![]() |
|
![]() |
韓国のエネルギー危機と気候変動、解決法としての市民発電所 ヨム・クァンイ(廉光熙)/韓国環境運動連合(KFEM)エネルギー代案センター |
1.韓国のエネルギー危機
(1)エネルギー資源を持たず、消費だけが増加する韓国
韓国はエネルギー源の大部分を輸入に依存している。石油、天然ガスは言うまでもなく、石炭の大部分も輸入に頼っている。もちろん、原子力発電に使われるウランもまたすべて輸入している。統計によると、1次エネルギーの97%以上を輸入していることが明らかであるが、2002年は、エネルギー資源輸入のために320億ドルにものぼる莫大な金額を支出している。これは韓国の国内総生産600兆ウォンの7%に達する額であり、輸入総額1,520億ドルの21%に相当する。
油田を持たない韓国の石油消費は深刻な状況である。2001年の場合、原油を119Mt輸入しており、アメリカ(526Mt)、日本(209Mt)に続き、世界3位の石油輸入国になっている
。石油消費量は、アメリカ、日本、中国、ドイツ、ロシアに続き、世界第6位である
。
2002年現在、韓国人1人当たりの1次エネルギーの消費は、OECD加盟国の中でも高い方に属する。2003年のBP統計によれば、エネルギー消費を石油で換算した場合、韓国人1人が1年間に使用するエネルギーは4,475kgにも達する。これは日本の4,029、ドイツの4,015、フランスの4,384、イギリスの3,720kgよりも高い数値である。さらに深刻なのは、他国との格差がますます大きくなっているということである。2001年の1人当たりの一次エネルギー消費は、韓国が4,220kg、ドイツが4,090kg、日本が4,070kgであった
。格差が大きくなる理由として、韓国はこの4年間、エネルギー消費が平均6%以上増加しているが、ドイツや日本はほとんど増加しておらず、今後もそのような傾向になると思われるためである。ドイツの場合はむしろ、1990年以来少しずつ減少している動向である。
電気の場合も、韓国の1人当たりの消費量・生産量は、他のOECD国家に比べて少なくない。国際エネルギー機構(IEA)の統計によると、2002年の韓国の1人当たり電気供給量は6,770kWhで、日本の8,200kWhよりは少なかったが、ドイツの6,400kWh、イギリスの6,190kWhより多く、電気の年間消費増加率は、エネルギー消費増加率よりはるかに高い。政府が予測したように、今後も同じような水準で増加すれば、10年後の韓国の1人当たりの電気消費はアメリカと同水準、中部ヨーロッパ諸国の2倍にもなるだろう。
このような状況でも、韓国でのエネルギー問題は重要な社会問題として取り上げられず、反対にエネルギー消費を助長する雰囲気さえうかがえる。政府は、エネルギー消費が毎年3.5%前後増加すると予測しているが、経済成長率(年平均6%)よりは低いという理由で、このような推測にも満足する雰囲気である
。また、年平均3.3%の電力の消費増加を予測しているが、これに対する対応策として、環境的でも持続可能でもない火力発電所と原子力発電所の建設を進めようとしている
。
(2)エネルギー消費と二酸化炭素排出
全球的な地球温暖化とこれに伴う気候変化の問題は、人間の活動によるものであるとIPCC報告書には記載されている。とくにエネルギー消費による二酸化炭素の排出が、気候変動と密接な関係があるといえる。
韓国は先に述べたようにエネルギー多消費国家であり、二酸化炭素排出問題も深刻なレベルである。韓国は世界で9番目に多く二酸化炭素を排出する国家であり、2001年、二酸化炭素排出量約426Mtで、全世界排出量の1.8%を占めた
。特に、GDP規模は世界14位であることに照らし合わせてみれば、二酸化炭素排出率が高いことが改めてわかる。
