国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会 第13

議事録

 

日時:2001627日(水)午後3時半〜5時半

場所:国際協力銀行7階 中会議室

出席者:

メンバー(敬称略、アイウエオ順)

 伊藤 美月/外務省経済協力局有償資金協力課

 大村 卓/環境省地球環境局環境協力室室長補佐

 小川 晃範/環境省地球環境局環境協力室長

 川崎 大輔/財務省国際局開発政策課係長

 北野 充/外務省経済協力局有償資金協力課長

 木原 隆司/財務省国際局開発企画官

 小林 香/財務省国際局開発政策課課長補佐

 作本 直行/アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員

 原科 幸彦/東京工業大学大学院・総合理工学研究科教授

 本郷 尚/国際協力銀行環境社会開発室第1班課長

 前田 匡史/国際協力銀行金融業務部企画課長

 松本 郁子/地球の友ジャパン

 松本 悟(代理:福田 健治)/メコン・ウォッチ

 本山 央子/地球の友ジャパン

 山田 順一/国際協力銀行開発業務部企画課長

当日参加者(敬称略、アイウエオ順)

 苑原 俊明/大東文化大学法学部教授

 中舘 克彦/国際協力銀行開発業務部企画課調査役

 三好 裕子/国際協力銀行金融業務部企画課調査役

議事録作成:

 坂本 有希、畠中 エルザ/(財)地球・人間環境フォーラム

 

<報告書の位置付け>

前田:これまでの議論を集約した形で、大村さんを中心とするドラフティンググループ(以下DG)が研究会提言の案をまとめた。内容はガイドライン案の部分と議論の過程に出た意見に関する説明部分とに分かれる。それでは、大村さんからお願いしたい。

大村:NGOJBICの担当者、有識者の方々からなるドラフティンググループで8回ほど集まって話し合った。作業は終わっていないが骨組みについては明らかになって来てDGだけで抱えていてもよくないので、今日お示しする。前回の研究会で話し合われたように、JBICの統合環境ガイドラインの形が明らかになるように作ったつもりだ。また、さまざまな意見はできるだけすり合わせ、それが困難な場合は両論併記とした。これまでの研究会の会合での議論の集約を行うという話もあったが、量も相当なものなので、議論の過程はすでに公開されているので、それを見てもらうというのがよいだろうという話になった。つまり、これまでの研究会の議論を経て見えて来た望ましいガイドラインの形を作ったつもりだ。

先程作業は終わっていない部分があると言ったが、18頁の「ガイドラインの適切な実施・遵守の確保」等については、並行してDGで議論が進んでいるところであるので、今日は17頁以前の部分についてあらかじめ読んで来ていただいたという前提で話を進めていきたい。

 まず、1頁の「はじめに」は、研究会の概要の説明を入れるつもりで、今回示すのは早いということで空欄にしてある。OECD/ECGでも共通のガイドラインについて議論が進められているが、ここでの議論と必ずしも連動しているわけではないので、研究会独自の望ましいガイドラインのあり方をあらわしたものという位置付けだ。また、最終的にガイドライン案をとりまとめた後、どのようにして行くのかということもここに書ければよいと思う。それでは「2ガイドラインのありかた」だが、これは3以降の作業方針になる。「3ガイドラインの構成と内容」もDGの提案になるが、研究会での意見が異なれば修正していくものだと思う。

木原:ドラフトは基本的によくできていると思う。こういう形でJBICの環境への取り組みの先進性が示されたのはよいことだ。3について1点だけ留意せざるを得ないのは、JBICの関与のタイミングの早さ・遅さの問題だ。できるだけ早期の段階から関係者に働きかけるという議論があったが、プロジェクト形成段階から関与できるかどうか、できない場合にはどうするかという点に留意する必要がある。

前田:23234行は「案件の準備・形成の段階から国際協力銀行が関与する場合」のみについて書いてあり、他の場合については特に書いていない。JBICとしてはできることとできないことがあり、プロジェクトの遅い段階から関与する場合もあるので、難しい。

