国際協力銀行の環境ガイドライン統合に係る研究会 第7

議事録

 

日時:2001125日(木)午後5時〜7時半

場所:国際協力銀行7階 中会議室

出席者:

メンバー(敬称略、アイウエオ順):

 伊藤 美月/外務省経済協力局有償資金協力課

 大村 卓/環境省地球環境局環境協力室室長補佐

 小川 晃範/環境省地球環境局環境協力室室長

 加藤 隆宏/財務省国際局開発政策課係長

 川崎 研一/外務省経済協力局有償資金協力課企画官

 北野 充/外務省経済協力局有償資金協力課長

 木原 隆司/財務省国際局開発企画官

 小林 香/財務省国際局開発政策課課長補佐

 作本 直行/アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員

 佐藤 寛/アジア経済研究所経済協力研究部主任研究員

 原科 幸彦/東京工業大学大学院・総合理工学研究科教授

 本郷 尚/国際協力銀行環境社会開発室第1班課長

 前田 匡史/国際協力銀行金融業務部企画課長

 松本 郁子/地球の友ジャパン

 松本 悟/メコン・ウォッチ

 本山 央子/地球の友ジャパン

 森 尚樹/国際協力銀行環境社会開発室第2班課長

 柳 憲一郎/明海大学不動産学部教授

当日参加者(敬称略、アイウエオ順):

 臼井 寛二/東京工業大学大学院

 中舘 克彦/国際協力銀行開発業務部企画課調査役

 三好 裕子/国際協力銀行金融業務部企画課調査役

 

議事録作成:

 坂本 有希、畠中 エルザ/(財)地球・人間環境フォーラム

 

HP設置要綱の構成・参加希望者受け付けについて>

坂本:HP英語版作成に際してこちらが行った設置要綱のメンバー構成の更新について、JBIC三好様からご意見をいただいた。オブザーバーをメンバーに入れるかどうか、一回限りの参加者と、常に参加されている方をどのように分けるか、などに関して研究会でコンセンサスができていないように思う。この研究会の場で話し合っていただきたく思う。

小林:我々役所やJBICの人は、大体同じ人が出て来ると思う。NGOの方々は、特に関心の高い地球の友ジャパンの松本(郁)さんやメコン・ウォッチの松本(悟)さんがお出でになっている。私の理解では、お二人に限らず研究会に貢献できる方であれば、テーマに応じて関心のある方や知識の豊富な方に参加していただくという話だった。メンバーについては特段の厳格な枠を設けない話だった。

前田:三好の話は、メンバーとオブザーバーの明確な違いがあるということではなく、研究会の最初から最後まで出席するのがメンバーということだと思う。オブザーバーという言葉が良くないのかもしれないが、不定期で、必ず出席する義務もなく、来られる方がオブザーバーということだと思う。現状はこれとは少し異なるが、そのような定義ならわかりやすくはないか。オブザーバーの言葉の問題は別として、固定メンバーとテーマに応じて来る人というように分けるのはどうか。私共のように組織から参加する側は、事務作業を行う者がいるので、それを同列にしないという感覚があっただけだと思う。確かにオブザーバーというと意見表明ができない語感があって問題だ。

木原:私の理解では、参加はオープンエンドにすべきということだった。名称にはこだわらないが、できるだけいろいろな方の参加を得ることが大切だ。事務的にはJBICへの入館チェック等があるので、事前登録が必要だ。さらに前の議論を踏まえての建設的な発言やインプットのできる方を受け入れるべきである。

前田:おそらく「メンバー」と「その他の参加者」というのがよい。「オブザーバー」という表現は変えたい。

 連絡事項です。JBICのホーム頁と本研究会のホーム頁とのリンクが完了したことと、お手元の「国際協力銀行の環境配慮ガイドライン統合に係る研究会 様」にはじまる資料は、大東文化大学法学部の苑原俊明教授からいただいた先住民族の権利に関するインプットだ。

松本(郁):資料「研究会への参加方法」というような案を作ったのでご覧下さい。

前田:スペースやセキュリティの問題から大人数で一度にいらっしゃるのも困るので、先着順で行うのはやむを得ない。事前にご連絡をいただくこの案でよいと思う。

大村:基本的には賛成だ。先ほどの話を踏まえると「オブザーバー参加希望会合」という表現からは「オブザーバー」をとってしまおう。積極的な参加を求めることとは相容れないので。

前田:「参加希望」がよいですね。

原科:議事録には「当日参加者」として載せるのはいかがか。

 

JBICの環境審査について>

松本(郁):<「国際協力銀行(JBIC)による環境審査について 討議資料(第3版)」に沿って説明>

前回からの修正・更新箇所は下線の部分だ。3頁のA「人間の健康、安全、社会影響」は、「人権、健康、安全、社会影響」と修正していただきたい。B先住民族C非自発的移住及び生計手段の喪失に関しては苑原先生の資料もございますし、割愛して社会環境を中心的に議論したい。4頁の「2-4.環境・社会配慮のための対策」は新しい項目立てをして整理した。5頁の「2-8.情報公開と協議」はDを盛り込むことと、「審査において考慮されるべき事項」という以上に遵守する必要のある項目だと考える。

前田:ご質問等ありますか?

