2001.2.26

地球の友ジャパン

社会配慮に関して

 

l       ここでの課題

JBICが支援するプロジェクトにおいて重大な社会影響を防ぎ、また民主的で公正な社会的意思決定を保証するために必要な社会配慮に関して、環境ガイドラインに盛り込まれるべき事項を検討する。

事業者が社会配慮を行うためのガイダンスとしてはすでにHandbook on Social Dimensions for ODA Loansが発行されているので、これを参照しながら以下の点について検討する。

(1)      社会配慮の目的

(2)      社会配慮の手続きと審査項目

(3)      非自発的移住(別紙)

 

1.社会配慮の目的

 

l       ステイクホルダーの認識と支援

重大な社会被害を防ぐためには、初期事業計画の段階からステイクホルダーとの協議が行われることにより、計画の社会・環境・技術面が統合的に検討され、最終計画に反映されなくてはならない。

ステイクホルダー間に利害/関心の質、力(権力)、能力の差があることを十分認識した上で、自由で平等な意思決定への参加がなされるような社会配慮が必要である。

このため配慮のレベルを3つにわけて考えると、(1)計画に利害/関心を持つ誰もが参加する機会を確保すること(2)影響を受ける住民に対するプロアクティブな働きかけ(3)その中でも社会的に傷つきやすい集団に対する特別の配慮と整理できる。(1)についてはすでに情報公開・協議あるいは環境アセスメントの項目で議論しているので、ここでは特に(2)と(3)が中心的な課題となるだろう。

 

l       社会配慮に関して「ハンドブック」には次のような考え方が示されている。

経済・社会開発の基本的目標は生活水準の向上であるが、これを達成するためには開発の社会的側面に対応するための手段がプロアクティブに講じられなければならない。

社会配慮を行う目的は、主に経済インフラプロジェクトの場合、否定的な影響を認識し、回避し、軽減すること。(また主に社会開発型プロジェクトの場合として、プロジェクトの持続性・効率性を保証し、計画通りの成果をあげ、不利な立場にある人々がプロジェクトの便益にアクセスできるようにすることが挙げられている)。

社会配慮はプロジェクトの計画・実施・評価の全プロセスを通して行われるべきであり、特に初期段階に適切な配慮を講じることが重要である。

 

以上の考え方は、環境ガイドラインにおいても確認されていたほうがよいと思われる。

 

2.社会配慮の手続きと審査項目

 

l       社会配慮の手続き

「ハンドブック」は事業者がプロジェクトサイクルを通じてどのように社会配慮を行うべきかについて次のような事項を示している。

計画段階:@社会・文化状況に関する国レベルでの情報収集(統計資料、民族・文化・宗教に関する情報)。A対象地域レベルでの情報の収集、調査と分析。社会面の調査と計画の技術面とが互いに反映されること。社会調査の種類、基本的構成、手法を明らかにすること。

実行段階:予測された進展や影響だけでなく、予測されなかった影響についてもモニタリングを行う。モニタリング項目としてベースラインデータの収集、参加のレベル、社会平等、否定的な影響、実行メカニズム。

評価段階:プラス/マイナスの影響を引き起こした社会的要因の分析とそのためのベースラインデータの収集が行われなければならない。または影響評価調査を実施。分析項目として利益配分、否定的影響、計画策定プロセスの評価。

 

「ハンドブック」ではこのほかにも事業者に対し細かい注意やプロジェクトの種類に応じたアドバイスが示されているが、上記の項目はJBICの審査要件として明記されていた方がよいと思われる。

 

l       社会配慮に関する審査

さらに次のような審査項目を盛り込むのが適当ではないか。

 

プロジェクトの直接的・間接的受益者および直接的・間接的被害者の分析。

地域住民の懸念やニーズが把握され、計画に反映されること

貧困削減分析:貧困層、特に女性に与える影響を分析すること。

ジェンダー:地域の経済・社会活動が男女別に把握されていること。女性の経済・文化的地位、労働、健康への影響が分析されていること。文化によって女性のニーズを聞き取り、女性が意思決定に参加するための適切な措置が検討されるべき。女性世帯主の家庭について特別に留意すること。うる