山田:この文書のタイトルに「研究会の提言」とあるが、意見が集約できていないところもあるので、「研究会の議論と提言」にしてはどうか。また、22426行で「環境レビューによりこれを確認する」とあるが、JBICはあくまでもレビューを行う立場なので「環境レビューを行う」とすべきではないか。3点目としては、233行「関係者に働きかける」の箇所は「借入人に働きかける」とすべきではないかと思う。JBICには借入人との二者間の関係しかなく、第三者に働きかける法的な権限はない。借入人を通して関係者に働きかけるということしかできない。同じく36行では「全ての地域住民等の」となっているが、「地域住民」とすべきである。通常、途上国ではカット・オフ・デイト(締め切り期日)を設けておかないと事業が公開された時に後から補償金目当てで入って来る人がいるので、後に「地域住民」と書いてあることとの整合性の観点からも「全て」を削除した方がよい。また、同じく41行に「国際協力銀行は、(中略)その組織体制、実施能力の拡充に努める」とあるが、JBIC内の予算、仕事の優先順位等のことがあるので、それらを無視してやるという誤解を避けるためにこの一文はとった方がよい。

前田:232行以下で「関係者に働きかける」としたのは、借入人が実施主体である場合とそうでない場合等があるので、緩い表現ということで「関係者」がよいということだった。また「働きかける」という表現も、申し入れることや契約上の権限の下で何かを言うといったことだけを想定しているわけではない。この箇所は基本方針の部分なので、やや精神規定的なところがある。よってドラフティングではあまり限定的な表現にはしなかった。もし誤解を生むというのであれば、「借入人等」とでもすればよいのではないか。

山田:それならよいのだろう。

原科:「借入人等の関係者」でいかがか。

前田:236行の「全ての地域住民等」も同様に精神規定的なものとの理解だ。

小林:その箇所だが、私は「全て」は「地域住民」ではなく、「ステイクホルダー」にかかると読んだのだが。

原科:私も同じ理解だ。「地域住民等の全てのステイクホルダー」とすればよい。

大村:私の見落としだ。もとは「全てのステイクホルダーの参加」となっていて、「ステイクホルダー」だけではわかりにくいので「地域住民等」を入れるべきだという話だったが、私が入れるところを間違えた。「地域住民等の全てのステイクホルダーの参加」が提案としては正しい。

前田:そうなると山田課長のご懸案からすると、そちらの方が広くはならないか。

山田:「ステイクホルダー」の定義次第だ。

原科:「全てのステイクホルダー」で範囲が広過ぎるということはないだろう。

山田:「ステイクホルダー」だけで充分ではないのか。

原科:それでは今まで「全てのステイクホルダー」で議論が進んでいたのからはずれてしまう。

山田:それであれば、どこかで明確に「ステイクホルダー」の範囲を定義することが必要だ。

原科:「全てのステイクホルダー」とは、代表的な主体で、見落されてしまう人がいないようにするということだ。

 また、「研究会の議論と提言」という表題にするというお話があったが、「研究会の提言」ということそのものを否定されてしまうのは、大変残念だ。

大村:議論部分も紹介する構成でも「研究会の提言」という表現で今までの議論と食い違いはないように思う。

山田:これまでの議論を踏まえない発言で僭越だが、両論併記の部分が残っている内容なので申し上げた。

原科:確かに両論併記では「提言」とならないかもしれないが、太字は共通認識の部分、それ以外は両論併記の部分という構成になっている。政府の審議会でもそのような扱いである。

