4-1-1 LA21の要件(3つの要素) 4-1-2 LA21の要件(7つの原則) 4-2 LA21の策定・実施主体 4-3 LA21に盛り込むべき内容 4-4 LA21の策定体制と手順



ローカルアジェンダ21の構成としては、@持続可能な地域社会の実現についての基本理念、A現在の状況のレビュー、B将来のビジョン−を掲げ、これらを踏まえた上で、C地域が取り組むべき課題を明らかにし、Dその解決に向けた対策の目標や、E目標達成のために実際にとる行動を述べ、F実施のための手段について触れ、Gどのように実施状況をモニタリングし評価し、計画への反映を行っていくかについて述べるという構成が標準的です。 また、ローカルアジェンダ21は、いかに地域の各ステークホルダーが参加や協議、議論に関わっていったかというプロセスが重要になりますので、こうした参加の過程や、なにが論点になったかという点を明らかにすることにも留意しなければならないでしょう。

標準的な構成内容としては、次の8項目が考えられます。

 



この項目では、地球環境問題や持続可能な発展についての基本理念、ローカルアジェンダ21策定の必要性、ローカルアジェンダ21策定の手続きなどの事柄を盛り込むことが考えられます。

基本理念は、21世紀に向けての持続可能な社会の実現を目指した地域社会全体としての基本的な価値観・理念を示すものです。そこに示された価値観・理念は、行政だけでなく市民や企業といった地域の全員が共有すべきもので、地域社会の総意により定められることが重要です。また、それは以降の地域の取組の基礎となるものでもあります。

なお、基本理念は目標というよりは行動の原理・原則を示すものであり、「〇〇市環境憲章」のような形で定めることも考えられます。とかくこのような理念は抽象的な美辞麗句を並べただけで終わりがちで、どこの地域でも同じようなものになってしまうのですが、ここの部分から市民参加の議論を踏まえたものにし、特に強調したい部分をはっきりと打ち出すことが効果的です。

→Sunchon Declaration of the Environment (Korea)

 

ローカルアジェンダ21は、地球的視野に立って地域の持続可能な社会の実現を目指すものですが、その策定と実施に向けては、関係する人々の間で、地球環境とのかかわりや地域環境の現状並びに社会・経済の現状についての認識を共有しておく必要があります。

なお、現況の把握はローカルアジェンダ21の出発点となるものですから、行政上の計画である地域環境計画を作る際の資料など既存の資料を活用するとともに、専門家や関係者の意見を参考に、地球環境と地域環境とのかかわりを考慮しつつ、より具体的な形で、現状,問題点等を整理していくことが、その後の作業に役立ちます。

以下は@地球環境、A地域環境、B地域の社会・経済−という区分でみた現状の把握のポイントです。

@ 地球環境 地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少、野生生物種の減少、砂漠化、海洋汚染など、地球環境問題の現状、原因、地球環境や私たちの日常生活との関連などについてまとめます。また、世界人口の推移、エネルギー使用量の推移などについて把握しておくことも、問題の緊急性を認識したり、地域のそれと比較するうえで役立ちます。 これらの地球環境問題の各項目について、下記のように自分達の地域とどう関わっているかをリストアップしてみることは効果的です。

→地球環境問題と地域との関わりのチェック表の例


A 地域環境 地域の環境は、概ね、自然環境、生活環境、文化的環境の3つの分野に分けられます。各分野の主な要素ごとに現状を整理することによって、地域の主要な課題が何であるかが明らかになり、ローカルアジェンダ21策定に向けた具体的な取組の出発点となります。

→地域環境チェック表の例


B 地域の社会・経済 ローカルアジェンダ21は、環境と経済を統合した社会の実現を目指すものであり、 地域の環境を保全するだけではその実現は困難です。従って、地域の環境だけでなく、地域の社会・経済の現状などについても整理しておきます。 具体的には、次のような事項について整理します。

→地域の社会・経済状況のチェック表の例
→飯田市「環境調査員(環境チェッカー)制度

 

ローカルアジェンダ21は、今後さらに悪化することが予想される地球環境問題への対応を踏まえて、持続可能な社会の実現を目指すものですから、地域社会が取り組むべき課題を考えるにあたっては、今後の地域社会の動向をにらんでおく必要があります。