先住民族:国内における法的地位が保障されている場合にとどまらず、土地及び自然資源を基礎とした固有のライフスタイルを持つ集団として先住民族が認識され、土地その他資源の占有および利用に関する集団的な自己決定権が保証されること。

 

 

その他    物理的な影響範囲の確認

(物理的な影響範囲が見誤られたためにステイクホルダーが見落とされる例が見られるので)セクター別チェックリストは、WCDが河川開発による影響の範囲を挙げているように、プロジェクトによる物理的な影響範囲を確認するために役立つようなものにする。


2001.2.26 FOEJ

非自発的移住及び生計手段の喪失に関して

 

 

 プロジェクトによる非自発的移住や生計手段の喪失は、ときに将来の世代に及ぶほどの長期にわたって、生活再建の困難や精神的苦痛を生じさせてきた[1]。自らの意思に反して経済的・社会的・文化的生活の基盤を失うことはもっとも深刻な基本的人権の侵害であり、あらゆる代替案と方法を検討することによって回避されなければならない。人々の生活の質を悪化させるような結果をもたらすプロジェクトをJBICが支援することは、開発協力の原則を損なう。非自発的移住及び生計手段の破壊を含む計画をJBICが支援できるのは、以下のすべての条件が満たされる場合だけに厳しく制限されるべきである。

1.      直接影響を受ける人々の事前の自由な合意が得られていること。影響を受ける人々やコミュニティーが、将来のリスクも含めて理解できるように、提案に関する十分な情報提供と説明、協議が行われること。移住者等の権利が十分に説明・保障され、脅迫や不正確な説明が行われてはならない。

2.      実施に係る法的なフレイムワークおよび事業者の責任遵守を監督する当該国の責任機関が明らかにされていること。また住民の苦情処理を受け解決を図るメカニズムが設立されること。

3.      影響を最小化し、被害を十分に補償するために、コスト面で裏づけのあるResettlement & Rehabilitation Planが策定されること。

4.      移住者等の生活の質をプロジェクト前より向上させ、少なくとも悪化させることのないよう、十分な補償及び支援が実際の移住の前に与えられなければならない。法的権利が保障されていることは補償や支援を受ける条件にはならない。

5.      移住者等が受ける補償及び支援には、土地や金銭による完全な損失の補償、持続可能な代替生計手段を支援し、完全に自立することができるように長期的・継続的な支援が提供されること、家屋やインフラ等の提供、移住費用の支援等が含まれる。

6.      R&R Planの作成、実行、モニタリングには影響を受ける人々やコミュニティーの対等な参加のもとに行われること。移住前の社会単位および社会文化制度が維持されるような方法が、住民との協議のもとに検討、支援されること。

7.      少数民族、女性、高齢者、貧困層などの集団がしばしば国内法の保護を受けられず、また情報へのアクセスや意見表明の機会が均等に得られない等不利益を受けやすいことに注意をはらい、これらの集団の参加の機会が保証されまた重大な不利益を被ることがないよう特別の配慮を行うこと。また先住民族の居住地が影響を受けるおそれがある場合には、土地と自然資源の利用に対する集団的権利を保証し、十分な情報提供と説明に基づく。

8.      JBICは環境・社会開発室のスタッフを含むミッションを少なくとも最初の5年間は半年に1度派遣し、政府及び事業者だけでなく住民組織からも直接意見を聴取して監督を行うこと。

 



[1] WCD最終報告書は立ち退きに伴う貧困化リスクとして、土地なし、失業、家なし、社会的・経済的・政治的周辺化、食料の不安定、増加する疾病率と死亡率、共有資源のアクセス消失、社会文化的な回復力の消失を挙げている。