環境アセスメントについて

(2000.11.28改訂版)

 

●環境配慮の手法 − 環境アセスメントの経験を最大限活用すること

 

     プロジェクトの計画に環境配慮を組み込む仕組みとして、1969年の米国国家環境政策法(NEPA)以来、環境アセスメント制度が様々な国・機関等で発達してきており、各国や国際的にも様々な経験が蓄積されてきている。

     開発途上国においても、環境アセスメントをはじめとした環境配慮の制度が発展してきており、融資機関としては、この制度を積極的に活用することで、環境配慮を確実に行うことができる。また、途上国の対処能力の向上にも寄与しうる。

     環境アセスメントを適用しないような案件であっても、その経験は適用しうるし、参考とすべき。

 

●環境アセスメントの重要要素

 

     環境アセスメントは、第一義的には、プロジェクトの実施の決定、あるいは、その許認可等の意思決定に際し、環境配慮面から十分な情報を、意思決定者に提供するシステム。その効率的かつ効果的な実施の点で、様々な重要な要素が明らかになり、制度が発展してきている。

     日本は、1993年から3年かけて各国・各機関のアセスメント制度をレビューし、国の環境アセスメント制度を見直し、新しい環境アセスメント法を1998年に導入した。そのレビュープロセスで、このような要素の重要性が明らかになったので、法制度に取り入れたところ。

同様な結果は−国際影響評価学会 環境アセスメントの有効性研究−でも明らかにされている

 

     明確な手続・規則: 予防原則の徹底、無用な混乱の回避

     早期の着手: 早期の情報入手、ステークホルダーの明確化、計画への反映

     スコーピング: 問題の絞り込み、費用対効果

     代替案の検討・計画への反映: 実質的な対策の確保

     ステークホルダーの関与: 広範かつバランスのある情報、コンセンサス形成

     住民参加・NGO: 情報参加、計画参加

     独立性の高い調査・審査: 客観性の確保

     情報公開: 透明性・説明責任の確保

     意思決定への反映: 意味のあるプロセス

     事後モニタリング: 対策の確認、予見が困難な問題への対応

 

事業の環境アセスメントの一般的流れ                   (参考)

 

0.事業計画案

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1.スクリーニング      環境アセスメント実施の必要性を、地域の特性、事業の特性等から判断。簡易な調査(初期環境評価(IEE)を実施して決定する場合もある。(リスト方式、規模要件方式、個別検討方式等ある)

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2.スコーピング        焦点の絞り込み(調査すべき事項、検討すべき対策・代替案、協議すべき関係者)。この時点から関係者等への協議重要

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3.環境現況調査        影響が及ぶと考えられる範囲の環境の現況(大気質、水質、動植物の分布、地域社会)を詳細に調査。代替立地場所の選定にも重要。保全すべき環境及びその水準等の同定。

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4.予測評価              計画内容及び環境の現況から影響を予測(可能な限り定量化)し、評価(保全すべき水準、上位政策等と比較、代替案間で相対比較検討、住民、専門家等ステークホルダーとの協議)する。

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5.環境保全対策/代替案の検討 評価に応じて対策を検討。必要であれば、計画変更に合わせて0からのプロセスを繰り返す。

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6.ドラフト報告書作成 結果をまとめて、関係者、住民等との協議用に文書化。

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7.ドラフト報告書公開協議 関係機関、住民等との協議、主管官庁及び環境担当省庁による内容審査を経て、最終的な内容(事業内容、対策内容)を固める。

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8.報告書完成(・公開) 各意見等の報告書への反映・修正等。一般への公開。

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9.報告書審査・許認可等意思決定への反映 報告書を審査し、結果を勘案し、最終的な意思決定。環境所管省庁や担当官庁から、許認可の条件が付される場合がある

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10.事業着手

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11.モニタリング   影響の程度、対策の実施状況を把握。必要に応じて、追加的対策の検討・実施。

 

 

 

●これらの要素により、以下が達成される。

 

Fparticipation 参加          Fcredibility 信頼性

Ftransparency 透明性       Fcost-effectiveness 費用対効果

Fcertainty 確実性             Fflexibility 柔軟性

Faccountability 説明責任   Fpracticality 実用性      Sadler, 1996

 

●融資機関と環境アセスメントの関わり

 

     このような経験を踏まえ、環境への影響が大きくなる可能性のあるようなプロジェクトの場合、環境アセスメントがなされなければならない。環境アセスメントは通常、当該国の手続に従い、プロジェクトの事業者や相手国政府により実施される。融資機関は、このようなプロジェクトに対し、資金の出融資、あるいは信用の供与などにより支援している関係にある

 

     このとき以下のような状況を考慮する必要がある。

 

Ø         相手国が開発途上国の場合には、基本情報、資金、人材等の不足により対処能力が不十分であることが考えられる。

Ø         外国投融資等を受けようとするプロジェクトは概して大規模であり、大きな影響が考えられる。(場合によっては、地球的共有財への影響もありうる)

 

     先進国融資機関側としては、以下が重要と考えられる(次図参照)

 

Ø         第1に、融資機関の判断に先立って、事業者(及び相手国政府)が環境配慮の重要な要素を実施して、効果的・効率的な環境配慮を行うように働きかけること。

Ø         第2に、自らの意思決定(出融資等の判断)が環境への影響について配慮されたものとなるよう、環境配慮の重要な要素を活用して、事業者の配慮の内容を確認すること。

Ø         第3に、相手国の状況を踏まえ、適切な環境配慮がなされるよう、事業者や相手国政府に対し、適宜支援を行うこと。

Ø         第4に、可能であれば、環境配慮の優良事例・率先事例を作り、途上国の対処能力向上に貢献すること。

 

第1及び第3の点に関して、国際協力銀行、世界銀行、国際金融公社、米国輸銀、米国民間投資公社が、借入人等に対しどのような働きかけ(要求等)を行っているか別表に整理を行った。また、表には、統合ガイドラインにおいて明示的にとりあげることを検討すべきことについても整理を試みた。

 

●国際協力銀行の場合は、以下のことを考慮する必要がある。

 

「融資機関の判断に先立って、事業者(及び相手国政府)が環境配慮の重要な要素を実施して、効果的・効率的な環境配慮を行うように働きかけること。」に関して

 

      国際金融等業務、海外経済協力業務双方とも、事業計画・内容が固まっている案件に対し投融資等を要請されることが通常であり、その時点では、事業者等が行うべき環境配慮の手続はほぼ終了している。

      したがって、事業者等に対する働きかけとは、銀行が求める環境配慮の内容や考え方をガイドライン等の文書で、詳しくわかりやすく示すことが基本。

      要請以前の案件形成段階では、借入等を希望するものとの内談、円借款の年次協議、基礎調査、JICA等との情報交換等の機会を通じて、銀行が求める環境配慮の内容を個別に情報提供することは可能。(銀行としての案件に対するコミットがない段階では、相手に対する働きかけも限界がある。

      なお、例外的状況として、海外経済協力業務のうち、ES借款(事業への借款を想定して、詳細設計等に対し借款を行うもの。この借款を利用して環境アセスメントの調査等を行う場合もある)、また、案件形成促進調査(SAPROF)でも、環境アセスメントの補足調査等を行う場合があり、このような場合は、環境アセスメントの実施内容に対する個別の働きかけが可能になると考えられる。