これは地域住民にとって「私たちの地域をこれからどのようにつくっていくのか」「どのような地域に暮らしたいのか」「子供たちにどのような地域で育っていって欲しいのか」というような非常に重要な関心事であるはずです。地域で暮らし、働き、子供を育てるさまざまな人々の議論により、望ましい地域像を描くことはローカルアジェンダ21の核心部をつくっていく作業になります。地域の特色の活かし方、自然との共存の仕方、伝統や文化、資源やエネルギーの使い方などについて、ある程度の具体性をもった将来像を考えていくことが大切です。

将来像の設定にあたっては、総合計画等でその地域の将来像が示されている場合には、これをグローバルかつ持続可能な社会の実現という観点から再度検討してみる必要があります。

なお、将来像の設定にあたっては、現状では地域内のみで解決していくことは困難な課題も多く含まれることから、将来の方向を示し、残された課題については、他地域との連 携や協力をしていく旨の方針を示す程度でも充分と考えられます。

→検討項目の例


将来の地域社会は白紙の上に築かれるのではなく、現在の社会を土台として築かれるのであり、そこには当然現実の制約があります。また、可能な将来像は必ずしも一つとは限りません。そのため、いくつかの将来像の中から目標とするものを選ぶという選択の必要か生じます。ここで可能ないくつかの将来像を提示するのは専門家の役割となる場合もあります。しかし、そこから最終的に何を選択するかは専門的・技術的問題ではなく意思決定の問題ですから、それは地域全体の話し合いと合意によって決められるべきものといえます。

→豊中市の事例
→京都市の事例

 


a) 取り扱う主な課題の範囲

取り扱う主な課題の範囲としては、直接、間接を問わず、地域の環境を保全し、地球環境の保全に資する内容のものです。しかし、程度は別として、地域の環境対策と地球規模の環境対策のメニューや内容に大きな差異があるわけではありません。地域で持続可能な社会の実現を自指してより一層努力することが、結果として地域の環境を改善し、地球規模での持続可能な社会を実現することになるのです。そして、このことがまさに地方公共団体がローカルアジェンダ21を策定することの意義につながっていると考えられます。地域の環境だけを考えれば、特に必要はないと思われても、地球全体を見渡した場合は、いろいろな対策が必要だと思われる場合も多々あります。 また、ローカルアジェンダ21で記述する内容は、汚染防止の規制措置、改善対策等いわゆる環境対策に限られるものではありません。環境と調和した農業、林業、水産業の進め方、環境に十分配慮した工業立地、環境の恵みを享受できるような都市の整備なども取り扱ってほしい内容の一部です。このほか、地球サミットて決めたアジェンダ21や内外の先進的な取組を参考に、環境と経済発展についてのより広い課題に挑戦することも良いことです。 さらに、地方公共団体が自ら行う対策と同様に、市民や企業に働きかけて行うものや、市民、企業が主体的に行う行動も含まれます。


b) 環境教育・学習の推進

経済性や効率を最優先してきたこれまでの私たちの価値観は、大量生産・大量消費・大量廃棄の社会システムを作り上げ、結果として地球規模の環境破壊を引き起こしています。この状況から脱却し、持続可能な社会を実現するには、まず、社会を構成する人々の基本的な価値観を転換していくことが重要です。そのためにも、ローカルアジェンダ21の策定並びに実施過程を環境教育・学習の場としてとらえ、すべての段階でこの視点を取り入れていくことが大切です。


