カザフスタン共和国における砂漠化対処国家戦略の概要


はじめに
カザフスタンの自然環境状況
カザフスタンの社会・経済的状況と天然資源
砂漠化の状況
砂漠化が社会・経済に与える影響
砂漠化防止における行動戦略
 ・環境ゾーニングの基準の開発
 ・砂漠化モニタリングの体制
 ・砂漠化モニタリングの基本概念
 ・砂漠化モニタリングの基礎
 ・組織的関わりの提案
 ・モニタリングの構造
 ・宇宙関連技術を用いた研究手法
 ・天然資源の適正な利用方法の充実
国家レベルのNAP実行のためのパートナーシップ
 ・政府組織の役割
 ・地域レベルの管理組織
 ・非政府組織(NGO)

1997年 カザフスタン共和国生態系・生物資源省 特別委員会
注)この記事はUNEPの「Desertification Conrol
Bulletin」30号(1997年)をもとにしてまとめたものです。


はじめに

 国連砂漠化対処条約に従い、カザフスタン共和国における砂漠化対処国家行動計画(NAP)が国連環境計画(UNEP)の支援を受けて政府の生態系・生物資源省(MEBR: Ministry of Ecology and Bioresources)及びによってまとめられた。
 砂漠化はカザフスタン国内のかなりの部分で進んでおり、既に社会・経済的な悪影響も出ている。現在、1億7990万ha、すなわち国土の60%が多かれ少なかれ砂漠化の被害を受けている。地球規模で乾燥化が進んでいる状況で、これ以上自然環境が破壊されれば、種の絶滅が進んで生物多様性が消失し、土地の生産性が低下し、それに伴い人間の生活水準も低下するのが必至であろう。
 カザフスタン共和国における砂漠化対処国家行動計画は、国内で最高レベルの科学者や各省庁及び科学研究機関の高名な専門家などがMEBR内に設置された特別委員会に参加し、とりまとめたものである。この計画を準備する際の科学的なコーディネートは、I. Baytullin氏とG. Bekturova博士が行った。


カザフスタンの自然環境状況

 カザフスタンの広大な国土は、厳しい大陸性乾燥気候であるが、その中で、森林ステップ帯、ステップ帯、半砂漠帯、砂漠帯に分かれ、様々な風景がみられる。山岳地帯では、「山岳ステップ」、森林湿性草地、亜高山帯、高山帯、「氷河帯」の順に移り変わる。年間平均気温はペテロパブロフスクの0.8℃からチムケントの12.1℃まで幅があり、年間降水量はクズイルオルダの129 mmからアルマティの616 mmまである。山岳地帯では降水量は高度が上がるに連れ700 mmから1500 mmへ増加する。
 カザフスタン国内を流れる河川は8万5000本あり、総長は22万3000 kmである。5万以上の湖と4000の人工池が存在し、このように水で覆われている面積は4万5000 km2である。近年、川など自然の水量は経済活動により大きく変化している。
 カザフスタンの平原部の土壌は黒色土、栗色土、褐色土及び灰褐色土の主に3地帯に分けることができる。山岳地帯や丘陵帯は、「丘陵砂漠ステップ、低山地ステップ及び森林ステップ、中山地湿性草地森林及び高山地湿性草地」といった地域に分類ができる。また、平原部では様々なタイプの塩類集積土も見受けられる。
 カザフスタンにおける植生の特徴は、植物相(6000以上の属)と「共同種」(2,000以上の群落)の多様性が豊かであることだ。黒色土と栗色土におけるステップの植生は、多種に渡る草本で成り立っている。「「アカナガホハネガヤ」と「tipchak」ーハネガヤ属、栗色土では乾生植物ー多様な草ーハネガヤ属、明るい栗色土ではヨモギーハネガヤ属ー「tipchak」群落」と移り変わる。
 砂漠帯の植生は、乾生の半低木の群落である。褐色土及び灰褐色土はアカザ科の塩生低木の砂漠を形成する。砂漠帯は北部(32%)、中部(50%)、南部(18%)の3地帯に分かれる。
 砂地における植生は、52の群系があり、このうち13が中央アジアの砂漠帯で典型的な群系である。
 砂漠の塩類集積土壌における植生は、主に「galophite」と乾生植物の群系である。湿性草地から湿性草地ー河畔林の植生は、川、湖、池の堤防に沿って広がっており、過湿生成の土壌と深く関係している。
 山岳地帯の植生は、周囲の環境、高度、斜面の方角、土壌中の岩石含有度などにより様々である。カザフスタンの動物相には、835種もの脊椎動物と8000種近くの無脊椎動物が含まれる。脊椎動物は、哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類、「round-mouths」に分類することができる。哺乳類の数の半分近くを占めているのがげっ歯目である。
 鳥類は489種おり、うち388種が国内で営巣する。
 魚類は104種生息しており、そのうち30種以上が市場性が高い貴重な種で、16種が珍しい魚だ。約300種の甲殻類、約7万種の節足動物、6万種の昆虫が生息している。
 現在、哺乳類の主な種の分布は、水平、垂直の景観の移り変わりの規則に従っている。人間の活動は動物の地理的分布及び種の分布に多大な影響を与えている。かつてはカザフスタン国内に生息していながら完全に姿を消してしまった動物や、生息地が急減してしまった動物もいる。


