国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係わる研究会御中

標記につき、以下に記します。宜しくお取り計らい下さい。

氏名:長瀬 理英
所属:地域自立発展研究所
メールアドレス:YIH00161@nifty.ne.jp

2001
718
長瀬 理英

「国際協力銀行の統合ガイドラインに関する研究会の提言:2001713日版」へのコメント

 全体として、環境社会配慮の実効性の確保、つまり実際に実施されることを保障する側面が弱いと思います。なかでも重要なのは次の点です。
1) 環境社会配慮を行うための資金(予算)確保
2) 影響を受ける住民・社会的弱者などの参加を保障すること
3) 「情報公開と協議」における協議の在り方/ 異議申し立て対応のための組織設置
4) モニタリングとフォローアップの義務化
5) ガイドライン違反への対処

1)環境社会配慮を行うための資金(予算)確保

 環境社会配慮の実施が形骸化されていく原因の一つには、資金的裏付け(予算計上)がないことがあります。その背景には、環境社会配慮に必要な費用すべてを事前評価の段階できちんと見積もっていないことがあると思います。
 事前評価段階での環境社会配慮費用に関する見積もりは、実施面での予算確保に必要な額(財務費用)だけでなく、経済費用(1国経済の視点からの「経済評価」に使用する)についても行うべきで、こうした費用を含めた財務評価、経済評価を本来は行うべきです。ところが、こうした費用(対策費用を含む)が含まれていない場合が多いのではないかと思われます。
 したがって、41314行目「事業の経済的、財政的、社会的及び技術的分析との密接な調和」という抽象的な文言だけではなく、以上の点を具体的に規定する必要があると思います。また、6頁「3.5 銀行による環境社会配慮のレビュー」の「基本的事項」の中でも、資金の確保/予算措置を「融資等の決定後も適切に実行されるかどうかを確認する」項目として挙げるべき(2427行目)。さらには、15頁「3.9 意思決定、融資契約等への反映」においても、融資契約で資金が確保されていることを条件とするのは当然のことだと思います。

2) 影響を受ける住民・社会的弱者などの参加を保障すること
 11頁の「3.7.3 カテゴリAに必要な環境アセスメント報告書の要件」では、「公開協
議」と「スコーピング時期およびドラフト作成時期に公開協議すること」を分け、前者を「必須要件」、後者を「望ましい要件」としています。しかし、世界銀行は両者を必須要件としているのであり、同行がほとんどの途上国に融資していることを考えると、各国政府はそれを実施できているものと見なせます。したがって、本ガイドラインの趣旨からすれば、環境社会配慮にとってより望ましいもの(世界銀行の規則)に準ずるべきであり、わざわざハードルを低く設定し、環境社会配慮のレベルを低めるのはおかしいのではないでしょうか。
 113839行目の「事業が実施される国及び地域の人々が理解できる言語と様式で書かれていなければならない」とありますが、内容自体が高度に専門的なために理解できない場合も多いと考えられることから、特に影響を受ける人々を対象に内容についての質疑応答を行う場を継続的に設ける必要があると思います。
 1257行目「地域住民等のステークホルダー等と実質的な協議や合意形成がみなされているかどうかについては国際協力銀行が環境レビューにおいて確認する」とありますが、これでは不十分であり、確認のための基準や手続を定める必要があります。特に、負の影響を受ける人々や異議を唱える人々(とりわけ、貧困層や先住民族などの社会的立場の弱い人)の発言の機会が確保され、それが相手国政府や実施主体の意思決定に反映されることをチェックできる仕組み作りが必要だと思います。
 「3.4 対象事業に求められる環境社会配慮」において、「社会的合意および社会影響」、「非自発的移住」、「先住民族」とありますが、あまりにも記述が少なくしかも抽象的で、具体性・実効性に乏しいものとなっています。ジェンダーなど、ここに含まれていない重要なテーマを含め、別項目で詳細なガイドラインを作成する必要があると思います。

