国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会 第4

議事録

 

日時:20001128日(火)午後5時半〜7時半

場所:国際協力銀行9階 大会議室

出席者:

メンバー(敬称略、アイウエオ順)

 入柿 秀俊/国際協力銀行開発業務部企画課長

 大村 卓/環境庁地球環境部環境協力室室長補佐

 加藤 隆宏/大蔵省国際局管理係兼環境調整係長

木原 隆司/大蔵省国際局開発企画官

小林 香/大蔵省国際局開発政策課課長補佐

作本 直行/アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員

 佐藤 寛/アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員

 清野 達男/環境庁地球環境部環境協力室技術協力第1係長

 林 幸宏/経済企画庁調整局経済協力第1課課長補佐

 原科 幸彦/東京工業大学大学院・総合理工学研究科教授

 本郷 尚/国際協力銀行環境社会開発室第1班課長

前田 匡史/国際協力銀行金融業務部企画課長

 松本 郁子/地球の友ジャパン

 松本 悟/メコン・ウォッチ

 本山 央子/地球の友ジャパン

 森 尚樹/国際協力銀行環境社会開発室第2班課長

 柳 憲一郎/明海大学不動産学部教授

当日参加者:(敬称略、アイウエオ順)

 中舘 克彦/国際協力銀行開発業務部企画課調査役

 三好 裕子/国際協力銀行金融業務部企画課調査役

議事録作成:

 坂本 有希、畠中 エルザ/(財)地球・人間環境フォーラム

 

HPの立ち上げについて>

前田:地球・人間環境フォーラムさんからお知らせがあります。

坂本:研究会のHPを立ち上げたので、URL等ご確認いただきたい。研究会議事録・配布資料の閲覧ですが、青山の環境パートナーシッププラザで行う以外にJBICでの公開の件の調整が済み次第HP上にその旨告知したい。議事録案の修正方法の確認ですが、議事録案は電子メールで皆さんにお配りして、次回の研究会までにファクスまたは電子メール、もしくは次の研究会の場でコメント・修正等をお寄せいただいています。その修正・コメントの提案者は知らせていなかったのですが、今まで特に問題も生じなかったので、これからも複数の方から同一箇所についてコメントされる場合にのみ皆さんにお知らせする方法をとります。

(この通り了解された)

松本(郁)HPについてコメントが23ある。研究会の会合の時期に加えてテーマも挙げていただく必要があると思う。さらにオブザーバーの参加方法をHPに挙げるお話もあったと思うが。

 

<今後のスケジュールについて>

前田スケジュールについては配布してある「今後の検討スケジュール案」をご覧下さい。松本(郁)さんから電子メールでいただいたとおり、「環境配慮の確認」と「モニタリング」のところはメコン・ウォッチの松本さんと各々一回ずつ担当していただきます。検討スケジュール案は改訂させてもらったが、これが逆になっても構わないと思う。前から議論が出ていた「Policy & Principles」は今までは「その他」という書き方になっていた3月に予定されている第9回研究会で扱いたい。前回の議論で、議事録を見る限り合意を得られていないところは、JBIC環境社会室の役割をテーマとした議論と、NGOさんからのケーススタディの紹介・世銀の「Pollution Prevention and Abatement Handbook 98」の分析の紹介の二つが付け加わるということだったと思う。環境社会室の役割に関しては前回「環境配慮の確認」の中の項目ではないかとの意見があったようだが、環境に関することは環境社会室の中だけでなく融資部門等の部署にも分散しているので制度設計全体の問題として議論すべきことと思う。チェック・アンド・バランスの意味もあるし、必ずしも専門的知識を持っていない融資担当部門の者に大きな負荷をかけるというのも実際的でない。そこを議論すると「環境配慮の確認」が1回で済むかどうかというのは若干疑問が残る。そこでそこの回を2回に分けると、会合の回数全体がずれ込むことにはなるが、4月上旬の締め切りが絶対的、というわけではないので、議論を深める観点からは増やすこともあり得る。「環境配慮の確認」を二回に分けて実際のアセスメントの内容の部分と、手続きの部分、つまり制度設計の部分で話を進めるということでよろしいでしょうか。そうした場合に、どなたか率先してやって下さる方はいらっしゃいますか。もし差し支えなければ、JBICから現在の仕組みについてご説明することも可能だ。時期は1回ずれるので、第6回が1月上旬にそれが入るということで。「環境配慮の確認」は議論としては中心の部分なので意見の集約ができなければ、次に持ち越すこともあり得る。柔軟に対応していきたい。加えて「住民移転と社会開発」のところは佐藤さんにお願いできる、ということですね。それから環境アセスメントの議論の中で特にODAOOFという大きな区切ではなくて金融商品ごとに環境アセスメントと融資とのタイミングに応じて違うというお話があったようです。そこで現在の我々の金融商品の中でどれがEIA作成前に入ってきて、どれが入らないかといったタイミングの話を当方で作成して議論の参考にしていただこうと考えている。

