「持続可能な原材料調達 連続セミナー」より

2006年6月27日

パーム油と大豆油〜生産地における環境社会影響

満田 夏花(地球・人間環境フォーラム)

 マレーシアやインドネシアを旅行された方は、郊外一面に広がるアブラヤシ(オイルパーム)のプランテーションに驚かれた経験をお持ちでしょう。オイルパームプランテーションはこの両国において急激に拡大していますが、その実から絞られた油(パーム油)は、マーガリン、即席麺やスナック菓子などの揚げ油、調理用油、洗剤、塗料、インク、化粧品などの原料として私たちの生活には欠かすことのできないものとなってきています。一方、日本人には馴染みの深い大豆は、現在、自給率は5%程度です。大豆は味噌・豆腐・納豆などのさまざまな食品原料として使われているほか、製油用や飼料用としても利用されています。
 このような、パーム油や大豆の生産が生態系の破壊に関わっているという指摘があります。ここでは、パーム油と大豆油を例にとって、生産地においてどのような環境社会影響が生じうるかということについて紹介します。

熱帯雨林と生物多様性の消失

 パーム油の2大生産国はマレーシアとインドネシアで、世界の生産量の85%を占めています。オイルパームプランテーションの面積は、マレーシアにおいては1990年の170万haから2002年にはほぼ2倍の337万haに増加しています。また、インドネシアにおいては、1990年の110万haから2002年には3倍以上の350万haに増加しています。
 オイルパームプランテーションは、搾油工場を経済的に操業するためには、少なくとも4,000ha(東京ドーム855個分)の面積が必要であると言われています。また、赤道北緯・南緯12度から15度の範囲で高温多湿の熱帯地域で栽培されます。これは地球上で最も生物多様性が高いと言われる低地熱帯雨林の分布地と重なっています。
 熱帯林がプランテーションに転換されると、8割から10割の哺乳動物、は虫類、鳥類が消失するとされています。自動撮影装置を使用した野生生物の撮影回数(図)を見ると、天然林や二次林と比べてプランテーションにおける生物は、種数、撮影頻度ともに減少していることがよくわかります。

地元住民の権利の侵害

 また、忘れてはならないのが地元住民の権利の侵害が生じることが多いということです。私たちが昨年12月にインドネシアの西カリマンタンを訪問したときも、偶然、プランテーション企業の一方的な開発に抗議する先住民に会いました。彼らは、「ある日突然」やってきたプランテーション企業の開発に抗議するため、重機やチェーンソーを奪い、そのため村長以下何人かの村人が逮捕されるという事態になったと話してくれました。
このようなことは、マレーシアのサバ州、サラワク州で生じています。先住民の慣習的な土地利用権は、それなりに認められていますが、土地の権利証書や、利用している土地の境界を示す地図などを持たないため、権利を示すことができずに、企業につけこまれてしまうことがあります。サラワク州では、NGOや弁護士が、先住民のコミュニティとともに、GPSを利用して、コミュニティの慣習的な利用を行ってきた土地の地図を作成する支援を行い、この地図により裁判で勝訴するケースも出てきています。
 そのほか、低賃金や児童労働などの労働問題や農薬の問題なども生じることがあります。

進む持続可能性確保への取り組み

 もちろん、このような問題が常に生じているわけではなく、農薬の低減や厳重な管理、生態系の保全などに積極的に取り組む企業もあります。RSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)においては、法令遵守、自然資源や生物多様性の保全、新規プランテーションの責任ある開発などを含む原則と基準が合意され(本誌2006年5月号参照)、現在、トレーサビリティの確保に向けた議論が進んでいます。もはや「確認することが難しい」ということは言い訳にならなくなりつつあります。

大きな影響を与える大豆プランテーション開発

 大豆においても、大規模プランテーション開発に伴う生態系への影響や農薬の使用、先住民の人権問題という意味では同様の問題が指摘されています。
 例えば、ブラジルは世界第2位の大豆の生産国です。しかし、大豆の生産はセラードと呼ばれるブラジル中部、中西部に広がる灌木草原地帯の生態系のホットスポットの農地転換を推進するとともに、近年、アマゾンの開発要因ともなってきました。最近、ネイチャー誌で発表された研究においては、「アマゾン流域での牛牧場と大豆産業の拡大が続くと、2050年までにブラジルアマゾンの40%を破壊し、生物多様性を脅かすとともに、地球温暖化にも巨大な影響を与える」とされています。こうした中、最近、グリーンピースは、独自の調査に基づき、カーギル社が供給し、マクドナルドの鶏肉用飼料として使用されていた大豆がアマゾンの破壊に寄与したというレポートを発表しています。

サプライチェーンを遡ろう

 こうした中、我々日本人も、アマゾンやセラードの生態系、東南アジアの熱帯林に注意を払い、生産地における環境社会問題に注意を払い、「森林破壊にノー」「人権侵害にノー」という確固たる声を伝えなければならないと思います。原材料の生産に関わる問題は複雑で解決が困難なものもありますが、それでも問題の深刻さを考えれば、生産側と需要側が一体となって解決のための取り組みに一歩を踏み出す時が来ていると考えます。

(2006年6月27日東京都内にて)



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