3)「情報公開と協議」における協議の在り方/ 異議申し立て対応のための組織設置
 141617行目「なお、情報提供に基づく協議については、特に期限や手続を定めずとも国際協力銀行で、アドホックに対応することが可能であろうから、特段の記述は検討していない」というのは、責任逃れにつながると思います。ここで情報公開と協議がセットになっているように、公開により生じる様々な反応をどのように活かして行くかがポイントだからです。
 したがって、異議申し立てに対し、「4.1 適切な実施・遵守の確保のための方策」にある「異議申し立てへの対応のための組織」という外部委員会による判断は、情報公開と不可分の関係にあるという認識が必要であり、その観点から、外部委員会の勧告に基づいて問題解決に至るまで協議を行い、その間は融資をしない、といった文言を盛り込むべきではないでしょうか。
 異議申し立てへの対応のための組織については、19頁で提言されている2機能に加え、勧告がどのように実施されているか進捗状況を定期的に監視し、必要に応じて改善勧告等を出すことが必要となるのではないでしょうか。
 また、19頁にある「民間主導の事業の場合、困難であるとする意見も強い」という主張は理解に苦しみます。これは、サンロケ・ダムのように、大きな問題を伴う(プロジェクトファイナンス等による)大規模プロジェクトが例外となることにつながり、断じて受け入れられないものです。


4)モニタリングとフォローアップの義務化
 モニタリングの意義を「予め予測が困難であった事態の発生の有無、事前に計画された緩和策の実施状況及び効果を確認し、その結果に基づき、事業へ適切なフィードバックを行い、適切な対策がとられるようにすること」としておきながら、他方で「すべての案件について銀行がモニタリングを行うことは、効率的でも現実的でもない」と切り捨てているのは本末転倒ではないでしょうか。なぜならば、環境社会配慮対策の実効性が確保されているかどうかをチェックする手段としてモニタリングとフォローアップがあり、これなくして実効性をどのように保障できるというのでしょうか。最低限、カテゴリAのプロジェクトについては、すべてモニタリングするという義務を負わなければならないと思います。もし、できなければ、融資するプロジェクトがJBICのキャパシティに対して多すぎるということであり、融資プロジェクトを減らすべきではないでしょうか。
 また、1718頁の「3.10.5 モニタリングとフォローアップの記述」は、以下の点が弱いので書き換えるべきだと思います。
174142行目「事業者によるモニタリング結果は、地域住民等ステークホルダーに公開さてれいることが望ましい」「望ましい」ではなく、「公開しなければならない」に。
1868行目「第三者等から、環境社会配慮が十分ではないとの指摘その指摘を借入人に伝達するなどの方法による適切な対応を促すよう努める」適切な対応を促すだけでは不十分。JBIC自ら、その指摘の事実関係について調査(当該第三者への聴取等含む)し、その結果に基づいて借入人等に対し適切な対応を要求するなど、貸手としての責任を果たす。あるいは、異議申立てを受け付ける外部委員会の対応に一本化することも考えられる。

5)ガイドライン違反への対処
 「3.9.1 意思決定、融資契約等への反映の基本的考え方」において、「融資等を行わないと意思決定することもあり得る」/「融資の停止あるいは破棄を行うことがある」とありますが、その際の基準、あるいは「融資等を行わないと意思決定しない」/「融資の停止あるいは破棄を行わない」のは、どのような場合/条件下か、どのような手続き(特に、期限/タイム・フレームワーク)で意思決定されるのか不明確です。
 JBIC自身がガイドラインを遵守しない可能性については、「4.2.2 環境社会開発室の役割等」で品質管理を行う専門組織(21頁1行目〜)の設置が提案されていますが、内部だけで解決できるのかどうか不安も残ります。外部者による監視あるいは、すくなくとも「総裁あるいは担当理事に報告する」というのに、「一般に情報公開する」を付け加えるか、あるいは一般からの申し立て・意見に対処する義務を負わせることも考えられると思います。

4) その他
12頁「特殊な案件に関する環境レビュー」について、民間主導のプロジェクトの周辺プロジェクトの環境レビューについて触れらていません。これは、例えば民間主体の発電プロジェクトに連結する送配電プロジェクトへのODA融資です。この場合、本体プロジェクトの社会・環境影響は大きな場合があるので、それを含んだ環境レビューが必要となるのではないかと思います。
13頁の「情報公開と協議に関する基本的考え方」で、「第三者に対し、求めに応じて国際協力銀行は可能な範囲で環境社会配慮に関する情報の提供を行う」(4243行目)とありますが、情報公開できない情報とは何でしょうか?明確にすべきだと思います。
14頁の「3.8.2 情報公開の時期と内容」で、「少なくとも意思決定(役員会決定)の45日前までに公開する」とありますが、45日というのは短すぎると思います。報告書が英語という外国語で書かれていることなどから、カナダや豪州の場合(英語が自国語)と同じにすべきではありません。少なくとも120日は必要なのではないでしょうか。
1516頁の「プレッジとの関係について」は、MOUMemorandum of Understandings
)も含めるべきだと思います。サンロケ・ダムの場合、融資決定前に保田前総裁はフィリピン側とMOUを結んだという事実があります。

以上