なお、お配りしたのはOECDECGワーキングパーティーのルームドキュメント(非公開)で、各ECAの取り組み状況を紹介している。内容はさほど重要ではないが、あとで回収させていただく。

松本(郁)JBICからの現状説明は環境配慮の確認の回で、ということですか?

前田:そうです。手続きのこととは必ずしも同じ問題ではないが、第6回のところで資料を合わせて作成して議論をするということにしたい。

松本(郁):私たちの方では現状のローンの形態とタイミングの把握は十分できていないので、中身の議論に直接入る前にJBICより説明していただいた方がうまく議論できると思う。もし「環境配慮の確認」を2回に分けるのであれば、順序をどうするのか、ということになる。

前田:現状についての報告は次回までに用意するようにします。

大村:ローン形態と融資機関の関わり方を、内部の手続きと合せて実状をお話いただくとわかりやすい。

前田:現在のJBICでは、ガイドラインに書いてあることだけでは、ローン形態と環境配慮のタイミングの関係は明確ではない現状である。

松本(郁):それならば、その現状がわかった上での議論の方が実があるだろうし、毎回まとめやすい。可能なら内部手続きやローンの違いについて先に話された方が良いかと思う。

前田:現状についての報告はできるだけ早く用意するようにします。

 

<環境アセスメントについて>

大村:<資料「環境アセスメントについて2000.11.28改訂版」に沿って説明>

3ページ目の中段以降が前回からの変更箇所です。前回のポイントとしては4ページ目の上の図を使ってお話をしたわけだが、援助機間または輸出信用機関としてのJBICがプロジェクトに関わるのは相手国プロジェクト実施者が案件を作って、それを援助機関・輸出信用機関に持ち込んだ時点である。それからすると事前の、持ち込んでくる段階までに相手側の政府・ステークホルダー・地域社会・プロジェクト実施者が一緒になって環境配慮手続き、主に環境アセスメントをきちんとやっていただくことが必要である。したがって、ポイントは、いかに融資機関側で、相手国に対してあらかじめきちんとした手続きをやっていただくことを明示していくということである。世銀、IFCOPIC、米輸銀ではどのようなことを相手国・借入人に求めているのか、ということをもう一つの資料(資料「環境アセスメントと各援助機間・輸出信用機関の要求・関与」1128日版)に整理しています。前回の同様の資料ではOPIC、米輸銀のことは全部含められていなかったので、今回は入れました。ガイドライン統合に際して留意すべき事項についても示してある。

前回の議論では、融資機関が相手国・借入人側に求めることをわかりやすく言うことが重要だ、ということについて概ねの共通認識があった。一方で世銀のようにテクニカル・アシスタンスで案件形成をかなり支援するというツールがJBICにない、あるいは輸出信用であれば、基本的に輸出振興ということが目的なので相手国政府に対して技術的支援をして案件形成の面倒を見ることや最終的に融資に繋がらないものでも支援をすることはできない、というお話があったかと思う。

先進国融資機関側にとって重要なこととして、@案件形成段階で環境配慮の働きかけを行うこと、A事業者の環境配慮の内容を確認すること、B相手国の状況を踏まえた環境配慮になるよう支援すること、C可能であれば環境配慮の優良事例等を作り相手国の対処能力向上に貢献することを挙げた。そこで、JBICの考慮すべきことを前回の議論のまとめとして修正含め4点挙げる。それは、@融資コミットがされた段階では事業者等が行うべき環境配慮の手続きは終わっていること、Aしたがって銀行が求める環境配慮の内容を明確に示すことが重要であること、B融資コミットのない案件形成段階では、限界はあるが、内談等を通じて銀行が求める環境配慮の内容を情報提供することは可能であること、C海外経済協力業務のうちE/S借款・SAPROF(案件形成促進調査)では例外的状況として個別の働きかけが可能であることであった。

そこで、JBIC統合ガイドラインではどうすべきかという議論になる。JBICも情報提供・協議に応じる・支援していくのか、どこまで書いていくのかを検討していければガイドラインの姿も明らかになる。

