2月13日の研究会に関する意見

2001年2月11日


川上豊幸(かわかみ とよゆき)

APECモニターNGOネットワーク

toyo@jca.apc.org
06-4800-0888

 

 

 

国際協力銀行(JBIC)における環境ガイドライン策定における情報公開の要点(案)

 

     理念及び目的ないしは意義[1]

 JBICなどの特殊法人にも適用[2]される「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」第1条(目的)には、「この法律は、国民主権の理念にのっとり、行政文書の開示を請求する権利につき定めること等により、行政機関の保有する情報の一層の公開を図り、もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされるようにするとともに、国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とする」と定めている。また、政府開発援助大綱においては、2.原則の(4)で「開発援助国における民主化の促進」「基本的人権及び自由の保障状況」に十分注意を払うとの考え方も示されているように、特に、被援助国市民の基本的人権としての「知る権利」の保障や「民主的参加」の促進という意味からも情報公開に関するJBICとしての政策表明を行う必要があると考えられる。また、その政策実現のための文書管理規定や異議申立てのシステムを、情報公開法との関係上においても確立する必要があるが、それに留まらず、独自の情報公開を目指すことが求められる。

 以上から、情報公開政策の目的としては、@基本的人権としての知る権利の確保、A行政としての説明責務(アカウンタビリティ)の確保、B公正な意思決定・実施プロセス(参画の保障と政策遵守)の実現が特に重要だと考えられる。情報公開によって、業務内容や政策に関する公正な議論と対話・検討プロセスを促進し、多角的な評価のフィードバックが可能になれば、さらに、Cプロジェクトの質の向上、D民主的参画を促進すると同時に、E不正行為の防止・抑制にも役立ち、最終的にはF幅広い支持にも繋がることになると考えられる。

 

 特に環境・社会配慮面においては、実施側(及びコンサル側)の一方的で、楽観的な評価や計画が行われがちとなり、偏向した主張が行われ得る。これを修正し、より客観的で、多様な意見を、プロジェクト計画、実施、評価に対して反映させいくこと(その場合には専門家やNGOを含めたセカンドオピニオンの提供が重要)、そしてその上で、被援助国市民による自らの行く末に対する自己決定権を保障する(インフォームドコンセント)ことが大切である。また、援助供与国市民の側からは、適性な実施がなされているかどうか、公正な意思決定が行われているかどうかを監視し、意見を集約していくには、当該プロジェクトに関する情報公開が不可欠である。そもそもどのようなプロジェクトが、どのような考慮の下に進められるのかを知ることができなければ、環境的な配慮が適性なものなのかどうか、どのような環境影響、社会的な影響が発生し得るのかを想定し、議論することさえ困難である。よって、@適切な調査・予測・評価の実施、A住民による適切な意見の形成、B適切な審査の実施、C計画通りの実施内容か、D計画に問題はなかったのか?といったを判断するには、多方面からの意見を聞く必要がある。そのためには、効果予測や環境への影響に関する情報、代替案の検討プロセス等に関する計画立案から審査に至る情報、実施段階におけるモニタリング情報やその審査情報、事後評価などの一連のプロセスに渡る意思決定において、逐次、適宜、情報公開を実施して行く必要がある。その場合には@チェック・アンド・バランスの考え方に基づき多様な意見・情報を収集する。A責任ある判断を行ない、審査プロセスの透明性とアカウンタビリティーを確保するため、保有情報は整理して文書化し、公開する、B広い視野から客観的な情報確認を行なうため、地域住民やNGO、専門的知見を有する関係者などから有益な意見や情報を求め、最大限に活用することが求められる。これらを通じて、評価の質の向上及び、信頼性の確保を行うことが可能となると考えられる。

 このように、様々な利害関係者が意思決定にきちんと参画し、意見表明し、異議申し立てを行うためには、適切なタイミングで情報が公開されなければならない。そして、この原則を確保するためには、「文書管理規定」を定めて、情報公開請求に対して対応するとともに、情報公開のためのハードシステムづくり(インターネットや図書館などを通じた幅広い情報公開システムや効果的なコンサルテーション開催のためのガイドラインやグットプラクティス情報設定や、廉価なコピー費用によるアクセス費用の低減措置など)を行う必要がある。

