世銀グループセーフガードポリシー                        ()地球・人間環境フォーラム仮訳

OD4.20先住民族Indigenous Peoples19919月)

 

はじめにIntroduction

1.本指令では、先住民族に影響を及ぼすプロジェクトに関する世銀1の政策や処理手続きについて述べる。そして、基本的な定義や政策目的、先住民族に関するプロジェクトの規約・要素の設計や実施に関するガイドライン、プロジェクトの進行及び文書の要件について記述する。

2.この指令では、(a)先住民族が開発プロジェクトから利益を得ることを保証するため、(b)世銀が援助する活動によって生じる可能性のある先住民族への悪影響を回避または緩和するため、の政策ガイダンスを提供する。世銀による融資が、先住民族や部族、少数民族、または社会・経済状況によって土地や他の生産資源における利益や権利を主張することを妨げられてしまう他のグループに影響を与える場合は、特別な措置が必要となる。

 

定義Definitions

3.「先住民族」、「先住少数民族」、「部族グループ」、「指定部族」という語は、開発プロセスにおいて彼らを不利な立場に置きやすい優勢的な社会とは異なった、社会・文化的アイデンティティーを持つ社会グループを示す。本指令では、「先住民族」とはこれらのグループを指すために使われる用語である。

4. 世銀の借入国の多くは、自国の憲法や国内法、関連する法律に、先住民族を特定するための予備的基準を提供する特定の定義条項や法的枠組みを含んでいる。

5.先住民族が存在する状況は多様に異なり、変化するため、ひとつの定義では彼らの多様性をとらえることはできない。先住民族は通常、もっとも貧しい人々の一部である。彼らは、森林の中またはその周辺での移動農業から、賃労働または小規模の市場経済活動まで、幅広い経済活動に従事している。先住民族は、以下の様々な特徴により、特別な地理的地域において特定することができる:

a.     先祖から受け継ぐ領地及びその地域における天然資源に対し、親密な愛情を持っている

b.     明確な文化的グループの一員として、自己及び他人によって特定される

c.     多くの場合、公用語とは異なる土着の言語を持っている

d.     慣習的な社会・政治的制度が存在している

e.     主に自給自足優先の生産を行っている

タスク・マネージャー(TM)は、本指令を適用する人々を特定する際、良識をもって対応すべきであり、またプロジェクト・サイクルを通じて人類学的・社会学的専門家を採用すべきである。

 

目的と政策Objective and Policy

6. 先住民族に対する世銀の広義の目的は、加盟国のすべての人々について、開発プロセスが彼らの尊厳や人権、文化的独自性に対して十分な尊敬を払うよう推進するのを保証することである。さらに具体的に言えば、本指令の中心を成す目的は、先住民族が開発プロセス、特に世銀の融資プロジェクトの進行中に悪影響を受けることがないよう、そして彼らが文化的に矛盾することのない社会・経済的利益を受けるよう保証することである。

7.開発プロジェクトによって影響を受ける先住民族にいかに接触するかは、賛否両論のある問題である。論争は、二つの対極的な立場によって、しばしば表わされる。ひとつは、文化・経済的慣行によって有力な外部のグループに対処することが難しい先住民族を分離させることである。このアプローチの利点は、先住民族が特別に保護され、文化的特殊性が保存されることであり、その損失は開発プログラムの恩恵を受けられないことである。もうひとつは、先住民族が国内の開発に参加できるよう、支配的な社会価値や経済活動に適応しなければならない、とする立場である。ここでは、利益としては社会・経済的機会の改善を含むことができるが、損失はしばしば文化的相違が徐々に失われてしまうことである。

8.先住民族に関する問題に取り組むための戦略は、先住民族自身のきちんと情報が与えられた上での参加を基礎としなければならない、というのが世銀の政策である。このように、直接的な協議を通じて地元の優先事項を特定し、伝統的知識をプロジェクト・アプローチにとり込み、経験を積んだ専門家を早期に適切に活用することは、先住民族及び彼らの天然資源や経済上の資源を所有する権利に影響を及ぼすようなプロジェクトに関する中心的な活動である。

9.特に、もっとも孤立したグループについて取り組む場合や、悪影響がやむを得ないのもかかわらず、適当な緩和計画が開発されていないような場合に、問題が生じる。そのような状況では、世銀は借入人によって適切な計画が開発され、その計画をレビューするまで、プロジェクトをアプレイザルすることはない。その他の場合、先住民族は開発プロセスに組み込まれることを望み、またそうなることは可能である。つまり、借入人は一連の積極的活動で、先住民族が開発融資から利益を受けるよう保証しなければならない。

 

