国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会 報告会

会議録

 

日時:2001919日(水)午後2時〜6

場所:国際協力銀行9階 講堂

パネリスト:

(敬称略、アイウエオ順)

 大村 卓/前環境省地球環境局環境協力室室長補佐

 中寺 良栄/地球・人間環境フォーラム

 中村 修三/世界銀行東京事務所長

 原科 幸彦/東京工業大学大学院・総合理工学研究科教授

 前田 匡史/国際協力銀行総務部行政改革担当参事役

 松本 郁子/地球の友ジャパン

会議録作成:

 桜井 典子、畠中 エルザ/(財)地球・人間環境フォーラム

 

(発言者 敬称略)

<挨拶 加藤修一 参議院議員>

加藤 本日は研究会の報告会の開催に至り誠におめでとうございます。関心を持ってきた一人として大きな期待とともに非常に嬉しく思いますし、関係各位の方々に心から敬意を表したいと思います。21世紀は環境の世紀とよく言われますが、我が党は日本の国の形の一つとして環境大国を目指すべきだと主張してきました。かつて環境アセスメント法案の提出を数回試みてきましたし、また、戦略的アセスメントについても大きな関心を持ち、平成9年環境影響評価法案の審議の際にも、その対応を迫り、付帯決議に記されたところでもあります。これについては、現在、環境省が戦略的環境アセスメント総合研究会のもとで熱心に進めております。

 ところで、1992年の6月はリオで地球サミット、UNCEDが開催され、翌年の1993年の10月には、これを踏まえたと思われますが、日本輸出入銀行時代の保田博総裁を会長に、環境保全型の経済発展のあり方に関する研究会を設置しております。13回におよぶ議論の成果をレポートにまとめて出版もされております。

 そのあとがきには、持続的な発展の概念に触れ、そのための人間行動に関する整合性を何点か挙げております。そのうちの一つは、引用しますと、「現在の世代の行動と未来の世代との整合性である。それは現在の人々の行動が将来の人々の文明生活の存立基盤を危うくすることがあってはならないというだけではない。未来の世代の人々がよりよい生活を築くことを可能にするように、技術の開発を進めることもその中に含まれる」とありますが、技術の開発の中身にはハードに限らず、このような環境ガイドラインというソフトも当然含まれると考えていいのではないかと思います。

 本日の提言が国際社会に大きく寄与することを期待しますし、また、詳細は避けますが、これらの提言は実に人間の安全保障、ヒューマンセキュリティにもつながっているものであると考えております。

 地球サミット以降の大きな変化は、一つにはグローバリゼーションがありますが、この中で世界の現状がSustainable(持続可能)になってはいないわけでありまして、これは厳しく悲しい現実であります。そのようなことからも、輸出信用機関や貿易保険に関する環境アセスメントについて関心を強く持ってきましたし、国会でも取り組んできたところです。本日の報告会に示された提言は考えるための重要な機会を提示しているばかりでなく、日本が国際社会に向けていち早く行動へ踏み出し、イニシアティブを発揮するチャンスにもなるのではないかという内容であり、また、地球環境ガバナンスの視点からも重要と考えております。

 ところで、この度の提言について少し具体的に触れてみたいと思います。まず第一に、研究会のあり方として、NGO有識者、関係省庁、国際協力銀行などがオープンに議論が交わされた意味でも世界的に先進的であり、この構成で多くの課題について真摯に議論が進められてきたことであり、特筆に値します。

 効果的な政策のサイクルを重要視する近年の視点から考えますと、行政プロセスの透明化、政策の有効性と成果に対するモニタリング、行政という行為に対するアカウンタビリティー、あるいはフィードバックシステムなどに対する要請が高まってきておりますが、そこで第二点としては、環境審査における透明性やアカウンタビリティーの確保をすべきという提言内容であります。これは極めて重要な点でありますが、そのためには融資の決定が行われる前にプロジェクトに関する情報の公開が必要であること、また、これに関連して、外部の意見を十分聞く時間が必要であることなど、いずれも重要な点でないかと思います。

 第三点目は、国際協力銀行が輸出信用機関、あるいはODAなどの環境社会配慮に関して深い責務を感じていると理解しておりますが、先んじて提言をガイドラインに関して国際的なイニシアティブを発揮できる機会を含む、そういう内容であると思いますし、例えば、環境審査の基準であり、あるいは内部チェック機関の設置、さらにガイドライン実施のための体制の強化・充実などの提言にあると思っております。

 以上の提言が国際協力銀行の環境ガイドラインの統合に十分生かされ、ガイドラインの作成や実施のための具体的な行動計画、さらに長期的には環境社会配慮の強化に関するビジョンの構築につながることを強く期待しております。と同時に、その具体的な実践に注目したいと思っております。私も微力ながらサポートを心がけてまいりたいと思っております。本日は皆さん、大変ご苦労様です。(拍手)

前田 加藤先生、どうも有難うございました。

 続きまして国際協力銀行の理事、浜中から一言ご挨拶させていただきます。

 

<挨拶 浜中秀一郎 国際協力銀行 理事>

浜中 国際協力銀行を代表いたしまして一言ご挨拶申し上げたいと存じます。

 ただいまは発起人でいらっしゃいます加藤先生から内容につきまして十分噛み砕いたご説明をいただいたところですが、事務局としての私どもの立場も踏まえまして、若干、お話申し上げさせていただきたいと思います。

 まず、私ども国際協力銀行の環境配慮のあり方につきまして、ご多忙の中、一年間にわたる活発なご議論をいただきまして、今般、大変貴重な提言書をまとめられると共に、また、今日はかくも沢山の方にお集まりいただく、こういうセミナーを開催してくださった国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会のメンバーの皆様に、まず厚く御礼を申し上げたいと思う次第です。

 この研究会は今さら私が申し上げるべくもありませんが、本行の環境ガイドラインに高い関心をお持ちの有識者の皆様、NGO、あるいは関係省庁の皆様、さらに国際協力銀行のこのガイドライン統合の関係者、こういう各グループが参集されてガイドラインのあり方につきまして、それぞれの所属組織に捕らわれない自由な議論を展開していただいたという点で、非常にユニークかつ有意義なフォーラムであったと、そういうふうに認識しているところです。

 あと数週間で本行は統合して2年になりますが、99年の10月に日本輸出入銀行と海外経済協力基金が統合したわけです。新しく誕生した国際協力銀行はわが国の対外政策に係る公的資金協力を一元的に担当する機関という位置付けになりまして、わが国の貿易促進、海外直接投資の支援、国際金融秩序の安定への貢献、開発途上地域の経済・社会の開発、および経済の安定、これらへの支援を通じ、これまで以上に効率的機動的な国際経済社会の貢献を図っていくという役割であり、現在、これに邁進しているところです。

 本行といたしましては、こうした活動を行っていく上で、支援対象プロジェクトにおける十分な環境配慮を確保することが公的機関としての重要な責務であると認識しており、かねてより環境ガイドラインの策定、環境審査担当セクションの設置等、環境配慮につき積極的な対応を図ってきているところです。

 また、ご案内のOECDの輸出信用保証部会、ECG会合において、輸出信用機関共通の金融ガイドラインが、環境ワーキングループ会合において、環境ワーキングループ共通の環境ガイドラインが検討されているわけですが、本行はそれぞれにメンバーとして加わって、よりよい共通環境ガイドラインを策定すべく議論に積極的に参加しているところでございます。

 研究会において議論された統合環境ガイドラインにつきましては、今申し上げましたOECDECG会合をはじめとする会合で、国際的な環境配慮を行うという潮流があるわけでして、これを踏まえて検討を進めているところですが、統合環境ガイドラインを本年度中には完成させたいと考えているわけです。

 ガイドライン策定にあたりましては、民間企業の貿易投資活動を支援する準商業ベース融資と、本行が案件の組成のかなり初期の段階から関与し、相手国政府に対して供与する政府開発援助、この二つの業務の違いへの配慮、こういう点も含めて、引き続き検討すべき点もあるわけです。

 本行としては、今般の研究会の貴重なご提言や、本日のセミナーにおける皆様方のご議論をはじめ、さまざまな方の意見を幅広く参考にさせていただきたい。よりよいガイドラインを作るよう、最大限の努力を傾けていきたい。こう考えている所存です。

 本日、ここでセミナーを開催していただき、銀行の中での検討を進め、この銀行の中での検討が一つの区切りまでまいりましたら、パブリックコメントの募集も予定をしたいと、こういうふうに考えている次第ですので、今日はそういう意味では、これまでご苦労いただきました研究会の皆様方の成果をご披露し、議論をしていただくと共に、次なる作業へのいわばキックオフであるということで、大変重要に考えている次第です。

 やや私事にわたりますが、10年前、私は大蔵省の主計局で環境庁担当の主計官をしておりまして、その頃から環境につきまして十分考えさせられるところがあり、本日、こういう立場で、またこの新しい国際協力銀行の統合ガイドライン作業に私自身も加わることができるということで、大変ありがたく思っている次第です。よりよいものを作っていきたいということを皆様にお約束したいと、こう思う次第です。

 以上を持ちまして、簡単ですが、国際協力銀行を代表してのご挨拶とさせていただきます。どうぞよろしく、今日のセミナー、活発なご議論をやっていただきますようにお願いしたいと思います。有難うございました。(拍手)

前田 有難うございました。

 それでは早速ですが、研究会提言の紹介に移りたいと思います。提言の要点ということで、東京工業大学の原科教授にご説明をいただきたいと思います。原科先生はこの研究会のまさに中核的なメンバーとして、非常にお忙しい中、時間を割いていただきました。この研究会は通常の公的機関による審議会と違いまして、一切謝礼を出しておりません。その中でも熱意を持って参加していただいて、非常に多くの高い学識で私どもを指導していただいたということで、本当に感謝の念で一杯です。原科先生、よろしくお願いいたします。

 

1)研究会提言の紹介 原科幸彦 東京工業大学教授>

原科 ご紹介いただきました原科です。私は東京工業大学で環境計画における住民参加ということを研究しております。環境アセスメントも私の重要な領域と考えておりますので、この研究会にご協力させていただきました。

 今ご覧のOHPは、Built Environment』というこの分野では大変有名な雑誌で、ロンドン大学から出ております。30年ほど続いておりまして伝統のある雑誌なのですが、実は先週この雑誌の最新号が手元に届きました。少し読みにくいかもしれませんが、表紙には「Environmental Assessment Japanese Style」とあります。つまり、世界が日本のアセスメントに注目しているということなのです。

 たまたま私はこういった分野を勉強しておりますので、この雑誌のゲスト・エディターを頼まれまして、この特集を組みました。私は国際影響評価学会IAIAという学会の日本支部の代表をやっております。この学会には世界から110数カ国が参加しております。もちろん日本、アメリカ、イギリスなど各国の環境省も関与しておりますが、世界銀行等の国際機関も関与しております。この学会のメンバーを中心に頼みまして、日本の事例を紹介しました。英語ではこれが初めてです。世界がこういうことに注目しているのだということで、ご紹介までに、『Built Environment』誌を一冊持ってまいりました。回覧致しますので、どうぞご覧ください。

 日本のアセスメントが注目されましたのは、実はご承知のように2年前に環境影響評価法が全面施行されました。そういうことで日本の制度もずいぶん変わったことは、国際的に認知されています。国際協力銀行の環境配慮は、こういった新しい日本のアセスメント制度、これを踏まえたものになるだろうということなのです。国際協力銀行の今、融資業務、年間2兆円ほどのお金を動かしているとお聞きしまして、私は大変驚きました。聞き及びですが、世銀が扱っている金額と比べても、もちろん世銀の方が大きいのでしょうが、そんなに変わらないようなオーダーなのです。ですから、国際的に大変影響力があるわけです。国際協力銀行が融資する業務において、やはり環境影響など、あるいは地域社会への影響がよろしくないということは甚だ困るわけです。その意味でも環境配慮のガイドライン、しっかりしたものを作っていただきたいというのが私どもの希望です。そういうことで、この研究会が発足しました。

 この研究会の経緯につきまして、先ほど来ご紹介がありましたので、もう少し詳しくご紹介したいと思います。お手元の資料をご覧いただきたいと思いますが、緑色の提言です。これは、日本語による要旨と、それから英文要旨。さらに日本語による提言となっております。めくっていただくと、こういった要旨のあとに日本語の部分があります。「国際協力銀行の環境配慮ガイドラインへの提言」と書いてあります。この頁、最初から順番にありまして、22頁までが本文になっています。

 めくり続けていただいて22頁の次、ここにこの国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会の設置要綱が2頁にわたって出ておりますのでご覧いただきたいと思います。ご覧のように沢山のメンバーが入っておりますが、メンバー構成は行政関係の方が多いです。ただ、行政の方は担当がお代わりになりますので人数が多いように見えますが、実はご覧の半分位でしょうか。しかし、行政の方ばかりではないことを認識していただきたいのです。他には、私ども大学のメンバーや研究を行っている人たち。それから、NGOの方も来ておられます。先ほどご挨拶していただいた加藤議員もメンバーです。このように、いろいろな立場の人が集まっています。国際協力銀行のこういった分野の担当の方をベースに一緒に議論しました。

 構成のところに、「なお、各メンバーは、その所属組織を代表するものではない」とあります。つまり個人の資格で自由に議論しようと。それから「また、代表や座長は置かず、メンバーが等しく責任を共有する」と、こういった組織です。

 ですが、それぞれのバックグラウンドははっきり見えていますので、そういう責任はあるのだということで議論してきました。昨年の10月から今年の7月まで、10カ月間で、16回の会合がありました。この他に、この提言のドラフトを作るために6回の会合を行っておりますので、合計22回。つまり、2ほどの会合をやってまいりました。大変これは密度の高い議論をしてきたわけでして、この文書がその成果です。

 右に活動内容や活動スケジュールが書いてありますが、特に「5議事録および情報公開」をご覧下さい。これも公開性を高めようということです。これは大変大事なことです。

 私は環境アセスメントの研究を行っていますので、アセスメントに関しては若干資料をつけさせていただきました。お手元に別綴じで、「長野県の中信地区・廃棄物処理施設検討委員会の事例」とあります。これは後でまたご説明しますが、めくっていただくと、「クローズアップ 人」と書いてあります。大きな活字で真ん中にある「環境アセスメントの本質は意思決定過程の透明化」はいつも私が言っていることです。何で意思決定過程かと申しますと、「環境を配慮しました」、これを社会に対して説明するのがアセスメントなのです。ですから、アカウンタビリティーを満たすためのプロセスなのです。そのプロセスが透明でないといけないということなのです。アセス法によってどう変わるか。それについても参考資料をつけました。次の頁です。

 『環境と公害』という雑誌があります。岩波から出ておりまして、日本では30年以上になる一番古い環境分野の雑誌です。資料はこの雑誌に昨年掲載したものです。アセス法が施行されて、今後どうなるか。そういうことで、アセスメントに関する最新の情報を入れておりますので、これも参考としてご覧いただきたいと思います。

 アセスメントというのは、そういう意思決定過程の透明化ですから、国際協力銀行が環境配慮のガイドラインを作るのであれば、このガイドライン自体がいろいろな立場の人たち、これはいろいろな利害を有する人たちということで、最近英語では「ステークホルダー」という言い方をします。いろいろなステークホルダーが関与している。そしてガイドライン作りを考えようではないかと、そんなことでこの研究会がスタートしております。ですから、アセスメント自体の透明性と共に、このガイドラインのアイディア提供団体もできるだけ透明にしようと。ですから、議事録は誰がどのようなことを言ったか、発言順に、発言者名を明記して、記録しています。

 皆さんもいろいろな関係で政府の審議会や研究会、ご参加になることもおありかと思いますが、ぜひ、それぞれこういった会議の議事録で、誰が何を言ったかを書いていただくと。極めて重要です。

 これはわれわれは大変効果があったと思います。つまり、言ったことに責任が伴うのです。皆さんがこれを見て、また批判も受けますから。それを覚悟でやってきたわけです。そういったことでやっております。

 それから、議事録だけではありません。会議の傍聴をOKにしようではないかと。通常、傍聴させますと、みんなが注目している問題は人が大勢やってきます。しかし、この場合には大変専門性が高い領域ですので、その恐れはないだろうということでともかくオープンにしました。そういったことが物理的に可能でしたので、一緒にテーブルを囲んでいただいて議論もしていただこうと、こうなりました。

 そのための委員会の持ち方はどうかということで、その参考に私のつけました資料、最初の頁です。「長野県の中信地区・廃棄物処理施設検討委員会の事例」です。

 これはあまり詳しくお話しする時間はありませんが、要するに、長野県の田中康夫知事から私が依頼されまして、この検討会を行っております。私はこういう考え方をしていますので、同じように皆さんと相談してこういう形でやってきたわけです。ですから、こういった私がやっている経験から申しましても、この研究会は甚だ透明性が高いということが言えると思いますので、そんなことで参考につけさせていただきました。

 それでは提言の要旨についてもう少し詳しくお話しします。さらに詳細にわたりましては、テーマ別解題でそちらの皆さんに順番にご説明いただくと思います。お手元の緑色の資料の最初の方になります。国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会の提言の要旨ということで、2001年の919日付のものが一番最初の頁に入っています。

 七つの項目がありますが、1番は理念です。これは「持続可能な発展」。英語では「Sustainable Development」といいます。この概念をやはり、国際協力銀行の業務においても基盤に据えていただきたいということです。

 この持続可能な発展に寄与するように銀行の融資業務が行われることを期待します。そのためにこの環境配慮のガイドラインを作るのだということです。

 次の図をお願いします。これは大村さんが作られた図で、後でまた出て来ますが、少しご覧いただきます。

 これは国際協力銀行がどんな形で環境配慮ということで関与できるかなのですが、最初に事業計画を立案して、多くの場合環境アセスメントを行います。アセスメントを行って意思決定、判断した後に融資の要請をするわけです。融資の増資が来てから、初めて国際協力銀行、アクションが始まるわけですから、全体のプロセスを見ますと甚だ条件が悪いですよね。つまり、意思決定がある程度進んでから関与していると、こういうことでございます。ですから、そういった制約の中で最大限頑張ってもらいたいと、こんなことをいわれます。