 つまり、こうした情報公開を実施するためには、速やかに情報公開を行うための目的、原則、手続きを含めた情報公開政策を策定し、これらを具体的に進めるための文書管理規定が必要である。そして、そのためのハードの整備(図書館及びインターネットなど)や、環境アセスメントの公開や、きちんとした実施状況を確認するために、営業利益を損なわないための機密としての例外や、外交上の機密といった例外規定を排除するために、借り入れ国や入札参加企業などとの情報公開のための契約を行っておく必要があるだろう。

 特に情報公開政策においては、特別な理由がない限り、原則、要請に応じて公開することとし、また特に重要な文書については要約版を作成したり、プロジェクトごとのファイルを作成し、Webサイト、図書館などでの入手を可能とし、コンサルテーション、パブリックコメントを行うために、草稿の段階から情報公開していくことが必要である。

 以下では、プロジェクトサイクルに応じて、どのような情報が適宜公開されていくべきかという点に留意して情報公開政策における要点を述べる。

 

■案件発掘(Identification)および審査(Appraisal)段階における情報公開

●案件情報の公開開始時点

 現在の旧OECF業務に関するプロジェクト情報については、プレッジが最初の情報入手時点となっている。しかし、これは、審査がほぼ終了し、交換公文という正式な政府間の契約に進む直前の段階である。現在のロングリストも、すでに交換公文が交わされたものをリストにしているに過ぎない。

 一方、世界銀行においては、プロジェクト情報文書(Project Information Document:PID)としてプロジェクトが計画として上がってきた段階で作成され公開されることとなっている。またアジア開発銀行においては、プロジェクト・プロファイル(Project Profiles:PPs)が同様に作成され、どちらもWebサイト上で公開されている。

 PIDにおいては、@主要な環境上の課題、Aプロジェクトカテゴリー、B影響を受ける住民や地域NGOとのコンサルテーションの提案や予定、CEAのスケジュールなども記載される。そしてプロジェクト案件はMonthly Operational Summary of Bank and IDA Proposed Projects (MOS) に報告され、また、Environmental Data Sheets (EDS)が各プロジェクトについて準備され、四半期ごとに改訂される。

 

 JBICにおいても、少なくとも要請状が届いた段階か、JBICプロジェクト案件として特定した段階から、予定融資額、プロジェクト内容などの基本的な情報については情報を公開しておくことが妥当であると考えられる。さらに、これらのプロジェクトの進行状況についても、何らかのマーキングによって表示し、現在、当該プロジェクトがどのような状況にあるのかを明らかにする必要がある。

 よって、審査に至るまでの文書であるプロジェクト実施計画書(I/P)、Feasibility Study Report(/R)Environment Assessment(EA)、事前調査団報告書や、プロジェクト審査書(P/AProject Appraisal)などの資料を公開すると同時に、PIDPPsのようなプロジェクト進行状況や環境・社会的な課題を記述したファイルのロングリスト化が必要である。

 

/RやI/Pなどの情報公開

 フィージビリティスタディについて、JBICのホームページでは「計画されたプロジェクトは実施に入る前に経済面、社会面、技術面、環境面等の分析及び代替案の検討が行われいます。これがフィージビリティ・スタディ(Feasibility StudyF/S)」とされている。

 世銀では、フィージビリティ調査結果報告書(Feasibility Study ReportF/R)などの技術情報(Technical Information)については、プロジェクト担当者に問い合わせることで情報公開に対応している(借入政府による協議後、要請に応じてF/Rが公開される)。

