国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会 第10

議事録

 

日時:2001314日(水)午後5時〜7

場所:国際協力銀行7階 中会議室

出席者:

メンバー(敬称略、アイウエオ順)

 伊藤 美月/外務省経済協力局有償資金協力課

 入柿 秀俊/国際協力銀行開発業務部企画課長

 大村 卓/環境省地球環境局環境協力室室長補佐

 加藤 隆宏/財務省国際局開発政策課係長

 木原 隆司/財務省国際局開発企画官

 寺田 達志/環境省地球環境局総務課長

 原科 幸彦/東京工業大学大学院・総合理工学研究科教授

 前川 /財務省国際局開発金融課

 前田 匡史/国際協力銀行金融業務部企画課長

 松本 郁子/地球の友ジャパン

 松本 悟/メコン・ウォッチ

 本山 央子/地球の友ジャパン

 森 尚樹/国際協力銀行環境社会開発室第2班課長

当日参加者(敬称略、アイウエオ順)

 遠藤 功/(社)海外コンサルティング企業協会研究員

 洲濱 隆/国際協力銀行環境社会開発室環境第1班副参事役

 三好 裕子/国際協力銀行金融業務部企画課調査役

議事録作成:

 坂本 有希、中島 瑞穂/(財)地球・人間環境フォーラム

 

<モニタリングについて>

前田:最初はメコン・ウォッチの松本(悟)さんからのコメントです。

松本(悟):現場で開発を見てきた経験をもとにモニタリングについて提案をするという趣旨でまとめてみました。<「JBIC環境ガイドライン研究会『モニタリング』」に沿って説明>

前田:地球の友の本山さんにお願いします。

本山:<「モニタリングについて−プロジェクト実施段階におけるアカウンタビリティー確保の観点から」に沿って説明>

前田:事前の情報どおりにきちんと実行できているのかを定点観測していくというイメージでモニタリングを考えていたが、内容的にプロジェクトの事後評価とモニタリングが少し混在している印象を受けた。モニタリングは審査のフォローアップということで、カテゴリ分けごとにしかるべき形があるはず。事後評価とは別ではないか。

松本(悟):プロジェクトサイクルを計画、実施、評価をして、そこからもう1回計画を立てるサイクルとして見る場合、それがらせん状になるという発想がある。つまり実施、評価をしたあとに同じ円に戻らなくていい。その時の社会情勢の変化やプロジェクト上で出てきたいろいろな問題によって、もう一度修正することもあり得る。

 コミニティレベルの開発ではそういう発想をするので、計画を遵守するのも大事だが、それと違った場合にどう柔軟に対応できるかもモニタリングの役割だというのが私自身の理解である。

前田:第一義的な情報は定期的に事業主体から出してもらって定点観測をして、時どき抜き打ち的に本当に事実がそうかということを確認しているが、それには限界がある。

松本(郁):カテゴリ分類をした上で、カテゴリAに関してはフルのEIA(環境影響評価書)を要求しようと言っている。社会的な影響も含めた影響をきちんと調べることをフルのEIAと呼ぼうと議論してきたと思うが、その時に定点観測をするだけで、EIAで評価された影響が全部評価できるか、モニタリングできるかというと、できないだろう。

入柿:例えば自然環境について、通常いちばん問題になるのはそのプロジェクトの結果どういう影響が出るかという話で、それは事業が完了したあと、しばらく経って事後評価をした段階でわかることである。一方で、社会影響に関しては、事業完了前の工事中はあまり大きな影響はないかもしれないが、事業の一環としてモニタリングをしなければいけない。そのへんは区別して考えたほうがいいと思う。

原科:完了前と完了後で違うだろうが、モニタリングという概念は「事後のフォローアップ」という言い方をする。そういう概念で物理的、社会的な影響をトータルでチェックするのだから、モニタリングは事後評価につながる話ではないのか。今回の研究会の議論の中で事後評価の議論をする場はないから、幅広く考えておかないとだめだと思う。

前田:事後評価はプロジェクト完成後及びその後何年後かに、環境だけではなくて本当に予定どおりの効果が出たかなどいろいろな評価をやる。

原科:フィジカルなモニタリングだけなら話は簡単だと思うが、難しいのは社会的な影響である。

前田:情報を常に求めていくということだから、当然求めなければいけないが、それは審査したことが本当にそのとおり行われているかどうかということと表裏の関係にある。そうすると、カテゴリによってモニタリングの対応も変わってきているのではないか。