山田:そうした事情であれば、「提言」だけとすることで了解した。

原科:24041行は大事なポイントだと思うが、表現が若干強いだろうか。「努める」という表現であって、「努めなければならない」とはしていないが。

小林:また、予算や人事の制約内の話であることは当然の前提になっている。無制限な人員の拡充等は想定していないと思う。

山田:ODAの主管官庁である外務省としてはいかがだろうか。

伊藤:やや厳しい表現ではあるが、精神規定的な「まえがき」であれば書くのもよいのではないか。

木原:もし拡充という言葉が方向性を示してしまうのであれば、「十分な組織体制、実施能力の整備に努める」という言い方もあり得る。

前田:「整備」と言うと、現時点で整備されていないような言い方になる。いずれにしても、これはあくまでも研究会の提言であって、JBICがこれを受けてどう動くのかということだ。「拡充」には「広げる」という語感があるので、「充実」という表現でいかがか。

 

<環境レビューと環境配慮の確認>

苑原:22426行については、本ガイドラインで要件を示して、事業の意思決定の際に環境レビューを通じて適用するという解釈でよいか。

大村:「環境のレビューを行う」では何がアクションかわかりにくくなると思う。要件をガイドラインに明記して、レビューによりこれを確認するという形がよい。「要件を示し」て「レビューする」というのには違和感がある。「確認する」は削除しない方がよい。

山田:現在のODAガイドラインでは「チェック項目ごとに確認を行う」とあるが、おそらくこれが「レビュー」にあたる。「レビュー」と「確認」が併記されているので、レビューをした後に、オーソライズするという意味で「確認」がとられてしまう感がある。「レビュー」と「確認」のどちらかに統一できないものかと思う。

本山:「オーソライズする」とおっしゃる意味がよくわからない。もう一度説明していただきたい。

山田:あくまでもJBICは相手から提出された書類をレビューするという立場であって、お墨付きを与える立場ではなく、提出された書類についてわれわれJBICが満足するかどうかということをレビューするということだ。よって、「レビュー」だけで充分ではないか。

原科:ここではオーソライズするという意味で「確認する」とは言っていないと思う。環境レビュー手続きを通じて環境社会配慮をきちんと行っているか確認するということだろう。

福田:そもそもこの部分は、要件を満たしているかどうかを、環境レビューを通じて確認するという意味にしかとれないのではないか。

原科:国際金融等業務を含めると、「環境レビュー」は「環境審査」を含めた広い概念の言葉として使っている。その結果、少しニュアンスが曖昧になってしまっているのかもしれない。

大村:環境レビューで要件を確認するとか、それを借入人等から提供された情報によって行うといったことは、6頁に詳しく書いてある。それを集約して書いたのがこの箇所だ。変更のオプションとしは、誤解を避けるためにより丁寧に書くことと、もう一つは「要件を環境レビューにおいて用いる」というような表現に留め、その用い方は後ろに詳述することがある。

木原:では、「環境レビューによる環境配慮を行う」もあり得ないか。

大村:要件を示して、これをどう用いるかということなので、「要件」を受けないと文章としての通りが悪い。「環境レビューを通じてこの要件に基づき、環境配慮を実施する」ということならあり得るだろうか。

木原:要は「環境レビュー」と「確認」という二つのアクションを求められることがJBICとしては気になるのではないか。

山田:「レビュー」については6頁以降に明確に定められているので、「環境レビューを行う」で充分なのではないか。

原科:「融資等の意思決定をするに際し、この要件に基づき環境レビューを行う」という表現はいかがか。

大村:やはり「要件」を受けないと文章がつながらない。

作本:「これを」というのが環境配慮の要件だけにかかっているのか、それとも方針全体にかかっているのかで、両方の解釈が成り立つ。JBICが「要件をレビューした」だと受身な印象があるが、「環境配慮を確認した」ということになると、かなり主体的で重い意味になる。「確認」は責任がこちらにある前提のように思われる。そういう意味では「レビューを行う」とした方がよいのではないか。

小林:提出・入手された資料によれば環境問題は起きないのだという確認作業はJBICには必要なのではないか。それに一定の責任が伴うのはやむを得ないのではないか。

本郷:ここでの「確認」するというのはオーソライズするという意味ではない。一方で責任をもってやることは必要であるので、自分達でみて大丈夫だと確認するということですね。

原科:何かを確定するために長さを測る、重さを量るといったものが環境レビューだと思う。環境レビューを経て確認する、と手続きを示しているだけである。

大村:では、「環境レビューによりこれを確認する」のままだろうか。

原科:それとも「これ」を具体的に「環境配慮」にするか。

苑原:むしろ「要件の充足を確認する」ということでは?