木原:2頁の2-1.のスコーピングの「人権」ですが、これは具体的にどういう点を見るのか?

松本(郁):どの点を見るか、ということよりも視点として入れて欲しいという趣旨の記述だ。

前田:基本的人権の保障は極めて相対的な概念なので、どこを基準とするかは難しい議論だ。例えば中国の例などをとると、他国と違うものを考慮として慎重に見ないといけない部分だ。おそらく基本的人権の保障をしない国というのはない。人権問題に取り組んでいるところと取り組んでいないところとの差別化が難しい。そこはどうお考えか。

松本(郁):この点については専門家の意見も参考にしながら考慮していく必要があると思う。

前田:今議論していることは、内部文書としてではなく、外部に出すのが前提だが、「基本的人権が保証されていない国は違う取り扱いをする」と外部に言ってしまうと、むしろ問題を惹起してしまうのではないか。

作本:積極的な形であれ消極的な形であれ、大原則として「基本的人権を尊重する」とうたうことには意味がある。ODA大綱に「人権」の文言を入れるかどうかも議論になったが。

松本(悟):世界銀行にあるgovernance indicatorのようなものを導入しようというわけではない。基本的な考え方に入れるというのは、内政干渉等にはあたらないだろう。

本郷:基本的なポリシーとして挙げる手法はあると思うが、それをどうプロセスに反映するかが問題だ。書くだけで済ませるわけにはいかない。

松本(郁):ケニアで地元のNGOが政府の弾圧をうけている疑いが強いケニアへの円借款案件、ソンドゥ・ミリウ水力発電事業の例やコンサルテーションをしようとしても警察の監視の下で自由な発言ができない、そのような状況を想定している。そんな場合は日本政府としては支援できないと大原則の形ででも表明しておくことは必要なのではないか。

本郷:そのケースに特定しないで話をすると、やはり人権は国によって捉え方が異なる。相対的に捉えられている概念について、我々が判断をするというのは非常に困難だ。

北野:2.審査において考慮されるべき事項」の項目の中なので、事業計画を審査する時にどういう物差しを使うかという話だ。いろいろな人がいろいろな立場から当該国全体の人権状況に関する意見を持っている。しかし、プロジェクトとの関係で、審査プロセスの中でどう人権をみていくかということについては、もう少しご説明いただいた方がイメージが掴みやすい。

前田:審査プロセスに差をつけるということだとすれば、こういう宣言をすることは、別の取り扱いをするということと等しく、そうなると基本的人権を保障していない国はどこか特定することになり難しい。

大村:これは、基本的人権の問題に加え、住民移転など性質の異なる問題も混在して、わかりにくくなっている。さらに国全体の状況とプロジェクト自体による影響、プロジェクト固有の状況などを分けて考えねばならない。私の考えでは、大原則として前文で人権をうたった上で、先住民族の権利の保障、公平かつ透明な協議の確保といった具体的手続きで明らかにするしかないと思う。ODAでは人権に関する考慮があるが、国全体の条約ということ以外での輸出信用における明示というのであれば、preamble(前文)のような箇所に置くのが一番すっきりするように思う。

原科:きちんとコンサルテーションできたかどうか、判断の根拠とする情報がきちんと提供されたかどうかということなので、人権を「2-1.環境・社会影響評価のスコープ」の中で扱うよりは別の枠で扱った方がよくないか? 人権もアセスの対象とするのは少し違うと思う。大村さんの言うようにもっと前の方で一般論として考えるのがよいのでは?

前田:人権侵害というのはむしろポリシーで扱うべきではないか。尺度としては信頼できるプロセスを踏んだかどうかだ。

本山:基本的には賛成だ。ただ個別プロジェクトの被影響住民と権力との力関係は決してイコールではない。基本的人権が確保されていない状況では、十分なコンサルテーションが行われないことを念頭に、これを緩和するものを何らかの形で審査に盛り込めないかと考えた。

原科:それは、「2-1.環境・社会影響評価のスコープ」というよりは、判断材料・情報の信頼性の確保という項目ではないか。さらに2-3のAのような「可能な代替案を十分検討したかどうか」ということは、別枠で「2-1.環境・社会影響評価のスコープ」と同列程度で書いた方がいいのではないか。

松本(悟):情報の質というよりはスコーピングで対応した方がよいわけですね。

原科:そうだ。スコープのところで検討の範囲を、評価項目の中で代替案をやるのがよい。

木原:国際金融等業務と海外経済協力業務の関与のタイミングの違いから、この松本(郁)さんのご提案をJBICの全業務に当てはめるというのは、非現実的ではないか? 円借款やアンタイドローンでは可能かもしれないが、輸出信用に関しては物理的に困難ではないか?

