地球の友ジャパン作成資料「国際協力銀行による環境審査について」へのコメント
○:対応(本行現行環境ガイドラインに明記、もしくは自明のもの)
△:対応(現行環境ガイドラインには明記されていないものの既に実質的に対応しているもの)
×:現状対応していないもの
―:その他
         
指摘事項 国際金融等業務 ODA業務
  現状 補足説明・理由 現状 補足説明・理由
1.環境審査のポリシーと基準        
(1)環境審査に関する基本的考え方        
@環境審査の目的        
 全プロジェクトにつき環境審査の実施 ガイドラインは全新規プロジェクトに適用。 ガイドラインはすべての新規プロジェクトに適用
 十分な影響予測、適切な対応策、十分なプロジェクト管理の実施可能性、ステイクホルダーの意見の反映、等についての確認 本文及びチェックリスト。 セクター別のチェック項目にて明記(ただしステークホルダーからの意見聴取については住民移転の部分のみ明記)。
 事業者による調査・対策が不充分な場合の必要な情報・追加的行動の要請、その要請事項達成までの審査の中断   A種についてはEIAレポートの借入国内での承認、本行への提出を義務づけていることを明記。
 環境の持続可能性の観点からのプロジェクトの妥当性判断、審査完了前の最終コミットメント付与禁止 環境に限らず、審査が完了しない限り融資承諾は行わない。 環境面に限らず、審査が完了しない限りL/Aの締結は行っていない。
 審査結果のL/A等への反映   役員会資料等を通じ確認している。
 支援申請者へのプロジェクト早期段階からのアドバイス ガイドラインは本行ホームページで入手可能。プロジェクト毎に必要に応じてケースバイケースで対応。 ガイドラインは借入国がプロジェクトの計画準備段階において配慮・準備すべき環境面の諸事項を示すもの。EIA作成指針の提供、SAPROF等による支援を実施。
A審査の原則        
 科学的知見に基づいた客観的な判断の実施    
 審査スコープ・基準の明確化 プロジェクトの性質に応じたケースバイケースの評価を行っているため、スコープ及び基準の明示には限界がある。 チェックリストでの例示。同一セクターであってもプロジェクトの規模、立地条件等によって確認すべき項目は様々であり、詳細なスコープを一律的に明示することは適切ではない。
 情報源を広く求め、NGO等からの情報を最大限に活用 チェックリストの項目。 外部専門家への委嘱、現地視察等を通じ情報の入手に努めている。
 現地法制度・社会慣習・通例に配慮した審査 これまでに実施した現地環境法制・環境状況調査等から情報を入手している。 環境プロファイル及び過去のプロジェクト事例等による情報を活用。
 手続き・役割分担の明確化 ガイドラインは借入人等外部との関係で本行の環境配慮手続きを明示したもの。 ガイドラインは借入国等外部との関係を明示したもの。
 審査情報の原則文書化・公開 × 次回研究会にて議論。 × 審査情報の公開については、「情報公開」全般のなかで議論されるべき。((4)情報公開において検討。)
 本原則実施のための体制・能力整備 本行内部における体制整備の問題。 本行内部における体制整備の問題。
(2)審査において考慮されるべき事項        
@環境・社会影響評価のスコープ        
 自然環境    
 人間の健康、安全、社会影響(現地の社会・経済活動、自然資源の利用、ジェンダー分析含む) 本文及びチェックリスト。 ジェンダー分析については社会配慮の文脈において確認。
 非自発的移住の発生・主たる生計手段の喪失 カテゴリーAとして確認している。  
 先住民族の社会・文化   「特定の脆弱な人口集団(伝統的な生活用式を持つ遊牧民の人々等)にとって特別な社会的価値のある地域」として明記。
 文化遺産や景観等に対する影響 チェックリストの項目。 チェックリストに例示されている。
 国境を越えた影響、地球環境への影響 国境を越えた影響については、プロジェクトによる環境影響に係る通常の確認でカバーしている。地球環境については、地球温暖化ガス排出削減に貢献するプロジェクトを積極的に支援する方針にしている。 温暖化へのネガティブな影響についてはスコープに含めていないが、ポジティブな影響については環境金利と関連づけて検討。