カザフスタンの社会・経済的状況と天然資源

 人口及び生活水準: カザフスタンの人口は1668万人。うち都市人口が933万人(56%)、農村人口が735万人(44%)であり、このうち砂漠帯には741万人(44%)が居住している。
 民族: 「カザフ系46%、ロシア系34.8%、ウクライナ系4.9%、ドイツ系3.1%、ウズベク系2.3%、タタール系1.9%など」。平均人口密度は1 km2あたり6.1人、砂漠帯では1 km2あたり2.21人。
 1991年に共和国が独立した時、120万人以上の人々がカザフスタンを離れた。この中には47万2000人のロシア人と41万人のドイツ人が含まれていた。労働人口が910万人、老人及び障害者が280万人であった。被雇用者の総計は585万人、うち職工及び専門家が563万人、農家が32万人である。1995年のカザフスタンにおける失業者は13万9000人であった。平均収入は1994年で1742「tenge」(48米ドル)、1995年は5117「tenge」(89米ドル)であった。一人当たり収入は2173「tenge」(33米ドル)だったが、「消費者最低生活必要額」は3170「tenge」であった。1995年の1000人あたりの死亡者数は10.06人、出生数は16.6人であった。平均寿命は男性で60.3歳、女性が70.3歳で、男女比は45:51である。
 カザフスタンには19州、220区域(rainiest)、2496地区(aul districts)、83の町、200の村、8188の集落がある。
 土地資源: カザフスタンの国土面積は2億7250万haである。うち、放牧地が1億8230万ha、耕作地が3190万haであり、ここには180万haの灌漑耕作地、510万haの干草用草地、280万haの休閑地、1040万haの森林が含まれている。
 簡易灌漑さえも行っていない農地は2180万haである。塩類集積土壌が9350万ha、そして、水食や風食を受けている土地が2670万haである。
 未開墾地や休閑地を耕作する際に、塩類集積土壌、侵食土壌、岩盤地、砂地が不適切に耕された。ここ数年は、360万haの放牧地が耕されずに放置されている。1億8210万haにのぼる土地が再耕作を必要としている。このように、農地の82%が放牧地で、その75%が砂漠帯及び半砂漠帯に広がっている。全耕作地の68%が灌漑されている。
 水資源: カザフスタンのほとんどが水資源の限られた乾燥地帯に属している。あらゆる水資源(川、湖、貯水池、氷河、地下水など)を合わせると、推計450 km3で、そのうち101 km3が商業利用されている。水供給量は1 km2あたり3万6400 m3、1人1年あたり6000 m3である。
 東カザフスタンが最も豊富な水供給を誇り、1 km2あたり20-29万m3であり、一番少ない西カザフスタンでは1 km2あたり360 m3である。
 国内の地下水資源は61 km3と推定され、うち、淡水が40 km3である。現在利用されている地下水は2.6 km3である。
 生物資源: 野生植物相は高等植物6000種以上で構成されている。400種以上の植物が農園で育ち、100種の医用植物や、また、油料植物も多くある。樹木の種類は68、潅木は700種類にのぼる。森林面積は2160万haであり、うち1040万haは密集人工林である。
 野鳥は540種生息しており、うち43種は水鳥である。魚類104種の半分以上が市場価値がある。
 穀物栽培はほぼ2000万haで行われている。綿、米、芋、野菜、果物は灌漑農地で栽培されている。