大村:「環境レビューにより要件の充足を確認する」はいかがか。

本郷:「環境レビューにより銀行としてこれを確認する」はいかがか。

小林:主語はすでに自明のことと思う。

山田:72426行では「環境レビュー」に「確認」が含まれているので、「レビューを行う」だけでいいのではないか。

原科:それでは「この要件に基づき環境レビューを行う」ではいかがか。

本山:しかし先程のお話では、確認することが大事だということではなかったか。

松本:この箇所は、環境配慮の方針のところなので、文書の後ろの方で環境レビューが確保されていても、方針の中できちんと確認しておくことはよいのではないか。

大村:「要件の充足性を確認するために環境レビューを行う」としたい。

小林:23839行の「環境配慮を支援する」の意味するところがよく理解できないが、これはJBICが融資等を行った時に、必要あれば、さらに環境配慮のための支援をするということなのか。

大村:ODAについては途上国の発展支援という目的がある。よって、環境社会配慮が足りない時には支援をした方がよい。一方、国際金融等業務では本邦企業の輸出振興という目的があるので、ストレートに「環境社会配慮を支援する」とは書けないのではないかという議論があった。そこで「持続可能な発展を支援するに当たり適切と認める場合には」という限定を付けたわけだ。しかし、支援をすると自立をそこねる場合などについては、ODAでも支援すべきかどうかについては異論があった。そこでJBICの目的にかなう場合に支援をしようということになった。

小林:支援する場合、それは二つ目のODAを行うということか。

大村:そういう想定ではない。計画・実施段階で環境配慮が十分でない、弱い場合のJBICからのアドバイス等を想定している。世銀などはかなりこれをやっているし、JBICでもSAPROF(案件促進形成調査)などの調査をして支援する場合がある。

川崎:25行の「なお、出資については、投融資と異なり」とあるが、出資は通常投融資に含まれないか。

大村:「投融資」の「投」がとれていなかった。「投」はとらないといけない。

川崎:また、4710行に「影響が大きいと思われる案件」とあるが、それを誰が判断するのかということと、この影響の大きさに関しては定義が必要かと思う。

大村:ここは基本的な考え方を示す部分で、具体的にJBICが求めるところを示すのは、後ろのカテゴリ分類のところ、8頁に書いてある構成になっている。しかし、借入人がここを読むとすぐにどのカテゴリ分類になるかわかるようにはなっていない。詳細は銀行がガイドラインに作り上げて行く時に決めることになる。

 

<社会的合意と情報公開>

原科:些細なことだが、428行の「直接的な即時的な」は表現がおかしい。「直接的、即時的な」がよいだろう。また、社会的合意形成には情報公開は必要条件であることから、42行は「情報の公開をするなどの方法により」ではなく、「情報の公開をした上で」とすべきである。52930行では「影響を見積るためには」を「影響を見積るための」とすべきである。

大村:4頁42行の情報公開についての表現は、まず、どんな事業でも「社会的合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならない」とした。しかし、一方で地域住民等と話すというようなことは情報公開ではないし、C案件を含むすべての事業にいわゆる情報公開を求めるとなるとハードルが高くなってしまう。