 関連する事業の影響評価 必要に応じて一定の範囲で確認を行っている。但し、他事業の事業者が異なる場合は特に、情報の入手に制約あり。 一体不可分と考えられる場合には、借款対象以外であっても内容を確認。ただし、実施機関あるいは事業実施のタイミング等が異なる場合には、必ずしも所要の措置を求めることはできず、ケースバイケースでの対応となるため、一般的な記述は困難。
A影響評価の基準        
(一般的なもの)        
 現地の法律・政令・条例    
 現地国政府の環境・開発計画等の上位計画 現地当局からの環境許認可取得状況の確認でカバーされている。 案件のプライオリティーの確認を実施(但し環境ガイドラインの範囲外)。
 国際条約 条約当事国においては条約は批准されて国内法化されるため、現地基準の確認でカバーされている。  
 国際的に認められた基準・グッドプラクティス 現地基準の妥当性判断の参考にすると同時に、現地基準の水準が妥当でない場合には、これらを参照している。 ただしグッドプラクティスという用語は用いていない。
(具体的なもの)        
 自然環境        
  ・各種条約、各国の環境計画 条約当事国においては条約は批准されて国内法化されるため、現地基準の確認でカバーされている。  
  ・自然保護地区や国立公園に被害を及ぼさないこと カテゴリーAとして重点的に確認している。 原則として自然保護地区の外での実施を求めている。
  ・生物多様性、希少生物の生息地を損なわないこと カテゴリーAとして重点的に確認している。  
 人間の健康、安全、社会影響        
  ・国際人権規約、リオ宣言等 リオ宣言は抽象的過ぎて基準とするのは困難。国際人権規約にも特段言及はしていない。現地政府の当規約への対応の範囲内で対処。 × 人権については環境ガイドラインの対象ではないが、審査の一項目として検討。
  ・現地排出基準、日本や国際機関の排出基準、世銀汚染防止ハンドブック等 本文。  
  ・特に直接影響を受ける実施地域の住民に対するプロジェクトの必要性・詳細計画・影響等に係るコンサルテーションの実施、意見の反映 本文及びチェックリスト。  
 先住民族の社会・文化        
  ・ILO規約、ADB先住民族ガイドライン、世銀先住民族政策、現地国先住民開発計画等 「国際的な基準」としてADB,世銀のガイドラインを、「現地基準」として現地の関連法基準等を参照している。但し、ILO規約については環境ガイドラインの範囲外。 ILO規約についてはガイドラインの範囲外。
  ・先住民族の経済・文化活動、ライフスタイルを不可逆的に損なわないこと カテゴリーAとして確認している。 「特定の脆弱な人口集団(伝統的な生活用式を持つ遊牧民の人々等)にとって特別な社会的価値のある地域」として明記。
 非自発的移住・主たる生計手段の喪失        
  ・世銀の非自発的移住ガイドライン 「国際的に認知されている考え方・手法」として参照している。  
  ・非自発的移住を避けるためのあらゆる手段の検討 本文及びチェックリスト。 代替案の慎重な検討を求めている。
  ・詳細で資金的裏づけのある移転計画の作成・公開・コンサルテーション 公開については明記していないが、移転住民への十分な説明、同意の取得を求めている。 公開については明記していないが、移転住民の意向の聴取を求めている。
  ・持続可能な代替生計手段の支援、生活の質の現状維持 移転住民への正当な補償、移転後の生活基盤の確保を求めている。(チェックリスト)  
  ・プロジェクト進行前の完全な情報提供(+書面による合意) ○(×) 移転住民・周辺住民へ十分な説明がなされることの確認はガイドラインにも明記しており、実施主体を通じて住民へのコンサルテーション実施状況、及び合意状況を確認している。但し、書面による合意については、その土地特有の合意形成手法のある地域や識字率の低い地域等では必ずしも有効な資料ではない等の理由から、常に確認しているわけではない。 ○(×) 意向の聴取については明記しているが、書面による合意については必ずしも確認していない。移転に係る詳細な条件の合意等はL/A締結後となる場合が多いこと、全対象者(非移転者も含む)から書面での合意をとることは現実的でない場合もあること、書面による合意があっても(特に対象地域で識字率が低い場合等)真の合意であるとは限らないこと、等の理由により、書面合意のガイドラインへの明記は不適切と考えられる。