砂漠化

 カザフスタンで砂漠化が進行している地域は1億7990万haである。砂漠化は着実に進行しているのが認められている。その理由は、移行期に経済・社会的に不安定であるためだ。
 砂漠化の自然要因としては、気候の乾燥化と年間平均気温の上昇(過去100年間で、10年に0.2℃の割合)、アラル海周辺の局地的乾燥化、大気における降水量が2割減り、2050年までにCO2濃度が倍増して引き起こされる地球温暖化などがある。繰り返し発生する干ばつや、砂塵あらし(年間90日)、厳しい天候、自然災害(「土石流」や洪水など)、「岩だらけの」平原状況(粗い砂の地域3000万ha、塩類集積土壌1270万ha)など、強い人為的影響に加え、自然の内的な力による砂漠化の危険性も高い。カザフスタンにおける土地荒廃の人為的要因は、他の乾燥地域の各国の多くと同じである。すなわち、過放牧により4900万haの放牧地が荒廃し、貧弱な農業のために耕作地の3分の1にあたる1040万haが砂漠化し、採鉱により生産的な農地1000万haが失われた。また、河川の流出量調整や貯水池の建設により、アラル海危機、バルハシ湖の死滅、河川の氾濫地の砂漠化などが起こっている。
 無計画な木の切り出し、干草用の草の刈り取り、燃料・飼草の供給、工場による土壌や地下水の汚染、都市化などが全て合わさり、土地の荒廃を引き起こしている。
 砂漠化には主に9タイプある。農園の荒廃で、森林密度が10%減少したり、りんご農場の面積及び生産性が24%減少、モミ・トウヒが16%減少、サクサウールが40-50%減少、そして河畔林も減少している。砂漠帯及び半砂漠帯1360万haや、山間放牧地430万ha、ステップ360万haが最もひどい砂漠化に悩まされている。放牧地は330万haの減少を見せ、その生産性は1990年以降半減している。
 風食は平原の全ての部分、耕作地2050万ha、放牧地2500万haに影響を与えている。高等技術が適用されている耕作地では、風食は軽度ですむであろうと予想されている。砂地部分における局地的砂漠化は井戸周辺での過放牧に関連があると見られ、今後ますます進行すると言われている。
 水食は1920万haもの貴重な土地に影響を与えている。毎年雪解け水と降雨(50億m3以上)が耕作地から6000万tにものぼる土壌を運び出す。年間降雨量の20-40%にものぼる水が地表を流れるため、水食が引き起こされ、また、土壌中の生産力の元となる水分が減少してしまう。1200万ha近くの黒色土・褐色土ステップが水食され、520万haで深刻な砂漠化が進み、670万haが軽度の砂漠化の影響を受けている。砂漠350万haと丘陵帯350万haが荒廃しており、この中には灌漑侵食を受けた50万haも含まれている。180万haに及ぶ灌漑農地における侵食はあちこちで見受けられる。
 土壌の脱湿はステップ帯の未開墾地1120万haで見られている。砂漠帯では、灌漑侵食(180万ha)や、風食の原因となる過放牧が、これに関連している。
 灌漑農地の塩類化は過湿生成土壌によく見られ、その広さは37万6700 ha(全灌漑農地の20%)になる。灌漑に使えるであろう土地は240万haあり、その一方、二次的塩類化や灌漑システムにおける問題により灌漑できそうにない土地は約50万haである。この、灌漑に適さない土地は1990年以降5倍増加している。
 土壌の塩類化は、湖の干上がりに関係している。このタイプの砂漠化は黒色土帯の30-37%にのぼる地域で見られ、また、褐色土は最高50%、褐色砂漠においては55%にものぼる。湿地の土壌が乾燥して塩類化が起こり、そのため土壌中の水分含有量が減りソロンチャク形成を引き起こしている。
 土壌及び地下水の汚染原因は、都市及び工業地域における大気中の排煙排ガス(年間400万t以上)、数十億tもの産業廃棄物蓄積が生み出す6.0 km3の廃水、殺虫剤の使用(2600万haあたり42 tもの有効成分)、「無機肥料」による汚染などである。放射性核種、有機物(石油製品を含む)、化学物質、硝酸塩や亜硝酸塩、大気中の土壌酸化体、家畜小屋からの汚水なども汚染源となる。鉛、カドミウム、銅、クロム、ニッケルなどの排出量規制が、ウスチカメノゴルスク、ズイリャノフスク、レニノゴルスク、アクチュビンスク、チムケントなどで設定されている。工場周辺土壌における化学汚染物質の含有量は10年毎に倍増している(チムケント)。飲料水を含む地下水の汚染は、工業地帯や農地、家畜小屋、大都市圏からの排水が溢れたり漏れたりして起こる。
 科学技術が原因の砂漠化は、主に工業が発達した地域や交通・産業基盤が整った地域で起こっている。採鉱地8万7600 haを含む18万1300 haでこの動きが見られる。産業汚染は1990年で約9000 t(1 m3あたり3.4 t)もの量であった。石油及びガスのパイプラインの敷設で、土地が細長く荒廃すると共に土壌、農作物、大気の汚染の危険性が増す。事故が絶えないためである。宇宙基地や軍事訓練施設(カザフスタン国土の6%を占める)もまた生態系や人間に影響を与え、科学技術に端を発する砂漠化を引き起こしている。水循環の崩壊は、河川流水量の再分配や割り当て、川岸の湿性草地の砂漠化、湖の干上がり、浸水、灌漑農地の塩類化などが関連している。