世銀の役割Bank Role

10.世銀は、(a)国別経済・セクター融資業務、(b)技術援助、(c)融資プロジェクトの要素または規約−を通じて、先住民族に関する問題に取り組む。先住民族に関わる問題は、世銀と関連のある様々なセクターにおいて浮上する。そのセクターには農業や道路建設、林業、水力電力、鉱業、観光、教育などが含まれ、その環境は慎重に審査されなければならない。2先住民族に関連する問題は通常、環境アセスメントまたは社会影響アセスメントのプロセスを通じて特定され、環境的な緩和措置のもとに適切な手段が講じられなければならない(OD4.01「環境アセスメント」(発表予定)を参照)。

11.国別経済・セクター融資業務。国別局は、先住民族の問題に取り組む政府の政策や政府機関における傾向に関連した情報をしなければならない。先住民族に関する問題はセクター及び準セクターの業務の中で明確に解決され、世銀と各国との対話に持ち出されなければならない。国内の開発政策の枠組みや先住民族のための機関はしばしば、先住民族問題に対処する要素を持つプロジェクトを設計、処理するためのさらに強力な基礎を築くために、強化される必要がある。

12.技術援助。世銀が、先住民族に関する問題を処理する借入人の能力を開発するための技術援助を提供するのは可能である。技術援助は通常、個別プロジェクト準備において提供されるが、関連する政府機関を強化または先住民族自身によって行われる開発イニシャチブを支援することも必要とされる。

13.融資プロジェクト。先住民族に影響を及ぼす融資プロジェクトについて、借入人は世銀の政策に適合する先住民族の開発計画を準備しなければならない。先住民族に影響を及ぼすいかなるプロジェクトも、そのような計画を具体化する要素または規約を含めるよう要求される。プロジェクトによって直接利益を受ける者の大部分が先住民族である場合、世銀の懸念はプロジェクトそれ自体によって解決されることとなり、本ODの規約はその全体においてプロジェクトに適用されることになる。

 

先住民族開発計画Indigenous Peoples Development Plan3

必要条件Prerequisite

14.先住民族に関する開発計画が成功するための必要条件は以下の通りである:

a.     プロジェクトの設計で鍵となるステップは、プロジェクトによって影響を受ける先住民族が選ぶ選択肢に関する十分な考慮に基づき、文化的に適切な開発計画を準備することである。

b.     調査では、プロジェクトによって引き起こされる可能性のある悪い傾向を前もって処理し、悪影響を回避または緩和するための手段を開発する努力をしなければならない。4

c.     政府の先住民族との相互関係に責任を持つ機関は、提案された開発活動を実施するのに必要な、社会的、技術的、法的能力がなければならない。実施規定は常に簡潔でなければならない。その規定には通常、先住民族に関連する事項を専門とする、適当な既存の機関や地方組織、非政府組織(NGO)を関与させなければならない。

d.     社会組織や宗教的信仰、資源利用に関する地域のパターンは、計画を設計する際、考慮されなければならない。

e.     開発行為では、先住民族のニーズや環境によく適合した生産システムを支援し、持続可能なレベルに達するように生産システムを支援しなければならない。

f.      計画は、プロジェクトの存在に先住民族が依存してしまう、またはその状態を悪化させてしまうのを避けなければならない。早期にプロジェクトの管理が現地の人々に引き渡されるよう、計画は促さなければならない。必要に応じて、計画はプロジェクトの最初から、先住民族を対象に一般教育や管理技術研修を含まなければならない。

g.     先住民族に関する計画が成功するには、広範囲にわたる再調査のための準備とともに、長期の準備期間がしばしば必要とされる。過去の経験がほとんど役に立たないような、遠隔または軽視される地域では、開発の提案を微調整するための追加的な調査やパイロット・プログラムが必要である。

h.     効果的なプログラムがすでに機能している場合、世銀の支援は新しいプログラム全体の開発よりも、プログラムを強化するための増資方式を採用することができる。

 

内容Contents

15.開発計画は、主な融資の準備と平行して準備されなければならない。多くの場合、先住民族の権利の適切な保護には、プロジェクトの主要目的以外の特別なプロジェクト要素を実施することが必要である。その要素は、健康と栄養、生産的なインフラ、言語と文化の保護、天然資源の所有権、教育などに関連する活動を含むことができる。先住民族の開発に関するプロジェクト要素は、必要に応じて以下の要素を含まなければならない:

a.     法的枠組み。計画は以下に関するアセスメントを含まなければならない。(@)当該国の憲法や法律、従属的な法律(条例や行政命令など)に反映されるように、本ODによって取り上げられるグループの法的地位、(A)そのようなグループが自分たちの権利を擁護するための法的システムを利用できる手段を獲得し、効果的に利用する能力。先住民族が暮らす土地を利用・開発し、不法侵入者から守られ、彼らの命と子孫に不可欠な天然資源(森林や野生生物、水など)を利用できる、権利について、特に注目されなければならない。