  ・十分なモニタリング計画 チェックリストの項目。 環境モニタリングの一環として実施。
 文化遺産や景観等に対する影響        
  ・登録された文化遺産の保護 チェックリストの項目。 チェックリストに例示。
 国境を越えた影響、地球環境への影響        
  ・地球温暖化への影響 地球温暖化ガス排出削減に貢献するプロジェクトを積極的に支援する方針にしている。 省エネ、新・代替エネルギー等の事業については環境金利により優遇。ネガティブな面については審査のスコープに含めていない。
  ・国際河川への影響 通常の河川への影響評価でカバーしている。  
B提出された情報の質        
 ベースライン情報    
 ゼロ・オプションを含む詳細な代替案の適切な検討    
 負の影響に対する措置の、防止−最小化ー軽減ー補償の順の検討    
 詳細な環境アクションプラン(コスト調達や実施時期の情報を含む)の検討 必要なものについてはチェックリストの中で対策を確認するようになっている。但し、対策に含まれるべき内容までは示していない。 ミティゲーション・モニタリング計画等について実施体制・予算手当ても併せて確認。
 現地国所定の手続きに沿ったF/S及び環境アセスの実施 EIAに対する現地当局からの許可取得確認で対応している。  
 ステイクホルダーに対する情報公開・コンサルテーションの十分・適切な実施、ステイクホルダーの選択の適切性、EIAやF/Sの現地公開とその記録 コンサルテーションの実施は確認している。情報公開については要検討。 コンサルテーションの内容等については現在も確認しているが、情報公開のあり方については要検討。
 F/S及びEIAのTORと作成者の明記     
 F/S及びEIAの情報の新鮮さ 必要に応じて情報のアップデートを要求する。 SAPROF等により必要に応じ補足調査を実施。
 F/S及びEIAの、必要に応じた再実施の仕組みの設定 借入国のEIA制度に従う。但し、環境配慮確認を行うにあたり、必要な情報があれば適宜要求する。 EIA実施以降の環境変化については別途確認。EIAの再実施を求めることについては、借入国毎の法制度の違いを踏まえて対応する必要がある。(例えば、EIAとしてではなく、先方の補足調査、SAPROFによる追加調査等により対応。)
C事業実施者の能力        
 借入人側の環境管理能力を考慮 事業実施主体の実績や評判等は考慮に入れている。 環境面も含めた実施機関の実施能力を確認し、必要に応じ円借款のコンサルティング・サービス等により補強している。
D借入国の環境関連制度        
 環境関連制度の質、環境当局の管理能力 借入国の環境関連法制度、環境当局の管理能力等を考慮している。制度の質については、環境当局からの許認可やEIA及びEIAの附帯条件等のみに依拠するのではなく、国際的に認められた基準も参考にしつつレビューを行っている。 借入国の環境関連法制度、環境当局の管理能力等を考慮している。
Eプロジェクト実施に影響する現地状況(人権、ガバナンス等)        
 プロジェクト実施地域における人権や言論の自由の保証、汚職防止への取組状況の考慮 × 人権、汚職等の問題は、環境ガイドラインの範囲外。 × 人権、汚職等の問題は、環境ガイドラインの範囲外。
2.環境審査手続き        
(1)手続き策定に関する基本的考え方        
 明確な審査手続きの内外への提示 ガイドラインは借入人等外部との関係で本行の環境配慮手続きを明示したもの。 オペレーショナル・ガイダンスにより周知。
 全プロジェクトに貫徹されるポリシー・基準を前提に、金融形態の特性に応じた効率的・効果的な手続きの制定    
 作成される文書の種類・タイミングの明示   A種の場合のEIAレポート提出のタイミングは明記。
(2)スクリーニング        
 事業特性・地域特性・影響の規模を基準とした、ODA・OOF業務共通のスクリーニング基準の採用    
 必要に応じたカテゴリー分類の見直し 追加的に入手した情報に応じてカテゴリーを変更することはあり得る。 新たに入手される情報を踏まえ必要に応じ見直している(確定は審査後)。
(3)金融形態に応じた手続き        
 金融形態の違いに応じた環境情報の確認手続きの制定    
 複数のフェーズに分けられる事業の場合、前フェーズのモニタリング・評価結果の考慮   輪切り案件であってもその都度環境審査を実施している。