砂漠化が社会・経済的に与える影響

 アラル海及びイリ川・バルハシ湖周辺の人口540万人ほどの地域が最も砂漠化の影響を受けている。放牧地の過剰利用が疲弊や荒廃を生み出している。荒廃した放牧地は1990年から1995年までの間に1070万km2増加した。河川流水量の過剰規制のために洪水が起こらなくなり、地下水が減り、土地の塩類化が増長され、牛の頭数が減少した。水の減少により地域の経済発展が遅れ、住民の生活水準が向上せずにいる。魚や野生動物の生息環境は悪化し、中央及び北カザフスタンの耕作地560万haが水食の被害を受け、穀物生産は20-30%減少した。カスピ海の洪水は35万7000 haもの肥沃な土壌、放牧地、干草用草地に及んだ。工場の周辺地域は排出物で汚染されている。防衛産業は1000万haを超える耕作地や放牧地をつぶしてその土地を利用している。
 カザフスタンの砂漠化による損害は数千万米ドルに及ぶと推定されている。
 水資源の枯渇により、産業は低下し、雇用が減り、生活水準が低下し、深刻な食糧難の危険性が出てきている。1995年には、アラル海周辺の20万人を含む30万人近くの人々が、砂漠化が原因で土地を離れた。新しいタイプの移民、環境難民が発生したのだ。砂漠帯では他地域よりも死亡率が高い。これは、飲料水の質が悪く、肉、牛乳、魚の消費量が減り、医薬品が不足し、保健衛生レベルが低いためである。消化器系疾患、胃潰瘍、皮膚病、子供の貧血、その他様々な病気にかかる人がかなりの割合で増加している。高い死亡率、特に幼児の死亡率の高さが、砂漠化の進行する地域で目立つ。1995年には、新生児1000人あたり29-36人死亡した。砂漠化の予想によると、今後バルハシ湖及びアラル海周辺地域でますます土地の荒廃が進み、移民が増えると言われている。沿岸放牧地の砂漠化や、油井や天然ガス採掘地の漏洩事故、生活水準の低下といった問題はますます深刻化するであろう。


