2000年10月6日

国際機関のスクリーニング手続き

 

IFC(世界銀行グループ・国際金融公社)

 

プロジェクトの初期段階において、投資局は審査を進めようとするプロジェクトの情報をプロジェクトデータシートにまとめ、環境部はこれをもとにスクリーニングを行う。早期スクリーニングにより必要な環境社会情報を決定することで、スポンサーは情報を早くコスト効果的に提出することができ、また見出された問題もプロジェクトの進行を遅らせずアプレイザル段階で解決することができる。

 

各プロジェクトにどのようなタイプの環境アセスメントが必要となるかを検討するため、IFCはプロジェクトのタイプ、立地条件、sensitivity、規模*および潜在的影響の性質や規模に照らして、プロジェクトを以下の4つのカテゴリーに区分する。

*「立地条件」とは、マングローブ林や湿地、熱帯雨林など環境的にsensitive なarea内に位置したり、あるいは近接していたりすることを指す。

*「規模」は環境・社会専門家により、プロジェクトのコンテクストにおいて判断されるべきである。規模が大きいと判断されればそのプロジェクトはカテゴリーAとして扱われる可能性が高い。

*「sensitive」な影響とは、以下のようなものである。

−(たとえば自然生息地を大きく損なうなど)不可逆的な影響を及ぼすもの

−傷つきやすいグループや少数民族への影響を伴うもの

−非自発的な移住をともなうもの

−重要な文化財に影響を与えるもの 等。

 

カテゴリーA:

人間や環境、地域に環境面でのsensitiveで多様、前例のない重大な影響を与えると考えられるもの。物理的な立地範囲よりも影響の範囲が広がる可能性がある

例:大規模プロジェクト(ダム及び貯水池、森林プロジェクト、農産業、産業プラント、石油・ガス開発、パイプライン、工業団地の新規造成、鉄鋼/非鉄操業、港湾開発、火力発電、水力発電)、大規模移住や少数民族への影響を伴うもの、環境に影響を与える量の農業害虫管理剤の製造・使用・廃棄、危険・有害物質の製造・移送・使用、家庭ごみや危険物質の廃棄処理、深刻な職業労働リスクや健康リスクを伴うもの、重大な社会経済影響が懸念されるもの。

 

 

カテゴリーB:

カテゴリーAほど影響が深刻ではないが、人間や重要な環境(湿地、森林、草原その他の自然生息地)に影響を与えると考えられるもの。影響は地域特定的であり、不可逆的影響はないかごくわずかで、カテゴリーAよりは緩和措置が採用しやすいと考えられる。

例:小規模農産業、電気通信、養殖漁業、小規模再生可能エネルギー、観光開発、農業用水、小規模のリハビリ・メンテナンス・近代化プロジェクト、一般製造業、織物工場、テレコミュニケーション等。

 

カテゴリーC:

否定的な環境影響はほとんど、あるいは全くないと考えられるもの。アドバイス・技術支援、生保、損保等。

 

カテゴリーFI(financial intermediary):

金融仲介を通す(IFCが直接的に金融支援しない)サブプロジェクトのうち、環境に悪影響を及ぼす可能性のあるもの。あるいはそのようなサブプロジェクトが行なわれる可能性がある場合。(銀行へのコーポレート・ローン、クレジット・ライン、プライベート・エクイティ・ファンド等)

 

支援除外リスト

 

IFCは以下に分類されるプロジェクトには支援を行わない。

・有害または搾取的児童労働を含む活動

・実施国の法令、規制または国際条約等に違反するもの

・武器弾薬、アルコール飲料(除ワイン・ビール)、タバコ、放射性物質の製造及び取り引き

・ギャンブル関連産業

・放射性物質、アスベスト、PCBほか、人体に有害な薬物の製造及び取り引き

・国際条約で規制されている野生生物取り引き

・原生熱帯林の伐採及び木材取り引き

・オゾン層破壊物質の製造及び取り引き

・流し網漁業

・先住民が所有、または所有権を主張して司法に訴えている土地を、書面による完全な合意なしに侵す活動

 