(4)情報公開(次回研究会にて議論)        
(5)審査結果の反映        
 審査所見の、環社室の確認経由後の契約文書への反映    
 役員会への環境情報通知による意思決定への審査結果の反映   役員会資料には「環境及び社会面の配慮」が記載される。
 ODA案件における、環境審査終了前の政府によるプレッジを防止するための厳正な手続きの制定   × 環境審査は、本行としての最終コミットメント(資金供与の法的義務が発生)であるL/A締結までに完了することが必要。(環境審査が完了していない場合はその旨本行から日本政府に報告しており、審査完了前にプレッジすることは原則としてないが、最終的には政府の判断。)
(6)環社室と融資担当部の役割        
 環社室が全プロジェクトの環境審査の最終責任を負い、環社室のクリアランス無しにはプロジェクトが進行できないような手続きの確立。 融資担当部は案件の政策意義・プロジェクトリスク・カントリーリスク等に加えて、環社室の客観的な環境リスク分析結果も勘案の上、総合的な判断のもと融資方針を固め、役員会において融資の是非が決定される。最終責任は営業部が負うが、環社室のクリアランス無しに営業部が案件の承諾を行うことはない。 環境面での審査は融資担当部と環社室との共同責任。環境審査の実施、プロジェクト実施段階での環境配慮確認はあくまで本行としての総合的な審査、確認の枠組みで行われるべきであり、環社室の役割のみを抽出することは不適切ではないか。
 融資担当部は環社室と協力して環境配慮を行いながらプロジェクトを進行させる。   同上。
(7)審査の独立性の確保        
 独立した審査委員会の設置 × 環社室は独立した見解を具申している。日本で本行が審査委員会を設けるよりも、借入人側がイニシアティブをとって、プロジェクト実施地域の住民や有識者等、第三者を含む現地の調査委員会が設置される方が有益ではないか。 × オーナーシップの観点からも、借入国側で第三者による委員会を設置し、事業全般に係る検討を行うことが適切ではないか。本行としての環境配慮確認のための外部専門家(大学教授等の第三者機関)による委嘱調査等は実施例あり。
3.借入人向けの要求項目とガイダンス        
(1)環境審査の項目に沿った要件の明示        
 借入人に対し、最低限の要求項目を明示すべき。特に以下の項目。 本文及びチェックリスト。 本文及びチェックリスト。
  ・EIAに含まれるべき項目 × 現地国のEIA制度を尊重することとしている。EIAに含まれていない情報は、必要に応じて徴求している。本行として情報を必要とする項目は、チェックリストに示されている。 × EIAに含めるべき項目については借入国毎に扱いが異なるところ、借入国の法制度を尊重することが適当ではないか。
  ・EIA及びF/Sの現地における公開 × 現地国のEIA制度を尊重することとしており、現地EIA制度に則った手続きを踏んでいることは確認している。 EIAレポートは公開が望ましい旨明記。
  ・EIA作成過程におけるコンサルテーション(特にカテゴリーAに該当するものはスコーピング及びドラフトEIAの段階) × 同上。 × 借入国により、公開のタイミングが異なって(非公開の国も存在)おり、特にEIA実施段階では円借款が前提とされていない場合等もあるため、一律の対応を求めることには留意する必要がある。
(2)環境アセスのグッド・プラクティス        
 国際的に認められた水準を満たす環境アセスのグッド・プラクティスをガイドラインに提示。 現地国のEIA制度を尊重することとしている。本行として確認する項目はチェックリストに示しており、必要に応じてチェックリストの充実で対応可能。 EIA作成指針を主要セクターにつき作成し、公表している。
(3)ガイドライン・マニュアル等の充実        
 事業者向けガイドラインやマニュアルの充実    
 「環境チェックリスト」や「社会配慮ハンドブック」の内容向上、及びODA/OOF両業務における活用    
 ダム開発や森林、住民移転や先住民族等諸特性を伴うプロジェクトを扱うにあたって諸国際機関等のグッド・プラクティスやガイドライン等の活用    
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