さらに大きな問題は、このような二酸化炭素の過剰排出が社会的に問題視されていないことである。昨年夏のフランスの猛暑、2002年ドイツでの最悪の洪水等、気象災害が発生した際、ヨーローパの科学者や政治家の大部分は、人間の活動による温室効果ガスの過剰排出が引き起した結果だと述べ、エネルギー節約と再生可能エネルギーの普及だけが、このような災難を食い止めることができると警告した。しかし、韓国ではまったく違う反応を見せている。毎年続く強力な台風による被害を単純な自然災害と見なし、これを予防するための方法として、ダムと水路の新設、より強力な災害防止システムの構築だけを挙げている。気候を担当する気象庁ですら、このような自然災害が起きるのは、気候変動のためだということは認めるものの、人間の無分別なエネルギー消費と環境破壊が気候変動の原因だという決定的な証拠はない、と述べている。いくつかの環境団体とエネルギー団体だけが、二酸化炭素による気候変動のためにこのような自然災害が急増していると主張しているが、多くの市民の関心を引くには依然として力不足である。
(3)原子力中心の電力政策
昨年7月から始まった、全羅北道・扶安郡における核廃棄物処理場の敷地選定の白紙撤回闘争が半年以上続いている。この争いはすでに扶安郡の孤独な戦いではなく、韓国のほとんどの環境団体、労働団体、平和団体、人権団体等が集結した広範囲のものへ拡大した。この争いで叫ばれるさまざまなスローガンの中には、核廃棄物処理場の敷地選定の白紙化とともに、原子力発電中心のエネルギー政策を再考しなければならない、という声が混じっている。
毎年3.3%以上の電力消費増加を口実に、政府は原子力発電所建設を強行している。現在、韓国には全羅南道・霊光(ヨングァン)、慶尚北道・蔚珍(ウルジン)、月城(ウォルソン)、慶尚南道・古里(コリ)等、4つの地域に計18基の産業用原子力発電所が稼動中であり、2基の原子力発電所が昨年完工し、試験稼動中である。政府は、増え続けている電力消費に十分に備えるため、原子力発電所設備容量を2015年までに2,664万kw(28基)に増設する計画である
。
これに加え、日本、フランス等でもすでに失敗した技術で知られる、高速増殖炉の建設計画にあくまでも固執しており、東南アジア地域への原子力発電所輸出計画までも構想している。
エネルギー資源の枯渇、地球温暖化による気候変動、そして反生命的な原子力発電の拡大を食い止めるためには、再生可能エネルギーへのエネルギーシステム転換だけが解決策である。環境団体活動家が中心になり、2003年夏より活動している「緑の電力研究会」で発表した資料によれば、需要管理、負荷管理等のエネルギー節約、および再生可能エネルギーの普及だけでも増えていくエネルギー消費に対応でき、ここに市民の自発的なエネルギーの節約が加われば、既存の発電所の解体までも可能であるという分析結果が出たことに比べると、韓国政府のエネルギー政策は、原子力発電を拡大するためのあまりにも安易な決定ではなかったかと思われる。
2.エネルギー危機を克服するための小さな実践〜市民発電所
(1) エネルギー代案センターの設立と小型風力発電機の普及事業
KFEMエネルギー代案センターは、韓国でのエネルギーシステムの転換をめざし、2000年10月に設立された非営利民間団体である。創立当時から市民が積極的に参加する再生可能エネルギーへのエネルギーシステムの転換を目標にし、再生可能エネルギーの可能性と当為性を市民に知らせていくため、多様な方法で普及、教育、広報活動を展開している。
実証試験として、2001年11月、全国で3kW1基、1kW8基の風力発電設備の普及事業を進めた。結果は、半分は成功であったが、設置した9基のうち思うように電力を生産したのは5基に過ぎなかった。原因はいくつか上げることができるが、大きくは地形に対する理解不足と製品の性能の2つであった。このような経験をもとに、再生可能エネルギーの普及を呼びかける市民団体から、現在の情報や技術水準では、小型風力発電機の内陸地域普及がむしろ妨げになる、という判断が下された。
(2) 市民発電所準備集会の構成
エネルギーシステム転換の先駆者であるドイツの事例を知っていたため、市民の自発的な参加をもとに、1つの市民発電所の建設が、再生可能エネルギーの拡大のための最も大きな力であるという事実を早くから理解していた。そして2002年初め、会員と活動家が中心になった市民発電所準備集会を構成し、社会的な波及力も同時に得るために750kWの大容量の風力発電建設に全力を注いだ。