松本(郁):輸出信用に関しては、スクリーニングで振り分け得ると考えているが。

原科:最初はすべてのプロジェクトが対象になり得るというわけですね。

大村:理念として、銀行が融資するものすべてに関しては、ここの「考慮されるべき事項」には配慮すべきという大前提があって、そのうちの銀行の関与・責任の大きいもの、影響の大きいものに関しては詳しい審査を行う。この振り分けとしてスクリーニングが入ってくるという理解だと思う。つまりこれらの事項は、審査において考慮すべき事項というより、プロジェクトにおいて考慮すべき事項、ということですね。スクリーニングでは、そのうちで銀行が特に注意するもの・その手法を書くことになりますね。

 人権の話に戻るが、プロジェクトの背後にある民主主義の問題として、今までガイドラインに含まれていなかったものを「人権」としてまとめてしまわず、子供の労働、女性、というように分けていただくとわかりやすいのではないか。

本郷:数値的な明確さと同時に、相手や世の中に受け入れられやすい分かりやすさが重要だ。我々が思っていることが、相手方にとって納得のいく内容でなければ、単なる押し付けでしかない。皆が納得のいくクリアさが求められる。

大村:そうですね。

前田:子供の人権等に関しては、人権規約等の参加国は、compliance(遵守)チェックがあってもよいかもしれない。

大村:労働であれば、労働安全衛生基準のようなものをチェックすればよいし、当該国にそのような基準がなければ他の公害と同様に国際的なILOの基準や日本の基準を参照してやればよい。

本郷:極端なケースで、国によってはILOの考えを絶対的に否定していることがある。こういう場合はどうするのかということが別の問題としてある。

大村:そうですね。以前オゾン層保護のための条約で禁止されている物質を、相手国では絶対に必要だということで輸出信用したいというケースがあった。環境省の中でも議論になったが、国際的精神から日本政府としては本来はサポートすべきでないという話もあった。しかし、途上国の制度が整っていない、移行期である等の理由で、その国ではその物質の使用がまだ禁止されていないなど合理的説明がつけばよいのだろう。したがって、例えばILOの条約に批准していないような国やILOの考えには絶対反対というプロジェクトに融資する時は、当然日本政府に説明責任が生じると思う。完全に相手のやることを禁止することはできないが、相当の説明責任は生じると考えられる。

北野:多国間の国際条約を作っている過程では、各国間の妥協の産物として作成されるので国によっては一部につきどうしても同意し得ないので批准しないということが生じ得る。従って、一概に、批准していないのは国際ルールを守っていないと決めつけることができるかは議論を要する。従って、プロジェクトで問題となる部分について個別の議論をすべきと思う。

前田:少し別の観点から意見を申し上げる。6頁に「3.金融形態に応じた手続き」として少し触れられてあるが、全体としては、借入人と実施主体が同じという前提になっているようだ。情報源をどうするかということについて記述がない。保険やツーステップローンなどでは、第一次的に相手になるのはapplicant(借入人)で、事業実施主体ではない。その場合、誰から情報を得るのかという問題である。ツーステップローンでは、第一次的審査はintermediaryに任せるという考えだ。その環境審査が一貫しないと困るので基準を設けるのはわかる。直接的契約関係の時はまだしも、間接的契約関係になった時は誰からどのように情報を入手するかが難しい。他には、当事者が直接の借入人でない場合の制約は出てくる。現実問題として、関係のない人に情報を求めることはできない。借入人相手だからこそできる。ECGでも誰から情報を入手するのかということは議論されており、直接的に関係のない場合でも極力とるのかどうか等含め、ある程度明らかにしていった方がいいと思う。

大村:第一義的には借入人である。その上で、融資機関の側として借入人から入手した情報の確認のための傍証の収集にあたるわけですね。ただいつも集めるのでは大変なので、いつ、どの程度集めるのかということはスクリーニングで定めておくのがよいのではないか。さらにapplicantproponent(事業者)が異なる場合も考慮しなくてはいけない。