前田:環境ガイドラインで新しく必要条件を示すというのは大変大事な話だと思うが、融資コミットの前の案件形成の段階における環境配慮のあり方を、どういう形のものにするのか、具体的にガイドラインの中に文言を書き込む、ということなのか。

柳:一つの考え方としては、JBICPrinciplesPolicyを具体的に書きこむということがある。

前田:それはガイドラインの中のPolicy & Principlesの部分に書き込む、という趣旨でいいんですね。

大村Policy & Principleに入れるのかどうか、色々なやり方がある。

前田ECGのワーキングパーティーでもSustainable Development(持続可能な開発)という概念を入れるかどうか、という議論があった。Policyの部分に全く入れるべきでない、輸出信用機関のmandateSustainable Developmentとはcompatibleな(両立できる)ものではないという意見と、かたやpromote(促進)すべきだという意見とが出ている。大勢はcontribute(貢献)することはできるが、米国のpromoteするという立場は行き過ぎだというものだ。これはPolicyの根本のポジショニングの問題だろう。案件形成段階まで遡ってガイドラインで我々の必要条件を明らかにするよりも更に一歩進めて働きかける、というのは漠然としているので、やるのなら、具体的に書いて置かないといけない。ポジショニングの問題から言うと共通のガイドラインという全体の枠組みの中で入れられるのか、若干の疑問を感じざるを得ない。関わり方のタイミングの問題とも関係してくる。現状では、可能となるのはE/S借款やSAPROFなど円借款に限定されたツールしかないのではないか。であればその部分は共通部分からはずれると思われる。作ったからには、本当にできるものでないと意味がないわけで、漠然と「働きかける」と言ってもどうやるのか曖昧ではないか。

大村:私が資料に記したのは、前々回行った目的の議論の話ではなく、相手国に融資機関のFSの届く前の段階で、彼らにどんな環境配慮の手続きをとっていてもらわないといけないか、輸出信用機関側はこのような手続きを踏んで欲しいというスタンスを示すということです。

前田:それは「働きかけ」ではない。あらかじめdiscipline(規律)を決めて相手に示しているだけですよね。「働きかけ」というのは、それをもう一押しして実際ファイナンシャル・アシスタンスをするかどうか、E/S借款やSAPROFはまさにアシスタンスをするということですね。

大村:言葉を変えましょう。大事なのは働きかけのツールがどのようなものがあるか、例えばガイドラインに書いて情報提供をする、内談時に相談にのるなど色々な方法がある。一律にやれということではなく、JBICが何を求めているのか示すのは非常に重要なことである。これに関してはコンセンサスがあるので明文化して書き込んだ方がよい。

相手にどうやって伝えるかはおそらく色々なツールがある。JBICとしてはどうやっていけるのかを議論したい。融資機関の判断に先立って事業者がやるべきことを示す、あるいは可能ならば働きかける。そこはコンセンサスがある。具体的には何を行うかを検討することが重要だ。

本郷:先週は国際機関と輸出信用とではかなり違うという話をした。輸出信用は競争条件下にあって、我々のファイナンスは相手国にとってはオプションの一つで、その範囲で働きかけをするには限界がある。我々のファイナンスを使いたければこういうことが必要と言うのが、我々のできる最大限ではないかと思う。文書化するのは難しい。

前田:ECGでも保険機関と融資機関の違いがの議論になっている。保険機関は相手方プロジェクト自体とのリンクがない。融資機関は直接対峙しているが、強制力をもって相手方に何かができる状態になるのは、ローン・プロセスに入ってからだ。金融商品ごとに融資機関がどのタイミングで関わっていくかを記したいというのはそういうことで、全体について一般的に書くのは無理がある。かつprincipleとしてdeclare(宣言)することは可能だろうが、融資機関の実際の法的な権利を超えて働きかけをする、というのはECGの文脈ならdistortion(歪み)になってしまう。やるんであれば本来はそれだけやることのできる腕力のある機関がやるべきで、我々がやるのは全体の効率性を損なうのではないかと思う。

原科:declare(宣言)だけでも意味あることではないのか。後のimplementation(実施)、procedure(手続き)の中できちんと対応していれば、最初にdeclareしたのは意味を持つ。実質的効果は挙がると思う。