 もう一つは危機管理としての側面で、本当はないと思っていたけれども実際は大きな影響が出たというケースである。

原科:フィジカルな影響でも機器だけで計測できないものがあるのだから、地域住民の生活の中で出ている影響をチェックするのはなおさらだろう。

木原:そこについては地域住民に限らず、そのプロジェクトの実施中に、それに関心を持っている人の声を聞くなんらかのメカニズムがあればいいのではないか。

寺田:アセスメントをやっている経験からすれば、そもそも当たるアセスはない。たしかによりよい意思決定をするためにアセスメントをやるが、アセスメントで予想されたとおりになるわけもないし、ならなければいけないこともない。だからこそ、アセスメントの段階でそれに対応するだけの環境配慮の仕組みとしてのモニタリングをどうやるかが書いてなければならない。アセスが終わってしまったら、今度は事業実施中の、事業に責任を持つ主体として、環境配慮にどう取り組むかという問題である。これはアセスの話とは違うが、その間にも融資機関が支配力を持っている以上はなんらかの環境配慮が要るし、その時点でのモニタリングもある。

 そういった話とは離れてアセス技術の進歩とか、JBICで言えば審査や投資の有効性の確認とか、その先につなげていく作業があると思う。それはそれぞれ性格が違うものである。

前田:何千人もいる世銀とJBICでは自ずと力点の置き方が違うので、どの部分に重点を置くかという議論だと思う。

 カテゴリ分けした以上は、事前の審査と事後の評価も分けて考えたほうがいい。逆に言うと、それだけの負担をJBICが負うのである。普通の金融機関的発想からすれば、「そんなリスクは負うべきではない。それは事業主体が負うべき。」という話なので、そこの部分をどこまでJBIC自身がやるかという問題だと思う。

 審査との関係では、フルの審査をしたものについてモニタリングするというのは非常にわかりやすい。しかし、そうでないものについてカテゴリにかかわらず全部同じように事後の評価をしていくのは、具体的にどうやるのか考えつかない。

原科:モニタリングはABCとカテゴリによってやり方を変えてしかるべきだというが、はたしてそうだろうか。

前田:事業主体に負わせる義務はカテゴリごとに違う。それを無視して全部一律にやるには具体的にどうすればいいのか。

原科:カテゴリAでも、あまり影響がないものに関してすべてやる必要はないだろう。特に問題と思われるものに対してモニタリングをする。めりはりをきかせるのである。だからBCはモニタリングが必要な項目は必然的に少ないと思う。

松本(悟):モニタリング計画は策定しても、計画自体の内容は当然ABCで違う。それを全部同じにしろと言っているわけではない。ただし事前になんらかの影響が出る場合はその緩和策があるだろうし、そうした計画がしっかり守られているかということと、事前のアセス段階でやった調査との齟齬が出ていないかという確認は最低しなければいけない。何をモニタリングするかのところにその2項目は絶対に必要ではないかということで書いたのである。

前田:事前にきちんとしたフルの審査がされていないものについて、何と比較するのか。

松本(悟):環境調査はカテゴリAからCまで一応なんらかの形では行っているのですよね。

前田:何万分の一かの確率でカテゴリC案件で予期しなかった影響が出た場合は、その時に対応すればいいと思う。そのためにすべてのカテゴリについて同じようにコストをかけていくことは、現実問題としてできない。

松本(郁):定点観測はいまでもある程度されていると思うが、実際のケースを見てJBICの役割としていちばんやってもらいたいのは、決められたモニタリングの枠では出てこない問題をどう拾う仕組みを作るかというところである。

前田:オンブズマンと言われたのは、そういうものか。

松本(郁):問題が出てきた時に環境の緩和策が取られていないのではないかという確認は事業者がする必要があると思うが、そういった問題を吸い上げる場所、特に大きな影響が考えられるものに関しては定期的にということである。

原科:具体的な形は、結果的には違ってくると思う。例えばカテゴリCだったら、情報を受け付けるシステムさえあれば、しょっちゅう稼働しなくてもいい。

前田:オンブズマンは非常にわかりやすい。自分たちが事前にやった審査が本当にそのとおり行われているかというチェックはもちろんしなければならないが、当然審査の範囲に応じて違ってくるべきだと考える。少なくともカテゴリCについては、モニタリングは事実上不可能である。それはむしろ外の力を借りて、オンブズマンなどに振ったほうが実際的だと思う。