 世銀では、借入政府による協議が条件となっているようであるが、F/Rは、代替案の検討などの重要な内容が含まれることから、審査資料として重要な資料であり、計画アセスメントのプロセスとして重要であると考えられる。よって、環境アセスメントと同様に、地域住民に対して情報公開及びコンサルテーションを行うことを前提とし、また要約版を現地語で作成し、配布するなどの手続きが必要であることを明記しておく必要がある。というのも多くのF/Rに書かれた数値や内容が、プロジェクト実施に有利なように誇張されていたり、バイアスがかかっていたり、過度に楽観的であったり、不正確であったり、欠落していたりすることも考えられる。こうした問題を予防するためには、多様な意見を考慮して代替案を適切に検討する必要性がある。よって、F/Rを審査決定以前に情報公開し、利害関係者を含めて検討することは、F/Rを計画アセスメントの一部と考えたとき、そして、情報公開の意義付けからみても重要なプロセスである。こうした観点から借入申請の要請には、プロジェクト実施対象地域の住民へのF/Sを含めた情報公開プロセスなどが確保を条件とするか、JBIC自身がF/Sを公開し、パブリックコメントやコンサルテーションを行う必要があると考えるが、JBICとしては、最低限、案件ごとにファイリングし、要請に応じて、情報公開を行うべきであろう。また要約版を作成して当該案件が、どのような意義と検討を経たプロジェクトであり、どのような意義があるのかを示すことが必要である。また、借入側がこれを拒む場合には審査を行わないことを予め表明すべきである。

 F/RI/Pなどに関する情報公開は、単にプロジェクト承認前の審査プロセスにおいて重要であるだけでなく、承認後において、実際にプロジェクトがF/RI/P通りに実施されているのかどうかを住民や利害関係者などがモニタリングするためにも重要である。これは、EAや審査資料としての事前調査団報告書や、プロジェクト審査書(P/AProject Appraisal)などについても同様に言い得ることである。

 

●コンサルテーションについて

 カテゴリ−ABのプロジェクトに関し、借手国はコンサルテーションをできる限り早く行うことを求めており、カテゴリ−Aに関しては、(a)環境スクリーニング終了後、EA実施のための実施要領(TOR)を完成する前と、(b)EAの草稿が出された後の最低2回はコンサルテーションを行わねばならないこととしている。また、プロジェクト実施を通じてEAに関連するような問題を取り上げる必要がある場合には、借入側は、プロジェクトによって影響を受ける人々や地域のNGOとコンサルテーションを行う必要があるとしている(OP4.01)。

 また、IFCのマニュアルでは、カテゴリーAのプロジェクトについては、環境アセスメント期間及び建設・運営期間を通じたパブリックコンサルテーション・情報公開計画書(PCDP)を作成しなくてはならない。計画書には、@現地の情報公開・協議規定、A主要な利害関係者、B実施戦略とタイムテーブル、C計画実行のための資源及び責任、D公開・協議活動の詳細な記述を含んでいる。予備PCDPは、審査の前にIFCの環境部のレビューと承認が必要となっていると同時に、PCDPは審査の間も定期的に更新される必要があるとされている。

 

 JBICにおいても、こうしたコンサルテーション規定を盛り込むべきだろう。また、その報告を審査情報とし、また、その記録を公開しておくべきだと考える。ただこうしたコンサルテーションはF/Sに関しても行われるべきであり、また必要に応じて適宜行われることが必要である。また、情報公開計画といったものを策定する場合、その政策遵守を確認するためにも計画自身の情報公開をする必要がある。

 

●環境アセスメントの情報公開について[3]

 世銀においては、特にカテゴリーAに対する環境アセスメント(Environmental Assessment)の情報公開については、「借入人が例外的に異議を唱えない限り、公開される」。カテゴリーBに対する環境分析(Environmental Analysis)についても「借入人が、自ら作成した単独文書に含まれる環境分析の公開に異議を唱えない限り、公開される」と1994年の情報公開政策(Information Disclosure Policy1994Disclosure)では、述べられているだけであるが、1999年1月の業務政策(Operational Policy4.01)では、IBRDIDAのカテゴリーAのプロジェクトとIDAプロジェクトのカテゴリーBのプロジェクトでのEAレポートの影響を受ける住民と地域NGOへの公開は、これらのプロジェクト審査の前提条件と位置付けられており(OP4.01-18)、借入国が公開を拒否する場合には、(a)IDAプロジェクトについては案件の審査プロセスを継続せず、(b)IBRDの場合には、さらなる審査プロセスに関しては理事会に報告する(OP4.01-19)ことと定めている。

 アジア開発銀行(ADB)の情報公開政策においては、カテゴリーAのプロジェクトに関する環境アセスメントとして EIAsとその要約版(SEIAs)、カテゴリーBのプロジェクトに関する環境アセスメントとしてIEEsとその要約版(SIEEs)のすべてのプロジェクトに関して、借入人が現地において公開し、公式にアジ銀に送付された後、要請によって一般に公開すると定められている。