 


● 海外民間投資公社(米)Overseas Private Investment Corporation (OPIC)  

 

環境影響の度合いやプロジェクトの性質により、カテゴリーAからFに区分する。

スクリーニングは、有害な環境影響を及ぼす可能性のあるプロジェクトにOPICからの支援を行わないように、なるべく早い段階で判断するためのプロセス。プロジェクトが自然生息地を破壊するような大型ダムや、熱帯の原生林やその他保護すべき環境的に脆弱な地域でのインフラ整備や天然資源の採取などの禁止カテゴリーに属するものであれば、OPICは申請者にこれ以上申請書の環境審査を行なう必要がないことを伝える。

 

カテゴリーA:

環境面に重大な悪影響を及ぼす可能性のあるプロジェクト(不可逆的なもの。生態システムへの影響が重大なもの。非自発的な再定住を強いるものなど)。産業や立地などによって、カテゴリーAに含まれるべき包括的なリスト(表―1)が作成されている。

 

カテゴリーB:

環境面における潜在的な影響がカテゴリーAのプロジェクトよりも小さいと考えられるプロジェクト。不可逆的な影響があった場合、より立地特定的で、カテゴリーAのプロジェクトよりも緩和策が考案しやすいものを指す。カテゴリーA, B, D, Eのいずれにも属さないものがカテゴリーBと認識される。農業、電力供給、エレクトロニクス、食品加工、軽工業、通信(通信塔の建設等を含む新設の電話線設置などのインフラ整備や通信設備の製造など)、医療、観光など。

 

カテゴリーC:

環境面における潜在的な影響が微小かもしくは重大な環境影響がないと考えられるプロジェクト。銀行の支店開設やソフトウエアの開発、通信(サービスの民営化などインフラ整備を必要としないもの)など。

 

カテゴリーD:

カテゴリーAおよびBのプロジェクトや事業(サブプロジェクト)を策定するために投資や金融サービスを提供するための金融仲介(financial intermediaries, FIs)。

 

カテゴリーE:

小規模のビジネスベンチャーで、環境面で恩恵を与えるようなプロジェクト。環境NGOによるプロジェクトやエコツーリズムプロジェクトなど。

 

 

カテゴリーF(表―2):

融資禁止プロジェクト。環境や健康、安全性に「(特に)主要な、あるいは非合理的な」悪影響を与えると考えられるプロジェクト。自然生息地を破壊するような大型ダムや、熱帯の原生林、国立公園、世界遺産などの保護指定地域やその他国際的に保護すべき地域でのインフラ整備や天然資源の採取など。

 

 

表―1:カテゴリーAに分類されるプロジェクトリスト;

 

I. 産業分類

 A. 大型産業プラント

 B. 工業団地造成・開発

 C. 原油の精製

 D. 大型発電所(200MW以上)

 E. 製鉄・製鋼及び非鉄金属の精練のための設備

 F. 化学

        1.農薬の製造と輸送

        2.危険な毒性のある化学物質やその他の物質の製造と輸送

 G. 深刻な職業的・健康的リスクをもたらす可能性のあるすべてのプロジェクト

 H. 交通網の整備

        1.道路

        2.鉄道

        3.空港(滑走路が2,100m以上のもの)

