2001/09/19

 

わが国民間セクターの海外事業展開に関する環境配慮

(平成12年度海外事業における環境配慮方策検討調査より)

 

財団法人地球・人間環境フォーラム

中寺 良栄

 

 1.総 括

 

 ・わが国民間セクターには、海外事業展開や海外投融資に関して環境配慮手続きを具体的に示したガイドライン等は作成されていないが、経団連の地球環境憲章や環境アピール等に民間企業も準用できる理念規定が設けられている。

 

 ・わが国企業は、国境を越えるグローバルな事業展開を図る大企業を中心に、環境マネジメントシステムの構築に伴って、独自の環境憲章や環境行動計画等を定めているものが多い。それらに基づいて開発途上地域における事業展開に先立って環境アセスメント等を実施したり、世界各地に立地する関連会社に対して進出先国の排出基準の遵守、ISO14001の認証取得といった先進的な環境配慮への取り組みを促すなど、自主的な環境配慮への取り組みが一般化している。

 

 ・民間セクターの海外事業展開を資金面から支援する金融機関については、現在のところ環境配慮に関するガイドライン等は策定されていないが、民間金融機関有志が融資業務の環境リスク評価手法の研究に取り組んだり、金融セクターの国際的な環境声明に署名する機関がみられるなど、融資業務という本業部分で環境と金融を一体化しようとする新しい取り組みが始まりつつある。

 

 2.経団連の取り組み

 

 ・各種の指針、憲章、アピール等の作成

「発展途上国における投資行動指針」(1973年)、「海外投資行動指針」(1987年)、「海外進出に際しての環境配慮事項」(1990年)、「経団連地球環境憲章」(1991年)

 ・経団連環境自主行動計画(1998年)

行動計画に基づいて、傘下の各業種団体が業界別に自主行動計画を策定し、毎年の進捗状況をレビューする行動計画のフォローアップを実施しているが、行動計画の策定項目に、地球温暖化対策、廃棄物対策などと並んで「海外事業における環境保全」を挙げている。

 

1 「経団連地球環境憲章」に盛り込まれた海外進出に際しての10の環境配慮事項

 @環境保全に対する積極的な姿勢の明示

 A進出先国の環境基準の遵守とさらなる環境保全努力

 B環境アセスメントと事後評価のフィードバック

 C環境技術・ノウハウの移転促進

 D環境管理体制の整備

 E情報の提供

 F環境問題をめぐるトラブルへの適切な対応

 G科学的・合理的な環境対策に資する諸活動への協力

 H環境配慮に対する企業広報の推進

 I環境配慮の取り組みに対する本社の理解と支援体制の整備


 3.個別企業の取り組み

 

 ・商社の事業投資案件に対する環境審査

一例として、@三菱商事の全ての事業投融資案件に対する環境審査、A三井物産の事業参画型の新規投資を対象とした環境影響評価の実施、B伊藤忠商事の木材輸入にあたっての環境配慮確認作業の実施

 

 ・その他民間企業の取り組み

規模の大きな製造業を中心に、環境憲章や環境行動計画などを策定している企業が多く、それらに基づいて工場新設先立つ環境アセスメントの実施や事後評価を行うことが一般的となっている。

また、これらの憲章や行動計画の中に海外事業展開にあたっての環境配慮を具体的に記述している例もみられる。

 

 4.金融業界の取り組み

 

 ・一般融資に関する環境リスク評価手法導入についての検討や国際的な環境声明に署名する機関がみられるなど、従来はリサイクルや省資源といった日常業務における環境配慮への取り組みにとどまっていた金融業界が、融資業務という本業部分で環境と金融を一体化する取り組みを進めつつある。このような動きは、将来的には、開発途上地域向けの融資に関する環境リスク評価への取り組みに発展する可能性も考えられる。

 

 ・融資業務の環境リスク評価手法で銀行業界が調査報告

民間金融機関有志が集まって組織された「持続可能な社会に資する銀行を考える会」が20012月、取引先に対する一般融資業務の環境リスク評価手法で中間報告をまとめた。

中間報告では、欧米の銀行のように、わが国の銀行も取引先の環境リスクを融資に対する与信審査項目に加える必要があると指摘。わが国の銀行向けの環境リスク評価の基本スキームをまとめている。このスキームでは、通常の企業信用リスク評価に加え、「企業環境リスク評価」「不動産環境リスク評価」の二つの評価軸を設け、三つの評価を総合して融資の可否を判断する仕組みを提案している。

 

 ・国際的な環境声明への署名

金融業界には、環境に関して「環境と持続可能な発展に関する金融機関によるUNEP 声明」「UNEP保険業界環境声明」の二つの国際的声明があるが、わが国の金融機関にもこれらに署名する動きがでている。このうち金融機関声明にはこれまで、日興証券と日興アセットマネジメントの2社が署名していたが、今年6月、銀行としては初めて日本政策投資銀行が署名した。また保険業界声明には7社が署名している。

 

5.環境省・2000年度環境にやさしい企業行動調査から

 

 ・アンケート回答企業(上場1,170社、非上場企業1,519社)のうち、開発途上地域で事業展開しているとしたのは、上場企業の45.4%531社)、非上場企業の16.2%264社)であった。

 

 ・開発途上地域で事業展開していると回答した上場企業(現地に事業拠点を持たない企業を除く)520社に、事業展開にあたって取り組んでいる環境配慮の内容を聞いたところ、「環境保全のための技術支援や情報提供」が最も多く、次いで「環境配慮を経営方針や環境方針に明記している」だった。

 

 ・また、上記520社のうち、「事業展開に先立つ環境アセスメント等により環境影響を調べ環境対策の立案を行っている」とした上場企業が86社(16.5%)あったが、このうちの38.4%がアセスメント結果に基づいて何らかの事業計画の変更を実施するとともに、45.3%が事業実施に先立って地域住民等の利害関係者と環境問題に関する事前協議を実施していた。

 

 ・開発途上地域で事業展開していると回答した上場企業(現地に事業拠点を持たず出資等のみの事業展開企業も含む)531社のうち、13.0%(69)が事業展開にあたって日本の公的融資や信用を受けたと答えている。

またこの69社にその際に融資機関等から環境配慮を求められたかどうかを聞いたところ、17.4%が「融資機関等からガイドライン等を示され、環境配慮について指示・助言を受けた」と回答し、さらに13.0%が「環境配慮の内容について具体的な説明を求められた」と答えている。


テキスト ボックス:  図1 「持続可能な社会に資する銀行を考える会」が作成した
環境リスク評価の基本的スキーム

出典:「持続可能な社会に資する銀行を考える研究会」中間報告書(20012月)