 

・現地での情報公開における言語とタイミングに関する政策

 借入国は影響住民とNGOに対しコンサルテーションに先立って関連情報を公開する。情報は、公聴会やコンサルテーションの前など、タイムリーに公開されるべきであり、また、それらはコンサルテーションの対象となる人々が入手可能で、且つ理解できる言語で作成される必要があるOP4.01-16)といった配慮がなされている。

 特に、カテゴリーAEnvironmental Assessmentは、借入先側によって、現地語で作成され、影響住民や地元のNGOが利用可能な公的機関に置くなどして公開されなければならない。カテゴリーBでIDAとして提案されたものでEAレポートがあるものは、影響を受けるグループと地域NGOにアクセス可能な公共の場所に利用可能にしなければならない (BP4.01-9)。(Disclosure-23)また、カテゴリーBのEAは、PIDPADに記述される(OP4.01-8b)。IBRDIDAのカテゴリーAのプロジェクトとIDAプロジェクトのカテゴリーBのプロジェクトでのEAレポートの影響を受ける住民と地域NGOへの公開は、これらのプロジェクト審査の前提条件と位置付けられている(OP4.01-18)。

 

 JBICにおいても、環境アセスメントの現地での情報公開とタイミングを適切なものとすることを借入国及び借入機関に対して確保させることを示しNGOや影響を受ける住民の参加を保障し、コンサルテーションを適切なものとする規定及び手続きを取り決めておく必要がある。と同時に、これらの実施を確保するために、こうしたコンサルテーションや現地での情報公開を業務進行及び審査のための前提条件とする必要がある。

 

・環境アセスメントの世銀による情報公開と、そのタイミングについて

 環境アセスメントについては、借入国・機関の所有物であるという観点、外交上の秘密事項として公開しないなどの判断を行う場合がある。しかし、世界銀行では、「もしも、借手側が世銀がEA報告書を公開することに反対した場合、世銀は(aIDAのプロジェクトを中断し、(b)IBRDプロジェクトに関しては、理事に対して、問題を提起する」(OP4.01-19)と定めており、世銀が、すべてのカテゴリーAと、カテゴリーBIDAプロジェクトでEAを持っているものについては、公式にEAを入手したらこれを公開する(BP4.01-9)

またカテゴリーAのEAについては、理事会で議論の予定日の60日前、カテゴリーBのEAについては、30日前にInfoshopで公開されることを確保する(BP4.01)としている。これは、アジア開発銀行では、環境アセスメントのサマリーの理事会への提出期限は、理事会の承認の120日前に設定されており、機密ルール違反がなければ、それらの文書が一般にも公開され得る。

 JBICにおいても、JBICとして環境アセスメントを入手後、直ちに情報公開を行うことを確保すると同時に、承認決定を行う会議の120日前に、JBICとして情報公開を行うことを確保し、また借入側がこれを拒む場合には審査を行わないことを予め表明すべきである。

 また、その120日の間に、当該プロジェクトに関する意見陳述のプロセスを確保し、公正な意思決定プロセスを実現できるようにすべきで、必要であれば、随時、コンサルテーションや調査を実施するシステムを構築しておくべきであると考える。それらを考慮すれば、情報公開のタイミングは非常に重要であり、承認に至る前に最善をつくすことが求められる。よって、承認予定日の最低120日〜180日前には、環境アセスメント文書と要約版の情報公開を行い、パブリックコメントや、コンサルテーションプロセスを実施しておくべきである。

 

・移転と先住民問題に関する政策の情報公開

Resettlement PlanIndigenous People Development PlanEAに含まれ、計画承認前に公開される必要がある(Disclosure-注釈10)。

 JBICとして、こうした情報についてもEA同様に速やかに情報公開を行う必要があり、コンサルテーションとパブリックコメントの機会を保障する必要がある。

 

     審査文書と契約文書について

 世界銀行では、審査資料であるProject Appraisal DocumentStaff Appraisal Reports(SARs)は、理事が計画承認後公開。Infoshopで入手可能となる。特に、カテゴリーAのプロジェクトの場合には、環境マネジメント計画(Environmental Management Plan: EMP)の要約がこのPADに含まれる。