柳:「働きかけ」までいかなくてもいいのだろう。書き込む、ということがまず大切だ。今の段階ではそこまでいかなくとも、何年か後でもいい。

前田:否定的に言っているのではなく、E/S借款など、限られたローン形態ではあるが、案件形成段階でやることもできる。どういうことをやるのかということをガイドラインはきちんと明示すべきなのだろう。限定された、できる範囲でやるのはよいが、それを全体に渡って全ての業務に共通するものとしてやるのは、実際的でない。

大村:それは共通認識だ。「働きかけ」という言葉は適切でないというならその通りである。

原科:きちんと宣言していれば、借入人側から趣旨を聞いてくるはず。それにレスポンスすることになるのではないか。それが結果的に「働きかけ」になるはずだ。

前田:JBICが考える望ましい環境アセスメントをはっきりしておけということでしょうか。そうすると曖昧なことでは意味がないわけですね。

原科:曖昧でもいい。方向が示す、つまり有無の問題です。今の段階で厳密に定義するのは難しいだろうから、中身については相手がアクセスして確認したり、こちらの実績から判断するわけですね。ただ基本的な考え方を示すのは大事である。

前田:今のJBICガイドラインではカテゴリごとに評価するときにEAを条件としていたり、していなかったりしている。各国同様の状態だ。環境に与える影響の度合いに応じてつくるのが今まさに議論となっているところだ。mitigation(緩和措置)にも関連するが、何を基準とし、どこまで求めるのかについてガイドラインではっきり書いていないことが問題ではないかと思っている。

話は飛ぶが、次のスクリーニングでも出てくるが、ECGでは敷居値の議論になっている。JBICで言うとカテゴリC、つまり一定以下の規模のものは環境配慮の要求をしない、ということである。オーストリアなどでも金額ごとに分け、threshold(敷居値)を作って、全案件をスクリーニングしないということだ。小さい機関では特にそういう運営をするところが多い。JBICではむしろ全案件をスクリーニングして、環境に影響を与えないような一定の案件で、かつ評価する側の力がない場合ははずす、という議論をしている。先ほどの評価は、どこまでやろうとしているのか、というポジショニングの問題である。

大村:どこまでやろうとしているのか、という議論そのものが必要であると思う。統合ガイドラインの提言を作っていくこの研究会では、どこで一致してどこで一致しないのか、このツールなら可能又は可能でないということを明らかにしていかないとまとまらないと思う。相手方にJBICが求めるものを明らかにすることには異論はないと思う。そこで、どう明らかにするかというツール、またどこまで明らかにするかという二つ議論すべきことがある。限界がある、ということは前提として。

前田:全てにEIAを求めるというのであれば、こういうクオリティのものを求めるというのはわかる。しかしそうでない現状がある。カテゴリ分けが入ってこれなくなる。

大村:スクリーニング議論ではどの融資機関でもABCとカテゴリ分けが行われていると聞いた。そこで環境アセスメントについてはどういったpracticeがあるかを詳しく調べよう、ということで今議論になっている。私が言うのは、全部の案件についてこれを必要とするということではない。ただ世銀等他の機関をみると、アセスについて指導があるだけでなく、B案件についても相談に乗る、アシスタンスをするといったことも盛り込まれている。それは参考になるはずだ。

作本:JBICが環境配慮をどこまで求めるかということを明示していただくことが重要だ。環境配慮のスクリーニングの方法では、オーストリアの金額別のカテゴリ分けとは相容れないのではないか。私自身はABCとコンテクスト・センシティブな方が良いと思う。両方取り込むと難しくなるのではないか。

前田:別にオーストリアの手法が良いというわけではないが、大勢はこの意見である。金額、セクター、立地で分ける手法で、かなり複雑なものである。この方法で対応しているのは実際はほんの数件で、資料に書いているように実践もうまく行っているわけではない。全ての案件についてフルスケールのEIAを求めるということでないのであれば案件形成段階で融資機関が立ち入るのは、カテゴリAの案件など、非常に限られるだろう。相談に乗る、というのは世銀には予算があるからだろう。具体的にはテクニカル・アシスタンス(TA)ということだろうが、そこまでやる予算も人手もJBICにはないと思う。そこまでやるのなら、ごく限られた案件に予算・人材を投入するのはあり得るのだろう。漠然と「相談する」と言っても何をやるのかわからない。

本郷:世銀がTAをできるのは、それが目的の一つになっているからだ。オーストリアなど、欧州では輸出信用機関同士がリスクシェアを行う体制だ。欧州では企業も、もはやどこの国の企業なのかと言えない状況にある。だから人的・物的資源は自分の機関が一番大きな役割を果たす案件に投入する。世銀は、自らがメジャープレーヤーであるプロジェクトにしか投融資しないので。