入柿:特に完成後はそうだと思う。評価をして特に問題があれば別途対処しなければいけないが、そのあとも全部見て、こちらから積極的に問題を探しにいくのは無理だろう。そこは、問題が起こったら対処するというやり方にならざるを得ないと思う。

前田:相手との関係でいくと、「できなかったら金を返してください」というものにさらに金をつぎ込んで改善するというのは別の話ではないだろうか。それを全部モニタリングでやるのは、定義上の問題として別の話だという気がする。

松本(郁):つまりモニタリングではなく苦情受付として、あとで出てくる問題の対応を別途考えるということか。

前田:それは予算措置も必要だし、自分のリソースでやるべきところと第三者にお願いするところを分けて考えたほうがいいという気がする。

松本(郁):JBICとしての新しい社会環境配慮の理念ができると思うが、それに合致しているかどうかに関しては評価の範囲になるのか。

前田:評価はもちろんそうである。

松本(悟):私は最初の考えのスタートが違っていた。「問題が起きた時に対処する方向の方がコスト的にもアカウンタビリティー的にもいい」と言うが、私は全く逆で、問題が発生してしまうと解決は難しいから、なるべく問題が発生しないように考えなければいけないという姿勢だった。

 問題が起きた時の対処のメカニズムを作るほうがコスト的にはいいかもしれないし、アカウンタブルかもしれないが、現実に考えるとなかなかない。

前田:本当にきちんとやらなければいけないところはリソースを投入しても、そうではないところはむしろオンブズマンなどの形でやったほうがプラクティカルだと思う。

寺田:前田さんの言われるオンブズマンはJBICの外か。

前田:外である。

寺田:アセスの審査の時に「ちゃんとしたモニタリングをやるのならお金を貸す。保証をする」いう話をして、次にモニタリング計画に沿って事業者がやるが、それは第一義的に事業者がやるべきことであって彼らの責任である。その段階でどこまでJBICが関与するか、どこまで権限を持っているか、どこまでリソースがあるかの判断だと思うが、モニタリングはいかにあるべきかという話とその話は違うだろう。

前田:ガイドラインに書くことについては、そのとおりきちんとやらなければいけない。ODA(政府開発援助)と非ODA業務では多少違うかもしれないが、企業的に言うとこれはノン・コンプライアンス・リスクで、こんなものはインボルブされないほうがいい。JBICが自分でやりに行くと全部リスクを負うことになるので、非常に違和感を感じる。

入柿:ODAでは評価とは別に、完成後2年目と7年目に完成案件の現況調査をするので、それで勘弁して欲しいというところである。

寺田:国内のアセス法にも同じような問題がある。アセス法もモニタリングは射程外だが、思いもかけない事態が起こるかもしれないし、当たるアセスなどないということを前提に、モニタリング計画はちゃんとアセスに書く、それはきちんと守る、公開が大原則だということだけは強制して法律で義務をかけておく。その情報は我々もつかめるだろう。

 事業実施過程の環境管理の問題については、アセス法以外の体制の問題である。その適正法規がない場合にどうするかはものによりけりだが、全く無責任でいられるかというと多分二つの立場があるだろう。我々はアセスを見たという立場しかないが、JBICの場合には審査した立場と同時に、まさに進行中の事業を保証したり、お金を貸したり、さらに事業者に近い立場である。

前田:強制力があるのは、貸付契約をキャンセルして「早く返せ」という話しかない。

木原:審査項目の書き方があるだろう。

前田:審査したことについては、審査した内容を最後まで見ていくところも考えている。

原科:カテゴリAは相当程度、Bは軽い、Cはほとんどないということだが、スクリーニングする段階でCと判断して分けた責任は生じると思う。形としてすべて同じ格好というのはおっしゃるとおり難しいと思うが、オンブズマンなどなんらかの形で配慮を示しておくということだろう。

前田:実施主体にきちんとモニタリングを負わせて、それを公開させるのは非常にいいと思う。

原科:その問題の中身は、物理的な係数だけではなくて社会影響がかなり重要である。そういう意味では、オンブズマンは一つの有力な候補だと思う。

本山:モニタリングの中で住民から出てくるフィードバックはフレキシブルに考えられているのか。つまりフレキシブルなフィードバックができる関係があったほうが、そのあとの問題を防ぐためには有効だという気がする。