 また、法的な合意文書(Legal Agreements)としてのLoan AgreementCredit Agreementも、計画承認後に公開となっており、Infoshopで入手可能である。そして、実施後においては、Implementation Completion ReportsICRs)やPerformance Audit Reports(PARs)などは今までは非公開だったが、次期の新・情報公開政策で公開になる予定である。

 一方、JBICにおいては、融資決定後においても事前調査団報告書や、プロジェクト審査書(P/AProject Appraisal)や、契約文書など(L/A)公開されていない文書があるが、審査終了後、速やかに公開対象とすることは最低限の措置である。しかし、本来は、PAD/SARsなどの資料やL/Aなどの文書は、ドラフトの段階で公開し、問題点があれば、異議申立てが可能になるようなシステムが望ましく、審査文書および合意文書についてもドラフト段階で情報公開を行っておくことが望ましい。

 例えば、事前調査団報告書や、プロジェクト審査書(P/AProject Appraisal)、JBIC環社室によるカテゴリー分類・モニタリング要否・環境配慮確認要否に関する意見通知書、環境配慮確認結果文書などの審査資料と、「環境保全対策などに係わる合意」、環境管理計画、交換公文E/Nなどを承認正式決定である役員会付議の2ヶ月前には、公開することが求められる。借款契約(L/ALoan Agreement)についても草稿段階で事前に公開して意見表明が可能な形とすべきであろう。

 また、「審査のために補完的な調査が必要と判断された場合には、国際協力銀行は案件形成促進調査(SAPROF を行うことがあ」るが、これに関しても速やかに情報公開されることが必要である。

 

■融資決定後

     モニタリング情報                                   

 世銀においては、Quality Assurance Group (QAG) Reportによってモニタリングを行うこととなっており、特に環境関連の情報については、Quality Assurance and Compliance Team (QACT)が担当することとなっているが、QACT独自のレポートは現在作成されてはいない。また、QAGのレポートは、マネジメントの討議プロセスと考えられており、総務会にも公開されていないことから、公開されていない。

 ADBにおけるプロジェクト進捗状況モニタリングに関しては、実施期間中には1年に2回程度プロジェクトを視察するADBのレビュー・ミッションが行われるが、その報告書が公開されているかどうか不明。

 このように現状においては、モニタリング情報に関する情報公開は不十分な状況にあると考えられる。

 しかし、こうした状況では、特定の理念を掲げた公的貸出機関としての責任を果たしているとは言えない。というのも、いくらEAF/Rで予防措置をとっていたとしても、予定通り、そうした予防措置が、きちんと実施されていくとは限らないし、予測していなかったような問題が発生する可能性も十分にあり得るため、理念や政策に反するような状況を引き起こすことになることが考えられる。プロジェクトの目標達成や、政策の遵守が行われているかどうかを貸出主体として確保していることを具体的に示し、アカウンタビリティを確保するためにはモニタリング情報の公開が必要である。

 

 JBICの円借款に関する文書としては、四半期ごとの事業進捗状況報告書(Progress Report)があるが、非公開とされているので、情報を公開対象とし、環境影響のモニタリング項目についても情報公開を行うべきである。というのもJBIC自身の政策を実施段階で遵守しているかどうかを確認するためには、こうしたモニタリング情報が公開されている必要がある。

 さらに、事業が遅延している案件について行われる「案件実施支援調査」(Special Assistance for Project Implementation)についても、同様に情報公開によって、アカウンタビリティの確保が必要である。

 

 一方で、現地住民などによる疑義を受け付けることによって、プロジェクト実施のあり方を修正させる手続きとしてInspection Panelのシステムが世銀に、Inspection PolicyのシステムがADBにはある。世銀の場合、IP関連のレポート(現地からの要請、マネジメントの対応、パネルの意見、理事会の決定等)については、理事会によるパネルの意見の検討後公開されることとなっている。

 モニタリング情報自体が借入側によって収集されることを考えると情報操作や隠蔽工作、あるいはモニタリング想定外の問題が発生してしまうことも考えられる。よって、査察に関する手続と政策を策定し、モニタリング情報自体の信憑性を様々な面から検討できるような体制を備えておくことが重要だと言えるが、同時に、それらの実施内容に関しても(個人情報に配慮した上で)情報公開対象とすることで、査察内容と、JBICによる判断の信頼性を高めることにもつながる。