        4.大型港湾開発

        5.1,350トン以上の大型船が通行可能な内陸の水路、港

 I. 主な石油・ガス開発

 J. 石油・ガスパイプライン

 K. 毒性のある危険な廃棄物処理場

        1.焼却

        2.化学物質の処理

 L. ゴミの埋め立て地

 M. ダムや貯水池の建設や大幅な拡張工事で、禁止カテゴリーに入らないもの

 N. 紙・パルプの製造

 O. 鉱山

 P. 大陸棚での石油・ガス生産

 Q. 主な石油や石油化学物質、化学物質の貯蔵

 R. 森林/大規模伐採

 S. 大規模汚水処理施設

 T. 家庭固型廃棄物の処理施設

 U. 大規模観光開発

 V. 大規模送電設備

 W. 大規模干拓

 X. 大規模未開墾地の開発や生産性の向上を含む農業

 Y. 人々に重大な影響を及ぼす可能性があったり、深刻な社会経済影響が懸念されるすべ  てのプロジェクト

 Z. 禁止カテゴリーには属さないが、以下のような地域への環境影響を考える上で国家的・地域的に非常に影響を受けやすい地域やそのすぐ近くでのプロジェクト。

        1.湿地帯

        2.非常に重要な歴史的建築物のある地域

        3.侵食や砂漠化が進みつつある地域

        4.温帯林、北方林

        5.珊瑚礁

        6.マングローブ林

        7.国で指定されている海岸地域

8.保護地区での管理資源、IUCNの保護地区管理カテゴリーに属する保護されている景観(これらのプロジェクトは、IUCNの管理目的に合わせてIUCNの定める原則に則って実施されなければならない)

 

 

表―2:禁止カテゴリー;

 

1.熱帯原生林でのインフラ整備及び採取プロジェクト。採取プロジェクトとは石油、ガス、天然資源、蒸気/地熱、木材などの表面資源開発プロジェクトを含む。インフラ整備は道路、パイプライン、場合によっては人々へのアクセスを可能にするための送電線を含む。

 

*ここでいう原生林とは、過去60年から80年の間、人間によって基本的に手を加えられていない比較的完全な森林のことをいう。生態系は成熟した木々の豊かさによって成り立っている。こうした森への人々の影響は伝統的な狩猟や漁業、森林作物の栽培など、非常に小さく、場合によっては影響力の小さい移動式農業などで非常に限られたものである。

 

2.「大型ダム」建設に係るプロジェクトで、重大な取り戻しがたい以下のような影響をもたらすもの;(A)ダムの上流や下流での自然生態系を分断する、(B)自然な水力発電に置き換えることができる、(C)広範な土地を浸水してしまう、(D)生物多様性への影響、(E)多くの居住者を移住させる(5千人あるいはそれ以上)、(F)地域の居住者の生計手段への影響

 

3.オゾン層破壊物質(ODS)の商業製造や生産、国際的な合意によってその生産や使用が禁止あるいは中止される予定の有機廃棄物(POPs)の継続的な使用に係るプロジェクト。これらの物質、化学物質のリストはOPICの要請に応じて提出されなければならない。ODSリストは改定され米国の実施基準としてモントリオール議定書に定められている。使用が禁止あるいは中止される予定のPOPs禁止リストにあがっている12の物質は、国際的に法的拘束力のある合意として2000年までの合意に向けて現在交渉が進められている。

 

4.5千人あるいはそれ以上の移住を伴うプロジェクト

 

5.世界遺産(世界遺産会議のメンバーによって、国際的に厳格に保護する必要があると認識されている環境的に非常に価値のある地域)として登録されている地域内あるいは地域に影響を及ぼすプロジェクト

 

6.米国の国立公園や保護地域内、あるいは地域に影響を及ぼすプロジェクト

 

7.IUCN(the International Union for the Conservation of Nature)によって定義されている保護地区、カテゴリーI, II, III、IV(厳格な自然保護地区/自然地域及び国立公園;自然の遺跡や移住地/種の管理地区)内あるいは地域に影響を及ぼす採取及びインフラ整備プロジェクト

*ラムサール条約によって保護されている地域は、適切なIUCNカテゴリーの中に含まれている。


米国輸出入銀行

 

長期取り引き及びプロジェクトファイナンス(リミテッドリコース)

 

USEXIMの環境レビューの対象となるのは長期プロジェクト及びプロジェクトファイナンスである。特に深刻な環境影響が予測されるのでない限り、中・短期プロジェクトは環境レビューの対象外となる。

環境レビューを必要とする長期取引及びプロジェクトファイナンスは所定のスクリーニングフォームを申請時に提出し、これにより下記の4カテゴリーに分類される。

 