森:ODAに関して言えばフレキシブルにやっていると思う。そういう情報が入ってきたところで実施主体に確認して、フォローすべきであればアドバイスをして、そういう方向に持っていく。

本山:オンブズマンなどを経由しなくても、そういうところがフレキシブルにできたほうが、問題を防ぐという意味では有効な気がする。

州濱:L/A(融資契約書)を締結する時に最初にモニタリング・スコープを決めるが、途中で変えることについてあらかじめ合意形成しておくことが大事だと思う。

寺田:我々のアセスと同じような話だと考えると、審査の時にガッチリやっても、アセスでわからなかったことについてどう対処するかだから具体的にやりようがない。モニタリングの結果を公表するとか、第三者機関の意見を聞くとか、個別の具体的な事象としてのところを押さえるのは不可能だから、そういうものが起こった時にシステムとしてどう対処するのかをガッチリ書かせなければいけないだろう。

原科:日本の最近のアセスメントの仕組みはきちんと作ったのだから、当たる確率は高い。それでも100%当たらないのは事実なので、どういう対策を講じるかを考えておかないといけない。

寺田:何をするべきかについては、事業主体が自分で意見を聞いて自分で環境配慮するのが第一義の話である。ただ変なことが起こってしまって、事業者がろくな対応もしないのに「そこは手が届かない」「ふーん」と言っているのはなかなか難しいので、そのへんの加減をどうするかが次の議論としてあるだろう。

原科:ローンを貸した方にとって、下手すると債権がおかしくなってしまうという、まさにリスクマネジメントの話になる。

前田:ここから先は予算のテクニックである。

木原:SAPI(案件実施支援業務)みたいなものを取れるかどうかだろう。

原科:リスクマネジメントの観点からの環境配慮に対する人員増強とか、JBIC自体の組織の改善をしていかないとこの先は大変である。それは極めて重要だろう。

前川:例えばODAの環境に配慮するコンサルティングサービスの考え方では、まさにモニタリングが一つの業務と位置づけられているのではないか。

入柿:事業実施中はそれでいいが、完了するとそういうわけにはいかない。

前田:JICA(国際協力事業団)などと、もっと有機的に連携するといいと思う。

松本(悟):もとに戻るが、第一義的に事業者がやるのは基本的にそうであり、当該国の制度、法律を確認することが一つある。事業者に頼ってモニタリングをしていくことについては、私自身は相手から出てくるモニタリング結果に対するJBIC自身の審査の力も必要だと思うが、いまのコンテキストの中では、その必要性を否定しているわけではないのか。

木原:それをやるには、ある程度組織的あるいは財政的な何かが要る。

原科:そうだと思う。

松本(悟):前田さんの言うオーディットパネルあるいはオンブズマンのようなものを二国間援助の中で取り入れることについては困難が多いという話をよく聞くが、そういう制度を取り入れることは可能なのか。その場合、JBICの外というとは日本に作るのか、当該国に作るのか。それとも国際調停裁判所のようにもっと離れたものなのか。

入柿:作って、その結果に従って我々が判断する。その結果を受け入れるかどうかがあるから、向こうもそれに従うという見地がないといけない。

松本(悟):つまり、関係者みんなが入ることになる。そういう場であれば逆に民間側にしてみれば、政府の顔色を伺わなくていい。そういうわけではない旧輸銀業務についてはアンタイドローンのようなものはどうなるのか。

前田:その場合は、プロジェクトのお金で賄うことになるだろう。それをあらかじめプロジェクトに入れて合意しておくことが必要になる。

本山:オンブズマン自体はJBICの側に、プロジェクトのなんらかの遵守あるいは質の保証のために一つあったほうがいいと思うが、問題解決のためにアカウンタビリティーを保証する仕組みはJBIC側だけでもなく、企業側においても考えられるべきものだと思う。その一つのメカニズムがオンブズマンであり、別の場合には、例えば第三機関を設置して監査することがあり得ると思う。

前田:第三者機関的なものをあらかじめ合意して、プロジェクトのスコープに入れて設置するのか、だれが負担するか取り決めておかないと、紛争解決手段として向こうが「そんなものは一切知らない」と言った途端に何の役にも立たなくなる。

 言われたことは、紛争解決の一つのプロセスの中に組み込んであらかじめ合意しておくという話だと思う。そうでないと役に立たない。だからそれは非常に重要だし、その方が合理的だからあったほうがいいと思う。