松本(郁):借入人から充分な情報が得られない場合には、それ以上の情報を収集する権利がJBICにはあるかどうかということか。

前田:通常権利は有しない。それを、収集できないということで終わらせるかどうかで随分違ってくる。

大村:借入人が状況を把握していない、説明責任を果たせないのは、そもそもが危ない状況ではないのか。

前田:輸出信用では、ビジネスの人は環境問題をリスクと捉え、それを回避すべく必要な調査をする。しかし、直接我々が行う場合とは立場が違い、限界がある。限界のあるものについてはそこでやめるか否か、さらに我々が直接調査をするか否かも問題である。

松本(郁):審査に必要な、環境への影響に関する情報が充分にないままに、審査の作業が進むことはできないのではないか。

前田:むしろ、案件に直接関係しない人権等のことまで、借入人に情報を収集してこいと言うかどうかのスコープの問題だ。それがいいことなのかどうかだ。

本郷:借入人が知り得る範囲は、原則として責任を負うべき範囲に留まるということだ。

大村:国内の環境アセスメントでも同様の問題がある。あるプロジェクトで、周辺環境の調査をやらないと事業が始められない民間業者がいる場合、民間業者は国が調査をやるべきだと主張し、衝突が生じることがある。しかし、政府の立場としては事業で環境を攪乱しようとしているのは事業者なのだから、資料集めを含むその責任・コストは事業者に負ってもらわないといけないと言っている。ただし行政にも環境把握の一定の責務があるので、基礎的情報の提供など、事業者が尋ねてきた場合の資料集めには協力することになっている。ODAは、相手国からの要請に応じるだけでなく、ある程度相手国の状況を変えていきたいという意図があるのでapplicantだけでなく、こちらも積極的に調査するべきである。問題は民間事業者の場合で、この場合は、普段銀行が相手国のマクロ経済状況を調べるといった形で機能として既に銀行が分析しているカントリーリスクと同列には考えられないものか。

前田:まったく別の話だ。一般論として相手国が国際条約を遵守しているのかといった形でやるならともかく、プロジェクトベースでやるには無理がある。

本郷:借入人=輸出者とすると、輸出者・借入人はその知り得る範囲のことについては責任を持たないといけないし、その責任の範囲については知らないといけない。その責任範囲を超えた部分についてまでも、我々融資機関が責任を持つべきか、まさにその問題だ。情報入手により知ったということと、責任を持つというのは若干異なるのではないか。

原科:どこまで責任を持つかということは、従来よりは広く考えるべきだ。2頁の「2.審査において考慮されるべき事項」にあるような項目でスコープをするのであれば、proponent(事業者)から手に入る以外のすべての情報を相手に依存していいのかが問題だ。情報収集にかかる融資機関によるコスト負担も若干必要なように思う

本郷:我々としては、必要あれば確認しているという意味で、ある程度はできているが、金融機関が負い切れないような範囲に責任がどんどん広がっていくように思う。

柳:一般的にいう融資者の責任(lender’s liability)では、融資者の責任は、貸し付けた先の経営内容にどこまで影響力を及ぼしているのかというところで判断されている。

本郷:JBICが常にプロジェクトに対し大きな影響を及ぼし得る立場にあるというのは違うと思う。

前田:私は責任というよりは、情報の入手先をどうするかということを考えていた。当事者として輸出者が知っていないといけないことはあろう。しかし、相手国の政策に関わる人権状況等の情報を集めさせるのは酷ではないか。必要ならば我々融資機関で入手すべきかと思う。

原科:JBICが行う方が、バイアスがかからず正確性が確保されるかもしれない。

前田:借入人と実施主体が異なる時はかなり難しい問題をはらむ。

原科:松本(郁)さんの提出された「国際協力銀行(JBIC)による環境審査について 討議資料(第3版)」についての提案です。2頁の「2.審査において考慮されるべき事項」中「2-1.環境・社会影響評価のスコープ」を再構成して、「@ゼロ・オプションを含む適切かつ実行可能性のある代替案の検討」「A影響評価の範囲」と分け、そのAに7つの項目を含めるのはどうか。それに伴い、4頁の「2-3.提出された情報の質」「Aゼロ・オプションを含む詳細な代替案が適切に検討されているか」は2頁に移すのがよいかと思う。「@予測やモニタリングの基礎となるベースライン情報」の前あたりに、情報の信頼性のチェックとして、人権が充分に確保されたような状況で住民意見が得られたかどうかというのを盛り込むのはどうか。また、「@予測やモニタリングの基礎となるベースライン情報」という文言は「情報の質」という項目となじまないので、言葉を変えるのがよいと思う。その上でポリシーの部分で人権等に関する基本的なスタンスを示すのがよいのではないか。

前田:2-8.情報公開と協議」のDの「最終案」はEIAF/Sのことか?