c) 環境の視点と具体的項目

ローカルアジェンダ21においては、環境と経済発展の調和をどう取っていくかが重要 な課題ですが、具体的には、次のような環境保全の視点を取り入れていきます。 @環境負荷の抑制 自然には、廃棄物を分解・浄化するという機能があります。しかし、人間がその許容量を超えて廃棄物の排出を行うと、環境の劣化が始まります。大量生産・大量消費・大量廃棄に象徴される現代社会は、環境の分解・浄化能力を超えて廃棄物を排出しており、結果として環境に大きな負荷を与えています。そして、これが地域の環境汚染のみならず地球環境問題の原因ともなっています。そのため、持続可能な社会の実現に向けては、各種の廃棄物の排出量が環境の分解・浄化能力の限界を超えないように、環境負荷を抑制しなけれはなりません。 具体的な内容としては、次のような項目があげられます。 ・汚染の防止 ・廃棄物抑制対策 ・エネルギー対策(省エネルギー等) ・資源対策(リサイクル等) 等 A自然との調和 現在の都市環境に代表されるように、人間は自然とは異なる「人間の世界」を創り上げ、 科学技術の発達とともに、それを急速に拡大させてきました。その一方で、自然の領域は 急速に減少し、野生の動植物は生息の場そのものを奪われています。 しかし、人間も地球生態系の一員であり、自然の恵みである水や空気なしに生きていくことはできません。さらに人間らしい生活を営むためには、エネルギーや木材等の資源も必要です。そして、環境には、廃棄物を分解・浄化する機能に加えて、生命を維持し資源を供給する機能もあり、これらを担っているのは、「人間の世界」に対する「自然の世界」です。従って、「人間の世界」(社会)が持続可能なであるためには、自然と調和した社会を実現することが不可欠です。具体的な内容としては、次のような項目があげられます。 ・森林、緑地の保護と活用 ・水系の保護と水資源の持続可能なな利用 ・野生動植物の保全等 Bコミュニティの維持・再生 環境は地域のいわば共有財産であり、それを守るためにはまずコミュニティが存在することが必要です。大量生産・大量消費をもたらした都市化と工業化の進展の中で、環境も破壊されましたが、伝統的なコミュニティもまた崩壊していきました。 持続可能な社会の実現に向けては、地球規模での連帯と同様に、地域レベルでの参加が必要です。そして、地域では、地域の共有財産である自然環境や人々のこころの拠り所となる伝統文化・歴史的景観などを共有することが、人々の連帯意識を強める要因となり、コミュニティの維持・再生につながります。 具体的な取組内容としては、次のような項目があげられます。 ・地域の伝統文化の保全 ・歴史的景観の保全 ・身近なみどり ・自然の確保 等 C国際協力の推進 ある地域だけが持続可能な社会を実現しても、地球環境の保全には不十分であることから、世界のすべての地域でこうした社会が実現されることが大切です。そのため、特に先進国では、開発途上地域においても持続可能な社会を実現できるよう支援する必要があります。こうした中で、地方公共団体には地方公共団体にしか果たせない役割があり、またコミュニティも同様にコミュニティ以外の主体では果たせない役割があると考えられます。こうした分野での国境を超えた支援には、地方公共団体やコミュニティが参画することが有益です。 具体的な内容としては、次のような項目があげられます。 ・国際的なNGO活動への参加・支援 ・途上国への公害対策技術の移転やその支援 ・世界的な観測・情報ネットワークヘの参加  等


d) 経済発展の視点

地域には様々な経済発展の形態がありますが、どのような経済発展においても、地域が持続可能な社会の実現に向けて取り組むには、(2)や(3)で述べた環境の視点を取り入れていくことが大切です。すなわち、21世紀に向けてのまちづくりの中に、環境の視点をいかに取り入れ、実現していくかという点が重要になります。 例えば、観光が主要な産業となっている地域では、観光開発と交通システムや利用の方法などに着目し、環境の視点、すなわち、環境負荷の抑制や自然との調和、コミュニティの維持・再生の各視点を取りこんでいくことが大切です。