 ですから、そのためにどうしたらいいかということで、ずっと考えてきました。そこでお手元に書いてありますように、事業者に対する環境配慮を要求するというのです。こういうことがまず基本です。ですから、そんな流れになるのだということをまずご理解いただきたいと思います。

 そこで、このわれわれの提案では、国際協力銀行が求める環境社会配慮の方針を明確に示して、事業者や借入人等に知らせまして、早期に情報公開や住民との協議を含めた十分な社会環境配慮が行われるように促していくと、こんな具合なのです。ですから、融資しますが、その前に十分環境社会配慮をしていただきたい。

 今、「環境社会配慮」と申しましたが、日本で、「環境」と申しますと、ナチュラル・エンバイロメント、自然環境ということが中心です。しかし、国際的な場では「環境」といいますと、ナチュラル・エンバイロメントとソーシャル・エンバイロメント、「社会」です。ですから、コミュニティへの影響や、地域社会への影響ということも考えなければいけないのです。そういうことで、われわれはあえて環境および社会、環境社会配慮という表現をしておりまして、そういう幅広い概念であるということを示しております。

 今、その要旨の次の頁を開いていただきたいと思います。次には、環境審査と書いてあります。環境審査、われわれはこれは環境レビューという用語を使うようにしましたが、審査段階です。これはまず、大切なことは、これも先ほど来もお話があったと思いますが、まず、情報公開なのです。ですから、意思決定の前に環境関連の情報公開をして、早期に、特にNGO、そして第三者からの意見を採り入れることによって、審査の質を高める。これが大変大事な点です。早期に情報を公開していただくのです。これを事業者の方に要求しようということです。このために、例えば、国際機関などで用いられている手法、手続きを取り入れまして、審査プロセスの透明性がより高まることが期待されます。

 それから、こういったことは実はきちんとやったということを示すためにやはり情報公開は早めということともに、環境レビューの結果を意思決定に反映されたことをやはり書いたもので示さなければいけないということで、これを示した文書は、融資契約後に公開すること。これも提言しております。

 では、環境レビューをするときにどんな基準でレビューするか。この場合に、われわれは多くの場合、議論があります。つまり、融資すると。しかし、相手国の事情があります。ですから、相手国の法令や基準等の遵守、これは当然です。しかし、往々にして十分ではないということがあるのです。この場合どうするかなのです。その場合に、よくいわれていますが、それでは内政干渉になるではないかと。しかし、いろいろな判断は変わってまいりますので、事業展開が何年もかかる場合には、実は相手国自体の判断も変わる可能性があるのです。特に国際的な環境はどんどん変化しておりますので、その意味では、その先を見た戦略的な対応をするべきだということでして、例えば、国際機関や、あるいは日本と、日本もそういう意味では先進国のはずですが、先進諸国が定めている基準や、あるいはグッドプラクティスといったものを参照しまして、そして審査していこうと。さらには、環境配慮、ガバナンスについても留意するというようなことを考えています。

 環境配慮の質を高めるために銀行内で、もちろんそういったことで対応していただきますが、さらに外部の意見も場合によってはうかがった方がいいのではないかということで、特に影響が重大と思われる案件や、異論の多い案件については、専門家からなる委員会を設置しまして、意見を求めることもできるようにしたいと、そういう提言となっています。これが環境審査です。これが具体的な内容です。

 それから、このための中心的な手続きはご存じの通り環境アセスメントになるわけですが、環境審査に対する具体的なことは提言の22頁にわたって書いてあります。

 それから、次のところ。意思決定・融資契約等への反映です。環境審査の結果を各融資決定に反映させてということになりますが、そのためにはきちんと反映していただいて、その結果、環境社会配慮上大きな問題が起こった場合どうするか。それに対しては融資をしないこともあり得るというのです。そういうことをいっております。これはかなり明確な姿勢の表明です。そんなことを私たちとしてはお願いしたいということです。そのことによって、きちんと環境社会配慮をしようというインセンティブが事業者の方々にわくのだと思います。そういうことも明確にしております。

 それから、この順次、融資が終わりまして、実際にプロジェクトを承認して、そして融資を実施。プロジェクトの実施です。その間には環境社会配慮、あらかじめ予測評価しているわけですが、実はその通りうまく行くかどうか分かりません。そこでモニタリングが必要です。モニタリングしてその後に対してフォローアップしようということで、これも提言の中に書いてあります。

 事業者にモニタリング、そして対策をお願いするわけですが、これを銀行が確認しまして、問題があると思った場合には、場合によっては融資の停止も含めた融資契約上の権利行使、こんなことも検討するようです。

 それから、同じような銀行が事業者の方とやることがありますが、実はその銀行のそういった環境配慮、プロセス自体がきちんと環境社会配慮ガイドライン同士、やっていただいているかどうかということで、このガイドライン遵守に関するチェックも必要です。これは当然内部のチェックがされるわけですが、それだけで十分ではないという声が出る可能性があります。特にいろいろなところで、日本でなく海外での事業展開ですので、情報も十分伝わらないことがありますので、いろいろ出てきた場合に困るということで、その場合には外部委員会を設置しまして、外部委員会でこのガイドライン遵守がされているかどうか、きちんと確認していただきたいと、こういうことです。そこで、外部委員会の設置を提言いたしました。

 例えば、銀行の融資案件の環境ガイドラインの遵守につきまして、異議申し立てがある場合、この外部委員会が申し立てに対応して調査を行います。この調査の結果を外部委員会の方から銀行に勧告しまして、これを公表すると、こういうことです。この委員会は、なかなか議論がありましたのであまり具体的なことは決まりませんでしたが、すでに世銀などの国際機関でも導入されている。異議申し立ての機構導入、そういったことをわれわれとしては、考えていただきたいということを提言しております。

 7項目目は、いろいろ事業者の方に銀行からそういう環境社会配慮をしていただきたいということですが、しかし、当事国、相手国によってはなかなか難しいということもありますので、例えば、開発途上国の借入等に対しましては、十分な環境配慮を求めるために支援をした方がいいだろうということで、国際協力銀行が案件形成促進調査などによる調査における積極的な支援を行う。こういったこともわれわれとしては提言させていただきました。

 以上、駆け足で申し上げましたが、こういった7項目がわれわれの提言の要点ではなかろうかと思います。あと、詳細にわたってはこのあとのパネリストがまたお話しし、またご回答しますが、一応要点のざっとした紹介は以上にさせていただきます。

前田 原科先生から概括のご説明がありましたが、ここでフロアから質問がございましたら、質疑応答ということにいたしたいと思います。恐縮ですが、発言をなさる方は挙手いただけますと、マイクを持ってまいります。そこでお名前と所属をおっしゃっていただきたいと思います。

金井 初めまして。金井玲と申します。フリーランスです。今、世銀も外部委員会を導入、必要性があると示したとおっしゃっていましたが、実際にそういった外部委員会が作られるという実例、あるいは今、進行中の話というものはあるのでしょうか。

中村 世銀東京事務所長の中村です。世銀には今、議論されている独立委員会のような組織はあります。それも世銀グループの中で二つほど形態がありまして、一つは独立委員会方式といいますか、完全に独立した方式。それからもう一つはIFCなどでやっているのですが、オンブズマンという形の方式をとっておりまして、この違いは、前者は自分の意見を勝手に言うというシステムであるのに対して、後者のオンブズマンというのは、問題があれば、それを解決するためにはこのようにした方がいいのではないかという、より建設的に、もう一歩出るような形の組織です。

前田 よろしいでしょうか。他にございますか。

大村 もと環境省におりました大村です。お手元にお配りしております「開発プロジェクトの環境社会配慮〜開発途上地域へ融資・投資される方々へ」は、環境省で海外事業における環境配慮について、最近の動向について調べたものですが、この8頁に世銀のインスペクション・パネルがどういうものであるか、21頁にIFCのオンブズマンが何かということについて、調べたものをつけておりますので、後ほどご覧いただければありがたいと思っております。

金井 どうも有難うございました。

中寺 原科先生、補足してもよろしいですか。 この報告書は私どもが作成したのですが、26頁を見ていただきますと、実はアジア開銀にも査閲委員会という世銀型の委員会がありますが、これは世銀の査閲パネルとよく似た形のものです。今のところ、世銀とIFCとアジア開銀、この三つにこのような組織があります。

原科 どうも有難うございました。

 ということで、かなり議論がありました。それは無理だという話もあったのですが、そういったことを踏まえると、お願いしたいと思いますね。

 他にご質問、ございますでしょうか。

高瀬 アフリカ・日本協議会の高瀬と申します。これが一年前に始まったときに、私どもも非常に興味を持って見守っていました。そして、今日、これを拝見しまして、ものすごく立派にできたのに本当に驚いています。はじめにいくつかの目標を置いて、画期的なものにしようと努力されたと思うのですが、結局はじめに意図されたことの何%を実現したとお考えですか。

原科 大変難しいご質問ですね。なかなか100%とは言えないと思いますが、78割方はと言いたいところです。

 私は、今おっしゃったように、当初は本当にどこまで行けるか心配だったのです。この研究会は10月に始まりましたが、実は4月ぐらいから相談はありまして、半年ぐらいスタートまで時間があったのです。参加者も、代表を置かないで等しい立場で参加するなど、そんなこともあって難儀でしたが、とにかく話し合う場を設けてスタートしたということです。

 実は、提言の本文をご覧いただくと、字が太い字でゴシックになっている部分と通常の明朝体と二つありまして、黒く太くなったところは、われわれの意志も硬いといいますか、この研究会の中でほぼ合意が得られたものです。明朝体の細い字の部分は中身の解説やまだ議論のある部分です。研究会で全部が全部固まったわけではありませんので、その意味では7080点もらえればいいかなと思います。

相川 数理計画の相川と申します。EIAは、どの時点でどの程度の内容のものが必要なのかということを教えていただければと思います。

原科 今の点は具体的な問題として大変重要な部分です。ここでご用意させていただいたのは、そういうようなことがありますので国際協力銀行が慣用しますのは、あくまでも融資の要請が来てからなので、その前の段階でどの程度アセスメントをやっていただくか、その前段階のアセスメント。この意思決定と書いたのは、融資要請の意思決定ですから、実際に国内で事業決定、またはそれぞれの国のシステムがありますから、実際にもう少し融資が決まらなければ事業ができないところがありますから、また次の段階というのがあると思います。

 そういうことで、前の段階の環境アセスメント、その図の左の上の方ですが、これはわれわれとしては、今、日本で始まったアセスメントは相当早い段階から本当はスタートできますから、ですから、例えば案件に関して、まだ十分に固まっていない段階から本当はスタートしていただきたいと。そういった水準のものをやはり各国にも、私としてはお願いしたいということで、そういったことを、EIAに関しては、これは実は案件の種類によりますから、関係機関、大きいと思われるものに関してはそういう対応をしていただきたい。

 そうでもないものに関してはまた違います。ですから、案件によりますが、アセスメントをきちんとやらなければいけないものに関しては、日本でいえば方法書段階に相当する段階から始めていただくということをこの提言の中でも書いております。もう少し具体的に申しますと、方法書段階(英語でスコーピング)と準備書段階の二回は住民と協議していただきたいというのは、希望です。

 しかし、いろいろわれわれの中で議論しまして、国の事情によっては難しいこともあろうということでした。ですが、われわれとしてはそういったところを一つの水準として考えておりますし、ケース・バイ・ケースで、国の事情によって弾力的に対応することを考えなければいけないかなということで、その辺りは少し幅を持たせて書いております。

 詳しいことはまた個別の課題でご質問いただくと思いますが、そんな感じです。

前田 少し補足させていただきます。環境ガイドラインの統合と言っている「統合」の意味ですが、これは国際協力銀行が旧輸出入銀行と海外経済協力基金との統合体として、さまざまな融資業務をやっておりまして、その融資業務の中には例えば円借款、今おっしゃったように実施主体そのものから要請があるものから、いわゆる輸出信用といって、プロジェクトの実施主体であるバイヤーから必ずしも要請があるわけではないものまで非常に幅広いわけであります。従いまして、私どもが関与するタイミング、あるいは関与の深さなど、そういったものがバラバラといえばバラバラなのです。このバラバラなものをバラバラに扱っているというのが現状なわけですが、それをこの統合ガイドラインでは、プロセスに違いがあるからバラバラでいいという発想ではなく、どうやってやればそれぞれのプロダクトの違い、融資の違いを超えて一つの姿勢を打ち出せるかというのがこの統合ガイドラインを作る作業の根幹です。従って、その中で、今、原科先生がご説明なさいましたように、例えば、われわれからファイナンスを受ける場合の、受けようとする実施主体にどういう環境配慮が求められるのかということを、あらかじめこのガイドラインで示そうではないかというのが一つの方策なのです。

 もちろん、われわれはまだその段階、例えば輸出信用などの段階で、直接的な契約関係にはありませんが、契約関係に入る前に、あらかじめどういうことが求められるのかということを周知しようというのが、この環境ガイドライン統合の一つの仕組みにしようと思っています。そういう意味で、さらに細かい説明が各パネリストからありますが、ご参考にしていただきたいと思います。

前田 他にご質問はございませんでしょうか。

ミサワ 国際開発ジャーナルのミサワと申します。具体的な提言ではなく、途中の話し合いの雰囲気をご紹介いただければと思うのですが。

 こうしたケースで公的な機関とNGOの方が一緒に議論するということは、あまり多くはないと思いますので、その辺りを少しご紹介いただければと思います。

原科 そうですね、なかなかこれは評価が難しいところがありますが、私の感想としましては、お互いにかなり率直かつ紳士的な意見交換があったと思います。そんなに感情的にならず、やはりきちんとした対応があって、NGOは怖いなという感じをお持ちの方もあるかと思いますが、そんなに怖くないという感じです。(笑い)

 きちんと議事録が公開になりますので、実証に基づいた、あるいは論理のしっかりした議論をしていただいて大変よかったと思います。

 私も環境アセスメントは専門ですが、国際金融のことなどはよく知らなかったのです。その辺りも制約がありますよね。しかし、そういったことを踏まえてお互いに議論してやって行くと。

 それから私が一番驚いたのは、国際協力銀行の担当の方が非常に前向きなのです。これは本当にそう思いました。つまり、国際協力銀行というのはそれだけの影響力がありますので、少なくとも、アジアのこれからの将来の環境に対する配慮をリードしていこうという、それぐらいの意気込みを感じましたので、これはおおいに期待したいと思います。

 よろしいですか。それではどうも有難うございました。(拍手)

前田 どうも有難うございました。引き続きまして、テーマごとの解題ということで、まず、前環境省環境協力室長補佐の大村さんにお願いしたいと思います。

 

2テーマ別解題 (1)環境アセスメントの国際的潮流とJBICガイドライン 前環境省環境協力室 大村卓>

大村 ご紹介に預かりました大村です。題として「環境アセスメントの国際的潮流とJBICガイドライン」ということでご説明いたしますが、私は新しい環境アセスメント法の準備作業に従事していたり、あるいはそのあとにこちらのOECFにもお世話になったりなどしたことも踏まえまして、いろいろなお手伝いができるのではないかということでやってまいりました。その観点から、近年の国際的なアセス、あるいは海外事業の環境配慮の流れをご紹介しつつ、OECFと輸銀さんが持っていたガイドラインからどこが新しくなったのかというようなことについてご説明したいと思います。

 先ほど、この図、すでにご紹介いただきましたが、もう一度私の視点からご説明したいと思いますが、先ほど前田さんからもお話がありましたが、国際協力銀行はODAの円借款業務、それから半ば商業的、準商業的というようなお話もありましたが、日本の民間企業に対する融資等を通じて輸出振興をするというような、国際金融等業務、両方について融資業務をやっている。いずれにしても、考えなければならないのは、相手国の中でプロジェクトが行われるということなのです。その中で、実際にプロジェクトの計画がなされ、相手国の中でそれなりの意思決定が行われる。そのあとに、ODAであれ、国際金融等業務であれ、そのあとにその融資の要請が来るということです。銀行としてはこれを受けて中で意思決定をして融資をするかしないかを決める。する場合は契約を結んで、ここで相手との関係を形作るということです。それからあとは相手の国の中でプロジェクトの進行が行われるということです。

 こういった構造をしっかり理解しなければいけないというところがわれわれは始めたわけです。先ほど、NGOが政府機関と集まって話し合いがどうなるかということで非常に興味深いという話がありましたが、私どもが一番最初に心がけたのは、それぞれの思いがおそらく食い違っていた、あるいは誤解があるのではなかろうかと。それぞれの業務がよく理解できていない。あるいは例えば、銀行の中においてもODA業務と民間商業事業者を相手にするところにはずいぶんな考え方の差があります。こういったNGO的な視点、それからODA的な視点。それから、民間の活動支援という三つの非常に大きな異なる考え方を、そのまずギャップを埋めていくことが一番大事なのではないかということでわれわれは始めたわけです。ですから、最初は共通認識の形成というものに非常に力を注いできたわけです。そこはご理解いただきたいと思います。

 そういった意味で、先ほど80%なのか100%なのか、120%なのかという話もありました。われわれも、このアウトプットが絵空事になっては非常に困ると思ったわけです。やはりリアリティを持って、きちんと実現していただく、銀行にわれわれが提言したあとに、その提言を取り入れて、具体的なシステム作り、それから具体的な実践に移っていただきたい。ではそういったことを考えた上で、どこまで提言としていうのか。あるいはさらに、まずは動かしていただいて、そのあと様子を見ながら改良していってもらうのか。そういった順番も考えながらやっていったということです。ですから、もっともっと目指すべき点からいいますと、70%、80%ということかもしれませんが、できる限りプラクティカルなものを作っていくという意味でいいますと、当初の予想を超えて、きちんとお互いの誤解を解いて、お互いの理解を深めた上でやったものですから、そこは私は100%あるいは120%行ったのではないかということを申し上げたいと思います。

 これは中身に入ってまいりますが、こちらが環境アセスメントの国際的動向ということで図を描いてあります。これは特に海外事業の環境アセスメントについての動向です。古くは85年にOECDODAについては大規模事業等についてきちんとアセスをしなさいという勧告を出しています。従って、OECDの加盟国はこれを守らなければいけないということになります。これを受けた形で、日本の海外経済協力基金が、ここで環境ガイドラインの第一版を作っております。それから、95年に環境アセスメントをきちんと取り込むような形でこれが改定されております。

