事例報告 B
 くずまきまちの環境は未来の子どもたちへの贈りもの
  下天广 浩/岩手県葛巻町環境エネルギー政策課 主事


北緯40度ミルクとワインとクリーンエネルギーのまち

 岩手県葛巻町は、岩手県北部、県都盛岡市から北東に70kmの北上高地に位置し、標高1,000m級の山々に囲まれた町です。人口は8,725人、2,873世帯(平成12年国勢調査)、町の面積434.99km2(うち86%が森林)という典型的な農山村は、これまで酪農と林業を基幹産業に発展してきました。特に酪農は乳牛1万1,000頭、牛乳日量120tを生産し「東北一の酪農郷」を誇っています。

 さらに第3セクターを活用し、牧場経営(くずまき高原牧場)、山ぶどうワインの製造(くずまきワイン)、ホテル経営(グリーンテージ)を行っています。このように地域の資源を活かし自ら産業を興してきた町ですが、一方では過疎化や雇用の場の不足、家畜ふん尿の処理といった課題も山積し、町の新たな魅力づくりが急務となっています。

主役は町民〜新エネルギーの推進 

 「天と地と人のめぐみを生かして」。1999年3月、本町ではこのテーマのもと「葛巻町新エネルギービジョン」を策定しました。地球温暖化防止はもちろん、地域資源を活用し町の新たな魅力づくりを図るねらいがあります。ビジョン策定後、標高1,000mを超える袖山(そでやま)高原や上外川(かみそでがわ)高原に風力発電(2万2,200kW)を、学校や老人ホーム、一般家庭に太陽光発電(約100kW)を導入しています。また、町の主産業である酪農や林業の振興につなげるため、くずまき高原牧場には畜ふんバイオガスシステム(37kW)を、木の温もりや心地よさを実感するため、公共施設や家庭に木質ペレットボイラー・ストーブを導入しています。
  新エネルギー推進の主役は「町民」。やってみたい・利用しやすい新エネルギーを目指して、新エネルギー導入補助金制度をつくりました。町民の利用が進み、楽しさが広がることで、町全体への普及につながっています。今後は町民環境パートナーシップ組織を立ち上げ、町民オーナー制による町民発電所の建設や地域通貨を用いたエネルギーネットワークを展開していきたいと思います。


リーダーは子どもたち〜省エネルギーの実践

  「くずまきはどうしてクリーンエネルギーにとりくんでいるの・・・?」「どうしてとりくむ必要があるの・・・?」町内の子どもたちからの素朴な質問です。

 新エネルギーの導入とならび、力を入れているのが省エネルギー。2004年2月に「葛巻町省エネルギービジョン」を策定しましたが、その主役は「子どもたち」。町の新エネルギーの取り組みに影響を受け、「自分たちにできること(温暖化対策)は何だろう?」と考え、省エネルギーを実践しています。  
 とくに、葛巻町立葛巻小学校では省エネルギー活動により一層の力を入れています。まず高学年の子どもたちが中心となり、地球温暖化や省エネルギーについて自ら勉強し、理解し、行動します。次にそのことを友達や低学年の子どもたちに伝え、省エネ行動を学校全体に広げます。PR方法は、わかりやすくテレビ番組や紙芝居、ポスターやシールを作製。やって楽しい、続けることができるような方法を考え、実践しました。さらにこの取り組みは家庭や地域、他校へと輪が広がっています。リーダーは子どもたち――今後の省エネ・新エネ推進のキーマンです。


くずまきまちの環境は未来の子どもたちへの贈りもの

 葛巻町省エネルギービジョンでは「天と地と人のめぐみを育んで」をテーマに、特にエネルギーについての理解を図り、省エネルギーの促進を目指します。現在、町のエネルギー自給率は78%(うち電気エネルギー自給率は185%)。特に酪農や林業振興につなげる観点からもバイオマスエネルギーの利用を積極的に推進することでエネルギー自給約20%増を目指します。また、子どもたちを中心とした省エネルギーの実践を町全体に広げ、約6%の消費エネルギー削減を目指します。「エネルギー自給100%のまち」の実現――葛巻町の次なる大きな目標です。
 「空気」、「水」、「食料」、「エネルギー」。これは私たち、そして将来の世代が生活する上で欠かせない大切なものです。私たちは、“Think Globally, Act Locally”の視点で、この地域に存在する大切な宝(資源)を、未来を担う子どもたち、また将来の世代にプレゼントし、平和な地球にすることができるよう今後も取り組んでいきたいと思います。