b.     ベースライン・データ。ベースライン・データには、(@)プロジェクトの影響のある地域や先住民族が居住する地域の、正確かつ最新の地図及び航空写真、(A)社会構造や人々の収入源についての分析、(B)先住民族が使う資源のインベントリーと彼らの生産システムに関する技術的なデータ、(C)先住民族の、他の地方・国内グループとの関係、を含まなければならない。先住民族が従事している幅の広い生産や市場活動をベースライン・データによって示すことは、特に重要である。任命された社会・技術の専門家による現地調査では、二次的資料を証明し、最新のものにしなければならない。

c.     土地所有権。地方の法律が強化される必要がある場合、世銀は先住民族の習慣的または伝統的土地所有システムの法的認定を確立する際、借入人に対し、助言・援助するよう申し出なければならない。先住民族の伝統的な土地が法律によって国家の所有となっている場合、そして伝統的権利を法的所有の権利に置き換えることが適切でない場合は、管理人としての任務を長期的に、継続できる権利を先住民族に与えるために、代替的な措置が講じられなければならない。このようなステップは、認知された土地の権利を条件とするような他の計画段階が始められる前に、行われなければならない。

d.     地元参加のための戦略。プロジェクトの計画を通じ、先住民族が意思決定に参加するメカニズムが考案・整備されなければならない。大きな先住民族グループの多くには、地元の優先事項を伝えるための有効な伝達経路を提供する、彼ら自身の代表組織がある。伝統的な指導者は人々を集めるための中枢的地位を占めており、先住民族の真の代表を確保することを真剣に憂慮して、計画プロセスに関与するように促されるべきである。5しかし、十分な地元レベルの参加を保証するための誰でもすぐに使える手段は存在しない。地域環境課(RED)を通じて提供される社会的・技術的助言は、しばしばプロジェクト地域について適切なメカニズムを開発するために必要とされる。

e.     開発または緩和措置の技術的特定。技術的提言は、世銀の条件にあった専門家による現地調査により行われなければならない。教育や研修、健康、クレジット、法的援助などの提案されたサービスについて、詳細な説明が準備・審査がなされなければならない。生産的なインフラへの融資については、技術的説明が含まれなければならない。先住民族の知識を参考にする計画は、新しい原則や規則を包括的に導入するような計画よりずっと効果的である。例えば、伝統的な方法で健康管理をつかさどる役目を負う人の潜在的な貢献は、健康管理の分配システムにおいて考慮されなければならない。

f.      組織の能力。先住民族について責任を持つよう指名された政府機関は弱小であることが多い。その組織の実績や能力、ニーズの評価は基本的要件である。世銀の援助を通じて解決されるべき組織の問題は、(@)融資と現地作業に関する資金の有効性、(A)経験を積んだ専門職員の妥当性、(B)先住民族自身の組織、地元行政当局、NGOの関係政府機関との交渉・交流能力、(iv)実施機関が計画の実施に関わる他の機関を動員する能力、(D)現場にいることの妥当性、である。

g.     実施スケジュール。先住民の開発のプロジェクト要素には、適当な間隔ではかられる進行状況の基準のある実施スケジュールが含まれなければならない。先住民族のためのプロジェクト要素を段階的に計画するための情報を得るために、本来の融資にあわせてパイロット・プログラムがしばしば必要になることがある。計画では、出融資終了後のプロジェクト活動が長期間持続することが追求されなければならない。

h.     モニタリングと評価。6先住民族を担当する機関が歴史的に十分機能してこなかった場合、通常は別個の独立したモニタリング能力が必要とされる。先住民族自身の組織の代表によるモニタリングは、プロジェクトの運営について、土地固有の利益を受ける見込みのある者を理解するために有効な手段となり得る。そしてそのモニタリングは世銀によって推進される。モニタリング・ユニットには経験を積んだ社会科学の専門家が配置され、プロジェクトのニーズに適した報告形式やスケジュールが作成されなければならない。モニタリング及び評価報告書は、実施機関の上級マネジメントと世銀によって合同でレビューされなければならない。評価報告書は公衆が入手可能なものでなければならない。

i.      費用の見積もりと融資計画。計画には、計画された活動と融資に関する詳細な費用の見積もりを含めなければならない。見積もりは、プロジェクトの年度によりユニットごとに分けられ、融資計画と関連がなくてはならない。先住民族に投資共同資金を提供する回転信用基金などのプログラムは、資金の振替や補充のための会計処理やメカニズムを示さなければならない。通常、先住民族の問題に取り組むプロジェクト要素において、できるだけ多く、直接的な資金参加の割り当てを持つことは有用である。

 