 85年にOECDの勧告があったわけですが、UNCED92年にありました。持続可能な開発がテーマに掲げられましたが、この中で意思決定、環境に配慮した意思決定という観点において、環境アセスメントが非常に重要な役割を果たすというようなことがいわれ、それから、例えば地球環境問題や、戦略的環境アセスメントといった流れになっているのかというように考えています。

 それから、OECDはこういった勧告を出したあと、実はさまざまテーマ別のガイドラインを出しています。例えば、環境アセスメントの実施の仕方や、あるいは農薬がODAで使われる場合の管理の仕方、あるいは有害化学物質の取り扱いのやり方。そういったガイドラインを、今、9つぐらい出します。こういった新しいものが今出ているのですが、なかなかそれが今、日本国内で活用されるまでに至っていない意識をしています。

 それから、ここに黄色で描いていますが、世銀ですが、世銀はガイドラインをもっと前に入れたのです。入れておりますが、99年に大幅に改定をしています。情報公開や住民参加というようなことを非常に強化するような形で改定をしています。

 それから、98年にPPAHPollution Prevention and Abatement Handbookというかなり分厚い汚染防止のハンドブックが出ました。世銀が融資するプロジェクトについてはこれぐらいの基準を守らなければいけない。主に排出基準です。それまでは世銀はどちらかというとアセスの手続き重視だったのですが、10年間の準備期間を経て、このレポートを作った。

 実際に具体的な基準や、適用すべき技術も書いてあります。これが世銀の中ではスタンダードになりつつありますし、世銀からの融資のないプロジェクトであっても、これをクリアするようにというようなことを、メキシコなどの政府では取り入れているやにも聞いております。ですから、一つのde facto standard(事実上の基準)になりつつあるのかなというようにも思います。

 それから紫色で書いてありますのが、いわゆる輸出入銀行のガイドラインです。米輸銀は95年に議会の働きかけもありまして、ガイドラインを出しております。

 OECFと輸銀の統合が9910月にありましたが、その準備過程でやはり輸銀側にガイドラインという形のものがないのがよくないのではないかという議論がありまして、99年の9月にガイドラインができています。

 現在、統合が終わったあとこの二つのガイドラインを併用するような形です。ODA業務についてはOECFのガイドライン、旧輸銀業務、国際金融等業務については今の、この輸銀のガイドラインを併用するような形でしておりますが、この統合のときに国会の約束等々で、統合した機関においては統合したガイドラインを作ろうという話になっております。

 また、先ほど少し説明がありました国内のアセス法が99年にできて、やはりここでも、例えば地球環境をスコープに入れたり、あるいは情報の公開、住民の参加といったものが強化をされているところです。ですから、そういった流れの中で、OECD勧告が始まったいろいろな流れの中で、現在ある二つのガイドライン、これをどのように見直し、強化し、そして統合していくかということが課題になっていったということです。

 それともう一つ、グラフが小さいのですが、実は昔は途上国に対する資金のフローを見ますと、ODAが圧倒的に多かったのです。民間フローが少なかった。ODAが緑色で、橙色が民間への投資フローなのですが、年を追うごとに、民間投資量が非常に増えていった。ということもあって、昔はODAのガイドラインというのが大きな役割を果たしていったのですが、現在は、民間企業の支援のための環境ガイドラインをどうやって作っていくかというのが、大きなイシューになっているということです。これが背景です。

 そういった中で、研究会というものが発足いたしまして、今に至って、できる限りここでプラクティカルな提言を出して、実際のガイドラインの、銀行がおやりになるガイドラインの作成につなげていきたいと思っています。

 この他にも、これはわれわれの動きとは少し違うのですが、「持続可能な社会に資する銀行を考える研究会」というものも、この銀行は入っておりませんが、そういったものが商業銀行を中心にして発足をしまして、やはり、レンダーの立場、融資する機関としてどういうふうに環境配慮を考えていったらいいかという活動も今、始まっています。まさに、こういった沢山の動きの中でわれわれ、どのような考えを持っていくのかということを議論していきたいということです。

 いくつか、国際的潮流のポイントを申し上げますと、まず第一が、より早い段階で環境配慮をしなければならないということになっています。これは、例えば環境アセスメントが後の段階ですと、やはりなかなか計画にフィードバックができないということもあって、より早い段階でやって行きましょうと。新しい環境アセス法についてもそういった精神が含まれて、スコーピング段階で住民からの意見徴集をするというような形に改定されたところです。これは国内のアセス法の話です。

 次に、より広いスコープということが言えるかと思います。つまり、環境の影響を考えるに、狭い意味での影響ではなくて、例えば地球環境や、社会あるいは特に人権、ジェンダーの問題、そういったものに実際に影響のあるものは拾っていこうという流れがあります。

 もう一つ、「参加」です。意思決定のプロセスに、より幅広く参加を求めていこうということです。それから、より早期に幅広く情報公開をやっていくこと。これも例えば、世銀の取り組みの中でもそれが見えますし、先ほど米輸銀が最初にガイドラインを作ったというお話をしました。米輸銀でも、融資の要請があったものについてはただちに米輸銀のホームページに載るのです。我が銀行としては、今こういった融資について審査をしている途中ですと。何か意見がある人はどうぞということをやっています。非常に早い段階の情報からやっています。そこで、もし何か意見があったら、あるいは環境アセスメントレポートを見たいとなったならば、これはCD-ROMで出しているのです。そのような形で少量的な融資をされるところであっても、もうすでにそういった情報公開が始まっているというようなことがもうあります。

 さらに、モニタリングとフォローアップの強化ということが五番目に挙げられると思います。世銀のガイドライン見直しでも、世銀はそれまでapproval cultureというのでしょうか、事前の審査はしっかりやるけれども、フォローアップがなかなか上手くなかったというような反省があったと聞いております。従って、事前に環境アセスメントで問題を上手く回避するような計画作りをし、許可もするわけですが、その後でやはりいろいろな問題が起こるだろうと。非自発的移住や、ある生態系への影響について予測が難しいような問題、こういったものにどうやって対応していくかということが大事だと思います。

 最後に法制化ということです。明示的に文書で示すということが非常に大事だという全体の流れになってきています。以前のOECFのガイドラインと輸銀のガイドラインについて、ご覧になった方は分かると思いますが、わりと簡単なガイドラインです。後ろにチェックリストとして、技術的にチェックする項目については分厚い資料がついているのですが、手続きの面や、基本的な考え方の面は、ほんの数頁に収まるようなものでした。

 やはりもっと環境配慮、何がリクワイメントなのかということをもっともっとはっきり出していく。お互いの責任の明確化をしていくということが今の流れになっています。今のこの6点をわれわれは念頭において作業を進めてきたという形になります。

 ここに環境アセスメント重要8指針というものを出させてもらいました。これは96年にバリ・サドラーという人が日本に来たときに講演の中で言ったわけですが、参加・透明性・確立性・説明責任・信頼性・費用対効果・柔軟性・実用性、八つの指針を挙げております。こういった指針に従って実際、環境アセスメントというのはいろいろな経験に基づいて進化するプロセスであるというようなことを言っています。そういった意味で、われわれは今のガイドラインを、二つあるものを統合して、より進化をさせ、さらにその運用をしていく中でもっと進化していけるのではないかというような考えを持っております。

 それでは、新しい提言の中でガイドラインのどういったことが、先ほどの観点から新しくなっているのかということですが、三つの重要な点があると思います。

 まず、相手の国の中で事業者が、あるいはその地域の政府、地域社会がいかに環境に配慮した計画を作ってもらうか。これが一番のポイントです。次に、銀行としてはそれを受け取った後、どうやってそれを本当かどうかチェックをするか。きちんと計画が環境に配慮したものになっているか。さらには、それをきちんと実施する能力があるかということを見るということが次の段階として重要になってきます。番目に、いよいよプロジェクトが始まったら、実際にあらかじめ約束していたいろいろな対策が守れるかどうか。そこが大事な三つのポイントです。

 その中で、融資機関としては、ここを事前にチェックするのはできるだろうと。あと実際の実施が、融資機関の手を離れて、実際の事業者側にやってもらわなければいけないということで、いかにその融資契約で相手を縛るかということが大事になってくるということで考えました。

 そういった重要なポイントにおいて、先ほど、例えばより早い意思決定でありますとか、より広い情報の参加であるとか、そういったものを入れていくのかということが課題になってきます。

 そこで、より早い段階の環境配慮という意味で言いますと、二つ大きく、今回の提言の中で新たに入れた要素というのがあります。一つは、環境社会配慮要件を明示するということです。提言の本文でいいますと、5頁から6頁に国際協力銀行として相手方に示す要件を箇条書きでいくつか書いてあります。2頁に渡って書いてありますが、これを相手方に守って欲しいということを明示しております。

 これは銀行がチェックする、しないにかかわらず、やってもらわなければ困りますよということです。理念を言っています。その中で新しいこととしては、地域社会における合意が必要だというようなことで、きちんと明示してあったりとか、環境影響の回避、最小化、これをやって下さいと。あるいは環境管理計画の策定をしてください。それから、非自発的移住、その回避、最小化だとか、やむを得ない場合の補助支援など、いろいろなものを言っておりますが、こういうところをきちんと明示をしたということです。

 それからもう一点、環境アセスメントです。環境アセスメント要件を明確化していく。これについては12頁に環境アセスメント報告書の要件ということで出しております。先ほど、アセス書はいつ提出をするのかという話がありましたが、当然、銀行の環境レビューの時点でないと困るということです。ですから要請を受けた時点で、アセス書がないと銀行として判断できないという形になります。もちろん、軽微なプロジェクトであればアセス書がいらない場合もありますので、そこは銀行が要請を受けた時点で、銀行としてカテゴリABCと分けて、A案件であれば環境アセスメント報告書が必要ですと。ですから、直ちにそのレビューに入るということです。その時点でなければいけない。

 では、どの程度のアセス書でなければいけないのかということについても、これまでのガイドラインで実ははっきりしていなかったのです。これまでのガイドラインでは相手国政府にオーソライズされたもの、というぐらいにしか決まっていなくて、相手国の政府の要求が緩いといいますか、簡単なものであってもそれを受け入れていたのですが、この提言では例えば、環境アセス書の作成にあたって、事前に十分な情報が公開されなければいけないことや、スコーピングとドラフト時に住民との協議を行うことが望ましい、など具体的にわれわれはこの提言の中で構成までは示していないのですが、今度作るガイドラインでは具体的にどんな項目が書いてなければいけないのかということも示すべきだとまとめてあります。

 それから、早い段階での環境配慮について、これはODA業務だけになろうかと思いますが、案件形成に関わる場合は環境配慮も支援していきましょうということを述べております。

 より広い検討スコープということでいいますと、5頁から6頁にどういう観点でわれわれは物事を見るかということも入っておりまして、例えば、廃棄物、事故、水利用、あるいは、ジェンダー、こどもの権利、あるいは感染症、先住民族、それから、越境、また地球規模の環境問題、こういったものが従来のガイドラインに加えて、こういったところもきちんとスコープとして見ていこうという話を出しております。

 それから、直接的な影響でなく、派生的・二次的な影響、累積的影響も見ていこうと。これは世銀の新しいポリシーに沿った形になっています。ですから、国際水準に合わせてやっていく。

 それから、もう一点、ユニークなものは、環境レビューにおいては事業に関する、あるいは事業を取り巻くガバナンスが適切な環境社会配慮をなす上で重要であることに留意するということを言っています。つまり、例えば、相手国の汚職ですとか、民主化、地域住民が政府に対してものが言えるかどうか。そういう状況かどうかもきちんと見ていくのだという話になっています。これはさすがにアセス書に書いたりとか、相手の国に直接言うのはなかなか難しいものがありますので、ここはそのレビューの中でわれわれの心覚えといいますか、レビューするのだということを言っております。これは少し新しい点です。

 より広い意味ある参加ということで、どういうことが新しくなったかということですが、基本的な方針として、透明性とアカウンタビリティーのあるプロセス、すべてのステークホルダーの参加が重要ということをまずガイドラインの中に盛るべきだと提言しております。

 そこで、先ほど申し上げた三つの段階、相手国の中での事業形成の段階でどうかと言いますと、情報が十分公開された上でステークホルダーと十分な協議を経て、その結果が事業内容に反映されてなければならない。ということは、相手にリクワイヤメントとして出しています。もちろん、これを銀行としてもレビューしなければいけないわけですが、そういったことを言っています。

 それから、特に社会的弱者、例えば先住民族であるとか女性とか、そういった意思決定プロセスへのアクセスが弱い人に対して特別の配慮をすべきであるとか、あるいは先住民族についても、先住民族の合意が必要だというのは、国際条約上決まっていますので、そこは必ず入れましょうというのです。

 それから、銀行の意思決定でいいますと、ここは初めてこういうことを言ったのですが、JBICとしては関係機関、NGO、地域住民その他の人々からの情報を歓迎すると。そこの意思決定の中で、これまでは銀行の中だけで処理をしていたと言っていいに近いわけですが、外からの情報を歓迎するということになりました。これを可能にするための情報の公開をやっていこうという話にしております。事業実施時につきましては、銀行が何をやるかというと、第三者等から銀行に指摘があった場合は、借入人等に適切な対応を促すというようなことをきちんと言ったらどうかということです。では事業者が問題解決するときも透明でアカウンタブルであることが重要だということも言っています。この辺りが新しいところです。

 より早期の幅広い情報の公開という意味でいいますと、先ほどのアセス書のリクワイヤメントの中で情報公開を現地においてしなければならないというようなことも言っていますし、それをチェックするということですが、特にJBICの環境レビュー中、先ほどJBICとしては情報を歓迎するというようにして欲しいというわけですが、実際にカテゴリ分類、相手方からこういう融資をして欲しいと要請が来たとき、そこで、これはアセスがいるものか、全く環境配慮がいらないものか。アセスはいらないけれども環境配慮が必要なものかどうかと、三つに分けるわけです。分けたら直ちに公にしてくださいと。すなわち、先ほどの米輸銀でそういうことがやられているという話をしました。米輸銀並に、情報公開をここでやりましょうという話を言っています。

 それから、環境アセスメントの報告書などが銀行に届いた場合には、それをすぐに明らかにしようと。この二つを明らかにすることによって、NGOなど、いろいろな関心を持つ人からの情報を取り入れて、より幅広い情報に基づいた意思決定を確実なものにしていこうと。

 三番目に情報公開のポイントとしては、融資契約の締結後にやりましょうと。融資契約の締結後にどういった環境レビューを銀行はしたのか。その結果、どういった融資契約に何が反映されたか。相手側に何をやってくれと言ったのかといったようなことが分かるような形でオープンにしていくことが大事だろうと。すなわち、ここで情報を受けて、情報を呼び込んで、そのあとのフィードバックを情報を呼び込んだ人たちに返すというようなことを想定しております。

 モニタリングとフォローアップの強化という点については、われわれは二つの段階があると思います。一つはプロジェクトの現場で何が起こっているかということを、誰が把握するかといいますと、やはり借入人など、あるいは事業実施者、これが自分の事業でありますから、何が起きているか把握して、対策をとるのはまず第一義的に事業者だろうと、そういう発想をしています。ですから、ここで何をやってもらうかというのが銀行にとって非常に大事なのです。従って、事業者モニタリングが必要な場合にはあらかじめ事業計画で位置付けたりとか、あるいは実行可能性を銀行がきちんとレビューします。モニタリングが必要なのにやっていない、あるいはやらないような計画だったということになると、当然、そういったものは環境配慮が上手くなされてないという判断をするということです。

 次に大事なのが、借入人とそのプロジェクトの現場、これ全体を含めて銀行としてうまくいっているのかどうかを見る段階も必要でしょうということで、例えば、事業者側からそういった環境社会配慮の報告をしていただくとか、あるいは必要な場合には銀行もいろいろ調査をするとか、そういったことを折り込んだらどうかということを言っております。

 特に重要なのは、これを上手く担保するために銀行はその調査、借り入れ等に対して調査、あるいは対応の要求をします。あるいは場合によっては銀行が示したリクワイヤメントが上手く履行されていないという場合には、融資の停止等の措置の検討もあるということをはっきりと明示しておくということで、相手側の行動を担保するというようなことをやらなければならないだろうということを提言しております。ここにあるように、意思決定、融資契約ヘの反映ということでは、非常に大事だということをさんざん議論しています。

 特にわれわれが注目したのは融資契約です。実際に、融資後、どうやって環境社会配慮を確保するか。お金を貸した後、お金は借りたのだから、もう後は銀行のいうことを聞きませんと言われると非常にわれわれは困ってしまう。従って、融資契約、あるいは融資契約に付随する文書に、その環境社会配慮の条件を明記する。例えば、借り人等が行う対策やモニタリングをきちんとそこに入れてもらうとか、問題発生時にどうやってJBICに報告してもらうかとか、あるいはどうやって解決するかとか。あるいは借入人以外に、例えば相手国政府が重要な役割を果たす、どのような取り決めがあるのかなど。

 それから、これも重要なのですが、要求を満たしていない場合、あるいは正しい情報が提供されなかった場合は、融資の停止、あるいは破棄があるというようなことがあり得ることをきちんと明示していくのだと。これによって担保することが非常に大事だということを提言で申し上げております。

 駆け足で紹介しておりましたが、以上で背景としてどういうことが行われているのか。さらにそういったポイントから照らして、どこがわれわれの提言として目新しいのかというようなことについてご紹介をさせていただきました。以上です。

原科 次は前田さんです。

 

2テーマ別解題 (2OECDECGJBICガイドライン 前田匡史 国際協力銀行>

前田 それでは引き続きまして、司会者である私がOECDの輸出信用および輸出信用保証部会、ECGJBICガイドラインのことについて簡単にご説明をいたしたいと思います。

 私どもの研究会の提言の1頁に、OECD輸出信用グループの作業との関係について記載がありますが、この輸出信用グループの作業とは何かということについてご説明をしたいと思います。

 お手元に環境コモン・アプローチというレジュメをお配りしていると思いますが、(1)概要をご覧いただきたいと思います。このOECDの閣僚理事会のマンデートをうけて、2001年中の解決を目指してECG会合で協議してきたと。なお、G8のサミットマンデートとしても2001年までの解決を求められていると、こう書いてあるのですが、簡単に背景をご説明いたしたいと思います。