大村:この項目は、借入人、proponentが情報公開・協議をきちんとやったかどうか確認するということですね。@Aは事実確認のことですね。Bは事実確認の方法を絞らないといけませんね。Cは充分情報が提供されたかどうかをチェックするということ、Dは協議の結果がどう反映されたかを入れることをアセス書の要件にすればよいということですね。

前田:EIAF/Sが同様に書かれてあるが、それでは対象が曖昧になる。EIAはドラフト段階から公開され、そこからコンサルテーションが始まるわけですね。コンサルテーションが行われた結果がきちんと反映されているかチェックしようというのは理解できる。しかし、これは通常F/Sではやらない。

大村:F/Sとアセスメントは本来表裏一体でないとおかしい。F/Sをやる中で、住民等との協議プロセスをEIAと呼ぶべきなのだ。F/Sを別に作って、それをアセスにかけるというのはつながらない。

前田:経済性等を見るF/Sではなくて事業計画ではないですか? F/Sはプロジェクトを実施するかどうかという前の非常に早い段階でやっているわけですね。

本郷:公共事業のケースと民間あるいは民間を巻き込んだプロジェクトとではF/Sの意味が全く違う。

前田:F/Sは通常公開しないが、事業計画は公開するものと思う。

松本(郁):EIAF/Sに影響すると考えられるのは、例えば、非常に環境に対する影響が大きくてmitigation(緩和措置)に大きな費用が生じる場合や、住民移転等に対する補償を要する時だ。

前田:F/Sは公開されていないのではないか。公開のプロセスに入れているかどうかという話だ。通常これは、公共事業の事業計画とは異なり、ビジネス情報としてコンフィデンシャルだ。

大村:事業計画とするので間違いないように思う。ただF/Senvironmental feasibility(環境の観点からの実行可能性)も考慮に入れ、そのためにF/Sを作る段階から早めにコンサルテーションしていくのが世界的な流れだ。文書として公開するのは、F/Sとは切り離してアセスという手続きの中でやっていくべきだ。また、アセス書と事業計画書とが乖離していてはいけないので、事業計画書に反映されているかはチェックしないといけない。

前田:用語を統一した方がいい。「2-8.情報公開と協議」のCの「詳細計画」は事業計画とし、@では、「ドラフト段階で公開されたか」ということにした方がよい。

松本(悟):ODAの場合も、ドラフト段階以後のF/Sの公開は問題になるのか?

北野:F/Sもいろいろなケースがあるので一概には言い難い。

前田:ODAの場合も、bid(入札)があるので、コンフィデンシャルということもあり得る。この文脈で必要なものは、どのような事業かという情報とドラフトEIAでいいのではないか。

本郷:情報の入手のためF/Sが必要というのであればEIAの中で事業内容を明確に書いていれば、それで充分ではないのか。

原科:論点は、EIAのもっと早い段階、上位の総合計画の段階で環境配慮を行うかどうか、SEA(戦略的環境アセスメント)を導入するかどうかである。前田さんのおっしゃるようなコンフィデンシャリティの問題もあるが、環境配慮を推進するという立場からは、EIAの前の意思決定段階でも情報公開して参加プロセスを設け、環境配慮を徹底してもらいたい。ODAでは実現しそうな状況だ。事業の種類によっては、SEA的アプローチをとってもいいのではないか。日本国内でも公共事業でのみ行われているが、これは徐々に電源開発など公共性の強い民間事業でもやっていかねばなるまい。資料5頁の「2-8.情報公開と協議」の@は、EIAF/Sを一緒に書いているが、むしろ切り離して、上位の段階でどこまでやるか書く方がよい。

大村:ODAの場合、F/S等の情報をできるだけ公開・共有して、社会的にきちんとした計画のプロジェクトにしようという流れだ。ケースによってどこまで情報を得るかが変わって来る。ビジネス・セクターの中では、EIAのみを必要とするかもしれないし、社会的に大きな公共事業の場合は、さらに踏み込んで聞くかもしれない。しかし、公開を義務にするのは、EIAだけなどいろいろ考え方はある。できるだけ情報公開するのが望ましいが、最低限EIAとするのがよいかもしれない。

北野:2-8.情報公開と協議」のBのステイクホルダーの選択が問題になるのは、Cの情報提供の対象が適切であったかという文脈の中ででしょうか?即ち、BはCに付随した論点と考えてよいか?

松本(郁):そうですね。

前田:2-8.情報公開と協議」のCのステイクホルダーには、NGOなども含め、直接影響を受ける住民だけではないということですね?

松本(郁):そうです。

北野:EIAの中では、誰がステイクホルダーかという形では書かないのだろう。具体的に誰に対して情報提供しているのかが問題になるのであって、審査の項目として、ステイクホルダーの選択が適切であるかという書き方は曖昧であるので、より趣旨を明確化すべきと思う。

原科:ステイクホルダーが情報提供相手であるのはもちろんのこと、意見を求める相手であることがポイントだ。そういう意味では、Aにも関連するので、ABCは整理した方がよい。

北野:アクションが適切かという観点と、アクションをとる対象が適切かという二つの論点があるという理解でよいですね。

柳:情報公開の主体はプロジェクト提案者なのか? それとも実施主体なのか?