プロジェクトの進行と文書Documentation

特定Identification

16.プロジェクトを特定する間、借入人は先住民族に関する世銀の政策について十分に情報を与えられなければならない。影響を受ける可能性のある人やその人たちのいる場所の概数は、プロジェクト地域の地図上で特定し、示されなければならない。影響を受けるグループの法的地位もまた、議論されなければならない。タスク・マネージャーは、政府の関連機関や、その政策、手続き、プログラム、そして提案されたプロジェクトによって影響を受ける先住民族に関する計画を確認しなければならない(パラグラフ11及び15a)を参照)。タスク・マネージャーはまた、地元のニーズや優先事項を特定するために必要な人類学的研究も行わなければならない(パラグラフ15b)を参照)。タスク・マネージャーは、地域環境課(RED)と協力して、第一次管理プロジェクト概要(IEPS)の中で、先住民族の問題や全体的なプロジェクトの戦略を示さなければならない。

 

準備Preparation

17.もしIEPS会合において、特別な措置が必要であると合意されれば、先住民族の開発計画またはプロジェクト要素はプロジェクトの準備期間中に開発されなければならない。世銀は実施要領の準備の際、必要に応じて借入人を援助し、専門的な技術援助を提供しなければならない(パラグラフ12を参照)。先住民族に関連する事項について専門知識を持つ人類学者や地域のNGOが早期に関与することは、効果的な参加と地域開発の機会のためのメカニズムを特定するのに役立つ手段である。世銀は先住民族の土地の権利を含むプロジェクトにおいて、借入人と共に、できるだけ早く土地所有権を通常の基盤にのせるために必要な手段を明らかにしなければならない。というのは、土地をめぐる紛争によって頻繁に、条件として適切な土地所有権を伴う措置の実施が遅れてしまうことがあるためである(パラグラフ15c)を参照)。

 

アプレイザルAppraisal

18.先住民族のための開発要素に関する計画は、プロジェクト・アプレイザルの前に、プロジェクト全体のフィージビリティー(実施可能性)報告書と合わせて、世銀に提出されなければならない。アプレイザルでは計画の妥当性や、政策及び法的枠組みの適合性、計画の実施を担当する機関の能力、配置された技術的、財政的、社会的資源の妥当性について評価しなければならない。アプレイザル・チームは、パラグラフ14a)で述べられているように(パラグラフ15d)も参照)、先住民族が計画の開発に有意義に参加したことを確認しなければならない。土地の獲得や利用を調整するために提案を審査することは特に重要である。

 

実施と監督Implementation and Supervision

19.監督計画には、プロジェクトの実施期間中に行われる世銀の監督ミッションにおける、適当な人類学的、法的、技術的技能を含む規約を含まなければならない(パラグラフ15g)と(h)及びOD13.05「プロジェクトの監督」を参照)。タスク・マネージャーと専門家による現地調査は必要不可欠である。中間評価及び最終評価では進行状況を評価し、必要に応じて修正措置を勧告しなければならない。

 

文書化Documentation

20. 先住民族の開発計画を実施するための借入人のコミットメントは、貸付文書の中に反映されなければならない、そして法的条項では、監督の間に監視され得る明確な基準を世銀の職員に提供しなければならない。スタッフ・アプレイザル報告書、メモランダム、総裁勧告書では先住民開発計画またはプロジェクト条項が要約されていなければならない。

 

1.「銀行(世銀)」にはIDA、「貸付」にはクレジットを含む。

2.先住民族の移住は特に不利なものになり得る、そしてそれを回避するために特別な努力がなされなければならない。先住民族を含む移住関連の事項に関する追加的な政策ガイダンスについては、OD4.30「非自発的移住」を参照。

3.先住民族の要素を準備するための地域的な特定の技術ガイドライン、及び優良事例の事例研究は、地域環境課(RED)から入手することができる。

4.先住民族及び環境アセスメントの手続きに関するガイダンスについては、OD4.01「環境アセスメント」、及び世界銀行の「環境アセスメント・ソースブック」(技術ペーパー No.139 Washington, D.C., 1991)の第7章を参照。

5.世界銀行の「環境ソースブック」(技術ペーパー No.139 Washington, D.C., 1991)の中の「コミュニティーの関与と環境アセスメントにおける非政府組織の役割」も参照。

6.OD10.70「プロジェクトのモニタリングと評価」を参照。

 


コンサルテーションコメント

IFCは土地所有権に関連して、地域住民/先住民族について関与していないように見受けられる。

世界銀行グループ(IFCを含む)は現在、先住民族に関する政策の改訂版を作成中であり、この政策が適当な草案形式になった時点で、一般市民と協議する。この政策は、先住民族特有の土地所有権及びその他の権利を扱う。当面の間、IFCの全プロジェクトは引き続き、世界銀行OD4.20「先住民族」の最新版に従わなければならない。