 先ほど、大村さんのご説明にもありましたように、開発途上国における環境配慮といったことを考えたときに、まず浮かぶのはいわゆるキャピタルプロジェクトです。例えば、発電所やダム、そういった案件について従来は世銀であるとか、あるいは二国間の援助機関の役割が非常に大きかったわけですが、この数年、政府が借入人になるのではなくて、特にいわゆるIPPとか民間電力事業主体など、民間の主体が実際にインフラ事業を行うということが非常に増えてまいりました。実際、ファイナンスの段階を見て、二国間の援助、あるいは多国間の援助の総量と比較しても、公的な輸出信用が果たす役割というのは、質的にも量的にも極めて増えてきたと、こういう背景が一つあります。

 しかしながら、公的輸出信用というのは、これは非常に仲間内の会合でして、OECDの参加国のうちトルコとメキシコをはずしましたいわゆる先進各国の輸出信用機関、最近では韓国がこれに加わったわけですが、この輸出信用機関が、trade distortion、要するに貿易歪曲を排除するという観点と、level playing fieldと呼んでいますが、要するに競争条件の平準化、共通の土俵で競争しようではないかと、こういう理念で1970年代の後半にできたフォーラムというのがこのOECD輸出信用アレンジメントというものでして、これは仲間のうちでお互いに監視している会ですが、仲間のことばかり見ているものですから、自分たちの外のことがあまりよく分かっていないということがありまして、閣僚理事会およびG8のサミット、ここで輸出信用機関がやっているような活動の中で、非常に途上国の環境社会配慮という観点からもう少し環境配慮をということについて、今までバラバラにやっていたけれども、これを共通化し、かつ強化すべきだという話がありました。

 何故バラバラにやってきたかということについては、これは輸出信用という形態というのはいろいろありまして、direct lendingという、例えば輸出入銀行のような直接融資をする形態から、保険、貿易保険のようなもの、それから、保証といった、さまざまなものがありまして、かつ、実施している機関も政府の一部門であったり、あるいは独立の、いわゆる私どものようないわゆる特殊法人のようなものであたり、あるいは民間に委託したり、いろいろなものがありまして、そのバラバラの主体を共通な視点から律しているのがこの輸出信用アレンジメントということなのです。

 それで、この検討する場としてはOECDの閣僚理事会のマンデートを受けて、このOECDECGというExport Credit and Credit Guaranteeという、そういう輸出信用保証部会というところで検討をするということになりまして、99年の5月の閣僚理事会、それから、そのあとのケルンサミットで行うようマンデートが出たわけです。サミットの参加国がG8、ロシアを除くとG7ですので、OECDのメンバーの中でG7の国は、サミットとOECD閣僚理事会と双方からマンデートを受けたと。

 これは、サミットでは共通ガイドラインと呼んでいますが、OECD閣僚理事会のマンデートではCommon Approachesと呼んでいまして、一歩下がったような表現になっております。各国の輸出信用機関というのはさまざまでありまして、とくに欧州諸国の機関は職員数が非常に小さいのが多く、その中で環境配慮といわれてもできないというのです。OECDの意思決定プロセスはあくまでもコンセンサスですので、小さい国でもごねるとなかなか決まらないということがありまして、名前だけコモン・アプローチというようになっています。

 このコモン・アプローチというのは今までずっと2年間議論してきまして、通常、アレンジメント会合というのは年に2回なのですが、年2回でまとまるはずがないということで、特別会合、環境特別会合というのを2カ月に1回延々とやりまして、欧州国の人は電車で行かれるからいいのですが、日本から行くと12時間もかけていかなければいけない。私は96年からやっていまして、本当にしんどかったのです。そういう会合でした。

 このコモン・アプローチの改訂版というのが後ろに付いています。これは英語なので非常にわかりにくいのですが、ポイントをまずご説明申し上げます。まずこの文書、2枚めくっていただくと、DRAFT RECOMMENDATION COMMON APPROACHES ON ENVIRONMENT AND OFFICALLY SUPPORTED EXPORT CREDOTS-REVISION 5-というのがあります。これ、REVISION 5は最新版では実はありません。この次にREVISION 6というのがあるのですが、これはまだ、REVISION 6は公表されていないものですから、申し訳ないですが、REVISION 5という直近のものでご説明をしたいと思います。

 文章の性格はRECOMMENDATION、そういうと弱そうに見えますが、これは要するに条約でないという意味でありまして、条約の次に強い表現になっております。従って、今の輸出信用アレンジメント、これのde facto standardとしては極めて強い拘束力がありますが、これと同じと考えていただければよいと思います。

 先ほど来議論になっておりましたSustainable Developmentという、持続可能な発展と。この議論がありますが、要するに輸出信用機関というのは、われわれの仕事はビジネスをサポートし、輸出を振興することなので、Sustainable Developmentというのは、それは援助機関の話であり、これはディファレント・アニマルなので知りませんと、こういうのが最初の議論だったわけですが、それはそもそも閣僚理事会なり、サミットで言われていることとはかなりかけ離れているわけです。従って、Sustainable Developmentは目的そのものではないけれども、こういうコモン・アプローチを通じてSustainable Developmentに貢献していくという言葉がこの中に入ったわけです。

 それから、そこの目的にありますが、「公的輸出信用と環境保護政策の調和を図る」、「公的輸出信用に係る共通の環境配慮手続きを、各国間のequivalencyと貿易歪曲緩和に配慮しつつ、構築する」と書いていますが、要するにプライマリーな目的は輸出振興。ただし、環境配慮についても十分配慮しなければならないと、こういうようなことが決まったわけです。というより、ほぼ決まっているところです。

 特徴を申しますと、対象が返済期間2年以上の公的輸出信用というのがありまして、短期のものは除外されているということで、2年未満の短期のものは、そもそもこのコモン・アプローチの中に入っていないというのが一つポイントです。

 その次にスクリーニングがあります。これもいろいろ議論がありまして、全案件はスクリーニングしたくないという人もいまして、また環境の担当が一人しかいないのに、全案件のスクリーニングはできないという人もいまして、ずいぶん議論があったのですが、結果的にはスクリーニングというのは、そもそも影響があるかないか、それを調べる最初の情報に対するアセスですから、最初から除外してしまったら何の意味もないということで、対象案件のスクリーニングは一応全対象案件ということになりました。

 ただし、その次ですが、その後のスクリーニングは案件のsensitivityを勘案しつつ、シェア1,000SDR超の案件に集中することができるとありまして、これはthreshold(敷居値)という議論です。要するに、小さい案件はそもそもスクリーニングすらやりたくないという、そういう意見を言っている国がありまして、数は小さいけれども多いのです。しかし、全対象案件をスクリーニングするといわないと、そもそもloop hole(抜け穴)があるように見えて、われわれが非常に迷惑するものですから、ここはシェア1,000SDR超の案件に集中することができるという程度の表現にしたということです。

 それから、スクリーニングの結果、以下のABC3カテゴリに分類すると。これは今度の私どもの研究会のカテゴライゼーションに非常によく似ています。カテゴリAは重大な環境の影響があると思われるものということでして、その次に原則として、Sensitive sector/areaの案件とあります。実はこのSensitive sectorという概念を入れるかどうかについて非常に大きな議論がありまして、これをぜひ入れるべきだと主張していたのは米国およびカナダなどの国でして、反対していたのはやはり欧州の国々でした。一般にいわゆる環境配慮ということについては、欧州大陸諸国は先進国と言われていますが、この世界では逆転現象が出ておりまして、反対している国が非常に多かったので、結果的にどうなったかというと、ANNEX Iというものがついています。英語の文章を何枚かめくっていただきますと、ANNEX IILLUSTRATIVE LIST OF SENSITIVE SECTORS AND AREASが出てまいります。ILLUSTRATIVE LISTだけれども、non-exhaustiveと言っていまして、これはミニマムではなくて、一つの例示だということなのです。このリストはEBRDのものです。

 世銀グループの中でもIFC、要するに民間事業主体に対する貸付を対象としている機関、それに非常に近いのがこのEBRDということでして、やはり、OECD輸出信用アレンジメントの世界では米系の、ワシントンに本部があるような機関のものを使うということについてアレルギーのある人が多くて、EBRDなら欧州なのでいいだろうということで、ほとんど内容は変わらないのですが、このEBRDのものが用いられました。

 ただ、これはあくまでもILLUSTRATIVE LISTということです。それがこのカテゴリAということで、Sensitive sectorといったものがどういうものかということですが、このカテゴリABCとあって、Aについて見ますと、ほぼ私どもの研究会のカテゴリ分けと変わりはありません。ただし、実際の環境レビューということになりますと、このコモン・アプローチではあまり何も言っていない状況でして、それに対して私どもの研究会ではかなりレビューの中身、何を要求するかということについて、先ほど来ご説明がありましたように、ストリクトリーに、かつ、表現も長い間議論を重ねて詰めているわけです。そこはかなり違うと。

 具体的に言いますと、EIAを徴求するかどうかが一番の大きなポイントでして、これも非常に議論をしたわけですが、英文の方にパラ11があります。英文でいうと6頁です。そこで、4行目です。a Member should decide whether an EIA is reqiredと。これが要するに個々のメンバーがEIAがいるかどうかを決めるということになっていて、要するにそれはアメリカは必要だと言っても、ドイツが必要ないというようなことが言えるというように、このREVISION 5ではなっていたのですが、これはさすがにひどいだろうということになり、このあとの会合で、この部分は表現が変わりまして、今のREVISION 6ではmembers would be expected to require EIAという、これでも英語としては割合強くない表現ですが、個々のメンバーではなくメンバーズです。つまり、コモン・アプローチの対象となっているすべての国の機関がEIAをよくすることが期待されると言うのでしょうか、日本語で言うと。would be expectedでは弱いではないかというようにお思いになると思うのですが、会合に長年出ている私としては、ここまで持ってくるのがとても大変だったということが現実です。

 このshould decide、「should」というから強そうにみえますが、単数で、Member should decideですから、勝手に決められると、こういう世界から、members would be expected to requireまで持ってくるのに、たぶん、パリと東京を二往復するような、それほどの労力がかかっているわけでして、非常にここまで来るのが大変だったというのが現実です。

 それから、その次に、このコモン・アプローチの特徴は何かというと、ベンチマーキングなのです。ベンチマーキングというのは何かというと、要するに基準を使っているかどうかを見ましょうということで、ミニマムにはhost country’s standardという、host countryの基準がまず参照されますと。その次に、international standard。これはベンチマーキングですから、当然、international standardと比べるという、そういう形態をとるわけです。international standardというのは何かというと、これは世銀およびRegional Development Banks(地域開発銀行)およびBilateral Development Assistance Agencies(二国間援助機関)と。われわれ、国際協力銀行は二国間援助機関でもありますから、そうすると、われわれの基準がベンチマーキングの対象となることにもなります。

 これも非常にややconflict of interest的なのですが、輸出信用の業務についてもODAの業務についても、基本的に共通のガイドラインを使いますと、この文脈では自分で自分のものをベンチマーキングするという、そういうことになるわけです。 要するに、これは非常に分かりにくいのですが、基準を比べるということなのです。もっと言いますと、ある国が非常に高い基準を持っていたということになりますと、それはその段階で非常によいということなのです。個別のプロジェクトサイトに入っていって、その基準が実際に運用の問題として守られているかなどについては、このコモン・アプローチでは特に何も言っていないのです。それではなんだろうということで、それを担保する方法というのは、これはやはり情報公開しかないと。これは国際NGOグループというのがあって、最初からこのECGのグループに対する情報公開を求めておられまして、コンサルテーションをということでやっていたのです。私は2年前を知っていますが、最初の雰囲気は、もともと仲間内の会議に異質な人間が入ってくることについて嫌がる人が多くて、議長だけ行くように言われて、NGOの方に叩かれて帰ってきて、こんなひどいことを言われたと報告する会議だったのですが、あまりだろうということで、有志だけ集まって出ましょうということになって、私も何回も出ましたが。

 そこは何をいうかというと、今いっているREVISION 5とか、こういうものは出しません。これをさらに簡略にした文書を出して、今、こうなっていますという説明をしてきたわけです。ただ、出席するNGOには、自分の国でコンサルテーションを既に行っている米国などが全部情報を流しているわけです。簡略にした文書を見せられても、既に持っているわけです。そういう意味からいっても、最初の頃は非常にひどかった。ところが最近になってくると、もうコンサルテーションはごく普通のことになってきて、2年間での学習効果というのはそれなりにあったと思います。

 パラ18をご覧いただきたいのですが、ここが、EXCHANGE AND DISCLOSURE OF INFORMATION。最初はこのOECDの議論は、exchange informationだったのです。何かというと、大きなプロジェクトで複数の国が関与するものについては情報を交換しましょうという。アメリカとドイツのやっているプロジェクトの内容を自分たちも知りたいと。日本のOECD事務局に行った情報が皆で見られるという、その程度の話だったのですが、そんなものは情報公開ではないということで、and disclosureという言葉が入ったわけです。disclosureの内容もここでずいぶん議論がありました。日本語の方のレジュメにありますが、最終改訂版のREVISION 6の変更点ということが書いてありますが、情報公開等のところで、カテゴリAB案件に係る環境レビューの情報を事務局に報告する、これと同時に、「スポンサーに情報公開するようはたらきかける」ということがありまして、この文章がREVISION 6では情報公開をencourageするというような表現で入っています。皆さんがお持ちのREVISION 5には入っておりません。

 それから各国法制度の限度内でカテゴリAB案件の情報を一般公開すると。この一般公開するのは、メンバーの、つまり、輸出信用機関の側の、つまり日本でいえばわれわれがカテA、カテBの案件については一般公開をすると、こういうことになっていまして、disclosureということについては、2年前の議論から比べれば格段の進歩がここで見られたというわけです。

 ただし、これも先ほど来申しておりますように、ベンチマーキングということの中身が、協定で何も決まっていない。基準と基準をつきあわせるというだけなので、それを具体的な運用のところで、実際にどうなっているかということについての公正さなり、あるいは本当にステークホルダーとの関係をどうするかということについての担保は、このOECDのコモン・アプローチの世界では情報公開というが唯一のインストルメントなのです。これが現状です。

 今、ここにお見えになっている方々は、やはり環境に非常に関心の深い方々なので、今申し上げたことが「本当だろうか」とおっしゃる方もいると思いますが、日本で最初から、かなりの最後の部分まで見ている人間は日本のシステムではなかなかいないので、私は、つい最近代わりましたが、つい最近まで見ていたという意味においては、2年以上前から比べれば、これでもずいぶん進歩したということかなと思っています。

 それで、この研究会との関係に立ち戻りたいと思いますが、先ほど申しましたように輸出信用アレンジメントの世界というのは、level playing fieldなのです。つまり、平等の競争条件。従って、低いところで競争条件が一致していてもいいし、高いところで一致していてもいい。平等であればいいという発想なので、どうしても低いところで一致するのは簡単です。これをrace to the bottom(下方への競争)と呼びますが、そのようになるというのが自然の摂理というか、原理で、そのように行動するのが楽なのですが、今、財務省の門間企画官もお越しになっていますが、この研究会にも参加していただいていまして、同じようにOECD輸出信用アレンジメントの会合に出ていましたが、われわれとしてはむしろ、先ほど来の原科先生もおっしゃっていましたが、自分たちの融資量の大きさ、それから責任の大きさ等に鑑みまして、race to the bottomというような誘惑を断ち切って、むしろリードしていくと。ちょうどJBICは、先ほどいいましたがベンチマーキングの客体であるし主体でもあると。こういう特異な存在になっているという利点を十二分に活用して、ぜひ、OECDの議論においてもリードしていく、その一つの大きな契機になるのがこの研究会の提言ではないかと、こんなふうに思っている次第です。

 簡単ですが、私の説明はこれで終わらせていただきます。

 引き続きまして、世銀の中村東京事務所長から。実は、最初のご案内では世銀本部の環境ご担当の江口さんからご説明をいただくということになっておりましたが、米国の同時多発テロをうけ、急遽お越しになれないとのことですので、中村所長からご説明をうかがいたいと思います。

 

2テーマ別解題 (3)世界銀行の環境の取組 中村修三 世界銀行東京事務所長>

中村 世銀の中村です。ただいま、司会の前田さんからお話がありました通り、本来、本部の環境担当部局の者が、ここでお話しさせていただく予定だったのですが、急遽私がピンチヒッターということになりました。

 これからお話を申し上げます前に、そういったことで、私自身、環境のエキスパートということではありませんので、今日、うちのオフィスから片岡という者に来てもらっています。彼は私どものオフィスで月水金、コンサルタントで来てもらっております。彼は日立でエンジニアとして働いておりまして、その後世銀に転身しまして世銀のprocurement(調達)関係、それから、技術的なご質問等を多数承るものですから、彼にはいろいろな側面において、皆様からのご質問等に答えることにしてあります。

 彼自身は、日立におりました頃から電力セクターのエンジニアということでしたが、従って、環境オンリーというわけではないのですが、逆に言いますと、世銀の融資担当というのはタスクマネージャーという言い方をするのですが、タスクマネージャーのサイドから、むしろ環境アセスメントを借り入れ国にやってもらうと、そういったような立場でこういった問題にも関与してきたわけです。

 先般、東京事務所で世銀本部の政策評価担当者を迎えて環境評価云々という表題でセミナーを行った際に、内容が環境アセスメントの意味での評価ではなく、evaluationという意味の評価、いわゆる政策評価のことだったので、表題とセミナーの内容が違うではないかというクレームを一部いただきました。表題の後ろには説明があったのですが、環境評価という四字熟語に関して皆様の関心が非常に高かったのだと思いました。

 今日もこれだけの方がいらっしゃっているというのは、まさにJBICさんのこういった動きに関連したものなのかなと、今、改めて思っておりまして、宣伝になりますが、うちのオフィスでも、今後、世銀の環境評価について、片岡さんの方から、彼は評価専門の人間ではありませんので若干序論というような形になろうと思いますが、そのようなことも今後やらせていただきたいと、思っているところです。

 それから、この席に私ども世銀グループのIFCの方、どなたかいらっしゃいますか? 藤倉代表、ご起立をお願いできますか。

 藤倉代表ですが、世銀グループは世銀、IFCといろいろコンポーネントがあるわけですが、特に民間企業関係、輸出信用関係に近い業務というのはIFCでやっておりますし、それから、IFCでも少し似て非なる環境評価手続きを採っているということですので、そういったこともお知りおきいただければと思っております。