木原:原科先生がおっしゃっているのは、情報公開は方法ではなく、前提条件であるということだろう。「情報の公開等を行った上で」とすればよいのではないか。

本郷:44行「特に」以下で明確に書いているので、情報公開が方法でないということであれば削除するのが最もすっきりする。

原科:そうかもしれないが、情報公開はキーワードなので、「情報の公開等を行った上で」と「等」を入れるのがよいのではないか。

本山:例えば、「社会的合意が得られるよう情報公開する等十分な調整が図られていなければならない」ではいかがか。

作本:それでは、環境影響の大きい場合に事前の情報公開を求めるという後半部分と重なってしまう。ただ、前半部分は、すべてのプロジェクトに適用される大原則なので、「情報公開」をどこかに入れるべきなのかもしれない。

前田:DGでの議論では、合意形成のために情報公開という手段を使うのは、やり過ぎだという懸念があった。地域住民に情報を出すのは当然のことだが、それは情報公開よりは狭い概念であり、それで足りることもある。ただ、この部分は精神規定的なところなので「情報公開」の文言をどこかに入れられないかということでこのような表現になった。そういう意味ではとってしまっても通じるのかもしれない。

山田:確かに、前半部分については重複しているので削除しても問題ないのではないか。33334行の「国際協力銀行の融資等を受けようとする事業に対しては、環境社会配慮に関し、一般的に以下を満たすことを要求する」を受けた445行の「情報が事前に公開され、(中略)協議を経ていることが必要である」は、かなり拘束的な表現になっている。借款を要請する段階でこうなっていることは個人的には望ましいとは思うが、インドやインドネシアなど、国によっては円借款がつかないと事業が行われないケースがある。要は、円借款が付くか付かないかにかかわらず、事業を公表すると、不法住民が来たりする。すべての国に事前の情報公開が必要であるとするよりも、「望ましい」くらいの表現にしておくのがよいのではないか。要は「事前に」という言葉の意味の問題だが、L/Aが締結され、着工する前には公表されないといけないとは思うが、借款契約等を要求する段階でそこまで求めるのは、仮にできなかった場合を考えると、無用な混乱を避けるためやめるべきだと思う。

小林:「特に」以下は、影響が大きい事業に限定した記述だと思うが、やはり原則的にこういうことを行うべきだということは謳っておいた方がよいと思う。ただ、ある状況においては、事前に公表することがかえってプロジェクトの計画上、遂行上望ましくないという事態があれば、仮にこのような書き方をしておいても、公表しないことの説明は可能なのではないか。

山田:「原則として」が付いているのであればまだしも、「必要である」と言い切ってしまうのはどうか。

大村:前半はすべての事業に関しての規定だが手段を特定していない。後半は、特に影響の大きいA案件に関して、情報公開と住民との協議が必ず伴うアセスメントを要求する。これは合理的な要求だと思うが、すでに現状でも審査時点では情報公開を終えている状況が大半ではないだろうか。さらに言えば、ここでは審査時点でこの要求を満たすようにも規定していない。例えば55行目以降の「非自発的移住」や弱者への配慮の部分で審査時点での確認項目としては挙げられているが、「事前に」とは「事業の意思決定以前に」ということだ。

山田:ただ、33233行には「国際協力銀行の融資等を受けようとする事業に対しては、環境社会配慮に関し、一般的に以下を満たすことを要求する」とあり、リクエストの時点でこれを要求していることになる。よって、アプレイザルの段階では公表されていないといけないと読めるように思うが。

本郷:そうでもないのではないか。2頁の3233行に、「案件の準備・形成の段階から国際協力銀行が関与する場合」というのがあるが、この「準備」は事業の意思決定がなされる前ということを意味している。すると、審査の段階で、まだ意思決定がなされていない時に同時並行的に情報公開が行われるということはあり得る。

福田:タイなどで私が見てきた例では、F/Sや住民との協議を含むEIAができていても事業が始まっていないようなものはたくさんある。JBICのプロジェクトにEIAを事前に公表することを義務付けることで無用の混乱が生じるという事態にはならないと思う。日本国内のプロジェクトでも同様ではないか。

