JBIC統合環境ガイドライン研究会『モニタリング』

2001年3月14日

メコン・ウォッチ/松本  

 

★特に留意したい点

モニタリング期間中に被影響住民などから問題が指摘された場合、これまでの経験(JBICに限らず他の国際機関による開発協力において)から以下のような困難が生じている。

     指摘された問題の認識や見方に事業者側と被影響住民側に甚だしい食い違いが生じる。

     指摘された問題の調査に十分な住民参加がない→住民から出された意見がどのように扱われるかが明確でないため、住民側が参加を拒否する場合もある。

     指摘された問題の調査結果や対策について事業者側と被影響住民との間で合意がなされない。

     問題の認識の違いや対策に関する意見の相違を調整/解決しようとしている間もプロジェクトは進められ、問題解決の道が狭められる。

 

★モニタリングの基本的考え方

     モニタリングの主要な目的は環境影響調査に基づいた緩和・補償・開発計画の遵守の確認、遵守違反に対する対応策の検討と実施、実施過程において確認された予期しなかった影響に対する対応策の検討と実施、である。

     モニタリングは実施責任者別に、事業者によるものと融資者=JBICによるものがある。ただし、国際金融等業務などで事業者と借入人が異なる場合には、借入人がモニタリングの実施責任者となる。

     実施期間としては、事業完了(インフラであれば建設終了、他の場合はディスバース終了)までと事業完了後の一定期間、の2つに分けられる。

     モニタリングは事業の他の段階同様に、十分な情報の提供に基づいた影響地域住民の参加と合意を基本とする。

     モニタリングに必要な全ての費用は事業予算の中に盛り込まなければならない。計画外の影響などによって生じた費用は、事業予算に追加される。

 

こうした基本的な考え方に基づいて、モニタリングの流れに対応する形で次の項目について検討する。

@     事業者による環境社会モニタリング計画の策定

A     環境社会モニタリング計画に基づいた事業者によるモニタリングの実施と報告

B     JBICによる事業者モニタリングの審査

C     モニタリングの結果への事業者側の対応策

D     事業者側が示す対応策へのJBICの関与

E     被影響住民からの指摘や不服への対応

 

@     事業者による環境社会モニタリング計画の策定

     事業者は環境影響調査やそれに基づく緩和補償開発計画と共に環境社会モニタリング計画を策定し、事前の情報公開と協議の対象として被影響住民の意見を反映させる。

     モニタリングを通じて緩和補償開発計画を遵守することを、融資契約もしくはそれに付随する文書(Side LetterLetter of ExchangeMOUMinutesなど)によって明示する。

     事業者はモニタリング計画に以下の点を盛り込む。

 

何をモニタリングするか・・・@緩和補償開発計画を含めて事業が計画通りに実施されているかどうか、A計画段階で把握していなかった現地の状況、環境社会影響、ステイクホルダーが存在するかどうか、が含まれる。そのためには、例えばモニタリングする地理的範囲を拡大したり、計画段階で曖昧だった点を含んだりして、より広いスコープでモニタリング項目を設定しておく必要がある。

 

どのようにモニタリングするか・・・被影響地域住民や計画段階で関わったステイクホルダーへの十分な情報公開と参加を確保する枠組みにする。

 

いつモニタリングするか・・・モニタリング計画は事業完了までと、事業完了後の2つのケースに分けて策定される。モニタリングの内容は同じだが、モニタリングの周期や時期に違いがある。事業完了までは、3か月に1度実施し、事業完了後は事業のタイプによって異なるが、通常5年間、ダムや灌漑であれば最低10年はモニタリング期間として、年に1度のモニタリングを実施するよう計画を立てる。

 

A     環境社会モニタリング計画に基づいた事業者によるモニタリングの実施と報告

     事業者は3か月ごとのモニタリングで、必ず被影響地域の住民たちからも直接意見を聴取し、それを反映した形でレポートにまとめて結果を被影響住民が理解できる適切な言語で公表すると共にJBICに提出する。住民意見をどのように反映したかを明示する。

     モニタリングの段階ではすでにプロジェクトが進行しているので、問題の認定や対応策の検討は迅速に行なわれる必要がある。したがって、モニタリングの早い段階から、被影響住民やCSOsや関連する専門家の意見を取り入れる仕組みを作るのが望ましい。

     モニタリング報告には、誰が、いつ、どこで(村名など具体的に)、誰と(人数など具体的に)、どのようにモニタリングを行なったかを記載した上で、▽緩和策や補償策を含めて事前の計画が予定通り実施されているか、▽実施されていない場合はその原因の分析と対応策への提案、▽計画段階で把握されなかった現地の状況、環境社会影響、ステイクホルダーの存在、▽計画段階で予期しなかった事態への具体的な対応策の提案、について、なるべく実証的なデータを使いながら述べられている必要がある。

 

