写真44)。パトロールではサイの通り道や寝床を回り、落とし穴や密猟者の気配がないかなどを調べて回る。
  パトロール隊はサイやスイギュウ、トラなどの動物にも注意しなければならない。保護管が動物に突進されて大けがをする事故がたまに起こるという。パトロール中には50m以内に動物が近づいてきたら大声を出したり、石を投げたり、時には空砲で威嚇して遠ざけなければならない。これはパトロール隊員の安全のためだけではなく、動物たちが人間を恐れることによって密猟者との接触を未然に防ぐことにもつながる。

毎年の大洪水
  1908年にカジランガの野生動物保護が始まって以来、公園面積は北を流れるブラフマプトラ川の浸食によって12%も減少した。
  毎年ブラマプトラ川はヒマラヤの雪解け水と世界でもまれな雨期の豪雨で大洪水を起こし、公園の75%が水に浸かってしまう(写真43)。洪水によって多くの野生動物が命を落とす。例えば1988年には38頭のサイ、1,000頭のシカ、3頭の子象、2頭のトラが死んだ。洪水は人為的な原因ではなく、太古の昔から繰り返されてきた。かつて、洪水時は動物たちは公園の南側にあるミキル丘陵へ逃げることが出来たが、現在は農村であり、動物が近づけなくなっている。国立公園事務所は野生動物を救おうと、人口の丘や堤防を設けて動物が避難できる場所を作っている。今後もその数を増やす予定だ。
  動物たちが洪水から安全に避難できる土地を確保することと、密猟者の監視体制を強化するために当局は公園面積の大幅な拡大を申請している。
洪水の記録
  国立公園では動物は、弱肉強食の掟の中で生きるのが原則だが、トラに襲われて瀕死の重傷を負ったサイの手当を行っている。サイを保護することがカジランガの最大の任務だからである。子ゾウもトラに襲われると、群のゾウたちは助からないと判断してその子ゾウを見捨ててしまうことがある。この場合も、捨て子になった子ゾウを公園が引き取り、傷を治す。子供の頃から育てることによって人間に慣れさせ、成長するとパトロールや運搬の役目を担ってくれるようになる。
写真43 管理事務所の柱につけられた、洪水の記録。1988年に最高水位を記録した。

エコツーリズムへの取り組み
  公園は自然保護と観光客の安全面からエコツーリズムを図っている。観光客は通るルートが決められており、必ず公園のガードマンが同行することが義務づけられている。大型動物が多く、徒歩では危険なので自動車に乗って見学するが、車は一度に10台までしか入場できない。公園事務所はゾウに乗って、野生のサイやスイギュウを見学する1時間の小ツアーを行っているが、自然へのインパクトを考えて参加人数を一日48人に制限している。公園は乾期の10月から4月まで、一般に開放されている。公園では事務職員も含めて約490人が勤務している。

面積:430ku
       
経緯
1908年森林保護区
1916年狩猟保護区
1950年野生動物保護区
1974年国立公園

参考文献:
IUCN (The World Conservation Union), Paradise On Earth: The Natural World Heritage List A Journey through the World's Most Outstanding Natural Places, Patonga, 1995.
Prater, S.H., The Book of Indian Animals, Bombay Natural History Society, 1971.

密猟によって殺されたサイの数
19811982198319841985198619871988198919901991199219931994
数(頭)2425372844234524443523484414

個体数調査
 196619721978198419911993
サイ36665893910801129(1069)1164±136
ゾウ349422773523515(498)1094
スイギュウ4715556106771090(1008)1034
バイソン11823305
ヌマジカ213516697756625(559)427
サンバー12010521535855(51)34
ホッグ・ディア1311455168559872911(2332)2048
イノシシ1555227331645555(447)140
トラ203040525072
クマ2
ボウシラングール21

出処:カジランガ国立公園

ボートでパトロール
写真44 パトロール中の保護官たち。雨季になると公園面積の75%が水に浸かってしまうため、パトロールにはボートが不可欠になる。


サイ

写真45 サイ。カジランガには1200頭以上のサイが生息する。サイは比較的おとなしい動物であるが、突然突進してくることもあり、遭遇した場合には十分注意しなければならない。

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