市民の関心を引くのには十分であったが、問題は他にあった。大容量の風力発電所を建てるための敷地の確保が難しいという点である。風力資源が豊富な場所を5,6カ所ほど探したものの、私有地の場合、所有者が望まず、地方自治体所有の公園等公有地は、各種関連法にもとづき収益を出す発電所を設置することはできないという状況であった。結局、設置が比較的容易な太陽光発電に方向を変えなければならなかった。
(3)市民太陽光発電所の建設
市民発電所準備集会では、3Kwの太陽光発電設備を韓国での第1号市民発電所モデルに選定した。これに2003年1月、エネルギー代案センター理事会の承認を経て、2月から製品選定に入った。設置場所はエネルギー代案センター事務所の庭に決まった。
3ヶ月の製品選定と工事を経て、5月14日、韓国市民太陽光発電所1号機竣工式を行った。総勢35人の市民が2,900万ウォンの費用を収め、民間が再生可能エネルギー源を利用した国内最初の発電所をつくったわけである。発電所の扁額には「原子力を乗り越えようとする市民35名の願いがここに込められています」と記されている。
その後5月22日、京畿道・安城(アンソン)の農家へ市民太陽光発電所第2号機を設置し、今は京畿道・坡州(パジュ)の出版社の屋上と、国民大学の建物の屋上等、今後追加建設される予定地の調査をしている。
(4)市民発電所の円滑な普及のために ― 電力販売システムの問題点
韓国政府は2002年5月、「代替エネルギー利用発電電力の基準価格指針」を用意し、太陽光発電はkWhあたり716.4ウォン、風力発電はkWh当たり107.44ウォン等、各再生可能エネルギーから生産された電力を優先購入することにした。本指針は、ドイツ、日本、アメリカに続き、世界で4番目に施行するものであり、価格もまた他の国に比べると高く設定されていることで、再生可能エネルギー普及にかなりのインセンティブを与えるだろうと予測された。
しかし、実状はそれとは正反対であった。1年7ヶ月の期間に、上記の指針の恩恵を受けた発電所は既存の小水力発電所15カ所と、国で運営するごみ埋立場のLFG(Land
Filling Gas)施設5カ所に過ぎない。このような結果になった理由は、既存の電力市場システムを維持したままで、新たな法律を設けたためである。
韓国での電力市場は「電力取引所」を経て初めて販売が可能である。この電力取引所は韓国全体の電力状況を統制する機構で、原子力発電所、火力発電所、大型水力発電所等すべての発電所を統合管理する。小型太陽光発電所から生産された電力もまた、大型発電所に準ずる手続きと設備を備えなければ取引ができないというのが、電力取引所の見解である。現行の電力取引所規定によれば、送電最低電圧である2万2,900ボルト以上に電圧を上げなければならず、高価な瞬間入札端末機、これに合う計量設備等を備えて、電力取引所とリアルタイムで通信を行わなければ、電力販売をすることができない。また管理統制費の名目で年間120万ウォンの会費を支払う必要がある。
現在、エネルギー代案センターは、上記のような制度が小型太陽光発電所の拡大を妨げていると判断、これ以上の発電所建設を保留したまま、電力当局と制度改善法案を議論している。
政策は市民意識の反映である。市民の考えよりも先立った政策は生まれない。結局、地球温暖化防止を広く国家レベルの政策として進めるためには、市民の考えと活動が伴わなければならない。解決法は、決して難しいことでも、新しいことを作り出すことでもない。今消費しているエネルギーをほんの少しだけ大切にし、私たちの周りにある再生可能エネルギーを利用すること、それが難しいならば、市民発電所に出資者として参加することだけでも、地球を暑さから解放してあげることができる。再生可能エネルギーシステムへの転換は、するかしないかの選択ではなく、私たちが必ず行わなければならないことなのである。
(地域循環研究所の報告へ)