JBIC                               2001.2.13(T)

環境配慮                              原科幸彦

情報公開

 

背景:

 JBICの環境配慮への責務についての基本原則は、地域住民やNGO、企業、当事国の中央政府、地方政府、関連国際機関等の多様な利害関係者(ステークホルダー、 stakeholders)との間で、円借款や融資の決定前に、十分な合意がなされていることである。JBICの責務は以下の2点に集約される。

(責務)

・融資先の機関が適切な環境配慮手続を終えていることを確認する。

  (融資先への情報公開の要請)

JBIC自体が、この確認業務を適切に行ったことの説明責任(アカウンタビリティ)を果たす。

  (国内外への情報公開の推進)

 

 以下では、JBIC自体が環境配慮の確認業務についてのアカウンタビリティを果たすために必要な情報公開について述べる。融資先機関への情報公開の要請は、JBICの情報公開の基準に準じて行うことになるが、国により事情が異なるので慎重な対応をしつつもできるだけ積極的な情報公開を求めるべきである。

 

 

本来の環境アセスメント

 上記のためには、あるべきアセスメントにそった対応が必要である。

 我が国は1993年に環境基本法を制定し、sustainable  development(持続可能な発展)を目指す環境政策の大きな転換を図った。そのための基本的手段の一つが環境アセスメントである。これは事業者の自主的な取り組みによる環境配慮を促進するもので、環境配慮の内容に関する情報公開を通じて達成しようとしている。すなわち、事業者の環境配慮に関するアカウンタビリティを果たすための手続である。

 環境配慮のための対策(環境保全対策)が適切であるか否かは、まず科学的な判断が必要であるが、それだけでは不充分である。これと共に、地域住民等の様々な多様なレベルで利害を有する主体、いわゆるステークホルダーの意見を聞き、これらに十分適切に答えたかにより判断される。

 したがって、ステークホルダーとのコンサルテーションは環境アセスメントの核心部分であり、このプロセスは民主的、科学的に行われなければならない。環境保全対策が適切かどうかは、可能な範囲内での複数の対策代替案の相互比較によりなされる。アセス文書に代替案の比較検討を記載するよう求められるのは、これがシステム分析の方法論を基礎に置いた民主的、科学的な方法だからである。システム分析は意思決定を支援する科学的な方法である。

 

情報公開の意義:

 この環境アセスメントのねらいから、ステークホルダーとの適切なコンサルテーションを行うためには、判断材料となる情報の提供が必要条件となる。援助事業に関わる情報は、事業実施より前の計画段階から提供されなければならない。この時、事業に関わる意思決定のできるだけ早い段階から情報が公開されることが重要である。このような段階では事業内容は固まっていないため事業者は情報の提供をためらう傾向があるが、計画の熟度が低いほど環境保全対策を講ずる余地は大きく、結果として十分な環境配慮が可能となり地域の合意形成もスムースに行いうる。

 

公開対象:

 公開されるべき情報の中心は、いわゆる意思形成過程の情報であり、具体的には以下のとおりである。意思形成過程情報は、2001年4月から施行される国の情報公開法でも例外的に非公開にされる部分もあるが、原則は公開されることなっている。

 アセス文書は全て公開とするが、その根拠となる情報も公開されないと適切な環境配慮はできない。以下のような情報が公開対象となる。

(事実情報)

案件に関する情報: 

  事業計画の内容(計画の必要性、費用対効果)

  事業者の原案とともに、考え得る複数の代替案

環境情報:

  環境の現況、影響評価項目とその選定理由

  影響予測の前提、環境影響の予測・評価の結果、評価基準

NGOや専門家から提供された環境情報

(価値情報)

ステークホルダーの意見

上記意見に関する事業者の見解

 

情報公開の段階:

 これらの情報は意思決定の出来るだけ早期段階で公開されることが望ましい。ステークホルダーとの合意形成においては、この考え方が極めて重要である。

 JBICの行う円借款において、その前の段階でJICAによる案件審査が行われるものについては、審査後、円借款対象として案件がJBICに提示された段階から情報公開を行うことが可能であると思われる。この他の国際機関による審査を経たものもこれに準ずる対応ができるのではないだろうか。しかし、援助当事国政府から提案される案件に関しては、別途の配慮が必要である。

 融資案件に関しては、事業者から案件の打診があった段階から、事業計画の構想に関して情報公開を始めるべきである。具体的には、何らかの文書の形で打診があった段階で公開することが望ましい。この段階では案件に関するステークホルダーは明確ではないが、事業計画の意図があることが公表されることによりステークホルダーは明らかになって来る。

 

情報公開の方法:

 情報公開は、文書による公開が基本である。これは電子媒体に載せることも合わせて行うとより効果的である。

 事業者から案件の打診時に情報提供を開始することを原則とするが、それ以後はアセスメント手続の進行に伴い、ステークホルダーからの問い合わせに答えることになる。公開するべき情報は上記のような範囲のものであるが、ステークホルダーの理解を得るためには、できるだけ幅広く公開して行くという考えに立つべきである。

 方法書、準備書、評価書、見解書などのアセス文書はアセス手続の中で順次公表されるが、これらの記載事項の根拠となる調査データや科学的知見、意見等の情報を文書やインターネットを通じて提供して行く。

(使用言語)

 分書は国際語としての英語で作成されることが基本だが、現地の住民が理解できるように現地の言葉でも作成する。また、今後は納税者である日本国民の理解を得ることも必要なので、主要な文書は日本語訳も付けることが必要である。

 

情報入手の費用:

 ステークホルダーが負担すべき情報公開の費用は最小限のものとする。費用が原因で情報が入手できなくなるようではならない。とりわけ地域住民等の情報へのアクセス権を保証するような対応が必要である。

 具体的には、方法書、準備書、評価書、見解書などのアセス文書はそれぞれ必要部数は印刷し無料で提供するとか、インターネットのホームページに掲載して誰でもが入手可能なようにする。

 

情報センター機能の提供:

 これらの情報公開のためには、ステークホルダーが情報にアクセスしやすいよう、情報センター機能を持った部署、あるいは、そのような人員配置を行うことが必要である。また、このためにインターネットのホームページの活用も行う。

 

 

 

JBIC自体の一般的な情報公開方針の作成と公表:

 さらに、JBIC自体で業務活動に関する一般的な情報公開の方針を定め、積極的に情報公開を行って行くことが望まれる。このためには、国の情報公開法の枠組みに沿った具体的な対応をすることが必要である。