松本(郁):2-8.情報公開と協議」では実施主体だ。II.環境審査の手続き」の中の「4.情報公開と意見の受け付け」はJBIC自身が行う情報公開と考えている。

柳:実施主体がステイクホルダーに対し、事前に通知する仕組みになっているわけですね。

松本(郁):一応そのつもりだ。

本郷:ステイクホルダーの定義として、一般的、国際的に受け入れられているものはあるのでしょうか?

原科:ある程度のものはあると思う。environmental dispute resolution(環境紛争)に関するハーバード・MIT共同研究等の基本的文献をあたった方がいい。

柳:EIATOR(実施要領)を作る時、ステイクホルダーの範囲はケース・バイ・ケースで確定される。通知責任があっても誰に通知するのか確定されていないとおかしい。しかし、一般論で定義することには、どういう意味があるのだろう。実務ではどうなっているのか。

原科:最初から利害関係のすべてを確認できないという前提だ。参加を促すということだと思う。

前田:ただアクションをとる対象の選択が適切かどうかは判断せねばならない。おっしゃるやり方だと定まらない。

本山:ステイクホルダーを定義しておく意味はある。

大村:ステイクホルダーを「利害関係人」と特定するかどうかについては、「直接的利害」つまり訴えの利益があるかどうかで判断するのは、狭義のやり方だ。今は、よりよい情報を提供してくれる人、直接利害はないけれど環境について専門知識を持っている人を含める方向だ。

原科:日本語の「利害関係」というと非常に限定的なので、もっと広く考えるべきだ。

小林:関心の強いNGOなどを含まない厳格な意味での「訴えの利益」の概念で考えない方がよい。

大村:おっしゃる方向に解釈は進んでいると思う。社会的に正当な言い分のある人は含めるのがよい。

北野:世銀にインスペクション・パネルというのがあるが、そこではどのように適格性をみるのかをご存知の方がいらしたら教えていただきたい。

柳:EBRD(欧州復興開発銀行)のスコーピング手続きを見ると、利害関係人及びその他の住民には、何をスコーピングするかということについて意見を言う権利を付与されている。プロジェクト提案者はこのステイクホルダーと協議する必要がある。日本で言えば、行政訴訟法でいう原告適格のようなものだ。

原科:英米では、原告適格が日本よりも広くとってあるということだろう。

松本(悟):ADB(アジア開発銀行)は非常に狭い。「直接影響を受ける人」と限っているので、査閲パネルに提訴はされるが、適格性の点で一度も取り上げられたことがない。

原科:日本のアセス法で、関係地域住民以外からでも意見を出せるようになったのと同じように考えるのがよい。

木原:ステイクホルダーは広がっていくものなので、Bでは、ステイクホルダーの「選択」ではないのではないか。

松本(悟):「ステイクホルダーが充分に広く捉えられているかどうか」では逆に曖昧になる気がする。定義を曖昧にしておくと、狭くもなり得るので危険である。

本山:中核のステイクホルダーから、重大な影響を受ける人々がこれまでのケースで見落とされていたことがあった。最初の段階で誰に意見を聞くのかということも合わせ考えると、特定した方がいい。

松本(悟):先ほどのお話のように、現地の利害関係・事情で地域住民が自由に意見を述べられないような状況ならば、広くステイクホルダーをとっておいた方がよいというケースもあるかもしれない。

前田:他に何かありますか?

作本:JBIC側と借り手側の負担にアンバランスを感じる。第一義的には借りる側が問題のないことを保証すべきである。

前田:7頁のVは、スコーピングというよりはガイダンスの役割であり、個別プロジェクトとは違うという趣旨ですね。

大村:事業者にはこういった情報をきちんと持って来て下さいとガイドラインに書き、それとは別にグッド・プラクティスを参照させるという世銀の方法をとるわけですね。

 

<環境審査についてJBICの現状>

本郷:「地球の友ジャパン作成資料『国際協力銀行による環境審査について』へのコメント」はガイドラインと照らし合わせて現状を示した資料です。○、△、×、―の印の付け方はかなり大胆だが、わかりやすくなるようにつけた。○、△の部分は基本的には我々としてはやっている事項のつもりだ。△は、ガイドライン上原則を書くのが難しいが、ケースごとに対応しているものである。<以下「地球の友ジャパン作成資料『国際協力銀行による環境審査について』へのコメント」に沿って説明>