山田:情報公開の義務を緩めるというつもりはないが、アプレイザルのかなり前にプロジェクトの存在を公表しないといけないことになる。

原科:円借款がつかないと事業は行われないということも含めて情報公開をすれば無用な混乱は生じない。

大村:おっしゃるようにインド政府がそういう考え方でも、現状のODA業務では既にA案件はアセスメントを終えていないと審査に入らないということになっている。アセスメントをやるということは、既に情報公開がなされているという前提だが、インドの場合、それが困難ということか。

山田:情報公開のやり方は国によって異なる。円借款のすべての借入国でEIA作成時に情報公開が義務つけられているのか疑問。

大村:当該国の所要の手続きを終了した環境アセスメント報告書が提出されないといけないという規定になっている。

原科:情報公開のないアセスメントは不可能である。

山田:今のODAガイドラインの2頁には、「環境アセスメント報告書は、借入国内において公開されたものであることが望ましい」とあり、必ずしも義務つけていない。

大村:アセスメントが行われたということは、インドの制度下で情報公開されているという理解で、問題はないのではないか。

山田:借入国のアセスメント制度すべてにおいてそうであればよいのだろうが、そこは確認できていない。「事前に」ということについては、事業の実施前ということには賛成できるが、リクエストの時点で本当にそこまでやる必要があるのかと思う。

大村:「事業の意思決定前に」とすれば問題がないのではないか。

本山:445行の「事前」は協議の前という意味ではないか。

大村:「情報が公開された上で協議を経ている必要がある」ということだ。

前田:「本ガイドラインの目的」として、310行に「事業者、借入人等に適切な環境社会配慮の実施を促すこと」があり、これを受けて要求したことを満たしていないから即座にお金をつけないということではなく、JBICが考える、より望ましい方向性を事前に示しておく形で促しているということだ。個別事情で公開することができないというそれだけをもって判断することはしないということだ。234行で「一般的に」という表現を用いているのは、そういう趣旨だ。

伊藤:例外的に個別のケースに照らして、できないこともあり得るということですね。

前田:すべて結語が「〜ならない」となっている中で、51行は「必要である」としたのは、そのような事情に配慮をしたつもりである。

作本:タイで情報公開法が成立したりしているが、途上国などではわれわれのイメージするような情報公開は行われないと思う。環境アセスメントの範囲内でやってもらうのは可能だと思うが、その辺りのズレを通り抜けるのに「必要である」という表現は適切ではないか。

前田:全体の趣旨から考えると、あまり厳密に特定し過ぎてはいけない。「事前に」という表現もそのような考え方から出てきたものと思う。

作本:「事前に」という表現だと「いつの事前か?」ということにならないか。「できるだけ早い時期に」と言っても曖昧にはならないのではないか。

原科:445行は協議に必要な情報の公開ということで「情報が公開された上で、〜十分な協議を経ていることが必要である」とすべきである。

 

<先住民族>

苑原:先住民族について別だての項目を作ったことは世銀、アジア開銀と並ぶJBICの先進性を示すものとして歓迎するが、いくつかお聞きしたいことがある。まず、523行に「十分な情報に基づいて先住民の合意が得られるよう努めねばならない」とあるが、用語は「先住民族」に統一していただいた上で、これは先住民族内部の合意なのか、それとも事業者と先住民族の間の合意のことなのかをお聞きしたい。

大村:事業者と先住民族との間の合意と考えている。

苑原:そうであれば、事業者が事業を開始する以前の事前の合意と捉えてよろしいか。それとも実施後の合意か。

大村:443行に「社会的合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならない」との一文は、先住民族であってもなくても、かかってくる。特にここで書いたのは、土地資源に関する先住民族の諸権利があり、これに基づいた合意が得られるよう努めねばならないということだ。当然事業開始前の合意と考えている。