前田:SAPROF等はNGOと連携してTAをした方がよいことはある。ただそのスコープは絞り込まないと、漠然と書いて、実は何もできないのでは仕方がない。

本山:JBICが人材・資源が不足していることは理解できるが、JBICが求める環境配慮を明確にしておけば、借入人から相談が来るはずだ。そうなれば実施者に対するサポートというのは求められてくるのではないか。

前田:もちろん初歩的な説明はすることになると思うが、それを超えて資源を投入しTAをして、相手国のアセスメントのレベルをあげるということとなると難しい。

大村:相談というのはそこまで指さないものを含む。米輸銀ではできるだけ早い段階で環境技術の担当者がレビューをする、必要な環境情報を相手に知らせるというのを相談と呼んでいる。また、もっとTAを行い相手をトレーニングするという世銀の手法など様々ある。

前田:実際、やった方がいいものはあると思う。全体の効率から言ってJBICがやる方が世銀がやるよりも良いのもある。

本郷:JBICでも内談段階ではカテゴリ分けなどの相談に応じているが、各国ECA(輸出信用機関)でも対外的にコミットせずに相談にのるという程度だと思う。

作本:メジャーな借り手かどうか、環境配慮で一番注意しなくてはならない当事者となるかどうかということは初期段階でわかるわけですか?

前田:わかります。

作本:環境配慮のコストの負担を借り手に求めるということにはできますか?

前田:そういうことになると思う。そもそもJBICが関わる案件の相手はメジャーですし。欧州では融資金額は5000万ドル以上は出さないという非常に小さいプロジェクトが多い。

作本:先ほどの議論に戻りますが、融資金額と環境影響は必ずしも結びつかないのではないか。

前田:敷居値を最初に設けると、あるものに関してはスクリーニングをかけないことになって、例えば小さいけれど環境影響の大きいプロジェクトはすり抜けてしまう。全部にスクリーニングをかけて小さくて影響のないものは省き、小さくても影響のあるものは入れる、という風にすればいいのだが、一切の敷居値をなくすというのは現実的でない。

原科:金額というのは相対的なコミットメントの大きさを示すということなのか。

前田:例えば1000万ドル未満、10%未満、をカテゴリCとする今のJBICのようなやり方はある。

大村:融資金額のシェアによって、足切りをすることがあるが、米輸銀などの場合、その上で環境配慮が必要なときは、カテゴリBに戻すという方法を取っている。

前田:一旦切ったら一切何もしないというのは、やはり問題がある。

大村:さきほど本郷さんのおっしゃったお話だが、内談時というコミット前にカテゴリ分けをどこまで決められるかは疑問だ。わかりやすく示すのは大事だが、現場では必ず迷いがある。そこで、借入人側からの情報提供が重要になる。

本郷:ですからindicationという言葉を使いました。

前田:借り入れ側の情報提供義務というのはやはり大事だ。

大村:資料「環境アセスメントと各援助機間・輸出信用機関の要求・関与」のスクリーニングの段階を見ていただくと、世銀の場合、コミットのない段階では情報提供、コミットのある場合は借入人とカテゴリの話をする、といったindicationよりは広義のコンサルテーションになる。

前田:今のJBICで問題なのは、融資決定までの融資手続きの中の環境配慮の、どの段階にあるのかが借入人から見てわからない。この段階ではこのような情報が必要、どの段階は誰の責任で判断が行われる、といった具合に世銀のように明らかにするのが大切だと思う。

本郷:融資コミットメントの前と後ではまったく違う。

前田:融資コミット前に借入人側がどのようなことを求められるのかを明らかにしないといけない。ユーザーフレンドリーではないですね、JBICの現状では。

松本(郁):借入人だけでなく、可能な範囲でその他のNGOなどにも情報公開すればさらに環境配慮の質が向上するのではないか。

前田:契約に入って以降のことなら可能かも知れないが、それ以前の段階で知ったことについて情報公開は難しい。

松本(郁):米輸銀やOPICでは融資申込がされている案件の公開がされていますが、これは融資ではある程度コミットした段階でしょうか?

