頂いたコメントを順次掲載しています。
これらのコメントは、今回の要請を行った8団体14個人の意見を代表するものではありませんが、それぞれ貴重な視点であると考え、ご本人の了解を得て掲載させて頂きました。


ボルネオ島パーム・プランテーション開発の現場から考える

ライオンのトップCMに関して、パーム油が環境にやさしいという表現を改めた要請書に対し、ライオンは4月21日、「植物原料の使用は大気中のCO2増加抑制に貢献する」として、今後も「宣伝活動を続けたい」等の内容の回答を出されました。現地でアブラヤシプランテーション開発による森林破壊を目の当たりにしている者としてライオン社に現実に目を向けていただきたいと思いコメントを出させていただきます。

1. マレーシアにおけるアブラヤシ産業

マレーシアのアブラヤシプランテーションは作付面積約400万ヘクタール、少数の大規模事業者のほか、13万軒の中小規模プランテーションがアブラヤシを生産しています。13万軒にも上る事業者が合法で行われているかどうか定かではありません。アブラヤシは収穫後24時間以内に搾油工場に搬入され、色、収穫後の経過時間などで格付け後、原油が搾られます。そこから精製工場で精製された後、貿易会社に販売され、95%が海外に輸出されます。このサプライチェーンではプランテーション、搾油工場、精製工場それぞれ別会社が運営しています。工場は利益を出すために24時間操業を行っています。ですので、そのアブラヤシがどのように生産されたかどうかには興味がなく、量と品質を確保し、安く買えることだけに興味があります。 大規模プランテーションの大半は政治家や政府の官僚が事業者の庇護者のごとく会社のシェアーを保有して、利益の配分を受けます。一見、株式会社のように見えますが、実際は一般に公開されているわけではなく、これが政治的な事業といわれるゆえんです。過去20年間、アブラヤシの生産コストは2-3%上昇し、販売単価は2-3%減少しました。が、プランテーション事業は空前の利益を上げております。その秘密は規模でも、効率化でもなく、近隣諸国からの貧困労働者の流入による労働単価の下落にあります。公式発表からは読めない現実があります。

2. ボルネオ島で進んできた急速なアブラヤシプランテーション事業開発

ボルネオ島には世界でもっとも生物多様性が高く、人類生存にとって貴重な酸素を供給し、二酸化炭素を吸収してきた熱帯雨林が広がっていました。その森林はオランウータン、ゾウ、スマトラサイ、テングザルなど固有種が多く、人類共通の遺産であると共に、人類が持続して地球で生存し続けることができるかどうかを計る島でもあります。しかしながら、植民地時代に始まった森林伐採、日本の経済成長によって伐採が加速し、原生林はほとんどなくなりました。伐採の後、ゴム、カカオ、ココナッツなどのプランテーション事業が開始されました。そして、近年これらの一次産品の価格の下落とともにアブラヤシプランテーションが急速に拡大しました。1984年から2003年までの間に、作付面積約20万ヘクタールから260万ヘクタールへ、年間18万ヘクタールあまりも増えていきました。東マレーシアのサバ州、サラワク州では1994年以降年率11.7%の勢いで拡大し、年間11万ヘクタールのアブラヤシプランテーションが増えました。公式発表ではココヤシ、ゴム、カカオなどのプランテーションからの変更が大部分であるなどと報道されておりますが、これだけ大規模で急速な拡大を見れば他のプランテーションからの添削割合はきわめて低いといわざる得ません。

総面積6,537平方キロサバ州ラハダト地区では、昨年1年間でだけで40平方キロの森林が違法に伐採され、アブラヤシプランテーションに変わってしまったと独立系新聞が報道しました。このように東マレーシアだけで約900平方キロ(9万ヘクタール)の森林が合法、非合法でアブラヤシプランテーションと代わり、消滅しています。その結果、失われる酸素の生産量は600万人分にも上り、二酸化炭素を大気から長期間取り除いてくれていた森がなくなったと報道されています。事業者は周辺国から流れ込む合法、非合法の貧困労働者を取り込み、低賃金で働かせ、多大な収益を上げていきます。搾油工場は24時間操業、利益だけを優先するため、有害排水は川に垂れ流し、規制が強化されると、排水を艀でさんご礁の広がる海に持っていって捨てます。アブラヤシ事業の収益の何割かは政治家、官僚へ配当金として還元されるため、違反操業に対して具体的な処罰が下されることはなく、そして、アブラヤシ事業拡大政策が国策として推進されていきます。