砂漠化防止における行動戦略

カザフスタンにおける環境ゾーニングの基準の開発

 カザフスタン共和国の環境安全戦略(1996年3月の大統領命令)においては、天然資源の適正な利用及び保全に関する戦略的目標を定めた。ここでは、生物多様性の保全と人間に好ましい環境の維持を目指している。このような方針を実行するためには主に環境規制の整備及び国土の環境ゾーニングといった効果的な環境管理を行う必要がある。このような管理は、国家及び地方レベルで砂漠化問題を解決する基本となろう。環境ゾーニングには以下のような点が含まれる。
(a) 自然及び社会経済システムを定義し、それを地方に割り当て、環境地理的地方(EGR)の境界線を設定する。
(b) 各EGRの自然を利用する際の制限を環境の視点から設定する。
(c) 個々のEGRにおいて天然資源を実際に利用する際の特徴を記述した入場許可証を環境の視点から発展させる。
(d) EGRの状況と砂漠化の進行状況を評価する。EGRは行政州の境界線内に置かれている。行政区域とEGRは、自然気候及び社会経済システムを考慮に入れ、自然風景に基づいて定められている。EGRシステムの人為的影響の許容範囲は、個々のEGR毎に定められるべきである。自然を利用する上での規範(環境の視点からの制限)を、EGRの環境の現況(例えば砂漠化進行状況)を考慮して設定すべきである。
 規制の対象には主に4つの分野がある。
 第1に、排気、廃水、廃棄物の規制。規制レベルは、生態系が汚染から回復し安定性を保つことのできるレベルによって決まる。
 第2に、環境の視点から見てEGRにおける天然資源利用の可能な範囲。すなわち、必要な水と森林安全地帯の維持を考慮した際に、可能な耕作地の範囲、湖や川の最適な水量、放牧地として利用できる範囲。動物相や土地資源の利用(森林の原材料利用)については、生物多様性の保全や繁殖を考える場合は、このカテゴリーに入る。
 灌漑及び水供給に関する規制は、現在の地表及び地下水資源を考慮に入れ、また、川、湖、貯水池などの環境を保全する必要性を加味して設定する。
 第3に、特定の経済活動を環境の視点から規制。現地の生態系を守ることができる産業及び農業システムを確立する。規制は、その土地がおかれた環境及び自然気候状況において許容できない産業から保護するためのものである。この評価の基本は、EGRの「入場許可証」で、ここに規制を明記する。
 第4に、EGR地域内の産業活動の規制。各地域の利用可能な方法を明らかにする。すなわち、全面的に産業活動を行う地域、保護地域(野生生物保護区、水・森林保護地域など)、一部規制する地域(休閑地、頭数をおさえた放牧地、保護区、国立公園、レクレーション地域)などである。このような制限を設け、保護地域の広範なネットワークを形成すれば、各地域で生物多様性や砂漠化の問題を解決し、傷ついた生物システムを復元する助けとなるであろう。
 EGRの現況に関する情報は、入場許可証に示される。これは公害のような問題、許可された産業のリスト、許可された資源利用(土地、放牧地、水など)、産業活動、砂漠化の進行度やタイプを示すものになろう。
 環境影響評価により次のような地域グループが明確になった。
ー 環境及び経済が最良である地域。未だ自然環境に秘められた可能性が温存され、適切な技術の利用とあいまって経済発展が見込まれる。(砂漠化は見られない。)
ー 天然資源利用のバランスがとれている地域。天然資源となりうるあらゆるものが利用されている。経済発展は、環境負荷の少なく省資源である技術があってこそ可能になる。配当や制限を既存の産業と新しい(再構築した)産業の間で再分配すれば、天然資源と資源利用とのバランスを保つことができる。砂漠化が起こっているが復元も可能である。
ー 天然資源が濫用されているが、環境保全活動により環境の劣化や汚染の度合いを弱め、天然資源利用の許容レベルを達成することが可能である地域。この地域の経済発展はすぐに止めるべきである。このような状況での経済発展は、環境負荷の少なく省資源である技術の開発または導入、汚染除去、過去の活動が与えた悪影響を取り除く活動に限って行うべきである。
ー 現在の経済・社会的及び技術的発展のペースにおいて天然資源が濫用されてきた地域。砂漠化が広がり、この地域を復元するのは不可能である。このような地域における環境問題が解決するのは、経済的、技術的可能性が発展した場合のみである。
 「自然保護の土地統合スキーム(Territorial Integrated Schemes of Nature Protection)」が環境影響評価とゾーニングに基づいて複数州で発展している。このスキームは経済発展と環境の安定(又は改善)を求め、EGRを国家及び地方レベルで考慮して実施されている。
 環境ゾーニングは、天然資源利用管理システムの創造及び実施の基本となるものである。生態系・生物資源省(MEBR)はこの事業を1995年に開始した。詳細の環境ゾーニングは1997-1998年に州政府レベルで単一の方法論と公害汚染規制、すなわち水、土壌、植生、野生動物、自然の保護に則り計画され、同様に環境保護のための入場許可証の作成や環境評価も行われることとなっている。