 

●受注及び入札情報

 世界銀行の受注情報については、「主要な受注に関する情報(契約の種類、落札者の名称及び国際、契約価格)は、借入人が世銀に対し契約が調印された旨を通知した後、公開されることがある」とされている。

 JBICについては、円借款案件の受注企業について、年報に個別案件ごとの受注企業名の掲載・公表がなされており、「我が国の政府開発援助の実施状況に関する年次報告」にも掲載されているようだが、受注金額などによって公開対象に制限があった。しかし、総務庁行政監察局(97年)[4]の勧告に従い、「円借款案件の調達契約について、原則としてすべての受注企業名を基金本部等における閲覧方式等により公表」しているはずである。  

 このように入札情報についても、契約金額規模に関わらず、事後的にすべてを公開対象とすることで汚職の抑制効果が期待できる。同様に、入札評価報告書についても公開対象として、JBICの責任についても明確にすべきである。

 

●評価文書

 世銀においては、業務評価局(OED)の文書として、OED Process Evaluationsが、次期新情報公開政策より、理事会が否認しない限り公開されることとなっている。また、OED プレイシー(Precis)と呼ばれるOED評価報告概要は、特定のプロジェクトに関するものであるが、PICで公開されている。ADBでは、プロジェクト官僚報告書(PCRs)を実施担当者が作成し、プロジェクト遂行監査報告書(PPAR)を事後評価室が作成し、公開される。

 

 JBICの円借款案件では、完成時点において借入国(実施機関)から徴集する「完成案件報告書」による現況把握、完成後3年目及び7年目にアンケート調査方式で行う「完成案件現況調査」、完成案件を抽出して実施する「評価調査」による現況把握が行われている。また、プロジェクトの運営・維持管理上の問題点を調査し、具体的な改善・解決策を提案する「援助効果促進調査」(Special Assistance for Project Sustainability)も実施されているので、これら調査報告の情報公開を実施し、プロジェクト実施プロセスの事後的なチェックや改善のためのフィードバックに活用する意味でも重要である。 
円借款プロジェクト(プログラムを除く)における主要な文書リストと情報公開状況

 

 案件発掘のための調査団報告書                     <非公開>

 援助要請資料実施要領(TOR                     <非公開>

 要請状                                <非公開>

 フィージビリティ調査結果報告書(F/RFeasibility Study Report)  <非公開>

 プロジェクト実施計画書(I/PProject Implementation Program)  <非公開>

 環境影響評価報告書(EIAEnvironmental Impacts Assessment    <非公開>

 カテゴリー分類・モニタリング・環境配慮確認要否に関する意見通知書<非公開>

 環境配慮確認結果文書                      <非公開>

 環境管理計画                          <非公開>

 事前調査団報告書                           <非公開>

 交換公文ENExchange of Note及びプレッジ          <一部公開>

 JBIC(OECF)から借入国への法律質問状(L/QLegal Questionnaire)<非公開>

 JBIC(OECF)と借入国との一般協定(G/AGeneral Agreement     <非公開>

  JBIC(OECF)によるプロジェクト審査書(P/AProject Appraisal   <非公開>

 JBIC(OECF)と借入側との借款契約(L/ALoan Agreement        <非公開>

 JBIC(OECF)と借入側との環境保全対策などに係わる合意事項    <非公開>

 借入国のLegal Opinion, Evidence of Authority, Specimen Signatures  <非公開>

 借入国の支払い授権書(A/PAccount of payment)          <非公開>

 入札関連書類(借入国と各国のコンサル、ゼネコン、商社間のもの)  <一部公開>

 入札評価報告書                          <非公開>

 借入国と業者(各国のコンサルタント、ゼネコン、商社など)との契約書<非公開>

 借入国の契約承認申請(Application for Approval of Contract)     <非公開>

 JBIC(OECF)の契約承認通知(Notice of Approval of Contract)   <非公開>

 事業進捗報告書(Progress Report)                 <非公開>

 詳細設計(D/DDetailed Design)報告書             <一部公開>

 事業最終報告書(Final Report                                 <一部公開>

 事後評価報告書(Evaluation Report                            <一部公開>

 