前田:primary commitmentというアナウンスしてしまうのがあるが、これはconditionalなものでファイナルではない。その段階で出せる情報を限定しているのだろう。しかしJBICの場合はそういうシステムではない。

作本:融資契約締結後にそのプロジェクトが環境に悪い影響を与える、という情報が外部から得られれば、融資をやめる、というのはあり得るのか。

前田:suspend(保留)やcancel(中止)としてあり得る。

本山:他の機関のガイドラインのように、NGOなどの外部からのコメント・情報の必要性をクリティカルな位置づけとしてやっていかれるのか。

前田:情報源として、単に借入人側からでなくNGO含めステークホルダーの情報にも依拠した方が良いということですね。

本山:依拠というより、環境配慮をJBICとしてどう位置づけていくのか、色々な情報が入ってくることで環境配慮の質を向上するという姿勢の確認だ。

柳:1992年頃に世銀が常設的な苦情受け付け機関を設けた。環境防衛基金や国際河川ネットワークらNGOが提案したもので、地元・NGOからの情報を容れて、融資を止めることも可能な仕組みだ。世銀はその後のフォローをしていないので、どうなったのか私はわからないが。

前田:どの情報に基づいて判断するのかは難しい。すでにコミットした状況、サンロケダムの例などでは枠の中には情報源が借入人一つしかないので、JBIC側にとっては厳しい状況だ。ステークホルダーやNGOなどからの情報も加味する、とあらかじめ融資契約に入れておけば、後でその情報をもとに法的手段をとることは可能と思う。しかし、契約を破棄するというのは大きなことだ。

原科:そうすると内諾段階にきちんと情報収集するシステムに変えないといけない。

本郷:確認ですが、輸出プロジェクトの場合、コミットは二種類ある。一つは輸出入契約、一つは融資契約で、前者は日本の企業が当事者としてどこかの国の政府・企業が契約を結ぶ。後者は我々が貸し付け契約を結ぶ場合だ。内諾というのは輸出入契約の決まった後、JBICが融資契約をする前ということでしょうか。一旦決まったとはいえ、他の国の企業も巻き返しを図ってくる。また輸出入契約が決まっても融資契約は最終的にまとまっていない段階ではかなり脆弱である。これまでの間にできるだけのことをやる、ということですね。

原科:事業の前では中身が具体的でないので、外部からの情報・意見も出にくい。

本郷:計画自体は決まっているが、誰がやるのか、ということが決まっていない。計画を受注したとはいえ日本企業の立場が脆弱なのだ。

前田:輸出信用の場合はそうですが、アンタイド・ローン等はそうではない。契約が固まって融資してしまった後の段階でひっくり返すのは大変なので、むしろ内諾など早い段階でこちらの求めるプロセスを提示しておけばリスクは下がるはずだ。

本山:契約そのものも大事だとは思うが、プロジェクトのあらゆる段階で、外部からの情報チャンネルを多く持つことが、JBICの環境配慮の質を高めることになる。そういうことでも積極的位置づけをして欲しい。

松本(悟):もう一つは、もっと前の段階で、貿易保険との関係で、先に貿易保険が一度OKを出したものに対して、JBICがノーと言えるのか。そういったすり合わせはやっているのか。

前田:貿易保険との間に連絡会を作った。貿易保険の方が、案件に先に接することが普通である。書面で案件があがってくると、例えば現地に環境基準がない場合、国際基準を適用するのかまたは新規案件というより回収案件だった場合、どういう判断をすべきか、フルスケールの環境評価を行うべきか、など貿易保険だけで判断せず、連絡・相談するようにしてもらっている。ちょうどやり始めたところだ。

松本(悟):JBICの環境ガイドラインの議論を進めることで、貿易保険とも調整がついている、ということですね。

大村:情報提供には3段階ある。事業者が積極的に情報を集める段階、融資期間側も別の情報源から情報を求める段階、実際に融資の終わった後にモニタリング的に情報を集める。世銀のガイドラインでは2段階を指示しているが、JBICの統合ガイドラインはどこまでやるのか、お考えをお聞かせください。

本郷:輸出信用機関の場合、JBICだけが2回やるとどういうことが起こるのか、留意する必要がある。またアンタイドの場合もというとどの段階で我々のファイナンスを要請して来るのか、プロジェクトが固まって、最後の段階で要請してくる場合が多いが、どういうことが出来るのかということになる。現場にとっては、現地政府のプラクティスにJBICの要求が含まれているとやりやすい。世銀のようにTA等を使いつつ、自分たちの求める要求事項が満たされなければ、融資はしない、と言えれば簡単だ。