 今日のセミナーについて、日刊工業新聞にも「海外事業に新環境指針」というようなことで記事がすでに出ておりました。われわれとしても、こういった指針については非常に関心を持っておりますし、すでにこれまでも世銀の環境の担当者と意見交換のようなものを持たせていただいておりますし、本部からのコメントのようなものを少しお話したいと思います。まず、非常に立派な仕事をされていると言っております。

 仕組みとしては、世銀の仕組みとかなり似たようなもので、カテゴリをABC分類され、その後で環境評価ということに入ってくるということなど、非常に似ているものかなと思っております。

 少し順序が錯綜しますが、世銀が見た環境の重要性ということについてだけ、一言申し上げたいと思います。世銀の仕事というのは、基本的には地球上の貧困をなくしていこうということなのですが、それは持続的な開発を行う形で貧困をなくしていくということをわれわれは言っているわけです。

 この点につきまして、皆さんもあるいはご承知かと思いますが、国連においても国際開発目標をいろいろ言っているわけですが、その中の一つの大きな項目として環境に関する部分が入っているということもあります。これなども、世銀のウェブサイトからどういったような開発目標があるのかということについてご紹介させていただいているわけです。

 JBICガイドラインに入る前に、世銀自らの懺悔といいますか、現状から少し入りたいと思うのですが、先ほど申しました本部のものが来て、東京事務所でやったセミナーの内容ともオーバーラップしてくるのですが、世銀自身、環境というのは非常に重要だということは常々言っているわけです。

 例えば、エコノミストに頼んで計算してもらうと、毎年の途上国のGDP4%から8%のロスにつながっているというような計算もしていますし、それから、環境阻害要因、これが様々な疾病ないしは極端な場合には死亡につながっているというような問題、それから、水の不足の問題、森林破壊、砂漠化。こういったものによって、特に途上国の農村部における人たちが悪影響を受けているというようなこと。それから、水産資源、魚などについても、世界の水産資源の67割はすでに危険にさらされているというようなこともいろいろ言っているわけであります。さらに、最近の特徴としては、市場経済化が非常に進んできて、かつ、民間資本が大きくなってきているということで、公的資金以外のことで、民間の役割というのは非常に大きくなってきているということ。それから広い意味では民間に当然入ってくるわけですが、NGOの役割も非常に高くなってきていて、そういった方々との対話が重要だというようなことは言ってきているわけです。

 内部での評価を少し申し上げますと、実は、これは先ほど高瀬さんから何点満点ですかという厳しいご質問をいただいたのですが、これは何点満点という点数になっていないのですが、世銀のポリシー、ストラテジーと、途上国のこういった政策面などにおける指導について点数をつけてみると、Partiary Satisfactoryということでした。トップが目標超過で、先ほどの話ですと120点になります。これがHighly Satisfactoryです。100点満点がSatisfactoryですので、現状はそれより下ということを世銀自ら認めている状況であります。

 それから、世銀の環境関係の貸付、これは世銀の貸付のごく一部ですが、それに関する評価。それから、メインストリーミングと言っているのですが、要するに仕事の隅々まで環境に対する配慮が行っているかということについても実はPartiary Satisfactoryということで、決して100点満点ではないと。

 それから、今日の議題であるセーフガード、それから環境アセスメント。これについても実はPartiary Satisfactoryといような状況になっています。

 もう一つ、項目立てしてありまして、グローバル・コンサーンということで、地球規模の環境問題について。これについてはSatisfactoryというような評価を、内部の独立の評価部門がしているわけです。

 そういったことで、世銀自身、こういったガイドラインの設定について、先進的であるというような評価を賜っているわけですが、世銀自身、なかなか内部でもいろいろな問題を抱えているということのが事実です。

 これは、言ってみれば、できもしないことを約束しすぎてしまったと言いますか、コミットメントが自分自身のキャパシティーを超えていたというようなことがあるわけです。

 それから、英語で言いますと、lack of institutional consensusということを言っておりまして、実は世銀の中でも環境について、全員が同じような高い意識でいるかというと、世銀の規模を申し上げますと、一番最初に原科先生からJBICよりも大きいという過分な評価をいただいたのですが、ほぼ同じです。だいたいJBIC2兆円規模ですか。世銀が、これは年によって量が増えたり減ったりしますが、大雑把に言って1ドル100円で考えれば、ほぼ同じような規模になります。

 実は世銀は職員数が9000人おります。JBICさんは確か800900人ぐらいですか。ということで、世銀の方がある意味では非常に恵まれた状況にあるということで、本当にJBICさんは大変だなと思っているわけです。

 それから、三番目のポイントとしては、世銀のことで、クライアント、借り入れ国自身が環境についてどれだけ高いプライオリティをおいていてくれているかということになると、必ずしも安心という状況ではないわけです。そういった中で、世銀としても、これからいろいろなことをやっていかなければいけないということがありまして、そこまでお話申し上げると少し宣伝が過ぎるので控えますが、基本的には環境に関するアセスメントというのは、世銀の中の反省でもありますのは、この提言の中でも触れているかと思いますが、できるだけ早い段階からこういった作業に入る必要があるということです。ある程度、時間が経ってしまいますと修正がきかないという状況になってきて、借りる側も貸す側も苦しい状況になってきてしまうと。それから修正をやるために非常にコストがかかってしまうということで、それが後々の不幸な事態を招いてしまうというようなことがあると思います。

 世銀としましてはできるだけ早い段階からこういった作業に入ることは必要であって、そのためには環境関係の職員の研修も当然必要ですが、一般の職員に対する研修、これも反省としては今まで十分ではなかったということで、そういったあたりも十分やっていかなければいけないということがあります。

 それから、当然のことながら、相手国のキャパシティーといいますか、能力、これも高めなければいけないということで、技術支援をやっていかなければいけない。もう一つ、骨としては、大きいところでいいますと、こういった環境アセスメントというのは従来の考え方はプロジェクトごとにやってきた、そのスポットに関する環境について対応してきたわけですが、より広く、国の環境政策、それから環境の現状、どういったようなところにリスクがあるのか。先ほど大村さんからお話があったと思いますが、そういったような広い観点を重視しなければいけないのではないかということが世銀が現在考えているポイントです。

 そこで、この提言ですが、一番最初に理事の方から「これからキックオフである」というお話がありましたし、これは批判などではなく、OECFで行われていた環境評価や今までの研究会の議論の詳細を知らない私個人の意見なのですが、二、三申し上げたいと思います。

 一つは、関与時期ですが、このレポートの中でも早い時期から関与することが必要であるというふうに何回も書かれているのですが、一方で、関与の時期がどうしても遅くならざるを得ないというジレンマは制度上あるいはどうしようもない話なのかもしれませんが、世銀の経験からしますと、やはり早い段階から入って、デザインとかについて考えていかないと、あとでコストが非常に高くなる。今までデザインの修正などにかかるコストは場合によっては全体コストの10%など、かなりのものになりますし、極端な場合には案件そのものがノーゴーというか、行かないと、進まないというようなこともありますので、そこのあたり、案件の準備には相当程度手間がかかるので、プロジェクトというのは救えるものであれば救えた方がいいと思いますので、そこのあたり、さらにご工夫が、可能であればしてはいかがかなということが、一点、少し私は読んでいて思いました。

 それから、もう一点は、このレポートでも、法的な問題があるということだったのですが、テクニカルアシスタンスについては、世銀は多少そういったことができるけれども、JBICの場合にはかなり限定した制度しかないということだったのですが、これも世銀の経験ですと、借り入れ国のキャパシティーといいますか、このあたりが実は問題になってきますので、何とか工夫できないのかなと。世銀の場合ですと、例えば、ローンの中に一部入れてしまう、後払いの形でローンの中に入れるというようなこともやっておりますので、このあたりについて、そういった意味ではJBICを超える話かもしれませんが、ぜひやらないと、おそらく環境というのは日本にとっても途上国の発展ということだけでなく、日本にとっても非常に利害関係があると思いますし、そういったようなことをして、相当取り組んでいけばそれだけのメリットがある話なのではないかなという気がしました。

 また、提言の17頁には、「すべての案件について銀行がモニタリングするを行うことは、効率的でも現実的でもない」とありますが、モニタリングというのは程度の問題もありますので、極力モニタリングはやっていかれた方がいいのではないかと思います。世銀の経験でも、先ほど大村さんの話もありましたが、スーパービジョンとわれわれは言っていますが、案件を、これはかなり世銀の場合にはスタッフが先ほどの話ですと10倍、実はいるわけで、現地に年に何回も行って、現地もある程度広ければ全部当然見られないわけですが、ある程度見て、どこか問題があれば相談に乗るという形でやっていますので、そういった辺りも、この辺りは今後決まってくる話だろうと思いますが、私個人としてはかなり重要なのではないだろうかと思っております。

 それから、これも後で細目で出てくると思うのですが、例えば、世銀などの場合にはタスクマネージャー、融資担当者はある程度積極的に、環境アセスメントというのは借り手の責任だというのが世銀のシステムでもその通りなのですが、ある程度、実際会いまして、環境アセスメント、コンサルタントの方に発注するというような場合には、もちろん、世銀でなく借り手の側でやるわけですから、ただ、Terms of Referenceとかドラフトとか、そういったものについては、ある程度、いつも世銀というのは干渉的だと言われてしまうところもあるので、そこの辺り日本の援助のフィロソフィーとどういう関連になるのかよく分かりませんが、ある程度世銀の場合には借り手のことであっても注文をしていくというようなことをしているわけです。

 最終的に、環境評価というのは結論が出るわけですから、そういった意味ではそのあたりについての寛容の度合いというのはこれからのご議論の中で十分ご検討いただければと思っております。私からは以上でございます。

前田 どうも有難うございました。

 

2テーマ別解題 (4)人権、社会影響、参加等とJBICガイドライン 松本郁子 地球の友ジャパン>

松本 今回、JBIC環境ガイドラインの改訂に一緒に関わってまいりました地球の友ジャパンの松本です。実は地球の友ジャパンというのは、このビルの前でデモをしたりもしているNGOでして、最もJBICに対して批判的なNGOの一つだと思うんですが、私たちも文句ばかり言っていても仕方ない、とにかく前向きに改善していく必要がある。では、どこを改善していけばいいのか、具体的にどこまでできて、どこができないのかということを研究会でいろいろと教えていただきましたし、そういった意味では非常に友好的に、スタッフの方でずいぶん世銀のガイドラインや、米国の輸出入銀行、あるいはOPICといった海外の輸出信用機関のガイドラインも研究しながら、この研究会にいろいろな提言をさせていただきました。

 今日は大村さんや原科先生の方からも概要についてお話いただいておりますので、特にNGOの視点として、私たちはプロジェクトの行われる中で、もちろん自然環境だけではなくて、社会的な配慮、地域の住民の方々への配慮が行われていくことが一番重要だと思っておりまして、このガイドラインの中で社会環境配慮をどうやって行っていくのか、世銀の中でもグッドプラクティスという形でしか、きっちりとした基準というのはなかなか設けられないような状況ですが、その中で国際協力銀行としては、社会配慮をどのようにやっていけるのか。実際このガイドラインの提言の中に書かれていることは一部ですが、具体的に私たちが今取り組んでいる、フィリピンのサンロケダムという事例をご紹介しながら、どういうようなところに社会配慮していただきたい、プロジェクトを行っていただきたい、あるいはほんとにプロジェクトの影響が回避されないものに関しては中止をしていただきたいと考えております。

 私たちが一番強調したいと思っているのは、提言の中の6頁、対象事業に求められる社会環境配慮のところです。その中で「社会的合意及び社会影響」という項目がありますが、その中で@「地域住民への事業による社会環境影響について十分な調査や説明が行われているかどうか。」あるいはA「十分な情報公開をした上で、地元住民や、あるいはNGOといったステークホルダーとの適切な協議が行われているか。」そして、そういったB「協議が適切に事業計画に反映されているか」ということが重要な項目だと考えております。

 私どもは、このガイドラインの方針の中で書かれていますが、やはり「国際協力銀行が行う融資に伴って、その事業地、あるいはその周辺の地域で、地域の住民の社会的文化的な生活に破壊的な影響を及ぼすことがないようにきちんと確保していく」必要があるのではないか。公的機関として、こういったことをきちんと担保していく必要があると思っております。破壊的な影響を防ぐために、ではどうすればいいのか。社会的な配慮をしていく上では、やはりこの3点が非常に重要なポイントになるのではないかと考えております。

 それでは具体的に一つの事例をご紹介しながらお話を進めたいと思います。このフィリピンのサンロケダムという事業は、98年から国際協力銀行が融資を行っているプロジェクト、総計で12億ドルのプロジェクトです。フィリピンのルソン島の北部にありまして、アグノ川という川が流れております。少し見にくいと思いますが、川沿いに段々畑が広がる非常に美しい地域です。このダムの反対運動の中心となっているのが、このダルピリップ村という川沿いに広がった畑です。

 この地域の皆さんが、なぜこのプロジェクトに反対されているかというと、同じ川の上流に既に二つのダムが建設されておりまして、これはビンガダムというダムですが、その上流で、ご覧いただけるがどうか分かりませんが、川の両側の村がすっかり土砂で埋まってしまっている。こうして村が消えてしまったわけです。さらにその上流に、これはアンブクラオダムという同じアグノ川につくられたダムですが、この上流でも、やはり貯水池の上から土砂堆積が進んでおりまして、この土砂堆積というのはこの地方は高山開発が盛んに進められておりますのと、ご覧いただけますように、ほとんど山がはげ山状態になっておりますので、非常に浸食が激しい。

 そういった中で、さらに下流に大型のダムです。これはダム高が200メートルということで、貯水池が85,000立法メートルと非常に大規模。おそらく皆さんの方がよくご存じだと思うんですが、日本の黒四ダムよりも大規模なダムができるということで、私たちにしてみれば、こういった地元のイバロイ先住民族が、さらに大きなダムができることを懸念されることは十分理解できると。ところが実はこの人たちというのは、80年代からずっとこのダムに反対をしてきているんですが、コンサルテーション、情報提供も全くないままにステークホルダーとして認められないで、今まできてしまっています。

 事業に関してですが、これは関西電力と丸紅と、サイスエナジーという会社が出資しているサンロケパワーコーポレーションという合弁会社がこの事業の主体になっているわけですが、事業者は先住民族の人たちは影響を受ける人たちではないとしています。先住民族の人々はこれまで日本に何度も来られて、このプロジェクトの堆積を非常に心配している。上流の二つのダムのような影響が起こることを懸念しているということをお話されたんですが、再度調査をされた上で、この上流の人たちには影響がないというレポートを出されて、ダムは現在も国際協力銀行によって融資が行われているということです。

 先ほどの写真を見ていただいたら分かりますように、地元の住民たちは堆積を計算するような方法も持っておりませんし、技術的な知識もありませんが、そういった50年の歴史の中で、自分たちの文化を侵してきたプロジェクトというものに非常に大きな懸念と恐怖心を持って、このプロジェクトに対応してきているわけです。ですから、そういった方々をステークホルダーとして認めないで話を聞かないでいるということが、最終的にはこのプロジェクト全体のマイナスになってしまっているのではないかと思っております。

 提言の中では、対象事業に求められる社会配慮として、計画されている地域において社会的に適切な方法で合意が得られるように十分な調整が図られていなければいけないということや、あるいは特に環境や社会に与える影響が大きいと考えられる事業に関しては、早期の段階から情報が公開された上で地域住民等のステークホルダーとの十分な協議を得て、その結果が事業内容に反映されていることが必要であると、今度の提言内容の中では書かれているわけです。このサンロケダムに関しては、こういったステークホルダーとの協議、その協議の内容が事業の結果に反映されなかったところ、現在もプロジェクトが進んでいるという状況です。

 さらに、98年に当時の輸出入銀行が融資を決めた、そのすぐ後に、フィリピン大学の先生がこのプロジェクトは上流の先住民族の人たちの生活に、非常に大きな影響があるというレポートを出していらっしゃって、私どもがそれを国際協力銀行の方にお渡ししたところ、持っていなかったということで、そのとき初めて先住民族の上流の方々もステークホルダーとして認められることになったわけです。

 実際、今どういうことになっているかといいますと、フィリピンの中には先住民族権利法というものがありまして、その中では先住民族の人たちが所有する土地に対して行われるプロジェクトに関しては、事前に十分な情報を得た上で、プロジェクトへの合意が得られていなければいけないという法律があるわけです。実際、先住民族委員会から出てきたレポートの中では、このイバロイ先住民族の人たちとは十分な合意がなされていなかったということが書かれておりまして、実際これが法的に違法なプロジェクトになってしまい、事業を中止せざるを得ないかもしれないという状況にまで現在発展してきているわけです。

 ですから、こういった先住民族の人たち、科学的な根拠は示せないかもしれませんが、きちんと意見を聞いて、それを反映していく、調査をしていく。その人たちの懸念をくんだ調査を行っていっていただきたいと考えております。

 さらに先住民族の人たちへの配慮としましては、この提言では「先住民族に関する国際的な宣言の考え方に添って、土地、及び資源に関する先住民族の諸権利を尊重する」ということと、さらに「十分な情報に基づいて、先住民族の合意が得られるよう努める」ということも、新たに入っておりますので、今後の改善を期待したいと思っております。

 さらにこのプロジェクトの中で、私は十分な情報提供とコンサルテーションが行われてこなかったと思っているのですが、その結果として出てきているのが反対運動の拡大です。これは20013月に行われた地元でも大規模なデモ、ダムに対する反対のデモですが、実際どうしてこういうことになってきたのかといいますと、実はこのアグノ川ではずっと伝統的に砂金採取が行われてきておりまして、先ほどご覧いただきましたように、ほとんど地元の方々は畑を耕して、自給自足的な生活をされているのですが、砂金取りというのが非常に重要な現金収入の糧となっておりまして、そういったことについてNGOの指摘があるまで事業者は彼らへの社会的影響について調査を行ってきませんでした。ところが、先住民族の人たち、あるいは流域の人たちほとんどが雨期にはこの川で砂金取りをしているわけです。そういった砂金取りをしている人たちへの補償が全く考慮されていないし、そういった方の調査というものも行われてこなかったということです。