砂漠化モニタリングの体制

 カザフスタンにおける砂漠化のデータは、地球環境モニタリングシステム(GEMS: Global Environment Monitoring System)、モニタリング評価研究センター(MARC: Monitoring Assessment Research Center)、地理情報システム(GIS: Geographic Information Systems)には組み込まれていない。国内の砂漠化進行状況について一括したデータバンクや砂漠化のモニタリングを行う統一のシステム・組織のようなものは全く存在しない。
 砂漠化、土地の荒廃、生物多様性についてのモニタリングシステムや情報サポートは、MEBRが1994年に砂漠化対処条約施行の枠組みにおいて行い始めた。


砂漠化モニタリングの基本的概念

(a)土地の荒廃や汚染の度合いや砂漠化のタイプ、進行度、要素、理由、影響を評価するモニタリングシステムが生態系レベルで「環境保護法(Environment Protection Law)」に則り実施される。
(b)モニタリングの対象は、環境ゾーニングで砂漠化の影響を受けたと分類された地域における自然の生態系及び人と自然の生態系、その複合体(景観)である。
(c)地域を選択するのに用いるシステムは、類似の自然条件下において、制限(背景状況は変わらず)、緩やかな砂漠化、激しい砂漠化が進行している地域である。
(d)砂漠化のタイプや影響する要素が明らかになったら、その全般の効果を考慮に入れ、砂漠化進行度を評価するのに利用する。
(e)経済状況は生態系の動態や環境状況、その持続可能な開発に影響を与える要素である。
(f)砂漠化問題を解決する任務は、地域レベルでどれだけ必要とされているかによって決まる。これはモニタリングのシステム形成要素である。
(g)このようなモニタリングの主な目的は自然の生態系の劣化がもたらす環境及び経済的損失を評価することである。
(h)モニタリングシステムが持つ特性としては次の3点があげられる。開放性(全ての関連事項へアクセスでき、新しい任務を付け加え、全てのレベルで他の環境モニタリングシステムと連携できること)、適応性(プライオリティを変え、最適な任務を遂行する能力)、慎重さ(通常の情報収集及び分析や、システムの効率の評価)である。
(i)システムは、任務や対象が広がる可能性を持つ、複数セクター、複数利用者の複合体の形式として形成される。その基本的な要素は、電子地図をベースとして基本的なソフトウェアや地図処理のモデルを含むGISである。


砂漠化モニタリングの基礎

 気象モニタリング(干ばつ、霜、降雨量や気温の極度な上下、厳しい冬)は、降雨量や気温を測定するサービスの中で行われる。モニタリングを行うのは、測候所が219ヶ所とその他の地点が307ヶ所である。
 土地資源や生物資源のモニタリングを行う場所には、土壌、植生、野生生物、農地(放牧地、耕作地、干草用草地)、森林、産業、保護区域(野生生物保護区、国立公園、自然レクレーション地域)が含まれる。このモニタリングは土地利用州委員会(State Committee of Land Use)、森林産業委員会(Committee for Forest Industry)、農業省(Ministry of Agriculture)などが行うが、砂漠化分析や環境の視点からの生態系の評価は含まれない。
 地表水及び地下水の管理においては、質及び量の評価、自然や生物における対象物の状況への影響、変化や汚染の傾向が調べられる。
 環境ゾーニング及び環境区分地域による天然資源利用の標準化は、地図作成を行った上で可能になる。


組織的関わりの提案

 国内で統一して砂漠化モニタリング事業を行う必要性は明らかである。MEBRはその事業をコーディネートし、実施し、データ収集を支援し、専門家による評価を実施することとなろう。このユニットは、カザフスタン共和国の国家レベルでの統一環境モニタリングシステムの一部であり、砂漠化の基準の上で環境状況の分析、評価、予測を行う。
 このユニットの主な任務には、調査地点の選択、生態系の中での土地利用(土壌、植生、水資源やその他様々な資源)の基準の定義、記録を取るのに必要な要素の決定がある。