B     JBICによる事業者モニタリングの審査

     当該国に緩和補償開発計画の遵守やモニタリング結果の妥当性を審査する法的な権限を持った仕組みがあることを確認する。

     上記の仕組みが当該国にない、もしくは極めて脆弱で遵守のメカニズムが機能しにくい場合、プロジェクトの計画段階からJBIC自身のモニタリング体制を強化し、JBICSAPIを使った調査を含めた独自のモニタリング計画を策定する(国際金融等業務にもSAPIを導入する)。

     モニタリング調査の内容や分析が実証的なデータに基づいた適切なものであるかどうか、被影響住民の意見が反映されたものになっているかどうかを確認する。

     事業者側の情報だけに依存せず、特に被影響住民や関心のあるCSOs、関連分野の専門家から積極的に情報や意見を聴取する。

 

C     モニタリングの結果への事業者側の対応策

     モニタリングの結果、緩和補償開発計画が予定通り進んでいない場合や予期しなかった環境社会影響が生じている場合、事業者は適切に問題を解決するための事業改善計画をできるだけ早く策定し公開する。

     当該国政府は、モニタリングの結果、事業者が緩和補償開発計画の履行を怠っていることが確認されたり、予期しなかった環境社会影響の発生が懸念もしくは確認されたりした場合には、自国の法律・制度に基づいて事業者に対して然るべき対応を求める。

     事業者は、事業改善計画の策定過程で、モニタリング情報を継続的に公開し、被影響住民や関心のあるCSOs、関連分野の専門家の意見を十分に聴取し、事業改善計画に反映する。どのように反映されたかは事業改善計画に具体的に明示する。

     立ち退きを伴う場合は、全ての移転住民が事業改善計画に合意する必要がある。

     事業改善計画策定後のモニタリングは、同計画の進行状況もモニタリングの対象とする。

 

D     事業者側の対応に対するJBICの関与

     事業改善計画が実証的な根拠に基づき、被影響住民やCSOsや専門家の意見を反映したものかどうかを独自に確認する。

     事業改善計画が不十分な懸念がある場合は、事業者と合意の上でSAPIなどを使って独自に調査をし、計画への提案を行なう。

     カテゴリーBもしくはCのプロジェクトにおいて、モニタリングの過程で予期せぬ環境社会影響が生じている、もしくは懸念が強い場合は、カテゴリーAに再分類して環境影響調査を事業者に求める。調査の間はプロジェクトの進行を一時中断する。

 

E     被影響住民からの問題指摘への対応

問題となるケースは、被影響住民やCSOsや専門家から指摘される影響やプロセスに関する問題指摘が事業者によって認知されない場合や、認識している問題の深刻さに大きな開きがある場合である。

     JBICは融資案件の被影響住民からの問題指摘を直接受け付ける。問題の指摘は実証的な根拠に基づいている必要がある。国情を考慮して匿名性を認める。

     JBICは事業者に指摘された問題点を報告し、事実関係を調査し必要であれば事業者に対応を求める。

     それでも被影響住民の問題指摘と事業者側の対応に開きがあり両者の間にコンフリクトが生じている場合は、JBIC、事業者、借入人、問題を指摘している被影響住民などの当事者、及び関連するCSOsや専門家などの第三者を交えて問題を解決する枠組みの設置をJBICは事業者に提案する。

     その枠組みの設置においては、関わるメンバーの選考過程、議論の内容を公開し、透明性とアカウンタビリティが確保された公平で公正な問題解決の場となるようJBICが事業者に求める。

 

JBICの遵守メカニズム

JBICの中に第三者委員会もしくはオンブズマン委員会を設置し、プロジェクトがJBICのガイドラインに沿って進められているかをチェックする。委員会は常設とし、JBICの外部から委員を招く。全てのプロジェクトをチェックの対象とする。委員会はプロジェクトに良し悪しの裁定を下すというよりも、遵守のメカニズムのアカウンタビリティを高めることを目的とする。

 

★紛争早期解決のためのJBIC側の枠組み(試案)

予期せぬ影響を事業者は簡単に認めないであろうし、JBICも審査責任を問われるような事態を避ける心理が働くと想像する。結果として被影響住民の苦しみが長引く。責任を厳密に問わずに、かつ内政干渉をせずに、紛争を早期に解決するためにJBIC側が用意できる枠組みは以下の3つではないだろうか。

     より詳細な追加調査や新たな影響緩和策のための無償資金財源(技術協力)

     追加調査期間のプロジェクト中断を可能するための据置期間延長などの具体的な措置

     予期しなかった重大な環境社会影響を理由に当該国政府がプロジェクトのキャンセルを申し出てJBICもそれに合意した場合に、条件付きでそれまでに支払われた融資の返済を事実上免責する特例的な債務救済無償援助の検討(ただしこれは借入人が政府である場合に限る)。