 先ほどご覧いただきましたように、実際今、工事が進んでおりますが、ようやく最近になって、流域の人々はダムができてしまうと砂金取りができない、現金収入がなくなってしまうということに気づいて、さらにダムの反対運動が拡大してきているという状況があります。

 ダムができることによって砂金取りをしていた人たちがどれだけ影響を受けるかということですが、こういったプロジェクトが行われる場合には、発電でどれだけエネルギーが得られるか、あるいは灌漑で生産高がどれだけ上がるかなど、プラスの面だけがとかく強調されがちですが、やはり地元の人たちが生活の糧を得ていた、そういったものがなくなることによるマイナスです。プロジェクトによって、環境が変化することによって、いったい地元の人たちにどういう影響が起こっているのか。そういうことを調査の中で含んでいっていただきたいというのが、この提言の中に含まれている、事業者に求められる環境配慮の基本的事項の中に書かれていることです。

 「事業がもたらす環境及び社会の影響について、できる限り早い段階から調査検討を行うということ」と、こういった「影響がある場合は、回避、軽減するような代替案や緩和策を検討して、その結果を事業計画の中に統合していく」。さらにこの「緩和策、対策を社会的、環境的、関連費用、便益をできるだけ定量的に評価して、経済的、財務的な評価と調和していく必要がある」ということが、社会環境配慮の中に含まれているわけです。

 サンロケダムばかり引き合いに出して申しわけないですが、さらにひどいのは移住世帯の方々です。このダムでは741世帯が移住をすることになっておりますが、結局、移住世帯の方々は、先ほどスライドをご覧いただきましたような、上流の川沿いで畑を耕して生活をされていた方が川沿いの土地を失った。それで180ほどのコンクリート建ての家に詰め込まれて、実際畑があれば食べるものが確保できたところが畑がなくなってしまっている。さらに先ほどご紹介したように、現金収入の糧であった砂金取りもできなくなってしまっている。新しいコンクリートの家では水と電気が供給されているんですが、もちろんこれは無料ではありませんで、毎月請求書が来る。

 そういった中で、実際補償はもらったけれども、自分の補償を切り崩して生活をしていくような中で、実際、水道も電気も払えないと、どういうふうに今後、生活していったらいいのかという、ほとんど路頭に迷うような状況になっていらっしゃるわけです。もちろんそれに対する生活再建のプログラムなども考慮されておりますが、ほとんど持続可能な形で彼らの生計手段になるようなめどはい立っておりませんし、この提言の中で国際協力銀行は、事業が環境や地域社会に受け入れることのできないような影響をもたらすことがないように、適切な社会環境配慮が行われることを要求すると書かれております。これはセーフガードの考え方で、非自発的移住と呼んでおりますが、こういったものは、ほんとに受け入れることができないような影響をもたらさないで実施することができるのかどうか、私自身は非常に不安に思っておりますし、このガイドラインの中では非自発的移住に関して、「非自発的移住、及び生計手段の喪失はあらゆる方法を検討して、回避に努めなければならない」と述べています。

 これまで、どのように社会配慮をしていく必要があるのかをお話させていただいたわけですが、実際、JBIC自身がどのようにそういった社会配慮が行われるかを確認していけばいいのか。これは先ほど申し上げましたように、一つの指針があるわけではありません。どうすればいいのかということがあると思いますが、まず第一には、「借入人から提供される情報だけではなくて、地域住民やステークホルダー、NGOの第三者から提供される情報も活用して環境レビューを行っていく」という、銀行自身の環境配慮に対するレビューの新しい方針を出しているわけです。

 さらにもちろんNGOやステークホルダーが意見を出そうと思いますと、意思決定が行われる前に、案件に関する適切な情報が出されないと意見が出せないわけですから、そういった意味で情報公開と協議に関する基本的な考え方というところで、提言の中では、「第三者からの情報提供が早期に行われることを促進するとともに、環境レビューのアカウンタビリティー、及び透明性を確保するため、環境レビューに関し、重要な情報は環境レビュー期間に際し、適切な手続きと機関を設けて公開する」と書かれております。先ほど世銀の中村さんからお話がありましたように、私たちもタイミングというのがODAと輸出信用でずいぶん期間的には変わってくるのかと思っておりますし、期間が具体的にまだ定められていない中で、十分な期間をなるべく早期に出すためにどういうふうに設定していくのか、非常にこれから関心を持ってきているところです。

 世銀では、特にIBRDIDA公的機関への融資に関しては、理事会の120日前、IFCMIGA民間向け機関に関しては60日前に情報公開をするという制度をとっておりますので、是非国際協力銀行の中でも、そういった制度を参考にしながら、なるべく早く情報を公開して、多くの方の意見を収集した上で社会環境配慮を行っていっていただきたいと考えております。社会環境配慮の中で、もう一つ非常に難しい問題なのは人権、ガバナンスの問題です。

 私がもう一つ関わっているケニアのソンドゥ・ミリウ水力発電事業というODA行われている事業ですが、この案件に関しましては、地元で社会環境問題を指摘しているNGOの方が拘束されて逮捕され、拷問を受けて、あるいは地元で行われた住民集会が、事業主体の警備員によって解散させられるという状況です。

 こういった状況の中で、どのように社会配慮を行っていけばいいのか。非常に難しい問題だと思うんですが、特に今回の提言の中では人権の問題について、前書きのところで、「国際協力銀行は人権の尊重に関する国際的な原則や条約、規定に添って融資等の業務を行う」と明記しておりまして、実際、これらの規定の中では性や人種、民族にかかわらず個人、及び集団の権利の保障が各国政府の責務であると書かれているわけですから、国際協力銀行が当該国の人権状況に関する一般的な情報を十分に収集されて、さらに融資検討においては十分な配慮を行うことが、国際法上、要請されているということですので、非常に難しい問題であり二国間でどのように関わって行くかということはありますが、やはり国際法に則った基準で対応をしていっていただければと思っております。

 今日、私は特に社会配慮をどのように行っていくかということを中心にお話させていただいたんですが、一つの答えはないと思いますし、一件一件の中で十分に、その案件に関わっていかれる一人一人の方が思いを持って取り組んでいかれることによって、社会配慮が行われていくのではないかと考えております。今回ここにいらっしゃっている方々はいろいろな形で事業に関わっていらっしゃる方々だと思いますので、お一人一人のお力で、ぜひ、十分な社会環境配慮ができるように対応していただきたいと思っております。有難うございました。(拍手)

前田 有難うございました。続きまして、我が国民間セクターの海外事業展開に関する環境配慮ということで、地球人間環境フォーラムの中寺部長からプレゼンテーションをお願いしたいと思います。地球・人間環境フォーラムさんは、海外投資情報財団さんとともに、本報告会の後援をしていただいています。この場を借りて御礼申し上げます。

 

<テーマ別解題 (5)我が国民間セクターの海外事業展開に関する環境配慮 中寺良栄 地球・人間環境フォーラム>

中寺 財団法人地球人間環境フォーラムの中寺です。私どもでは、今回の提言づくりに関係しまして、各種の情報を集めるとか、研究会活動の内容をホームページを使って、外部へ情報を発信する。そういったような側面からのお手伝いをしてきましたが、それと並行しまして、環境省からの委託で、今日お手元にお配りしておりますが、この青い表紙、「開発プロジェクトの環境社会配慮」、このレポートを作るための調査を進めてきました。

 それで今日の私のお話は、これまでのスピーカーの方のお話とは少し異なってしまいますが、このレポートのPRを兼ねまして、レポートの概要、構成をざっとご紹介するとともに、この中の第6章にまとめました「国内民間セクターの海外事業展開に関する環境配慮の取り組み」につきまして、今日の報告会の関連情報としてお話したいと思っております。

 このレポート作成の目的は、開発途上地域で実施される開発プロジェクトに対する環境社会配慮に関する各種の情報を収録しまして、投融資等に関わる関係者の方々に提供することを目的にしております。特にこれらのプロジェクトに資金面から深く関わります。例えば世銀という国際的な融資援助機関とか、それから輸出信用機関、そういうものの取り組みに重点を置いて、このレポートをまとめました。

 このレポートは特別寄稿を含めまして、7つのパートと参考資料から構成されております。このうちの第1章は代表的な国際融資機関であります世銀と、IFC、これは国際金融公社ですが、これを対象に、環境配慮政策の内容とか、融資等に絡む具体的な環境手続きの内容、そういうものを現地へのヒアリング調査の結果も含めて収録しております。

 先ほども少し話題になりましたが、我が国ではあまりなじみのない、例えばプロジェクトに異議申し立てがあった場合に、それに対応する独立機関、これは先ほどもお話がありましたが、世銀の場合の査閲パネルとか、IFCのオンブズマンという制度がありますが、そういう内容についても特に取材をしまして、中に解説とか、それから二つの組織の違い等についても触れています。

 それから第2章は、世銀、IFC以外の地域開発銀行等の関連情報、第3章では、OECD各国のECAのこういう社会配慮手続きの状況について説明しております。それから第4章では、そこまで紹介しました各機関の環境配慮手続きを横断的に比較したような内容です。

  5章は、さっきも話題になっておりましたが、世銀の場合、案件の審査とか、アセスメント、それからその後のモニタリングとか監督に、技術的指針としまして、汚染防止削減ハンドブック、PPAHというものを使っているわけですが、その内容の概要紹介しますとともに、我が国の環境基準のレベルと比べてはどうだろうかという技術評価を試みております。

 それから第6章につきましては、私、後ほどご説明します。我が国民間セクターの取り組みです。それから特別寄稿としまして、滋賀大学の森先生から原稿をいただいております。参考資料としましては、IFCのセーフガードポリシーの日本語訳、それから世銀PPAHの中から一番大事なプロジェクトの部分の概要を日本語として一番後ろにつけてご紹介しております。

 大変前置きが長くなりましたが、ここからはこのレポートの第6章に収録しました、国内民間セクターの海外事業展開に関する環境配慮の取り組みにつきまして、簡単にお話したいと思います。

 我が国の民間セクターは、途上地域に対して非常に多額の直接投資とか、事業展開を行っておりまして、これらの地域の環境問題については深く関わっているわけですが、問題を海外投融資に限って考えますと、これまでのお話にありますような国際的な融資機関とか、輸出信用機関に定められているような環境ガイドラインが定められていないわけです。

 話を投融資からもう少し広げまして、事業展開とか、海外進出といったことにまで広げて考えてみますと、例えば経団連が地球環境憲章とか、環境アピールとか出されておりますが、その中で理念的な指針を示しています。ただし、民間セクターは実際に途上国で海外事業展開をやろうとするときには、現実的には個別企業の対応に任されているところが現実であろうかと思います。

 ただ、このような海外事業展開、国境を越えてグローバルに展開をされる、これらの大企業の場合、ほとんどが独自に地球環境憲章とか、環境行動計画を持っておりまして、その中に海外事業展開におこる環境配慮を記述しているものが多く見られる。また、それらに基づきまして、実際上、開発途上地域で事業展開する場合は、事業展開に先立って、環境アセスメントを実施するとか、関連会社、子会社に対して進出国の排出基準等の遵守はもちろんですが、例えばISO14001といったものを取得するように、そういう先行的な取り組みを促すような動きが一般的になっている。さらに一部の商社ですが、事業投融資を対象に、環境リスクマネージメントの一環としまして、環境審査といった制度を設けているところもあります。

 一方、これらの民間企業が海外事業展開をする際に、それを資金面からバックアップする立場の民間金融機関ですが、やはりここにも環境配慮のガイドラインというのは、実際上、今はありません。ただ、今年の2月、民間の金融機関の融資の方々が集まった研究会ですが、融資業務の環境リスク評価に関する中間報告をまとめています。これは一般融資を対象にしたものですので、今日話題にしておりますような、開発途上国で実施されるような開発プロジェクトへのということではありませんが、銀行業界が環境問題へ新しい取り組みを始めたのではないかという動きの一つとして注目されます。

 また、金融セクターにはすべての業務に環境配慮を取り込もうということで、業界と国連環境計画が共同をしまして、UNEP金融機関声明と、UNEP保険業界声明というものがありますが、既に日本の企業でも幾つかこれに署名したことがあります。特に金融機関声明につきましては、これまで日興証券と、日興アセットマネージメント、それから投資顧問会社のグッドバンカーが署名しておりました。それから保険会社は既に7社、署名してます。

 この報告書は3月末現在までの状況ということでまとめましたが、ちょうど3カ月ぐらい前の6月の真ん中に、日本政策投資銀行さんが、初めてUNEPの金融機関声明に署名されました。これは新しい動きで注目されるとともに、今後こういう金融機関声明に署名される銀行が増えていくのではないかと考えています。

 それでは各セクターの動きをかいつまんでご紹介したいと思います。まず、経団連の動きですが、経団連では73年に日本企業の開発途上国へ進出というのが非常に増えてきたことを受けまして、発展途上国における投資行動の指針というのを作りました。それで、その中に実際上、記述だけでしたが、「投資先国の生活、自然環境の保全に十分努めることとする」記述を盛り込んでいます。

 その後、904月には、いわゆる海外進出に際しての環境配慮事項を示しておりまして、具体的に10項目の事項を示しています。これは具体的には進出先国の環境保全に万全を講じるために、各企業が進出する場合の環境配慮の具体的指針等を作成する場合の参考としてつくられたものですが、その後91年に策定されました経団連地球環境憲章にそのままの形で盛り込まれています。

 また、96年には今度は経団連環境アピールを出されて、海外事業に当たっての環境配慮という項目がその中に設けられています。今、お話しした10項目はもちろん入っていますし、さらに海外における事業活動の多様化、増大等に応じて環境配慮に一段と積極的に取り組むという宣言をしております。

 また、経団連では、その後98年に経団連、環境自主行動計画というのを発表してまして、これに基づきまして、経団連参加の各団体が業種別に自主行動計画を策定して、それを毎年フォローアップすることになっておりますが、その中に行動計画を作る項目としまして、温暖化対策と廃棄物と並びまして、「海外事業における環境保全」という項目が入ったわけです。各団体とも、それに従ったものを作りまして、毎年フォローアップしているわけですが、そのうち今年の1月に2000年度分のフォローアップ結果というのが出ておりまして、そのうち海外事業展開の機会が非常に多い、電子業界の場合では、「より一層の環境保全活動を継続し、技術移転、人材育成等を通じて協力していく」といったような理念的な記述が残されています。

 このように経団連の場合、海外事業における環境配慮につきましては、具体的に手順を示したガイドライン等は示されていないわけですが、今ご紹介しましたように、経済団体の取りまとめ役ということですので、民間企業が何かの折に準用できるような理念規定を設けている。また、それに基づいて各団体が理念的な記述を掲げているという状況です。

 ついでに個別企業の動向をお話したいと思いますが、我が国の個別企業につきましても、先ほど少し触れましたが、一部商社にリスクマネージメントの一環としまして、環境審査の事例はありますが、その他には自社の海外事業展開とか、海外投資に限定した環境配慮ガイドラインというようなものは見当たりません。今回のレポートでは、まず、商社の取り組みとしまして、三菱商事のすべての事業投融資案件を対象にした環境審査の仕組みとか、三井物産の新規投資を対象とした環境影響評価、それから伊藤忠商事の木材輸入に対して環境配慮確認への取り組みといったようなことを簡単に紹介しております。

 このうち三菱商事の環境審査というのは、事業投融資案件につきまして、公害発生の有無とか、地域住民への配慮、それから環境法規制の遵守といったようなことが最大限配慮して行われているかどうかを審査しようと。しかも、その審査結果をデータベース化する。必要なところにつきましては、実査と呼ばれているようですが、現地への調査を行いまして、その結果もまたフィードバックしてデータベースに入れる。非常に環境問題の未然発生防止という観点から見ますと、一歩進んだような取り組みをされているわけです。

 その他企業の取り組みとしましては、特に海外事業展開の多い製造業の場合ですが、環境マネージメントの構築に従いまして、事業展開に関する環境配慮を記述した行動計画等を作成している事例が非常に多いわけですが、その事例として、このレポートには幾つか紹介しておりますが、そのうちソニーの例をご紹介します。

 ソニーの場合、環境行動計画の中に、「工場立地、海外事業展開等の場合には、環境への影響に十分配慮する」という記述を設けているわけですが、この行動計画に基づきまして、中国でブラウン管工場を建設しようとした。それで調べてみたところ、排水の放水先が上水の止水口よりも上にあったということで、建設予定地を変更したという取り組みの事例をここの中に書かれておりまして、それもこのレポートの中に紹介されています。

 一方、民間の金融業界の最近の取り組みとしましては、先ほどご紹介しましたように、国際的な環境声明に署名する機関が見られる他、先ほども少しお話しましたように、環境リスク評価手法を導入しようという新たな動きが見られるということで、これまで非常に失礼かもしれませんが、リサイクルとか、省資源とか、いわゆる日常業務への環境配慮といえば、金融業界の方、非常に取り組まれておられたと思うんですが、融資業務といいますか、銀行本体の業務として、それを環境と金融と一体化しようという新しい動きが出てきたのではないかと感じております。

 このうちリスク評価のお話ですが、これは今年の2月、国内民間機関の融資が集まって組織されました、持続可能な社会に資する銀行を考える研究会というのがありまして、これは一般融資業務の環境リスク評価手法に関する中間報告というのをまとめております。この研究会というのは、20003月に発足しまして、持続可能な社会に実現をするために、銀行経営として何が貢献できるかということを調べていたわけですが、そのまず第一弾としまして、一般融資業務に対するリスク評価の在り方ということで中間報告を出したものです。

 この中では、まず銀行の活動というものが、取引先への融資等を通じて、広く環境保全対策に役立つ可能性がある。それから欧米の銀行では取引先の環境リスクを融資に対する予審審査項目とする取り組みが、これまでも進んでいたんですが、我が国の銀行ではなかなかそういう認識が不足してきた。ですから今後、我が国の銀行としても、そういう環境リスクを銀行の予審判断に加えることが必要になってくるという前書きを踏まえまして、特に注目されますのが、欧州の銀行のスキームなんかを参考にしまして、日本の銀行事情に合った形で環境リスク評価の基本スキームをまとめております。