前田:一つ確認したいのですが、「審査情報の原則文書化・公開」の×とは、文書化しているが公開しないということか。それとも文書化もしていないのか。情報公開法が制定されれば、文書化したものは原則公開となるが。

本郷:現状は文書化しているが公開していないということだ。

 3頁下の「先住民族の経済・文化活動〜」では、「カテゴリーAとして確認」ではなく、「カテゴリーAの場合には」である。

森:5頁「Eプロジェクトの実施に影響する現地状況」の「汚職」は、環境の観点の審査ではなく、もっと大きな審査の枠組みの中で見ている。

本山:しかし、ある程度は考慮しなくてはいけないのではないか。

本郷:汚職は犯罪であり、警察でも検察でもない我々が調べるべき内容ではない。もちろん告訴されている等のことがあればそれは別の判断が働くだろう。

小林:△は実質的に対応しているということなので、統合ガイドラインにそのまま盛り込んでもいいのではないか。

本郷:表現が難しいので書いていないのが現状だ。

前田:△も案件によって意味が違うのだろう。そういう意味での質問だが、3頁の「国際人権規約、リオ宣言等」のODA業務の方で、「人権については環境ガイドラインの対象ではないが、審査の一項目として検討」は意味がわからない。

森:人権問題そのものを環境社会室で扱うわけではないということだ。

前田:ILO規約、ADB先住民族ガイドライン〜」の項目では、その項目と同じような書き方なのに、「ILO規約についてはガイドラインの範囲外」と△になっているのはなぜか。

森:先住民族についてはやっているからだ。

原科:表現が難しいところがあるということだが、できるだけ成文化した方がいい。ただ当初想定していなかったことでも、現実には対応してきたものもあるかもしれない。そういうものはガイドラインに書けるかもしれない。また、成文化した方が対外的評価を得る効果もある。

作本:確かに汚職は内政問題だが、日本の資金が使われていることを考えると、間接的にチェックするシステムはないのだろうか?

前田:ここで汚職について話しているのは、むしろそのような汚職をしている国が出す情報の信頼性を問題にしている。他方ECGでは、直接プロジェクトに関与している輸出者等にbribery(贈収賄)をしないと宣言文を出してもらうことになった。

本山:汚職の発生するところでは、民主的意思決定が行われていないことが多いということを何らかの形で考慮していただきたい。

前田:情報の信頼度の議論ですね。

原科:合理的な判断がなされていないということですね。

作本:アジア各国では汚職関連の法律を徐々に整備してきている。ただ自国の力だけでは汚職状況から抜け出しにくく、そのトピックを挙げること自体がまだ困難のようだ。具体的なチェック項目を設けるのはそのためにもよいかと思う。

松本(悟):情報の信頼性で審査をするということだが、環境影響がありそうな場所でお金がばらまかれている雰囲気があるが、証拠がないような場合は、現実的には、情報の信頼性がないと相手側に言うのは難しいのでは?

佐藤:そもそも汚職や人権侵害があるのかどうかを考えた方がよい。汚職は、言い方を変えると、現地での資源の配分ルールである。我々、あるいは欧米流の公正さの考え方を押し付けていいのかどうか。例えば、人権侵害そのものを悪とするのではなく、人権侵害があるからプロジェクトの適切な実施の機能が妨げられるといった形で考えるべきだ。したがって、人権・汚職等の言葉をここで入れなくても、その精神は充分にガイドラインに盛り込むことができるはずだ。

原科:私は反対です。汚職や人権侵害は、日本・欧米に限らず普遍的な問題だ。

前田:贈収賄について言うと、事前に案件に関与しているapplicantexporterから、briberyをしないと宣言文を出してもらうことになった。違反した場合は差し止めるということは確保されている。L/Aに載る以上のことを審査対象とするかどうかの議論かと思う。難しいと思うが、情報の信頼度の観点からみるということは可能かもしれない。

本郷:5頁「2.環境審査手続き」以降について説明>

そもそも現行のガイドラインは、借入人と外部との関係を意識して作られているので、内部手続きを書くことは予定されていなかった。

森:6頁の(5)「ODA案件における、環境審査終了前の政府による〜」の×というのは、不適切で、実体上は確保されている。

松本(郁):国際金融等業務では環境社会室と営業部で意見の折り合いがつかない場合はどうするのか。

本郷:銀行全体としての融資の是非の判断があるので、環境社会室が止める権限を持つという話ではない。営業部と環境社会室との意見が異なる時は、それぞれに役員会に出されるものと思う。

前田:環境社会室にあるのは、クリアランス権限ではなく、意見を述べる権利である。ただ組織のやり方としては、両方を役員会に上げるということはなく、事前に調整してしまう。内規上のクリアランス権限はないが、環社室の意見を事実上尊重せざるを得ないシステムになっている。

小林:これまで環社室の判断で融資しなかったケースはあるのか?