苑原:それとの関係で、51819行に「影響を受ける人々やコミュニティーの参加が促進されていなければならない」とあるが、このガイドラインでは「関与」という表現も出てくるが、「参加」と「関与」の違いをはっきりすべきではないか。「参加」であれば「意味ある参加」、「効果的な参加」なのかといったことについてお聞かせ願いたい。これがJBICの内部文書になるのはわかるが、国際文書としては事業者、相手国との関係上、「参加」という言葉の意味をもう少し明確にした方がよいのではないか。単なる協議の相手として手続き上保障したのか、それとも意思決定に携わらせるのか、生計手段を失った場合の補償手段の決定まで含めるのかといったこと等、明確化させた方がよい。

大村:決定権はともかくとして、参加型計画・立案を想定している。「参加」とは対策の対象者に入っているという意味ではなく、立案過程で自らの立場を代表して意見を述べ、計画の意思決定を行う人と協議を行い、立場を反映するということを考えている。

原科:それがよくわかるような表現にすべきだろうか。

作本:511行の「十分な補償」は世銀と同じ立場かと思う。ただ、日本の税金を使ってそこまで補償するのかという議論はODA業務の環境ガイドライン策定時にも出た。世銀はとにかく問題を起こさないことを最重要としているが、日本の場合は税金を使っているので、限度額のない補償でいいのかどうか疑問だ。

木原:そもそも補償を行うのはプロジェクト実施者ではないか。

本山:JBICがお金を貸すのであれば、事業者には十分な生活補償を考えてリクエストして欲しいということかと思う。

大村:そもそも限度額のない補償にはなり得ないと思う。

苑原:530行の「影響を見積るためには具体的な指標や基準が必要である」とあるが、その真意は?

原科:まず、「見積るためには」ではなく、「見積るための」である。

苑原:人権そのものの規定については例が書かれているが、それとは別個に人権侵害によってどれだけ影響を受けたかの程度を計るための物差しということか。

大村:そうだ。

苑原:人権侵害を行ったという客観的事実があればそれで十分ではないか。改めて指標は必要だろうか。

大村:程度のことではなく、人権侵害がおきているかどうかを判断するための具体的な指標・基準が必要ではないかという意味だ。

苑原:そのための指標・基準として人権条約があるのではないか。

大村:DG及び研究会では、その条約等の文言だけをもって現場の状況と照らして違反か違反でないかと判断するのには議論の幅があるという話だった。

本郷:人権侵害が起きているかどうかはJBICとして判断できるような問題ではないというのがこれまでの議論である。

苑原:しかし、人権侵害があるかどうかの把握はしたい、とこのドラフトには書いてある。

大村:もちろん人権はスコープに入っている。どのようにしてみるかは、例えば住民の健康をみるというならば、大気・飲料水の汚染のある・なしといった基準・指標に照らしてみるように、人権侵害については、人権侵害がある・ないと判断するのではなく、先住民族の権利が犯されていないか、生命・財産等を侵していないか、人権関連の法令・基準に違反してないか等のレベルでみていかないと難しいということだ。

苑原:そうすると53134行に書いてあるので、2930行は必要ないのではないか。

本郷:大村さんに確認したいのだが、「人権侵害をみる」というのは、具体的・客観的な指標があるわけではないので、個別の案件について判断していくということではなく、広範にみるという理解だったのだが。

大村:まず概念的に対象とするという意味だ。具体的には、上述のように大気・飲料水の汚染による健康への影響、先住民族との合意といった点で分けてみていくということだ。

作本:53840行にエッセンスがある。

大村:人権をまずコンセプトとして取り上げて、その概念に基づいた具体的指標に照らして整理をするということである。

本山:私もその議論に参加していたが、具体的・客観的な指標がないのでJBICが判断しにくいということがあってこのような書き方になったわけだが、やはり52930行の「具体的な指標や基準が必要である」という表現はおかしいように思う。