カテゴリーN:

原子力発電関連プロジェクト・設備及び核燃料製造に関わる取り引き。

 

カテゴリーA:

重大な環境影響を起こさないと考えられるもの。航空、通信、鉄道、医療施設、コンサルティングサービス等。特定の使用目的に限定されない材の輸出もこのカテゴリーに含まれる。

カテゴリーB:

環境影響を受けやすい地域内またはその近くにおいて実施されるプロジェクト。原生林、熱帯林、国定保護地、珊瑚礁、マングローブ林、絶滅危惧種生息地、世界文化遺産、少数民族等保護地、大規模再定住を伴うもの等。ダム開発や水資源管理プロジェクト、プロジェクトファイナンスは一般的にこのカテゴリーに分類される

 

カテゴリーC:

上記に区分されない、すべての長期プロジェクト。

 

短期・中期案件

主要債務が1000万ドル以下、返済期間が7年未満のプロジェクト。信用保証ファシリティーによって、または輸出信用保険によってカバーされている個別の短期、中期案件、および、アメリカ輸出業界に対し稼動資本協力を提供しているような業務はUS-EXIMによる環境レビューの対象とならない。ただし副総裁及び技術環境部が環境に重大な影響を与える恐れがあると判断したものについては例外である。

 

禁止物質

米国輸出入銀行、は法律で禁止または厳しく制限されている害虫駆除剤及び化学薬品について、輸出信用保険の適用から除外している。


● 経済協力開発機構/開発援助委員会OECD/DAC

 

環境アセスメントは、徹底した環境影響評価が必要とされるか否かを決定するためのスクリーニング・セッションから始めることが奨励されている。スクリーニングのプロセスによって、自然または物理的環境への重大な影響をもたらすプロジェクトの環境調査に焦点を当てることができる。

 

ある一定の援助活動は環境調査から自動的に除外されることがある。また逆に、環境的に見て受け入れ不可能なプロジェクト、またはマイナス影響が援助利益を超えるプロジェクトを最初の段階で拒否することが可能である。

 

注意の行き届いたスクリーニング、スコーピングは、環境アセスメントの最初の段階で重大な環境問題や最も重要な結論を認識し、プロジェクトの遅れやプロジェクトの遅い段階での追加費用を避けるために非常に有益である。

 

A. EIAを最も必要とするプロジェクト

‐再生可能資源の利用における重大な変更をもたらすプロジェクト(農業生産、森林、牧草地への土地の転換、農村開発、木材生産など)

‐耕作法及び漁法の重大な変更をもたらすプロジェクト(新作物の導入、大規模な機械化など

‐水資源の開発利用(ダム、灌漑・排水事業、水及び流域管理、水供給など)

‐インフラストラクチャー(道路、橋、空港、港湾、送電線、パイプライン、鉄道など)

‐産業活動(金属精練工場、木材加工工場、化学工場、発電所、セメント工場、石油精製・化学工場、農業関連産業など)

‐採掘産業(鉱業、砕意志、泥炭、石油及びガスの採掘など)

‐廃棄物の管理及び処分(下水同施設、廃棄物埋め立て地、家庭ごみ処理施設および有害廃棄物処理施設)

 

B. さらに徹底したEIAを必要とするプロジェクト

‐大気・水質汚染のために健康に影響する開発援助プロジェクト

‐危険におびやかされた植物や動物、またはその重要な棲息地、保護エリア、生物学的多様性などに悪い影響を及ぼすプロジェクト

 

C. 特別の考慮がなされるべきプロジェクト

- 熱帯林、湿地、マングローブの沼沢地、さんご礁、半乾燥地帯など。

 

参考資料

1)JBIC海外経済協力業務の環境ガイドライン4. スクリーニング」および「II.環境チェックリスト」http://www.jbic.go.jp/japanese/environ/intro/oec.html

2)JBIC国際金融等業務の環境ガイドラインの「(別紙)プロジェクトの分類基準」http://www.jbic.go.jp/japanese/environ/guide/index.html