e) 重点的な取組課題の選定

ローカルアジェンダ21の策定では、環境と経済の統合という視点から様々な課題に取り組んでいくことが大切です。しかし、必ずしもすべての課題に同時に取り組む必要はなく、ここでも、地域の実情に応じて、優先順位をつけて取り組むのが現実的です。 例えば、年間を通じて安定した風の得られる地域では、その風力をエネルギー源として積極的に活用していくような取組が考えられます。これは、自然エネルギーの利用ということで、地球の温暖化抑制や酸性雨対策としても効果的ですし、地域の大気環境の改善にも役立つ一方、観光資源として役立つこともあると考えられます。また、温泉地では温泉や地熱をエネルギー源として、また観光資源として活用していくことも考えられます。 重点的な取組課題の選定にあたっては、まず、課題を全般的に整理し、そこから重点課題を選定していきます。 その一手法として、例えば、環境負荷の抑制、自然との調和、コミュニティの維持・再生といった環境面の課題を縦軸にとり、次に都市開発、工業開発、農業開発、さらには福祉問題や教育問題など各地域での経済発展に関する事項を横軸にとり、ローカルアジェンダ21の策定にあたって検討の対象となる課題と対応をマトリツクスを用いて整理する方法もあります。こうすれば、ローカルアジェンダ21の目的である持続可能な社会の実現について、より具体的に考えることができます。なお、このような整理をする際には、広く市民や企業の参加を得て、考えを出し合うことが有効です。また、そこからの重点課題の抽出も、地域全体の話し合いと合意によることが望まれます。 いずれにしても、地球的視野に立った持続可能な社会の実現のために、地域が具体的にどう取り組んでいくかが重要であり、選定される課題は、当然地域の特性を反映したものとなります。 また、どのような課題を選定し、どう具体的に取り組んでいくにしても、その基本は持続可能な社会の実現であり、そのためには、価値観の転換とそれを支える環境教育・学習の推進が共通した重要課題となります。

→例)観光を基幹産業とした地域の場合
→Kumasi(Ghana)の事例

 

目標は、整理した課題ごとに設定することが効果的ですが、数が多すぎる、すでにあるモニタリングのシステムを利用したい等の理由で、もう少し大まかに目指すべき地域の将来像の実現度を表せる目標をいくつか設定するという方法もあります。これらは定量的な数値目標と定性的な目標を含みますが、できる限り、いつまでに実現するのかという期限を明記することが望ましいでしょう。期限を明記することは達成状況を評価する際に役立ちます。同様に、これらのデータの現時点での状況を把握することも必要です 。

→Sunchon City (Korea)の事例
→飯田市の事例

 

ローカルアジェンダ21では、課題別の目標を達成するために実際にどのような行動が必要かをできるだけ具体的に明らかにします。

また、具体的行動の裏付けとなるシステムについても明らかにすることが必要です。そこには、資金・財源の確保、行政・市民・事業者の連携ならびに庁内体制の整備といった推進体制の整備などが含まれます。  

行動計画の策定のためには、議論のために、@各課題を縦軸にとり、行政、事業者、市民、NGOなどの各主体を横軸にとった表をつくる、A各主体ごと自分たちに何ができるかを最大限出し合い表を埋めていく、Bそれぞれの行動の効果の程度、すぐに実行に移せるかどうかなどについてランク付けを行い、優先順位を決める、C他の主体も交えて協同で行える行動がないかどうかをチェックし合う――などの手法が考えられます。

→行動計画策定のための表
→京都府の事例

 

ローカルアジェンダ21は地域社会のすべての主体が策定・実施に関わる社会的な計画であるため、逆に責任の所在が曖昧で、実施の推進力に欠けることがしばしば見られます。このため、どのようにローカルアジェンダ21を実施していくのかを担保する必要があります。実際には、例えば、策定に関わった関係者を核とした緩やかなネットワークや実施機関を組織して定期的な会合を持つ等の措置が必要であり、これをローカルアジェンダ21策定時において、どういった実施体制を組むのかを明らかにすることが重要です。策定時の関係者の「熱意」をいかに実施時期にも持続させるか、また実施における問題点をどのようにローカルアジェンダ21にフィードバックしていくかが課題となります。

 

ローカルアジェンダ21の達成状況を定期的にモニターし、評価し、計画への反映を図っていくためには、策定時からモニタリング・評価の体制を計画にもりこんでおくことが必要です。モニタリングは、不必要に頻繁に行ったり、新たな調査を企画・実施することは非効率的です。既存の定期調査、データを利用してそれをローカルアジェンダ21の実施状況を反映するように加工するような手段も有効です。環境部局のみではなく、経済、交通、産業関連の部局の協力も得て、定期的にデータが集まってくるような仕組みの構築が必要でしょう。また、市民参加による調査も、自分たちの手で計画が進捗しているという実感を得たり、改めてローカルアジェンダ21を認識したりする副次的な効果も期待できる。既存の諸調査に市民参加による新たな調査を併用して行うことが有効です。