北野:指標や基準よりは、事実として人権侵害があったかどうかの認定が困難ということが問題の根幹なので、そういう観点から書くべきではないか。結論は53840行に示されているが、事実認定が難しいということなので先に述べるのが大事になるだろう。

苑原:今のご提案を支持する。ただ、人権侵害の事実を客観的に把握する手段がない場合があるとおっしゃるが、例えば外務省などでは関連する国の人権状況を客観的に把握していると思う。省庁間の協力である程度カバーする努力はした方がよいと思う。JBIC自身はできないことでも、審査のための補助資料の提供を省庁に求めるということは可能ではないか。

北野:おっしゃるようにわれわれは他国の人権状況について決して無関心ではない。実際あるA案件で人権の関係で問題提起のなされる場合は、訓電を打って事実関係の確認に努めるよう指示をする。ただ、努力した結果、どこまで把握ができるかというのは、ケース・バイ・ケースにならざるを得ない。国によっては司法手続きに委ねられていて、その結果をみないとわからないということもある。確度の高いケースもあればそうでないケースもある。

本郷:具体的には人権侵害が起きるケースとはどういうことを想定していらっしゃるのか?

苑原:非自発的移住に抵抗した人に対し、実力が行使された場合などだ。

本郷:そういう例には本ガイドラインに書かれた個別の具体的基準で対応出来るのではないか。

大村:私ももちろんそういう例は人権侵害だと考える。それを防ぐためにいろいろな事前の公開・協議等があると考える。

苑原:それにはさらに前提となる情報が必要だと思う。

大村:ここでは一般的に事業のリクワイヤメントを書いているが、それはいろいろなところから情報を集めなくてはいけないので、プラクティスの部分になるのだろう。

木原:実際のところは省庁間よりもNGOから寄せられる情報の方が早い場合も多々ある。

大村:先程の北野さんのご提案を復唱していただけるだろうか。

北野:52930行は「人権の侵害の把握がなされる場合もあるが、その事実関係について確認をすることが困難な場合もあることに配慮が必要である」とするのでどうか。

木原:私の申し上げた情報収集のことは、いわゆる人権問題にかかわらず、他の環境配慮についても言えることだ。

Sustainable Developmentの日本語訳>

小林:538行の「持続可能な発展」はsustainable developmentの訳かと思うが、「持続可能な開発」とは違うのだろうか?

原科:developmentには「開発」や「発展」などの訳語があるが、日本のような経済先進国では「開発」の推進よりも、環境質や生活質の向上が必要で、その意味から「発展」という言葉が使われることが増えてきたと理解している。

作本:「アジェンダ21」が出た時に外務省が「開発」と訳したのが最初だが、その後反論が続いた経緯がある。

原科:その後、環境基本法では、持続可能な発展という考えから「持続的発展」という表現に統一している。

木原:本件では対途上国なので「開発」の方がなじむかと思う。

小林:OECD/ECGでは、sustainable developmentへの貢献を検討することについて議論していた時に、「発展」よりもむしろ「開発」の意味でdevelopmentを使っていた。

大村:定訳がある場合を除き、環境省の私の部署では内容的な話をする時は、「発展」を使っている。

作本:報告書では、「発展途上国」ではなく、「開発途上国」を使うよう言われている。

大村:あまりこだわり過ぎず、ドラフトは仕上げていきたい。

 

<今後の予定について>

前田:DGも並行的に進めていくので、アップデートされたものが出てくる。DGは有志の会合なので、参加されたい方はどうぞ。

大村:効率的にするために、ドラフトへの文書によるコメントを私までお寄せください。共通認識の箇所はドラフトにどんどん入れていきたい。DGの次回会合は29日の13時半〜16時に予定されているので、この時までに本日の会合を受けたコメントをいただきたい。

小林:71日付けで異動になり本研究会への参加は今回が最後になります。今まで有意義な議論に参加させていただいてありがとうございました。

 

次回:2001713日(金)午後2時〜5

報告書のドラフトについて(2)