3. 持続可能なパーム油円卓会議の現実と持続可能な開発の乖離

WWFヨーロッパの強力な要請で、植物油にかかわる多国籍企業が主導してRoud Table for Sustainable Palm Oil(RSPO:持続可能なアブラヤシ産業円卓会議)が2002年12月設立されました。本部はチューリッヒ市カントン地区、事務局はマレーシアクアラルンプールに設置されました。2003年8月に第1回円卓会議がクアラルンプールで開かれ、RSPOガイドライン(Principle and Criteria)を規定していくことを決定しました。昨年11月、2年間のRSPOガイドラインの試験運用期間、モデル事業を行っていくことを主な目的とした第3回円卓会議が開催されました。しかし、的確な実施を誰が保証するのか、ガイドラインにしたがって生産されたパーム油とそれ以外をどのように分離するのかというのが課題でした。この会議で明確になってたのは、プランテーション事業者は生産される実の品質と単価、搾油会社は不良品の混入を防止し等級を上げること、精製工場は単価の高い市場に参入すること、そして、多国籍企業は一円でも安いパーム油を大量に確保することだけに興味がありました。このような事態はWWFの要請の意図とは異なり、RSPOはアブラヤシ産業が商売として持続可能かどうかを議論する場になってしまっています。地域の生態系として、あるいは有限地球生態系の中で営まれる持続可能な事業という議論での議論は全くありませんでした。

また、ガイドラインに沿って生産されたパーム油とそうでないものとを区別してサプライチェーンを構築することには不可能であるという結論が先にありました。すなわち、企業としてはどのように生産されたものであってもパーム油はパーム油であって、利益に寄与するとの判断のようです。非合法で開発されたアブラヤシであっても、環境基準を守らず河や海を汚染し続ける搾油工場で作られた原油であっても、利益に寄与する限りパーム油として流通することはかまわないという結論でした。この結論はマレーシア、インドネシアから輸出されるパーム油は環境に配慮しながら作った白い油と非合法、違法操業で作った黒い油が混じりあう灰色のパーム油しか無いということになります。日本で売られる石鹸、洗剤、マーガリン、チョコレート、アイスクリーム、化粧品などはすべてその灰色のパーム油を使って作られる商品である限り、地球に優しい白い商品ではなく、すべて地球に優しいかどうかわからない灰色商品ということになります。

4. 温暖化対策と生物多様性保全、森林保全との複雑な関係

京都議定書が発行して以来、温暖化対策として化石燃料からの二酸化炭素排出を削減するため植物由来の燃料や製品を使うことが大きく取り上げられています。しかし、化石燃料ももともとは生物由来のはずです。生物によって固定された二酸化炭素を半永久的に地下に閉じ込めたのが化石燃料です。大事なことはできるだけ長い間二酸化炭素を閉じ込めることで大気中の二酸化炭素を減少させてきたのです。パーム油は確かに植物由来で、半永久的に地下に閉じ込められていた二酸化炭素を放出しませんが、アブラヤシを作るために失われた森林は何十年も、何百年も二酸化炭素を閉じ込めることができたはずです。そして、その森はオランウータン、ゾウ、スマトラサイなどの多様な生物が生息する森でした。パーム油を作ることで失われた長期間二酸化炭素を閉じ込めることができた森林を失い、多様な生物の住処を奪い、絶滅に追い込んでいます。これでは、温暖化対策として植物油を使うことで人類生存の持続性を失わせてしまうことになってしまいます。

このように、植物油がすべて地球に優しいのではありません。地球という有限生物圏のなかで二酸化炭素を長期間閉じ込めることができ、そこにあった森林とその生物多様性を保全し、人類が地球と共生できるような方法で生産し、消費することが地球に優しい植物油となるはずです。

5. 地球に優しいという宣伝を行う前に

植物油=二酸化炭素吸収=地球に優しいという短絡的なイメージは、結果として人々を地球に優しい植物油の大量消費→生産のための大規模開発→森林破壊→長期二酸化炭素貯蔵庫の崩壊→生物多様性減少→持続不可能な開発→地球生態系の破壊→人類存続の危機に導いていきます。

社会的には地球に優しい植物油の大量消費→資本家、政治家による土地資源の寡占化→資源から排除された住民の貧困化→貧困労働者の増加→労働単価の下落→社会治安の悪化→民族間格差の拡大→地球上に存在してきた多様な文化を持った人類の共存を不可能としていきます。

たった30秒のCMですが、このように人類存続の危機に陥れないため、多様で豊かな人類の文化が共存できるCMへと再考をお願いしたいと思います。

<マレーシア在住日本人>


温暖化対策としてのバイオマス資源の取り扱いについて

ライオン社の「植物原料の使用は大気中のCO2増加抑制に貢献する」という主張に関連して、京都議定書の国際交渉をウォッチしていた元環境NGOスタッフ としての視点から、温暖化対策としてのバイオマス資源の取り扱いについてコメントします。