モニタリングの構造

 モニタリングの最も重要な一連の作業は次の通りである。
(a)フィールドで最新データを収集する。
(b)情報を次の構造レベル(国家及び州のセンター)に転送する。
(c)結果を分析、解釈し、コーディネート団体に呈示する。
(d)データと分析結果を収容する。
(e)データをGISにインプットする。自動でデータ受信及びコンピューター処理を行え、例えば電子地図の表示も自動で変わるようなモニタリング構造にする。土地・気象委員会は農業や気象に関する情報を収集し評価を行ったことがある。モニタリングの目的を復習して、基準を詳細にし、砂漠化評価の任務を遂行し、全てのモニタリングを一律のシステムにのせることが求められる。
 土地委員会が行う土地モニタリングは、砂漠化のモニタリング及び評価を含まなければならない。環境劣化のモニタリングをより充実させ、評価手法の標準化や砂漠化している地域の発見をしなければならない。環境ゾーニングや地図分析の結果に則り、天然資源利用において環境基準を適用しなければならない。
 土地モニタリングをサポートするため、EGRにおいて通常の空中写真や航空写真、測地、地理学、土壌学、植物学などの研究技術を用いるべきである。耕作地においては、その農業生産性や環境安全度を明らかにし、土地荒廃をもたらす砂漠化の人為的及び自然の要素を評価すべきである。
 地学的及び植物学的研究に基づいて、過去の研究結果と標準の指標(標準の植生地図)とを比較することにより放牧地や干草用草地の状況のコントロールができる。
 環境が不安定な地域において砂漠化をモニタリングするネットワーク基地は、まずアラル海、カスピ海、バルハシ湖、セミパラチンスク核実験施設、東カザフスタン州といった地域や、耕作地、稲作地、綿畑、「果樹園」などの集中的に耕される農地に設置する必要がある。情報収集とともに、人為的影響に対して土地の持続可能性を確保したり、環境基準を設定したりする。砂漠化及び評価の環境モニタリング地図を作成し、その動きの予測をすることが求められる。
 砂漠化が進む地域における野生生物の数の変化を観察することは充分に行われていない。野生生物保護区におけるデータ収集だけでは環境モニタリングの仕事として満足のいくものではない。よって、砂漠化地域における野生生物の減少についての調査を系統的に行い、生物多様性の変化について予測を立てることが提案される。


宇宙関連技術を用いた研究手法

 砂漠化問題への宇宙観測の適用は国立宇宙研究所(Space Research Institute of the Republic)で行われている。衛星情報は数地点で受信され、風食地域の予測を含む砂漠情報、生物の繁殖の減少、水食、自然災害、居住地域周辺の土壌汚染などが統合的に分析される。高速で情報がインプットされ、広い視野で、正確に地図が作成されることにより、砂漠化の被害を受けた地域に関するデータなどの信頼性が増す。土地荒廃に関して宇宙観測を用いたモニタリング手法の役割が認識されるべきである。
 地上のモニタリング地点でデータを解読できるようにし、モデル地域について宇宙から特定の事象がわかりやすい画像モデルを取得できるようにする必要がある。既存の宇宙画像モデルのカタログは、白黒又はカラーフィルムで、可視スペクトルが0.4-0.75 μm(マイクロメートル)であるが、この規模や濃度を改善しなければならない。砂漠化モニタリングには、砂漠化のタイプを解釈するため、幾何学的及び明度の要素などを変えたもっと様々な画像が必要である。
 砂漠化モニタリングの仮事業が準備されている。ここには、概念のとりまとめ、情報収集や観測の標準化(任務、基準、目的)、MEBR内のデータベースの構築、砂漠化モニタリングの統一システムへの追加などが含まれている。


天然資源の適正な利用方法の充実

 地域レベルで主な戦略的規制を取り決めるのは立法府である。全ての土地所有者及び利用者が生態系的・経済的に賢明な土地利用をするよう取り決めるものである。また、利用する際には自然の形勢、森林回復、自然の景観を考慮に入れるべきであり、土地は風食及び水食、土石流、地下水の洪水、泥沼、二次的塩類化、乾燥、圧縮、廃棄物や化学製品による汚染や詰まり、火事、その他荒廃や砂漠化の原因となるものから保護しなければならない。土地の開墾や土壌の肥沃化、干草用草地や放牧地の生産性、土壌の肥沃層の保全なども必要である。生物多様性を保全し、必要に応じて計画的に利用することは国家目標であり、カザフスタン政府及び立法府が実現させるべきである。