入柿:誤解してほしくないのは、我々融資機関が対立の当事者になるわけではなくて、地元の影響を受ける住民と向こうの政府が対立するのである。だから紛争解決機関を作るとすると、そこの判断にみんなで従うことになるが、みなが従うための合意をその仕組みを組み込めるかどうかである。

前田:だからあらかじめ合意して、紛争解決のプロセスとしてちゃんと定義づけられて、そこで決まったことには従うことにしておかないと、ほとんど意味がない。

松本(悟):特に信頼関係が損なわれたりして、実際に設置するのが難しい状況になって、いっそう解決の手段が見えなくなってくることを恐れたのである。

前田:でも、あらかじめそういうものを設置することを決めたほうがいいかもしれない。

入柿:物理的・技術的な問題なら紛争解決機関でなんとかできるが、人などの社会的問題が絡むとそうはいかないだろう。

原科:人が絡む場合など、紛争を幅広く見ておかないと、ケースバイケースで変わってくる。だからあらかじめ想定してセットしておくのは大変難しい。最初にセットしても、なかなか解決できない場合が多い。

前田:諌早湾の例を見てもわかるように、開けろという人も開けるなという人もいる。ああなると、どうしようもない。

入柿:住民が一枚岩ならいいが、そうでないこともある。

原科:そこをなるべく打ち破っていかないとうまく行かないだろう。

大村:住民移転が大きいものなどで、うまくそれを包含していくためのメカニズムとして合同委員会みたいなものを作ることはODAの世界ではやってきたと思う。それは個別に対応していくが、世銀やIFCはあらかじめそういうメカニズムを用意しておいて「こういうシステムつきでいい人は借りてください」としている。

 JBICでもあらかじめそういうメカニズムを作ってそれを前提に交渉することが可能なのか、個別の案件に応じて丁寧に作り込んでいくのとどちらが効率的でワーカブルなのかという問題があるだろう。

入柿:世銀など国際機関はメンバー制だが、二国間でそういう関係なしに押し付けるのはけっこうつらい感じがする。

大村:包括的合意をしておくことは難しいのか。

入柿:世銀は理事会で合意すれば、一応包括的な合意になるが。

本山:私たちがここで提案しているオンブズマンは、問題解決のための第三者委員会のものというよりは、住民から出たクレームをちゃんと受け止めて入れ込まれていくことをJBICの責任として保証するメカニズムが一つあったほうがいいのではないかということである。

前田:それには予算措置が必要である。プロジェクトのお金で見るのか、JBICがアディショナルにお金をつけるのかで変わってくるだろうが、第三者にはならない。

本山:JBIC側でプロジェクトの質管理を考えるのであれば、必ずしも完全に第三者ではなくてもいいと思う。外部の人が入ることで、ある程度アカウンタビリティーの透明性を確保していけるのではないか。

前田:結局、あらかじめ合意しておかないと紛争解決手段にはならない。これは、借り手、貸し手どちらの負担なのかは必ず交渉になる。

原科:紛争解決の前の段階で、情報を伝える役割のメンバーが入る格好でいいのではないかと思う。

前田:そうかもしれないが、それもアディショナルな負担である。

原科:しかし、その負担はそれほどべらぼうではないと思う。

入柿:本山さんの提案では、JBICがちゃんとやっているかどうかをJBICの責任で確認すべきだという話だろう。

本山:そうだ。ここでいちばん重要なのはアカウンタビリティーを確保する機能だと思うので、必ずしも問題解決という責任を負わせなくても、そこがJBICの責任としてやれればいいと思う。

入柿:すでに会計検査や行政監査というチェックシステムがたくさんある。

本山:JBICがすでに何か問題があった時に解決のための手段を考えてやっているのはわかるが、非常に難しいのはクレームを出している人たちの意見がそこでどう受け取られて、どういうプロセスを通って精査され、意思決定に反映されていくのかである。そこが見えないこと自体がいちばん大きな問題だと思う。

入柿:それは監査の問題という感じがする。行政監察の報告書を見るとわかるが、意思決定過程はすべて裸にされて問題点などが詳しく書いてある。個別の問題が取り上げられることはないのですが、メカニズムはわかるようになっている。