 通常は企業信用リスク評価というものだけを行うわけですが、このスキームではさらに企業の環境リスク評価と、最近土壌汚染等いろいろありますので、不動産環境リスク評価という、新たに二つの評価軸を求めまして、最終的にはこの三つの評価を総合して、融資の可否を判断するとか、融資条件を決めるといった試みをしようということです。

 具体的に申し上げますと、銀行の融資担当者が融資の申し込みを受けたという場合には、まず通常の企業リスク評価は当然始めるわけですが、それとともに、スクリーニングに当たるような環境リスク評価を開始するわけです。それから不動産担保があれば、その担保土地の土壌汚染とか、地下水汚染とか、そういうリスクを調べる不動産環境リスク評価も行うわけです。それでスクリーニングの結果、いわゆる融資の申し込み企業が非常に環境リスクの高い事業と判断される場合は、法規制の遵守とか、訴訟とか、事故の状況とか、環境マネージメント体制とか、そういうチェックをする、環境リスク評価を含めまして、最終的に環境リスク評価側面から融資が可能かどうかの判断が下されるわけです。

 ただ、報告書の中ではこういったリスク評価を行う場合の課題も挙げていまして、まずリスクの評価をするためには非常に費用がかかるであろう。それからこのリスクを評価するために、融資の審査スピードが非常に鈍化するのではないか。それからもう一つは、土壌汚染なんか特にそうですが、客観的にそういう環境リスクを評価できるかどうか、その辺りが非常に難しいということも挙げています。

 この考える研究会というのは、96日に強化されて研究会という形で再発足しております。例えば参加資格というのが、従来は銀行に勤める職員有志ということでしたが、今度の場合は研究会ということで、金融庁の所轄法人とその関連会社、今度は企業単位で加わるような形で強化されておりまして、今後活動が銀行業界全体の動きに広がるものということで、今後の動きが注目されます。

 たまたま私、先日、この研究会の事務局の方とお話するチャンスがありまして、今後何をするんですかというお話をしましたら、過失責任とか、今日話題になっております海外融資の際の環境リスク評価といったものにも取り組みたいというお話をされておられますが、特に海外融資の問題を取り上げるときには、今日話題になっておりますJBICの環境統合ガイドライン、それをたたき台にして検討を進めたいというお話をされています。こんなところでもJBICの環境ガイドラインが非常に注目されていると言えるかと思います。

 ところで最後になりますが、私どもでは91年以来、約10年間にわたりまして、日本の企業の環境保全への取り組み動向を定点観測するという目的で、「環境にやさしい企業行動調査」というものを環境省の委託でやっております。これは2000年にもやりましたが、このレポートを作成するために、企業が開発途上地域でどのような環境保全に取り組んでいるかというアンケート項目もわざと作りまして、その中に入れております。

 簡単に調査結果の概要をご紹介いたしますと、この調査は上場企業と従業員500人以上の企業、日本国内6,400社位を対象にした調査です。6,400で出しまして、アンケートに回答していただいたところが、上場では1,170社、それから非上場では1,519社あります。それで回答いただいたうち、海外事業展開をしているかどうかをお聞きしますと、「している」と答えた企業が上場の45.4%、約500社強です。それから非上場の16.2%、250社程度でしょうか。そういうふうになりました。

 途上国で展開をしている企業にどんな取り組みをしているのかと聞いたところ、上場企業では環境保全のための技術支援とか、技術情報の提供が最も多く、次いで環境配慮を、経営方針や環境方針に明記しているというものが挙げられております。それから非上場では、同じように環境保全のための技術支援や情報提供が最も多かったわけですが、次いで環境配慮の状況について、事業展開先から報告を求めているという結果が出ております。

 また、事業展開に先立って、環境アセスメント等を実施して、環境影響を調べ、環境対策の立案を行っているとした企業が回答企業の中、事業展開をしている企業の中で86社ありました。それから非上場でも28社ありました。このうち上場企業86社に環境アセスメントをやった結果、何らかの事業変更等をしたかというようなことを聞きましたところ、約4割近くの企業が、計画断念も含むんですが、環境アセスメント等を実施した結果、問題があったので、そういうふうな事業変更をしたと。

 また、もう一つ同じ86の企業に、事業実施に先立って、地域住民等との利害関係者と環境問題に関する協議等をやったかどうかも聞いておりますが、そうしましたら、上場企業の場合ですが、約半数がそういう協議を実施したという回答をいただいております。一方、この調査では海外の事業展開に関して、公的融資とか、輸出信用を受けたかどうか、また、その際に融資機関から環境配慮を求められたかどうかも調査しておりますが、回答母数が非常に少なくて、有効な回答と言えるかどうか分からないのですが、結果を上場企業に限って簡単にご紹介します。

 事業展開に当たって、公的な融資や輸出信用を受けたかどうかについては、上場企業531社のうち13%の69社が「受けた」と回答しています。また、その際に融資機関等から環境配慮を求められたかどうかを聞いたところ、69社のうち12社が融資機関等からガイドライン等を示されて、環境配慮について指示助言を受けた。また、残りの13%ですが、環境配慮の内容について融資機関等から具体的な説明を求められたという回答がありました。

 また、同一の69社に旧輸銀のものと、経済産業省の貿易保険、こういうガイドラインがあることを知っているかという調査もやってみましたところ、まず、輸銀のガイドラインに関しては上場企業の31.9%が「知っている」と。それから同様に経産省の貿易ガイドラインにつきましては、26.2%が「知っている」という回答でした。ただし、これは非常に母数が少ないものですから、有効な回答かどうか分からないということを念のためお断りしておきます。

 以上、駆け足で我が国民間セクターの海外事業における環境配慮の動向についてご説明しました。具体的に民間セクターについては環境ガイドライン等が作成されておりませんが、自主的な環境配慮に地道に取り組んでいる状況が見られると、感じております。

 先ほどご紹介しましたように、金融業界にも環境に視野を置いた新しい動きが出ておりますし、もちろんこのJBICの環境統合ガイドラインの話もありますので、今後民間セクターにおいて新しい動きが出てくるのではないかと、そういう仕組みが整って欲しいと私ども感じております。以上です。有難うございました。(拍手)

前田 質疑応答、並びにオープンディスカッションを一緒にやりたいと思います。先ほどと同じように、発言なさる方は、挙手願いましてマイクを持ってまいります。お名前と所属をおっしゃっていただければと思います。

 

<質疑応答、オープンディスカッション

小川 環境省地球環境局の環境協力室長をしております小川と申します。途上国協力を担当しております。92年に地球サミットがありまして、その辺りから国際的な環境への取り組みが本格化したわけですが、10年後になります来年9月に南アフリカで、この10年の取り組みを総括して、今後どうするかということを検討しますWorld Summit on Sustainable DevelopmentWSSDという国連の会議が予定されております。現在、これを目指しまして、世界レベル、いろいろな地域、いろいろな機関で、この10年の取り組みをレビューするプロセスが始まっております。まだ、その途中ですが、大方言われておりますのは、この10年間、非常にさまざまな努力が国際的、それから二国間などでされるようになった。しかし、成果はあまり上がっていないという評価です。

 次に、それではどうすればいいかという話になるわけですが、幾つか挙げられる点としては、一つは貧困の問題が非常に強調されるようになってきております。それから環境の問題につきましても、単に環境配慮とか、そういう形ではなくて、いろいろなセクターの政策事態に環境を正面から取り込んでいくという、環境のメインストリーム化ということが強く言われてきております。さらに先ほどの説明でもありましたが、公的資金に比べて、国際的な資金の流れを見ますと、民間の資金が非常に増えている。これはちょうど地球サミットの頃から逆転をしまして、どんどん拡大していった傾向がありますので、今後は公的資金のみならず、民間資金を持続可能な発展に、どうやって活用するかということが非常に大きな課題になってきています。

 こうなりますと、環境ガイドラインの問題も、単に環境配慮ということではなくて、より積極的に持続可能な発展を達成するために、どういうことができるかという観点から見る必要があると思っています。私もこれまで自分の仕事の関係で、途上国との環境の関係では、環境のプロジェクトを進め、環境協力を進めるというのが片方の柱で、もう一つの柱が、開発プロジェクトに関して適切に環境に配慮することですと説明をすることが多かったのですが、実はこの両分野は非常に複雑に絡み合っていまして、一本化して効率的に進めていかなければならないという状況にあるわけです。

 この辺りが、今日ずっと議題になっております環境配慮、環境ガイドラインの問題が国際的に強調されてきた背景かと思います。そういう中でJBICがこれからこの研究会の報告を踏まえられて、実際の環境ガイドライン作りを進めるわけですが、JBICの事業規模に鑑みまして、JBICが非常に強力な環境ガイドラインを持たれることは、実質的に環境と開発の問題について影響がよいということが一点あるわけです。それだけではなくて、来年のWSSDに向けて、日本がこういった先進的な環境ガイドラインを持つことは大きなアピールになって、ひいてはこの分野で世界の動きをリードする、非常に大きな力になると思います。

 そういったことで、非常に重要な課題ですので、ぜひJBICでこれからよく検討されて、できるだけ強力かつ先進的なガイドラインを作られるように希望しまして、私の発言とさせていただきます。

前田 有難うございました。他にありますか。今のご発言に関係して、一言説明申し上げておきますと、本提言につきましては、あくまでも研究会という国際協力銀行とは別の独立の主体で提言をまとめる作業をしてきており、これについては今週の月曜日17日に、提言の趣旨、内容について当行の役員会を開催しまして、そこで報告をしております。

 先ほど私の方から申し上げましたが、もともと輸出信用とODAという二つの代表的なことを申し上げておりましたが、国際協力銀行の業務は非常に多岐にわたっておりまして、そのすべての業務について共通のガイドラインを作るというのは、至難の技であったわけです。そのビジネス・プラクティスズの違いというのから、バラバラにしてしまっていいというふうには全く思ってなくて、かなり困難な課題にいろいろな外部の方と一緒になって先進的かつプラクティカルなナローパスを追求してきたわけです。

 そのときに、役員会の場で役員から質問が二つありまして、一つは、例えばビジネス上のコンフィデンシャリティに抵触するのではないかという疑念、もう一つは、これは非常に実施するのは困難ではないかという、もっと大きな話がありました。具体的には、今までのODAの環境配慮と国際金融業務の配慮とを統合するということは、平均をとってODAの環境配慮を落とすことかというご質問もあります。

 この提言は、間をとるということではなくて、両方さらに上に引き上げようとしておりますという発言をして、かなり絶句されていた(笑)ところもあったんですが、そういうご説明をしております。

 そのときに私がつけ加えたのは、先ほど松本さんから二つほど個別案件の話がありまして、ケニアのソンドゥ・ミリウという案件と、フィリピンのサンロケダムの案件の話がありました。これはいろいろご指摘をいただきまして、私どもでも何度もミッションを派遣して調査をしております。実際、一旦融資を始めたものを打ち切るなり、やめるというのは言うのは簡単ですが、契約関係もありまして、極めて難しい。これはものすごいコストがかかるんですと。このコストは誰が負担しているかというと、私ども公的機関ですから、納税者が負担している。確かにフィリピンの先住民族の方々のお考えで、ずっと調査していくのに、日本の納税者の負担でいくことになっている。このコストが膨大ではないでしょうかと申し上げまして、実行するのは現状の実務から見ると多少困難な面はもちろんありますが、納税者に対するコストを考えると、むしろ、こういう提言に基づくガイドラインを作成することによって、コストが大きく下がるという面があります。

 先ほど民間の銀行の取り組みについてご説明いただきましたが、民間の銀行ですと、結局コストに合わないものはやめてしまえばいいという非常に明確なプラクティスがありますので、これは非常に割りやすいのですが、われわれの立場からすると、一旦政府との間でコミットしたものを、コストに合わないからやめますというのはものすごく難しい話です。

 従って、環境ということについても審査という観点で、つまりコストがどれだけかかるか、そのコストが銀行の融資の観点から見てバイヤブルかどうかという観点のリスク審査、これは非常に大事なことですが、それに加えて、われわれ、公的機関が持っている二つの責任、一つは相手国の政府、及び相手国の住民なり、途上国の国民の方々に対する責任というのと、もう一つは日本の納税者に対する責任という観点が必要だと思っています。

 実はこの研究会は、いろいろな方に集まって参加していただきましたが、冒頭申し上げましたように、謝礼を差し上げていません。ウェブページの立ち上げもいろいろな方のご好意でやっていただきまして、研究会のときに場所を提供したり、アイスコーヒーを出したりということはしておりましたが、銀行としての経費の支出はほとんどしておりません。にもかかわらず、これだけの参加をいただいて、メンバー以外の方々からもご意見、それから実際にこの中にも来ておられますが、実際に来ていただいて発言をしていただいて、われわれの知らなかったような新しいインプットも沢山いただいたわけです。

 そういう意味で、これは一種のアチーブメントですが、銀行としてもこれをすべて取り入れるというのは多少難しいかもしれませんが、この提言をベースにして、実際のJBICの統合ガイドラインを作成する作業に既に入っておりますし、それから冒頭、理事の浜中が申しましたが、実際作る段階ではパブリックコメントをまた募集するという、徹頭徹尾オープンなプロセスでやっていきたいと考えている次第です。

金井 二度目ですみません。フリーランスの金井玲と申します。私は先ほどご発言された松本さんが所属されている地球の友ジャパンさんの企画したサンロケダムのツアーに同行させていただきまして、現地の情報などをいろいろ自分の目と耳で聞いてきました。

 先ほど世銀の方から、JBICさんは職員が880人しかおられなくて大変だというお話があったと思いますが、フィリピンのサンロケダムの影響を受けるだろうと言われている先住民族のイバロイ人はだいたい18万人ぐらいいるそうです。サンロケダムに関してJBICさんは何人ぐらいの人員を使われているかは分かりませんが、その18万人の民族としての歴史なり文化なり未来というものは非常に重大な問題なので、やはりそこは人員をある程度増やして、綿密な調査や対応をできるようにしていただきたいということと、あともう一つ、サンロケダムのことにかかわらず、今回のガイドラインは、そういった意味では非常に画期的と私も思いました。ただ一つ、これは欲張った要望かもしれませんが、事業が終わった後の影響という視点もこれからガイドラインの中に入れていただきたいんです。

 実際、かなり進行してしまった事業が幾つかありまして、それを止めるのはなかなか難しいというご発言がありましたが、その事業が終わった時点で、JBICさんは手を引かれるのかもしれませんけど、現地での影響というのは場合によっては半永久的に続く、あるいはそこで一つの種が絶滅してしまう、あるいは一つの民族が絶滅してしまうというような影響もありますので、また、そういう長期的視野に立った視点もガイドラインに入れていただけると、非常に嬉しいと思います。

風間 風間と申します。WWFや地球の友ジャパンにお金を出している者です。以前よりいろいろな問題について申し上げているんですが、銀行がどこまでやるのかということがあると思います。つまり、環境破壊に対する当事者なのかどうかということを考えなければいけないと私は思うんです。

 環境問題についていろいろなことを調査して、それを認証するという能力をJBICが持っているかどうか分かりませんが、そもそもそういう能力を持たなければならないのか。持つということはつまり銀行が貸付をするまでに、いろいろなお金をかけて調査をしなければいけないということです。そういうものが、結局コストになるわけです。

 Forest Stewardship Council森林管理協議会)が材木の認証を行うように、この工事は環境に影響を与えない、と認証できるような国際的機関があるとよい。自分達でやろうとすると、今まで経験していないことをやるわけですから、調査に対しても、お金がすごくかかる。

 JBICは大きいし、言葉は悪いですけど親方日の丸ですから、何か起きるたびに金を負担する、というのではなくて、一線を画さなければならない。金融機関が環境破壊を評価する能力を持たなければならないということは、建築許可をするのも銀行がやりなさいというのと同じようなことになるのではないかと私は思います。

原科 おっしゃる通りです。銀行がどこまで責任持つかということですね。ただ逆に、銀行の責任も問われているわけです。その辺りはどう考えるか。今のご意見いかがでしょう。

松本 もちろん銀行がどこまでやるかということはありますが、今日は時間がなくてお話ができなかったんですが、ガイドラインの提案の中で外部審査委員会を設けて、異論が多い案件、あるいは環境影響が大きい案件に関しては、そこで議論をしてはどうかという提案を出していて、外部委員会どういうふうにやるかという細かいことは出ていないですが、例えば今オランダで進められているODAと国内の事業と両方でやっているものですが、環境影響評価(EIA委員会といろいろな専門家の方が名前を連ねて、この地域のこのプロジェクトであれば、こういう先生でということだと思うんです。200人ぐらい登録されている方がいらっしゃって、そういった機関を国際的な機関にしようという動きがIAIAの中でも持ちかけられていると、先日オランダの方がいらっしゃったときにお聞きしたんですが、そういう国際的な審査するような機関というのも一つの方法ではないか。すべてそこに任せるというのは難しいかもしれないですが、非常に問題が大きい案件に関しては、そういった中立的な機関で審査していくというのも一つの方法ではないかと考えています。

原科 その意味ではオランダはEIA委員会というのがありまして、そこでやっています。国内の案件が中心ですが、国際協力事業でもやり出したということです。ですから、そういうのは日本のアセス法に絡んで、前から審査をどこでやるか。これはアセス法の場合には環境省がやっていますけれど、環境省だけでも十分対応できない部分とか、いろいろありますので、私はそういったものを日本でも作った方がいいと思います。それだけ資源投入した方がいいと思うんです。そういう意味では、そういったものが今、言われたような機能を果たす一つの道です。国際的な場で作るというのは、また大変な話なので、まず日本の中でそういうものを作ることは必要だと思います。

 今おっしゃるように、国際協力銀行には890人しかいない。片や世銀は9,000人。スタッフ数が一桁違うわけですから、この中で対応するのは大変です。我が国の環境省もそうです。1,000人しかいない。米国環境保護庁(EPA)は2万人います。そういう意味ではこういう環境配慮に対する人的資源投入は日本の社会の中では非常に少ないと思います。それを銀行の負担でやるのか、あるいは我が国の社会全体でやるのかという選択もあると思います。

大村 今回の研究会の提言は、環境配慮の責任は第一義的に事業者の責務だということをまず明らかにしています。まず、事業者が現場にいて計画も作り、現地政府の許認可をもらわなければいけないわけです。ですから彼らが、まず第一に環境配慮をしなければいけない。次に、建築確認申請という話がありましたが、影響の大きそうな事業については、現地の環境アセスメントをパスしなさいと言っているんです。ですから、思想的にはおっしゃったこととそんなに遠くないと思います。銀行は、それをさらに確認するというのが思想です。