国家レベルのNAP実行のためのパートナーシップ

 カザフスタン政府はNAPの目的を達成し、その規定を実施するため、政府のあらゆるレベル、コミュニティ、非政府組織(NGO)、土地所有者がパートナーシップを組み協力して、荒廃が進む地域の自然や天然資源の価値をより深く理解して、持続可能な利用を行うよう努力すべきである。


政府の役割

 砂漠化対処国家計画を成功させるうえで政府の担う役割は大きい。
 この計画を実現させるために次のような方法がとられるべきである。
― 計画の準備、調整、実行、及び準地域レベルや国際レベルで交渉する組織を新しく立ち上げる。
― 荒廃が進む地域の環境状況を分析して原因を探り、悪影響を抑制し、土壌の生産性を高めるとともに、砂漠化対処委員会を組織する。
― 砂漠化防止策に優先度をつける。
― 砂漠化の進行についてのモニタリングの仕組みを整える。
― 砂漠化対処のための資金・人的資源を募る。


地域レベルの管理組織

 地域の管理組織の主な仕事は以下の通りである。
― 地域住民に対して啓発を行い、土地荒廃や砂漠化の仕組み、そして、条約や行動計画の目的、内容についての理解を深める。
― 砂漠化に関する情報を収集する。
― 土壌の生産性を回復するための最新技術導入に協力する。
― 地域住民の国家計画への参加を最大限に促す。
― 経済状況を改善し、窮状を断ち切る努力をする。
― 生計を立てる手段の代替源を生み出す。


非政府組織(NGO)

 国連砂漠化対処条約は、地方レベルで方針を貫く上でNGOの参加を重視している。1994年11月に砂漠化対処のためのNGOの国際ネットワーク(RIOD)が創設された。ネットワークには、世界センター、ELCIと地域(大陸別)センターがあり、アジアのセンターとしてパキスタンの団体SCOPEが選ばれた。
 NGOの主な活動は以下のようになる。
― 政策決定、NAPの実施及びレビュー
― 市民啓発プログラムの実施
― 政府と地域住民の間の重要な橋渡し
― NAP実行に必要な資金メカニズムや資源調達について全関係者に確保
― NAPを地域から国家まであらゆるレベルで実行する上でのコーディネート
― アジア各国のNGOとのやり取り
― 国内NGOネットワークの組織体制強化
― 国内センターの設置


まとめ

 カザフスタン共和国の国土はユーラシア大陸の中央に位置する広大な地域である。北は西シベリアから南は高温乾燥砂漠・中央アジアで最高度の山岳地まで2000 km、そして東西はボルガ川周辺のステップから多様な気候及び砂漠化状況を経てアルタイ山脈まで3000 kmに及ぶ。国内の砂漠化問題は国家レベルの問題であり、州レベルの問題でもある。ここには、セミパラチンスク核実験施設、乾燥化が進むアラル海、水位上昇中のカスピ海、軍事・宇宙産業複合体などの影響も含まれる。
 カザフスタンは、砂漠化に対処するためには経済体制を整え、環境保全を促進し、生活水準を向上させることが重要だと認識している。
 カザフスタンのNAPは経済と生態系が複合的に結びついた問題の解決をめざし、次のようなことを制定している。
― 砂漠化の状況をモニタリングするために生態系に関する基地のネットワークを創る。このような基地においては複雑な情報を収集し、生態系における問題点を分析するものとする。
― 適切な対処をするために砂漠化及び干ばつの状況及びその生態系への影響や社会・経済的な影響を把握する。
― 国土における土壌劣化を防止するための支援をする。放牧地を水食や風食、塩類化、乾燥化、汚染などの荒廃から保護する。
― 産業活動に使われた土地を再耕作し、耕作可能な土地や放牧地を肥沃化する。
― 国土を再生するシステムを確立する。
― 自然の生態系の崩壊を防止するために、生態系に関する法律や国民の規範を整備する。
― 学校や研究機関、大学などで砂漠化問題の生態学的な研究を行う。
― 砂漠化の影響を克服するために各地で具体的な事業を行う。
 NAPは各地域の特徴や国内の様々な状況を全て考慮することはできず、よって、NAPの一部として地域戦略を発展させることが必要である。
 砂漠化に対処し、天然資源の保全に力を尽くすことは国家全体が直面している課題である。このような問題は国の行政機関、立法府、NGO、地域住民などが積極的に取り組んで始めて解決することができるのである。




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