本郷:問題あるケースはいろいろ議論しているうちに自然消滅してしまったので、今までの経験としてはない。

本山:そのようなシステムで問題は生じないのか?

木原:環境社会室と営業部の意見の合わない案件はそもそも生成されないのではないか?

前田:ガイドラインの設計上、環境審査の義務は環境社会室だけでなく営業部も負っている。欧米的に言うと曖昧と言われてしまう部分なのだろう。

松本(郁):前に戻るが、1頁の国際金融等業務の環境審査の対象として「全新規プロジェクト」とあるのは、第2フェーズに入っているものは含むのか。

本郷:2フェーズのものも審査する。

柳:7頁の国際金融等業務の「独立した審査委員会の設置」で「プロジェクト実施地域の住民や有識者等、第三者を含む現地の調査委員会が設置される方が有益ではないか」には賛成だ。ただ「調査委員会が設置される可能性がある」とガイドラインに明記するのは有益ではないか?

本山:独立した審査委員会の設置は全く検討されていないのか?

本郷:今は具体的な検討はなされていない。

前田:「独立した審査委員会」とは、査閲パネルのことか?

松本(郁):問題が起きてから申請する査閲パネルよりもむしろ審査中に迷ったときのためのものを考えている。

原科:最終的には行政判断だが、助言を行う地方自治体のアセスの審査会のような位置付けだ。最終決定はJBICが行うが、客観性の高い情報を提供する場とするわけだ。

前田:それはよいかもしれない。

本郷:<「3.借入人向けの要求項目とガイダンス」に沿って説明>

前田:この資料は、あくまでも現状を記したもので、意見は書いていないとご理解下さい。

原科:途上国のアセスメントでしばしば言われるのは、立派な制度と運用状況の乖離である。どのように現地のEIA制度を尊重するかが問題となって来るだろう。

本郷:JBICのガイドラインによいことが書いてあっても、相手がそれを受け入れられないのでは意味がない。相手国全体の環境配慮の水準を引き上げるというのは別次元の話だ。

原科:ただ個別のプロジェクトで示すことで相手国全体の水準を引き上げることになる。

作本:地球環境問題は、顕在化しにくい問題なので、基本的姿勢としてうたう意味はあると思う。

前田:ここで書いているのは、ガイダンスとしての意味合いを超えて、書いている条件が揃わないと、融資決定に際しては不利になることを暗に示しているわけですね。

大村:非常に重要なところだ。事業者が勝手にやらないで、現地のアセスメント制度を尊重することは基本的にはよいと思う。一方で、そういった制度で、パフォーマンスや情報公開がきちんと定義されていない場合、現行ガイドラインでは現地の制度以上のことは要求できない点が問題だ。例えば世銀では、アセスは住民協議を最低2回やるものと明文化しているように、明文化する方法はある。もう一つの手法は、相手国の制度を基本的には尊重するが、特定の事業については2回以上の情報提供・パブリック・コンサルテーションを要求することである。世銀のやり方と相手国制度の尊重というやり方の間くらいを探れるのは一つのやり方だ。

柳:大村さんの提案は、日本の制度が当該国よりも進んでいることが前提ですね。しかし、タイのように、日本以上の要求をしている制度である場合もある。日本の側が、相手国の法制度の変化をどれだけ適格に常に把握できるかが問題だ。その元になる情報が常に公開され、相手の言うことが正しいかどうか判断できるような制度的なフォローが大切だ。また、日本は自ら経験していない分野・仕組みに弱いが、違いを踏まえ、事例を踏まえて的確に判断できないといけない。

小林:現地の制度を尊重する、押し付け主義を控えるということは理解する。ただインターネット等で世界的に情報が共有されるようになった現在、現地の制度よりも住民の意識が高いことはあり得るのではないか。現在の法制度だけをみていると、後で問題になるのではないか。

前田:ただ、この話は、どういう基準をもって審査するかということとは別の問題だ。あらかじめ要求項目を示しておくだけだ。

原科:×の項目を改善するかどうかですね。

前田:ベスト・プラクティスまで要求すると困難になる。ここで言う最低限とは何かの定義が難しい。

原科:リスクマネジメントの観点からも、政権が交代した時などに制度が変わって、JBICが無責任なことをしたなどと言われないようにしておくために基本姿勢を示すということもある。

前田:ただ単にガイダンスであるのなら、意味はないけど簡単だと思う。ただこれを本当に盛り込もうと考えたらかなり作業に時間がかかる。

木原:最終的にはファイナンシャルリスクにもなるので財務省としては関心がある。

前田:今日はここで終わりにしたい。

 

 

次回は227日(火)午後5時〜

佐藤−社会開発