1.温暖化対策についての「京都議定書」の中では、第3条3項のARD活動(土地利用変化(LUC)活動)と、第3条4項の継続中の森林・農地での(LU)活動の2つに関して取り扱いに区別を置いています。 (左上の英文の表を参照のこと、太字が第3条3項活動)
現在は途上国は議定書の削減義務を負う国になっていないため除外されていますが、特に途上国で温暖化の原因となっている森林破壊問題については、次期(以降の)約束期間に途上国が削減義務を負うようになった場合、この各条項が途上国の森林でも適用されます。

このように森林を切り開いてオイルパーム農園を作る活動は京都議定書の下で総量規制を受けるD(eforestation)活動=森林減少活動とみなされるべきものです。
 つまり、産物であるパーム 油が、継続中の農地からの採取物であるのか、新たに森林を切り開いて作られるのかで、取り扱いは180度違うということをライオン社さんは認識して、消費者に対して情報開示をしていただく必要があります。
(もちろん、従来は荒地であった場所に オイルパーム農園を作った場合には、 (見かけは森のように見えても)議定書上では森林 (すなわちAR活動)とみなされることはないですが、 オイルパームという植物の成長量のバイオマスの量だけを吸収 量とみることは可能です。但しそのような、元が森林ではない荒地を開発したプランテーションの実例がほとんどないことはライオン社さんはご存知でしょう。)


2.ちなみに、第3条4項の中にある「継続中の農地」での吸収量は、農作物ではなく土壌中の有機物の増加のみを勘定することとされていますので、継続中のプランテーションから得られるパーム油自身も「吸収」の産物とは呼べないことになります。「カーボンニュートラル」という言葉は、この間接効果をブランド化するために民間で名づけられた呼び名にしかすぎません。
(この状況は現在のところ農産物系バイオマスでも林産物系バイオマスでも変わりはありません。)

3.COP11/COPMOP1における国際交渉の中でも、新たに熱帯林途上国連合(CRN)から、クリーン開発メカニズム(CDM)の範疇の活動として、途上国の国内の森林減少総量(ベースライン量)に対して森林減少防止活動の効果を評価してクレジットを掛けることが提案され、議題として取上げられることが決まりました。上記(1.)の議論を更に一歩進める仕組みになるかもしれません。

4.もちろん、石油由来の原料から植物成分由来に変えたことにより石油の消費量が減るという間接的な効果はあるはずでしょうが、それらは元々明示して評価はされていません。
というのは、今年4月に始まったばかりの、工場からの二酸化炭素排出量の算定・報告・公表制度においては、製品原料としての石油半製品を購入したものは排出量計算の対象に含めていないはずだからです。
この点からも、宣伝の中身は誇大宣伝であると言わざるを得ません。

5.世界の森林破壊問題は、それ自身も一つの地球環境問題です
図1.森林関連の論理の対立点と京都議定書の論理(全国地球温暖化防止活動推進センターのレポートより)
http://www.jccca.org/about/zenkoku/1999/350_1.pdf#page=2

 1.の概念とも重なりますが、この表の中で、「拡大造林型の植林 (つまり天然林を伐採して跡地を人工林/プランテーション化すること)をずっと続けることができる」とする産業側のビジネスアズユージュアル(Bau)の考え方と、継続中の森林での「持続可能な森林管理(SFM)の効果を勘定」や「天然林伐採の代替としての人工林の活用」を求める保全派の論理との対立が現在起っていることなのだと思います。
 このそれぞれの論理の接続や論理の対立点の現状を、きちんとライオン社の側は理解できているのか、を問いかけたいと思います。

6.最後に、CMを出す企業は、それ自身としては意図せざる波及的なCMの悪影響に配慮すべきだと考えます。
 ライオン社の宣伝のおかげで大衆に良い印象が植え付けられることでパーム油の消費が増えれば、他企業や他国での需要にも火をつけ、それが波及して、更に途上国でプランテーションの乱開発が進むこと、そしてその一方でそれを食い止めるべき法規制もインドネシアなどの途上国では名目的なものであり実質的には機能していません。途上国で活動を行う限りこのようなリスクは存在します。
 ですからライオンさんが善意でやっていて、本当に環境によい活動を行っていたと思っていてもこれは宣伝するべきではないのではないでしょうか。
たとえは悪いかもしれませんが、消費者金融各社だって、中には良心的な企業が居るとしても業界各社のCMはどんどん過剰債務の危険性を訴えるものに後退せざるをえなくなっています。そのような配慮が必要なジャンルの問題であると考えます。
(小倉 正)


「パーム油は環境にやさしいとは言わないで−ライオン「新トップ」のCMに関する要請書を提出
関連情報: 発展途上地域における原材料調達のグリーン化支援事業