松本(悟):現在の法律の枠組みではJBICがグラントを出すことはできないのか。

入柿:調査ということでは似たようなことができるが。

本郷:返済の義務を負わせるのか、ただであげるのか、という二つの性格がある。それ自身を目的として独立としてやるのか、融資のための前準備なのかということもあり、JBICがやっているのは、返済の義務がない融資のための前準備の調査だけだ。

入柿:JBICSAPROFで環境アセスメントの補足調査を行っている。前からこれをフルにできないかという話があるが、調査のオーナーシップはあくまでもJBICにあり、その責任まで負うということとなると、融資機関としては困る。アセスメントの責任は相手方にとっていただかないといけない。

大村:環境アセスメントとは、環境の影響の大きいものについて住民参加・情報公開というエレメントを必ず含めてやるものである。現在のガイドラインには何をもって環境アセスメントと呼ぶのかということは何も書いていないが、それは明示する必要があろう。

森:国によって環境アセスメントの制度にかなりの相異がある。例えばアセスメントの中で公聴会を義務付けている国もあればアセスメント報告書を公開するのみの国もある。また、環境改善効果のある植林や下水道といった事業にEIAを必要としない国もある。それぞれの国の制度がある中で、JBICのスタンスをどこまで押し通すのか。こちらが要求することをやらないと絶対に融資しないかというと必ずしもそうではなく、お互いに歩み寄りコンセンサスを得ることで、アセスメントを確実に実施することが重要だ。

松本(郁):実際にはそういう場合はどうしているのか。

森:合意できない部分のみ融資対象としないとか、SAPROFE/Sの中でアセスメントの補完を行う等の例がある。

作本:環境に配慮しなさい」とやんわり申し入れることと、プロジェクトの中止の中間に検査権限を留保するということでローン・アグリーメントの中にそれを入れておくことはできないか。

前田:法律遵守の原則はある。これに基づく調査権限はある。現地の法になっていれば、それに照らしてできるはずである。現在のガイドラインではそれ以上に具体的ではない。

大村:ガイドラインに反しているか、いないかを判断するのは難しいのが、ケース・バイ・ケースでクライテリアがはっきりしているものに関しては融資契約に書き込めるのもあるはずだし、IFCはそういう努力を始めているようだ。

本郷:融資の契約を結ぶときにはプロジェクトのアセスメントは終わっているケースが多いはずだが。契約書の中で「アセスメントをしないと契約違反」と書くことは意味がないのではないか。

大村:プロジェクトのアセスメントは終わっていてもアセスメントに、条件として付随していた対策を果たさないと、計画中止であるなどと契約に書くことだ。

本郷:JBICの典型的な例では、現地制度に乗ってやることだ。EIAの承認の際に出された付帯条件を確実に実施することは、融資の条件である。付帯条件の実施を含めて現地の基準に合っているかどうか確認している。

柳:問題なのは、現地制度・基準には適合しているが、実際には環境影響が大きい場合ではないか。事前にcovenant(約款)等結んで置いて融資を止めることはできないのか。

前田:それは相手が飲まない。

柳:飲まない、ということで国際NGOがキャンペーンなどをはって大問題になって来た場合にその時になって融資中止を決定して来たわけですよね。

前田:いや、それはやっていない。融資停止という形にはできないので、明確な法令義務違反ならともかく国際優良事例違反を条件とするのでは、まず相手はその条件を飲まない。

松本(郁):アセスメントというのは緩和策も入っているわけですよね。その内容を守りなさい、ということは契約に入れるわけですか。

前田:それは当事国のリーガル・オブリゲーションになっていれば、できる。そうでない場合、こちらの要求として入れられますが、相手は飲まない。

松本(郁):IFCは入れていますよね。

前田:IFCなど国際機関はできるのでしょう。JBICはそこまではできない。

松本(郁):OPICも環境の審査、アセスメント、手続き、と踏んでいかないと融資できない、と契約に入れている。

本郷:双方が合意できるようなクリアな条件として契約書等において記述できれば、交渉して、合意として成立すると思うが、一般的な言い方で環境に悪影響を与えた場合には中止、という書き方をするわけにはいかない。権利の濫用としてできない。

松本(悟):相手国政府の規則なり法律なりと先ほどおっしゃったが、それはローン・アグリーメント上載せることはできるのか。

前田:できます。

松本(悟):それは融資を止めたりはできるのか。

作本:それが実効性につながる。相手国の法律を遵守し、環境保全に以後努めなさいということですが、実質的規定がない。

前田:いえ、それは実質的だ。

本山:環境アセスメントの過程で実行計画がつくられる。JBICは実行計画までみて融資するのか。

前田:それを借入人がワラントする。できなかったらbreach(契約義務違反)となる。権限移行している。ネゴシエーションなので一般的な書き方をすることはできないが。