前田:行政監査は全然問題解決方法にならないだろう。問題を解決するためには相手国政府や実施主体に「こういうクレームが来ているから解決しろ」と持っていく必要がある。それをJBICの負担においてやれという提案であれば、あらかじめJBICは「そういうことがあった場合は勧告する」と言っておかなければいけない。

入柿:そういうクレームがあれば当然向こう側には言っているが、松本(悟)さんの問題意識のように事業者側と被影響住民側に甚だしい意思の食い違いがある場合の対応について、一応形はできているが、その中身までどうこうすると相当コストがかかると思う。つまり、松本(悟)さんが最後に提案されている2点については、基本的にこのとおりだろうと思います。しかしすでに実施されている問題解決のメカニズムは、さまざま批判はあるところだが、存在する。それにもかかわらず、問題が生じているのが現実である。そこでオンブズマン制度のようなものを導入し、本格的に取り組むとすればかなりコストがかかる点が気になる。

松本(悟):一つには公開ということがネックになるかもしれない。

前田:いいや、それは我々のプロテクションになるから絶対に必要だが、こちらの負担でどこまでやるかという点が問題だろう。

松本(悟):どういう合意ができるかはケースバイケースだろうが、追加的な調査が必要になった時に、その間にもプロジェクト自体が進むのは問題と思っている人たちにとってはすごく大きいことである。日本なら裁判ができるだろうが、そういう仕組みがない中でJBIC側が用意する可能なメカニズムとして、調査を待つためだけに一時的にプロジェクトや融資を中断することはあり得ないのか。

前田:あり得るが、義務違反がないとプロジェクト中止ができない。だから相手方に実施主体にあらかじめ義務を負わせておかないといけない。

松本(悟):そうなると「JBIC統合環境ガイドライン研究会『モニタリング』」の最後の点「★紛争早期解決のためのJBIC側の枠組み(試案)」)になる。事業者側は国内的にもいろいろ問題が出るから自分たちに違反があったとは絶対認めたくないし、JBICとしては自らの審査責任においてそういうことをするのを避けるから、結局なかなかそういう事態にならないだろう。だれかに責任を負わせなければいけない仕組みだと、それがなかなか機能しないのではないか。

 責任の所在を認定しないでもできるような枠組みはないのだろうか。だれの責任も問わずにデフォルトして調査をすることにはならないのか。

前田:そうは絶対にならない。こちら側が要求して、出してこないこと自体が違反である。だからサスペンドはできるが、それはあくまでも権利行使である。だれの責任かわからなくて止めることはできない。

松本(悟):そうすると、事実上最後に住民が害を受けるだろう。私が気にしているのはそこである。貸し手も借り手もお互い責任を取りたくないという意識の中で、プロジェクトが進み、もしかすると、そこで予期せぬ影響が出てくるかもしれない。

前田:貸し手の側がそこを言われるのは心外である。審査が不十分で、問題があったにもかかわらず放っておいてどんどん貸し込むことはしない。そんなことをすれば問題が大きくなるだけ。

入柿:問題が明らかになったら必ず対応する。問題が明らかにならないから対応ができない。

松本(悟):そのへんが難しいところである。

原科:明らかになる前に予防的に対策が講じられるようなうまい契約が結べないだろうか。

前田:モニタリングが、まさにそうである。モニタリングをした結果、こちらが何かファインディングがあって、それをもとに調査できる権利を取っておくということである。逆に言うと、責任を負うことになり、そういう最後の手段が残っているからモニタリングをするのである。それもなしに漫然と情報だけ取って調べにいくことは、予算上も許されない。審査が甘かったから貸し込むというモチベーションは絶対にない。

原科:しかしそのように見えるのはなぜか。そこを考えたほうがいい。

松本(郁):問題が明らかにならないというのは、どちらが正しいかという判断をしている間も物事は進んでいくし、例えば住民側の主張がなかなか取り上げられないという状況はよく起こることだと思う。

原科:ただ、明確に誤りが見つかる前に疑義が生じた時にいったん止めるという約束が最初にできるではないか。

寺田:できないだろう。

原科:できないと頭から決めるのはおかしくないか。

寺田:事業者はやりたいと言っていることが前提である。

原科:しかし、JBICはお金を貸している側で、こういうことをきちんと行う責任がある。

寺田:事業を進めたい事業者とその影響を受ける側に対立があり、そこに介入するというのはそれなりのことがないとできない。

原科:その前の段階である。

寺田:前の段階では、情報公開とか会合しかない。

入柿:「疑いが濃厚である場合はプロジェクトを止められる」と契約に入れたとしたら、その解釈基準を書き込まなくてはいけないことになる。

大村:法律のことを聞きたいが、事態の進展を止めるための仮処分申請の概念は適用可能なのか。

寺田:仮処分申請は、そこに全く純粋に第三者の司法機関が介在するからできるのであって、この場合はできない。

大村:その国が合意するかどうかはともかく、あらかじめそういった機関がJBICに付属していて、相当の意見の乖離があり、実態的な影響が生じうるといった場合に、提訴があった時にとりあえずサスペンドするというものは? 