世銀におけるプロジェクトサイクルと情報公開

Phase

一般に公開されている文書            →条件および公開方法

発掘

Project Information Document(PID)               →PIC

Monthly Operational Summary(MOS)  UN Development Business news

準備

Technical information (Feasibility Studyを含む)    →協議を経て公開。

Environmental Assessment       理事会審議60日前に公開 →PIC

 カテゴリA:Environmental Assessment

 カテゴリBEnvironmental Analysis

(借入国での公開、世銀公式受理が前提条件。例外的に借入人の異議で非公開)Environmental Data Sheets四半期ごとの改訂                     PIC

Revised PID                          →PIC

Resettlement plans                                    EAに付属

Indigenous peoples development              →EAに付属

審査

 

交渉

 

承認

Project Appraisal Report(PAD)Staff Appraisal Report(SAR)→承認後公開

Environmental Management Plan(EMP)     →承認後PICとして公開

President's Reports                →承認後

実施/監督

Legal Agreements                →契約締結後

事後評価

Implementation Completion ReportICRs>      →新政策より公開

OED Performance Audit ReportPARs>       →新政策より公開

OED Process Evaluations> →新政策より、理事会が否認しない限り公開

業務評価局評価報告概要OED プレイシー(Precis)   →特定プロジェクトPIC

Inspection Panel関連レポート  →理事会によるパネルの意見の検討後公開

(現地からの要請、マネジメントの対応、パネルの意見、理事会の決定等)

 

アジア開発銀行

 

    公開され得る文書

発掘

Project Profile →ADB Business Opportunities

                

概念明確化

Concept Clearance Paper

準備

IEE/SIEE    →理事会の会議の120日前に理事会に提出

EIA/SEIA    →理事会の会議の120日前に理事会に提出

Technical information FSなど)

貸付事実確認

Loan fact finding report

承認

Report and Recommendation of the President →承認後に公開

                   例外的に借入側との協議後公開

Loan, Technical Assistance and Private Sector Operations Approvals

ADB reviews

Project Profiles for commercial cofinancing

事後評価

Project Completion Reports (PCRs)

project/program performance audit reports (PPARs)

Impact Evaluation Studies

 



[1] 世銀の情報公開政策の目的として掲げられているものには、@開発に関する議論の活性化、理解を深める、A各国政府や諸機関との協調を促進すること、B途上国の経済社会発展を促進への一般からの支持醸成、CNGOや現地団体の参加促進によるプロジェクトの効果的実施、持続可能性確保を通じた業務の質的向上 D資金提供者、株主への報告義務、E組織内部スタッフの参加促進また、アジア開発銀行においては、@政策と業務における議論及び対話を活性化、Aよりよいプロジェクト実施、持続可能性のための意思決定における効果的な現場での参加を確保、Bドナー、借入国、NGO、学界、一般からの信頼獲得、C開発に関心を持つ者との協力関係を促進、D株主及び設立者への報告義務、となっている。そして、「政策」の項目で、「アカウンタビリティと透明性の確保のため、可能な限り広く人々に情報を公開する」とし、また、「プロジェクトと政策に関する情報を広報することは、プロジェクトの効果的な実施と持続可能性の確保のために必要不可欠である」としている。

[2] その附則の2で、「政府は、独立行政法人及び特殊法人の保有する情報の公開に関し、この法律の公布後二年を目途として、第四十二条の法制上の措置を講ずるものとする。」としており、 四十二条(独立行政法人及び特殊法人の情報公開) 政府は、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第一項に規定する独立行政法人をいう。以下同じ。)及び特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成十一年法律第九十一号)第四条第十五号の規定の適用を受けるものをいう。以下同じ。)について、その性格及び業務内容に応じ、独立行政法人及び特殊法人の保有する情報の開示及び提供が推進されるよう、情報の公開に関する法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。

[3]  環境アセスメントについては、セーフガードポリシーとして、適用されるべき政策及び手続きとして、Operational Policies(OP)4.01Bank Procegure(BP)4.01が、これまでの業務指令Operational Directives4.01などに代わって、1999年3月1日以降のPIDとして発行されたすべてのプロジェクトに適用されている。

[4] 総務庁行政監察局『ODAの仕組みと問題点』(1997 大蔵省印刷局)