松本(郁):ECGの中でも契約にどう反映させるかということが議論されているのか。

前田:そこまで議論は進んでいない。最終的にはECGのスコープからはずれると思う。

大村:審査までに環境の問題を明確にして置くのが基本で、それを確認した上で契約するが、実際をどう担保するのかが問題で、色々な機関が苦労しているところだ。IFCでは明確なクライテリアがあるものについては、論理的にはあり得る。ネゴシエーションの話だからもちろん相手の同意がなければできないとしている。もしそういう心配があれば、その道を追求することができるのはいいことだ。多数国間援助機関であるとできる、そうでないとできない、というのは、論理的でない。

前田:論理的でないかも知れない。しかし、そこは契約交渉なので、今までの例をみるとあまり現実的でない。

原科:できる可能性はあるわけですね。

大村:今までそういう例はないだろうし、難しいのはわかる。

原科:JBICのスタンスが明確になれば、徐々に理解されていくのではないか。個別の契約で実績を積んでいくしかない。

前田:そんなにJBICの立場が強いわけではない。

作本:日米欧等で横並びのアセスメント制度を作る方法はないか。日本だけがやると不利だ。

前田:一時期はそういう議論もあった。しかし、厳しくすると誰も飲まない。

本郷:先ほども申し上げたように貸し手側が個別プロジェクトを通じてより高いものを求めるよりは借り手側の国の制度があるレベルに高まって一定するのが理想的だ。それは個別商談からだけではなく、多数国間援助機関が支援をしてその国の制度を整えていく、という形で両サイドからやっていかないといけない。

作本:国際的な情勢を見ながら段階的にレベルをあげていくことが必要だ。

本山:影響力はないとおっしゃるが、JBICの仕組み等は世銀並みなので、影響力はあるはず。

前田:実際JBICはそんなに強くない。円借款やアンタイド・ローンではあり得るかも知れないが、輸出信用に関しては、他の国と全く同じ条件で貸しているわけで、コストに換算するとJBICとしても難しい。だからこそレベルを上げるのは、国際的な情勢を見ながら、他の機関と共同歩調でないといけない。

大村:では円借款、アンタイド・ローンなどでは契約書に環境に係る条件を書き込むことは、可能ということか?

入柿:円借款では例がある。これこれの条件を達成しないと借款契約が発効しない、といった形で。2ページに渡るcovenantをいれたこともある。ただし、事前に具体的な問題が明らかになっている場合であって、一般的な条項としては、円借款の場合、借款契約の中にプロジェクト変更は原則として認めないことが定められている。

本山:アンタイド・ローンも同じ、ということですか。

前田:程度の問題はあるが、円借款とアンタイド・ローンは本質的にはあまり変わりはない。

松本(悟):ODAは、国の政策として、ある年度はこれくらいの金額を出したいというのはあると思う。この場合、輸出信用は、沢山貸さなければならない。しかし、厳しくするとそれだけ借り手が減るということか。

前田:輸出信用では、相対的に日本の輸出者に不利にならないようにやっているだけだ。そういう了解でOECDの大原則もできている。今の議論は、環境ガイドラインもこの文脈で統一しよう、ということだ。

松本(悟):日本の企業を守るということか。

前田:いや、日本の企業の機会の平等性を守ることだ。

今日は大村さんからのアセスメントのプレゼンテーション、融資契約のあり方まで議論が及びました。次回は松本さん、お願いします。

松本(郁):スクリーニングについて今回話す、ということだったが。

前田:これまでの議論を踏まえて、JBICとしてどこまでできるのかということを次回以降、早い段階にコメントするようにしたい。

松本(郁):研究会の進め方についてだが、前回の議論では、毎回議論を集約する、という話だったが。

前田:その回ごとにまとめるのは大変なので、大村さんに今回やっていただいたように、次の回の最初に議論を反映させた資料の改訂版を出してもらうのはどうか。

大村:そのつもりでやった。どんな内容を求めるのかという議論は今日は情報公開あたりまでしか進まなかったが、JBICからの反応がないと議論の集約がやりにくい。

前田:この資料に示された項目ごとにJBIC現状をまとめてプレゼンテーションをします。そしてもう一度議論をしよう。

 

次回は1218日(月)午後5時〜