前田:それは全部リスクなので、そんなものに巻き込まれないというのがレンダーの立場である。

大村:そういうものを作ったら抑止力にはなり得ないかという議論は一つあるかもしれない。

前田:借り手と合意しないとだめだろう。レンダーとしての立場を利用して解釈の問題はない契約を結ぶしかない。これが合意できるかどうかは、国によって千差万別だ。しかし、ガイドラインはある程度テンプレート(雛型)だから、どの国でも合意する内容でないとならない。むしろ審査の一環として、住民などから疑義の声が出た場合は調査をして、その結果によっては一時サスペンドする権利を留保するという調査権を持つことはできるかもしれない。調査の端緒として住民側のクレームを受け付けて、必要な調査期間を設け、その間に結論が出た場合はそれに従う。しかしあくまでもリスクはこの期間だけのものしかカバーされない。プロジェクトが完成して債権が確定した後は回収を図るしかない。これは通常は行使しない権利である。

入柿:相当のことがないと使われない。

松本(悟):そうなると議論はまた戻る。なかなか紛争解決メカニズムは難しいので、モニタリングで慎重に拾っていくという元のアイデアに戻ってこういうペーパーになった。コストがかかるといえばそうですが。

前田:それぐらいコストをかける、重要なことだと考えれば、これぐらいのことが必要なのかもしれない。

原科:コストがかかるといっても程度の問題。リスクがある。

木原:そのリスクにJBICがどれだけ主体的に関わるかということ。

前田:現時点でもJBICが相当のリスクを負っているという認識です。それをなんとか実施主体に負わせたい。

木原:前田さんがさっき言われたのは、個別の契約書の中に書いていくということか。

前田:ガイドラインはテンプレートで、すべてのケースに当てはめることになるので、非常に難しい。

本山:ガイドラインで書けないとすると、個別の案件についてきちんと外部に説明できる、あるいはみんなが納得できるような何かシステムが欲しい。

大村:松本(悟)さんから出ているペーパー「JBIC統合環境ガイドライン研究会『モニタリング』」で言うと、オンブズマンのところは調停ではなくアカウンタビリティーの話か。

前田:我々が権利を行使し、融資をサスペンドするために、そのために必要な情報が第三者を通じて入ってくるメカニズムを作って欲しいということである。

松本(悟):それと、そのプロセスが第三者委員会を通じているという点。

前田:オンブズマンを作ること自体はできると思う。そこに紛争解決を委ねることになるとものすごく大変だが、単純に苦情を聞く窓口みたいなものを置くことはできるだろう。

 

 

大村:窓口受付機関には一定の調査権が要るのだろう。相手方とJBICに対する調査権である。

前田:調査権はある。

大村:ただJBIC側から見れば、自分たちがいつも反対する人たちに説明してなんとなくうさん臭く思われるという中で、窓口をやってくれる人が公正にJBICも調査する、適正な勧告もするというのは意味がある制度だろう。そこから先に何を拾い上げるかはJBIC自身の責任だが。

前田:行政監査のような話になるとコンプライアンス・チェックだから、決められた仕事をちゃんとやっているかどうかのチェックになる。合意できもしないことを入れておいて、あとでそれを被疑されることはいちばん避けたい。調査権との関係では、相手に対する調査権はあるので、それをどうやって本当に実効性のあるものとしてアクティベートしていくか、そのための端緒として第三者の意見をどうやって聞くのか、意見を聞くことは合意しておくのかという論点だと思う。だからすべての案件について一律というのは難しい。カテゴリAと分類されたものについては、試行的にやっていくのかもしれない。

原科:お金のことを含めて、ぜひお考えいただきたい。

前田:そういう意味では今日は非常にアスピレーションのある会議であった。

 

次回:2001年3月27日(火)午後5時〜