 ところが、非常に手厚くしなければならないというのは、相手が途上国であって、そういったシステムがきちんと機能しているのかどうかについて、われわれなりにもかなり調べなければいけないことがあるわけです。従って、相手の国での事業者が、もちろん日本の企業が絡む場合もありますが、相手の国できちんと環境配慮の手続きをやり、実践もしていただく。それを銀行が確認をして必要に応じて、いろいろな修正をしていくというのがまず基本です。

 そういう思想に立って、今回まさに事業者には絶対こういうことをしてくださいということを、以前に比べてはるかに詳しく書いたわけです。今までは割合薄く書いていて、審査してくださいとくれば、銀行の責任でいろいろ審査しましょうと。何か問題があれば銀行にかなり責任が来るような格好にならざるを得なかったわけです。今回は違います。銀行の責任と事業者の責任を極めて明確にして、あなた方はこれを守らなければわれわれは融資しませんということをまず先に掲げておいて、その上で審査しましょうということです。ですから基本的に、おっしゃられることとそんなに私は違いないと思っています。むしろそこを強化するなら、今回の大きな点であったと思います。

 あと、国際的な審査の機関について、そういったものがあればまたいいんでしょうけれども、現時点ではありませんので、そこは個別個別にやっていかざるを得ないだろうと思います。

原科 今の私の言ったこととつなげますと、事業者がきちんと費用負担して審査してもらうのがEIA委員会であれば、そこに審査してもらう。そういった仕組みをつくればいいのではないかと思います。

田中 エックス都市研究所の田中と申します。三つのことを挙げたいと思います。一つ目は大村さんに関係しているのかもしれませんが、2年前にGlobal Overlays ProgramGOP)という世銀のプログラムがありましたが、地球全体を眺めて、環境汚染の度合いがどの程度凝縮しているのかというマッピングをして、融資の対象地をevaluateしていく。こういう大がかりなプログラムをやりかけたのですが、今、予算難からストップしております。先ほど来、JBICはほぼ世銀と匹敵するような規模をお持ちですので、世銀のやる前に、日本でこういうものを、この中に盛り込むようなことをお考えになってはいかがかと、これが一つです。

 もう一つは、もっと小さいことですが、現在は大きな環境破壊というものが問題視されている地区が多くなってきているのですが、当初はほとんど環境破壊の対象にもならなかったプロジェクトが沢山あります。そういうプロジェクトに対して、例えば増築工事をするとか、あるいは新設工事をするというときには、必ず今回のようなものも遡って対象とするという取り組みができないかどうか。これはやはりベネフィシャリーがそこにいるわけですから、そういう人への救済というものをぜひ遡って考えていただきたい。

 これは例を申し上げますが、約30年位前に、地中海に面したある北アフリカの国の肥料工場が廃液を海岸に垂れ流したんです。その堆積物が平均して約10数メートル、面積にしまして120ヘクタール。ですから海岸線がほとんどそれで埋まってしまった。ところが、その堆積物の中には亜鉛、カドミウム、ニッケル、銅、その他リンが沢山入っているんです。そういうことから、景観のみならず、海岸地区の土壌汚染、それから海の汚染、地中海ですから、魚がほとんどいなくなってしまった。

 こういう案件に対しても、やはり積極的に目を向けていただきたい。30年前は大したことなかったんですけど、現在は大変な問題になっている。そういうものに、これは収益があまりありませんから、なかなか融資の対象にはならないかもしれませんが、何らかのレビューをして、そういうところに何かプロジェクトができる場合には、JBICとしてはそういうものを含めて改良するようなことを検討されてはいかがでしょうか。

 それからもう一つ、最後になりますが、今までのスコーピングの論点の中に、宗教上の問題がほとんど触れられてないんです。ニューヨークの例にあるかもしれませんが、これに関してはこれから大きな対立が起こってくるのではないかと予想しております。私も1970年代から、フィリピン、インドネシア、タイ、といろいろ歩いておりますが、以前に比べて、ますます宗教上のコンフリクトというのは大きくなっております。ですから環境という範疇では過去にはなかったんでしょうが、社会影響という面では大きなポテンシャルを占めてくるのではないかと思いますので、ぜひ何らかの形で取り組んでいただきたい。 それからスコーピングはこれに限らず、もう少し枠を限らないで入れてもらえればありがたいと思います。

前田 時間があまりありませんので、全部一対一でお答えするというよりも、むしろフロアからもしご質問、ご意見があれば、まとめておうかがいしたいと思います。

菱田 国際協力銀行の環境社会開発室の技術顧問をやっている菱田と申します。この提言を見たのは今日が初めてですが、今までと比べるとはるかによくなっていることを私は感じました。いろいろな問題点はあるかもしれないけれど、まずこれでやってみようという感じがしています。

 事業者、相手国にまず責任があるということを大村さんが言いましたが、JBICが強いのは、お金を持っていることです。プロジェクトを作るときに、向こうが環境を配慮したくないと言ったら、それはだめだ、貸せないと言えるということは、お金を持っているから言えるわけですから、お金を持っていることは強いと私は思うわけです。

 従って、お金を持っているわれわれが、そういう点で強く言うことも言えます。そうかといって、さっきお話があったように、そういう対策のために10%も余計に金がかかるなんてなると、とんでもないと言うかもしれませんけど、日本は一番公害に金をかけたときは17%です。これは企業が開発銀行など、いろいろなところへ行って金を借りて捻出したわけです。

 ですから、そういうことをお金を借りてやるよりは、初めからやった方がいいと思うんです。これは私は率直に感じまして、うまくできたじゃない、これで少しやってみようという感じがしているわけです。いろいろな人の意見が一杯あります。ありますが、私自身が今まで個人の顧問として考えていたことよりも、むしろこういうふうにガイドラインとしてみんながそれを守ろうというのが私にとってみれば非常にうれしいことです。

 しかし国際協力銀行に何も責任がないかというと、そうではなくて、われわれはそれをきちんと見極める技術を持っていなければだめです。騙されます。ですから、そういうことのないように、我が環境社会開発の連中たちもいろいろと環境問題についての勉強会もやっています。

 そういうことを考えてやってみますと、これはいっぺんにやろうとするのではなくて、少しずつできるのではないかと感じるわけです。そういうことで、検討をやってきた委員の方たちに対して私はお礼を申し上げます。有難うございました。

前田 極力手短にお願いしたいと思います。他にございますか。

阪口 名古屋大学国際開発研究科の阪口と申します。提言を非常に興味深く読ませていただいたんですが、一つ必要な視点が抜けているのではないかという気がしています。それは事業の中止、事後処理、あるいはやり直す際のガイドラインというものを持つべきではないかということです。例えばケニアのソンドゥ・ミリウダムの件なども、国会等でかなり論議されたと聞いておりますが、やはり中止撤退というのは一番難しいと思うんです。しかし、こういう点も今後配慮していく必要があるのではないかということで、ぜひ検討していただきたいと思います。

斉藤 JBICで環境を担当しています斉藤と申します。今日お話いただいた方の中では、おそらく環境アセスメントの国際的潮流というお話をいただいた大村さんへの質問になると思うんですが、そういう潮流に対して日本のアセスメント制度ではどういう対応をしてきているのか、あるいはこれからする方向にあるのかを、教えていただけたらと思います。

 というのは、実際に環境を担当して協議をしている中で、もちろんグッドプラクティスについてはやる方が望ましいということで先方と協議をするわけで、国によっては自分の国の通常の制度にないことまでやろうという場合もあるわけですけど、自分の国はこういう決まりだからと、なかなか受け入れられない国もあるわけです。翻って日本はどうやっているのか、日本でも義務付けられていないようなことについて、われわれとしてどこまで求めていけるだろうというところに、必ずいつも悩まされているので、その辺りを教えていただけたらと思います。

高瀬 二回目の発言です。国際開発センターの高瀬と申します。環境ガイドラインがすべてであると思う必要はないのではないか、あるいはそれは無理ではないかと思います。環境ガイドラインというのは、いろいろな方法でやる評価の一部であると思います。現に日本評価学会というのができまして、現在そういう評価学会があるのは7つか8つの先進国だけですが、これが来年には36カ国になると聞いています。そして国際的な評価連合というものができますと、それが事前評価、事後評価などを全部ひっくるめた、その中で環境ガイドラインというのはある部分を占めます。非常に大事な部分を占めますが、それだけではなくて、もっと大きな評価が始まる。そういう形勢にありますので、今日のところが一つのコアになって、もう少し大きな別のサークルも考えながらやっていけば、問題はよりうまく解決するのではないかと思います。

新島 プレック研究所の新島と申します。すごく事務的な質問かもしれないですが、今後のスケジュールとしてはいつまでにJBICさんがこれを具体的なガイドラインとして提示していくのか。それと、これで研究会が終了したと考えていいのか、それともカテゴリ区分の問題など、もう少し具体的に示した方がいいかと思うところもありますが、その辺りに関して研究会で今後ともフォローしていくつもりなのかどうか、その二点質問したいと思います。

前田 時間の関係もありますので、もし他になければ、ここでまとめて幾つか回答したいと思います。

大村 それでは私の方から幾つかコメントを述べたいと思います。エックスの田中様からお話いただいた件ですが、JBICとしてどうしていって欲しいというお話は、私がJBICがどうするとは答えられないので、研究会でどのような議論があったかをご紹介したいと思います。

 GOPというお話がありましたが、これは計画アセスメントに通じるものです。地球環境問題を、融資をする事業の選択に使っていったりしようという動きです。例えば電力セクターの改革であれば、水力発電がいいのか、火力がいいのか。そういったところに例えば温室効果ガスの観点を入れていこうということです。つまり計画段階でのアセスメントに通じます。JBICのガイドラインで考えていた、一つ一つの事業に対するアセスメントというのとは少し違うので、そこは残念ながら今回の検討の範囲には入っていませんでした。

 ただし、スコープとして温暖化問題を含む地球環境問題についても考えていかなければいけないということで、そういったGOPのような先進的な取り組みは参考にしなければいけないだろうと思っております。

 それから、小さい事業であっても、年を経てみれば大きな影響になるのではないかというcumulative effect(累積的影響)はまさにおっしゃる通りで、これについては「検討する影響のスコープ」の中で書いたところです。具体的技術的な議論はまたあるにせよ、とにかくそこは考えるという話にしてあります。

 それから宗教上の問題という話がありましたが、特に宗教という形で明示しているわけではありませんが、われわれとしては地域社会との合意が必要であると。いろいろな観点から考えて、合意が必要だということで、あえて宗教的な違いとか、経済社会体質の違いには光を当てておりませんが、内容的には含まれるだろうと思いますし、宗教的対立がまさにコアな地域で、そういうところを必ず調べていただかなければいけないだろうと思います。

 これは質問ではなくて意見だと思いますが、事後処理といいますか、中心のことについてあったんですが、それは融資契約の中でどういった問題が起きたら、どういうことをするということをなるべく書いていこうと、このガイドラインの提言では言ってます。では、それはどんなものかということについては、若干例証は挙げましたが、まだガイドラインだったらプラクティスとはなっていないです。そこはまだまだ経験は少なかったので、おそらくその経験を踏まえていって、グッドプラクティスをつくった方がいいのではないかと、これは私の感想です。

 それから国内の動きはどうなったかということで、国際的潮流に従って、国内のアセスを作ったときは国際的潮流を踏まえながらやったわけです。例えば早期の環境配慮をどうやってやるのかということでいうと、スコーピング時に、それまではアセス書を一回作って、ドラフトを作ってから住民に公開をするという手続きだったのが、アセス書を作る前の段階、スコーピング段階でどういったアセス書作りをするのか、どうやって計画作りをするのかといったことについて一度住民に情報提供して意見照会する。例えばそういったプロセスが取り込まれているとか、地球環境も配慮の中に入れるといったようなことは国内でも取り入れられてきているところです。

 具体的にプラクティスをどうしてやるのかということについては、今まさに環境省でいろいろな知見の集積であるとか、技術的な指針を出されていることを承知しています。私からは以上です。

前田 先ほど来、親方日の丸ではないかという議論もありましたが、世銀と比べれば職員数も10分の1しかない。今、例えばODAの予算を10%カットするとか、あるいは特殊法人を改革するという動きもありますし、これだけ政府の財政が厳しい折ですから、多く人員を伸ばすことは非常に難しいと考えています。その中で、先ほどどこまでが銀行の責任かという議論がありましたが、今まではまさにそこが曖昧だったわけです。どこまでが銀行の責任で、どこから先が事業者の責任でと。どうしても言いやすいところに言ってくるということがあって、それに全部対応しなければならない面があって、これはそれだけのマンパワーもリソーシズもかかりますので、その分を親方日の丸だからといって納税者にお願いするということが許される時代ではないと考えておりますので、極力いろいろなダメージは事前に影響が少ない段階で、かつわれわれのスタッフだけではなくていろいろな知見を取り入れて、未然に防ぐというのが一番コストがかからないということで、cost-effectiveness(費用対効果)という観点をぜひ導入したいと考えている次第です。

 それから銀行として、この提言をいつまでにどうするのかというご質問がありましたが、基本的には平成13年度、つまり来年の3月までに新しい統合ガイドラインのドラフトを作って、パブリックコメントにかけることを今の段階で念頭に置いております。研究会はどうするのかというご質問がありましたが、非常にお忙しい方々に集まっていただきまして、かつこれだけのアウトプットがあったので、今後どうするかということについては現段階ではまだオープンでありますが、一つには銀行のガイドラインがどうなるかということについて、きちんとウォッチするだろうと思っています。

 その後、今ご指摘がありましたように、このガイドラインへの提言というのは全部コンプリートしているわけではなくて、オープンイシューも幾つかありますので、それについて今後どのような仕組みでフォローしていくのかについては、また関係者、これはもともと研究会といっても法人格があるわけでもありませんし、むしろ一種の連帯という新しい仕組みですので、この一つの実験だったと思いますが、この提言が銀行の実際のガイドラインに取り入れていく過程で非常に大きな財産になることは間違いないと思いますので、この場を借りて、研究会のメンバーの方々、それからホームページにアクセスしていろいろ意見をいただいた方々、本日ご参加いただいた方々に厚く御礼を申し上げたいと思います。最後に、原科先生から一言お願いします。

 

総括挨拶 原科幸彦 東京工業大学教授>

原科 大変活発にご意見いただいて、ありがたく思っております。私はこのようなオープンなディスカッションは大変重要だと思っておりまして、日本の社会、いろいろなところで必要だと思います。日本というよりも人類共通のものだと思っております。本当に議論をするということは大事です。そして議論したことをきちんと記録する。環境アセスメントというのは本来そういうところが手続きとしては重要なポイントです。十分吟味して、それを記録にとどめて、それをさらに修正していく。その意味で、今日の皆さんのご意見、ご議論いただいたことから5点ほど最後にまとめて、私の感想を申し上げたいと思います。

 一つは多様な主体、これを最近はステークホルダーと言いますが、ステークホルダーが集まって共同の作業をやるという、そのことの価値が極めて高いと思います。ですから、これはぜひ今後とも続けていただきたいと思います。例えばわれわれの提案の外部委員会を作ってガイドラインの遵守に関してチェックしていくというのはきついかもしれないですが、そういうことで今までの研究会の考え方を継承していただきたいと思います。そのことをはじめに申し上げます。

 それから二番目は、最初はJBICがほんとにきちんとやってくれるのかと心配していたんですが、相当程度本気でやっていくように見えました。国民からも、そういう声があるということがありますが、アメリカやカナダ等、いわゆる新大陸諸国の進んだアセスメント、環境配慮と歩調をあわせて、アジアにおける環境配慮をリードしていく。こういったことを一つ、はっきり示していただきたいと思います。そのことを二つ目に申し上げます。

 それから三つ目は、世銀の中村さんもおっしゃったんですが、いろいろな国が関与している世銀と二国間で業務をやっているJBICとは立場が違います。しかし、われわれの提言でも、より早期に関与できるような工夫をいろいろ申し上げておりますが、これをさらにできたら歩も三歩も踏み込んだ工夫をしていただきたいと思います。これが三点目です。

 四つ目は、情報公開と参加はアセスの基本ですが、先ほどもフロアの方が何人かおっしゃいましたように、融資の見直しです。場合によっては事業の中止などが必要な場合があると思うのです。これは参加をしていただいて、フィードバックをして意見をいただいて、それが適切であれば、チャンス・オブ・リスポンス、これは意味ある参加、meaningful participationとわれわれは言っていますが、このためにはある場合には融資を止めることが必要になってくるんです。だからその場合には、それに対する手続きも判断する。これは先ほどご提案あった通りだと思います。ただ、これはわれわれが提案するだけでも大変なので、その必要性は分かっておりましたが今回は留めて置いたものです。しかし、今日のご意見もありましたので、われわれも強い後押しを受けたような感じがします。

 最後に、日本の環境行政や安全、教育でもそうですが、資源投入の仕方はおかしいと思っています。ハードウェアに沢山お金を使って、ソフトにはお金を使わない。日本社会全体がおかしいです。JBICの人員と世銀の人員の一桁の違い、あるいは環境行政でも、アメリカの人口は日本の倍ですから、日本の1,000人の環境省の職員に対してアメリカが2万人ということは、10倍違うんです。だから日本は、そういう意味では人員補強を何らかの形でやってもらいたいです。ただ、これを言うと行政改革に逆行する。するんですけど、構造改革をすることです。

 つまり資源投入の仕方を、今までのハード中心からソフト中心にして、教育はもっと手厚くするべきです。教育でいうならば、例えば20人、30人学級にする等、ハードに入れるお金よりよっぽど少ない金でこれは効果が出ます。

 総合的に判断するべきで、そういう人的資源にもっと投入すべきだということを最後に申し上げたいと思います。そういう意味ではJBICの行内でも、環境配慮の部署の人員を増やすなど、何か工夫していただきたいということを最後に申し上げたいと思います。

 私としてはJBICの姿勢は大変にいい方向だと思っておりますので、皆さんとともに、後からしっかりプッシュしたいと思っております。どうも有難うございました。(拍手)

前田 それでは本日のセミナーを終わらせていただきたいと思います。長時間有難うございました。